来世に期待します~出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで~

景華

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第一章

水の中の薬草庫

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 屋敷の地下へと続く階段を、一匹の猫と一羽のカラスを引き連れて降りていく。

 この先に、水中エリアと呼ばれるイズミがある。
 一度屋敷内を案内してもらったときに来たけれど、薄暗くてひんやり冷たくて、一人では絶対に来たくない場所だ。

「ついた──」
 暗がりにぼんやりと青白く光る神秘的な泉。
 泉の光は中で生息している光苔《ヒカリゴケ》のせいだってオズ様が言ってたっけ。
 この光が地下の不気味さを和らげてくれる唯一の救いだ。

「人型になったとしても元々獣の私たちは水中には行けない。あんただけが頼りよ、セシリア」
「うん……!!」

 邪魔になりそうなドレスを脱ぎ捨てて、シュミーズ一枚になって泉を覗き込む。

「でもセシリアさぁ、君……泳げるの?」
「……」
「……」
「……お……泳げない……!!」
「はぁぁああああああ!?」

 うぅっ、仕方ないじゃない。
 屋敷の中でひたすら仕事をこなす日々だったんだもの。
 水遊びなんてそんなキラキラしたことしたことないし、一緒に水遊びをするような友人だっていない。
 前世では違ったのかもしれないけれど、肝心なところ覚えてないんだからこのポンコツな脳みそは!!

「あんたそんなで大丈夫なの!?」
「だ、大丈夫!! パンを焦がしちゃった罰として川に投げ込まれたことならあったから、生還はできると思う」
「あんた……よく生きてたわね、今まで……」

 あの時は本当に死ぬかと思った。
 それでもただ、お父様とお母様に挽回したくて、必死に謝ってチャンスをもらったんだった。
 正直、泳ぎの自身も素潜りの自身もない。
 でも──。

「やるしかない……!! オズ様が死んじゃったら、私を心安らかに来世に送ってくれる人がいなくなっちゃう……!!」
「……あんた……ぶれないわね……」

 全ては私の輝かしい来世のために──!!
 いざっ!!
 覚悟を決めて大きく息を吸い込むと、私は勢いよく泉へと飛び込んだ。

 大きなしぶきを上げて泉に入った私は、ゆっくりと降下していく。
 水泡がぷくぷくと身体を離れて水に揺れ、私は何とか手足を動かしながら下へ下へと進んでいった。

 事前に図鑑で得た情報によると、青色でぐるぐる巻きの変な見た目の薬草なのよね。
 特徴的だからすぐに見つかりそうだけれど……。

 光苔のおかげで水中でも回りがよく見える。
 それでも耳にはピンと張りつめた圧迫感とゴポゴポという低い泡音、目の前には岩や薬草だらけ、となると、やっぱり少しばかり不気味で心細くなってくるのも仕方ないだろう。
 それ以前に──。

 苦しい……!!
 ノミの肺を持つ私としては肺活量が脆弱すぎて息が長くは続かない……!!
 このままじゃ水死しちゃう……。
 嫌だ。
 私は……私はおずさまに綺麗に楽に来世に送ってもらうのにーっ!!

 早く。とにかく早く見つけなきゃ。
 ……ん? あれは……?
 少し先にぐるぐる巻きの草が、岩戸岩の間に挟まっているのが見えた。
 光苔の光もちょうど岩陰になっていて届かず、色ははっきりしないけれど、あの独特の形は間違いない──!!

”ん~~~~~~~!!“

 あと少し──あと少しっ!!
 必死に手を前へと突き出す。
 それこそ腕が抜けそうなほどに。
 もうすぐ……あとちょっと……!!

