アブノーマル・アビリティ

ハイドン

文字の大きさ
上 下
1 / 14

対面

しおりを挟む
まだ足元を冷たい空気が突き刺す1月。


とある国の都市でありながらビル1つ無いとある郊外のとある学校の体育館で俺、大橋 京一は成人式を迎えていた。


郊外なのでそもそも学校は少ないのだが、このあたりで1番の生徒数を誇る小中学校を経て、都市部の有名私立高校に進学したのち
この国でトップクラスの研究実績と伝統を誇る首都の大学に進学した俺は、この田舎の母校に久しぶりに帰っていた。


俺は小中学校のときは特に目立った生徒ではなかったが、皆と当たり障りのない付き合いをしていたから話は多少弾んだ。就職した者、進学した者、アスリートとして活躍している者…

まだチビだった時代に比べるとかなり雰囲気が変わった者も多かったが、皆スーツや振袖を着ている。


このあたりは工業が盛んでもあるので、地元に残って地元で就職しようと考えている奴らは首都の大学が珍しいのか根掘り葉掘り大学生活のことを聞いてきたが、懐かしさを感じたが故にうっとおしいとは思わなかった。


「新成人の皆さん成人おめでとうございます。………」


我々の1つ上の先輩が代表で祝辞を述べていたときだった。明るい雰囲気の中、突然体育館の後方で大きな音がした。
その場にいる者が一斉に振り向いた。


そこには見たこともない何かがあった。


何かとはいったい何なのか。
その場にいる誰もそれを知るものはいなかったし、どこを探しても知っている人はいないのではないだろうか。

体育館後方の壁を突き破ってきたのだろう。大きな穴が空いていた。
司会の先輩も同級生も学生時代の教師たちも来賓も保護者たちも何が起きたのか理解はしていなかった。


ソレは蜘蛛に近い形をしていた。
おそらく蜘蛛なのだろうが、体はサイ位の大きさで、体は硬い殻に覆われており、8本足は体育館の床に穴を開けていた。
つまり自分たちの知っているものでは無かったのだ。蜘蛛に似た何かなのだ。


次の瞬間、その化け物は跳んだ。

我々の並んで座っている目の前までその巨体で跳躍したあと、体育館の天井に向かって糸を吐き、またふわりと宙に浮いた。

そして前4列くらいの中央に向かってダイブした。


その4列に俺も含まれていた。

突然の恐怖に逃げ出す者もいれば動けない者もいた。
俺は無心だった。恐怖とかそういう言葉では表せないなんとも言えない心情だった。

あえて言うなら「無」だった。「無」ではあったが、体は咄嗟に動いた。
俺の脳は俺の体に何を命令したのだろう。俺は拳を、押しつぶされたら即死どころか体が残るかもわからないような化け物に向かって拳を突き出していた。


しおりを挟む

処理中です...