来世に期待します~出涸らし令嬢と呼ばれた私が悪い魔法使いに名を与えられ溺愛されるまで~

景華

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第三章

オズとドルト

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「……よかったのかね?」
「え?」
「いや……。ジュローデル公爵に何も言わずに出てきて」

 王都へ向かう馬車に乗って、向かいに座る宰相様がためらいがちに尋ねた。

 何も思わないわけではない。
 なんて不義理なことをしてしまっているんだろうとい、若干の罪悪感は否めない。
 今度こそ嫌われてしまったかもしれないという恐怖も。
 でも──。

「私は一番大切なもののためなら、何を思われても大丈夫です。たとえオズ様が私を嫌いになってしまっても。私は……大丈夫、です」

 嫌われることをいまさら恐れはしない。
 なのにどうしてか、オズ様に嫌われることを想像すると、全身から温度が失われていくような、そんな気がしてしまう。
 それでも私は、自分に「大丈夫」だと、そう言い聞かせる。
 だってそれが私の、最善だから。

「……そうか……。すまない。あなたにばかりつらい思いをさせて。……気づいていたのだ。私も、陛下も、殿下も。聖女として認定された姉のもとで小さくなっていくあなたに。だが気づいていて、誰も何も言わなかった。手を差し伸べたのは、なんとなく気づいていた我々ではなく、噂も聞かぬ辺境に住む、オズ・ジュローデル公爵だった。私たちはいつもそうだ。ジュローデル公爵領、トレンシスの不当な扱いに気づいていながら、過去の決断にとらわれて何もしてこなかった。変わるべきは、われわれの意識だというのに」

 誰もが気づいていながら、見て見ぬふりをする。
 その結果が今のトレンシスだ。
 ……そうか……。
 トレンシスは──私なんだ……。
 オズ様が手を差し伸べてくれる前の。

 滅びゆくのをただ待っていた脆い私と同じ。
 なら今度は私が、トレンシスにとってのオズ様になる。

「そんな中ドルトは一人、自分で考え、われわれの思う常識を壊し、ジュローデル公爵領へと移り住み、医師になった。私は、君やドルトを尊敬するよ」
「ドルト先生はオズ様と幼馴染なのですよね?」

 確かタウンハウスがトレンシスに会って、よく一緒に遊んでたって言ってたっけ。

「あぁ。もともと私や妻は公爵夫妻は仲が良くてね。あの町にタウンハウスを構えて、よく行っていたんだ。空気の良いあの町で、ドルトの出産もしてね。それから年に何度もドルトを連れてタウンハウスに行き、そのたびに二人でよく遊んでいた」

 小さなころのオズ様とドルト先生。
 二人が遊ぶ様子は今からじゃ想像がつかないけれど、きっと二人とも、今とあまり変わらないんだろうなぁ。

「ジュローデル公爵のお父上とお母上のことがあって、ドルトはとても心配していた。そして自分にできることを自分なりに考えてきたのだろう。王立学園を卒業してすぐに医学の学校へ行きたいと言い出してね。その理由がトレンシスの医師として、トレンシスを支えたいからだって。それから二年。医学校へ通い、医師免許を取ったドルトは、宣言通り家を出てトレンシスの医師になった」

 貴族として生きてきた彼が家を出て辺境の医師になるというのは、いったいどれだけの覚悟を持ってのことなのだろうか。
 私には想像もつかないけれど、それだけの決意をするほどに、きっとドルト先生はオズ様のことが大切だったんだ。

 今の私のように。

「ドルト先生は、皆に慕われる大切なトレンシスのお医者様です。きっとこれからもあの町を守ってくださる」
「……あぁ。それはあなたもだ」
「私も?」
「あの町に、いや、ジュローデル公爵にとって、かけがえのない大切なものだ」

 私が……かけがえのない……?

「なるべく情報はフェブリール男爵家に行かぬよう、規制をしよう。殿下のことが終われば、すぐにでも帰ってもったらいい。あとはこちらで何とでもする」
「え、でも……」

 混乱しない?
 お姉様か、私か、どちらが本当の聖女なのか、と。

「大丈夫。もしも何かあっても、彼らならきっと……」
「?」
「あぁ、城が見えた。さぁ、これからすぐに殿下の部屋に来てもらうことになるが……良いかな?」

 殿下のお部屋に。
 私はごくりと喉を鳴らすと、意を決して宰相様に視線を向け、頷いた。

「はい。……いつでも……!!」


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