“ゴボボッッ”
 力みすぎたからか弾けるように息が抜けて、口と鼻に水が入り込む。

 まずい……!! 早くしなきゃ……!!
 届いてぇぇぇええええっ!!
「!!」
 ──届いた……!!
 伸ばした手に触れたそれを思い切り引き抜くと、私は大急ぎで地上を目指して浮上した。

「っはぁっ!!!!」
「セシリア!?」
「大丈夫かい!?」
 大の字になって水面に浮かぶ私に、二匹が声を上げた。

 心配そうな顔が岸辺から私を見下ろす。
 私なんかのことをこんなにも心配してくれる二匹が、なんだかおかしくて、不思議な気持ちで、私はへらりと笑った。

「と……っ、取れたよ、モリア草……っ、へへっ……」

 残念な顔をしていたと思う。
 必死だったんだから仕方がない。
 それでも二匹は心底安心したように息をついて、「よくやった!!」と笑った。

「──あれ? これ……」

 泉から上がって取ってきたモリア草を見ると、根の方にしゃらりと何かが絡まっている。
「キラキラしてる……」
 丁寧にほどいて手に取ってみると、それは金のロケットペンダント──。
 そっと中を開けてみると、3人の人間が映し出されていた。

「これ……」
 映っているのはきりりとした整った容姿の男性と、優しそうに微笑む綺麗な女性。
 そして真ん中には小さな賢そうな赤い瞳の男の子。

「あら……」
「そんなところにあったのか……」

「まる子、カンタロウ、知ってるの?」
 二匹の様子は何かを知っているもので、私が尋ねると何とも言えない顔をしてまる子が答えた。

「……オズと、前公爵夫妻だよ、それは」
「オズ様!?」

 まさかこの真ん中の小さい子が!?
 黒い髪に赤い目。
 たしかにオズ様の色だけれど……幸せそうに笑ってる、子どもらしい笑顔は今のオズ様とは似ても似つかない。

「オズに持って行ってあげて。きっと喜ぶわ」
 切なげに伏せられたカンタロウの瞳。
 喜ぶってことは、オズ様はこれを無くして、探していたのかしら?

「うん、わかった。とりあえず急いで煎じて、薬茶をオズ様に飲ませなきゃ!!」
 私は濡れたシュミーズを脱ぎ捨てそばに置いていたドレスを着なおすと、二匹とともに今や私の城となっている厨房へと向かった。

***

「ん、良い感じ。あと少しね」

 厨房で二匹にやり方を教わりながら薬茶を作る。
 私には魔法は使えないから、乾燥させることはできない。
 地道にフライパンで陽々花を炒って乾燥させていく。

「よし、そのくらいでいいんじゃないかな。次は茶こしでさっき炒った陽々花を抽出していくよ」
「う、うん」
 陽々花を茶こしに入れると、上からゆっくりとお湯を注ぐ。

「黄金色になったら抽出完了よ。その中に水中エリアで採ったモリア草を生で入れて、色が紫色になったらゆっくりかき混ぜて出来上がり」
 カンタロウの指示に従って黄金色に輝く陽々草の薬茶に、モリア草をそのまま入れる。
 するとさっきまで黄金色だったそれが、いっしゅんにして綺麗な紫色へと変化した。

「わぁ……綺麗……!!」
「さ、混ぜて混ぜて」
「あ、うん」

 ゆっくりと、慎重に、マドラーでかき混ぜる。
“どうか、オズ様の病が治りますように”
 そう願いを込めながら。

 刹那、出来上がった薬茶がキラキラと、まるで宝石のように輝き始めた。
「何これ!? こんなの見たことない……」
「セシリア、君、何か魔法使ったの?」
 二匹が驚いたように声を上げる。

「えぇ!? 私、魔法なんて使えないよ!?」
 生まれてこの方、一度だってそんなもの使ったことがない。
 使えたらもっとうまく人生生きてるわ。

「使えない? ……まぁいいわ。オズ様に飲ませれば何の作用かわかるでしょ。とりあえず、これ、持って行ってきなさい!! 後片付けは私達でやっとくから!!」

 オズ様に飲ませて大丈夫かしら……。
 少し不安になりながら、私はトレーに薬茶を乗せ、オズ様の部屋へと向かった。

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