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第三章
フェブリール男爵夫妻の襲来
しおりを挟む「今日もオズ様は朝から?」
「うん。王都に行ってるよ。今日は書類を取りに行くだけだから、すぐ帰ってくるさ」
トレンシスに帰ってから一週間。
オズ様は毎日のように王都とトレンシスを往復している。
何かお仕事があるんだろうけれど、それが何なのかは知らされていない。
「それより見てこれ」
そう言ってカンタロウが興奮気味に見せてきたのは、一本の酒瓶。
「これ……」
「よく見て。このラベルのところ!!」
言われてラベルをよく見てみると、そこには『トレンシス産』の文字が──。
「約束……守ってくださったんだわ……!!」
約束の紋様がついていた私の手の甲は、いつの間にか紋がなくなり、元の何もない状態に戻っていた。
これできっと、領収も増えるわ……!!
「王太子も元気になって、少しずつ体力作りに励んでるみたいだし、王太子が健康な体になるのも時間の問題ね。これもセシリアのおかげだわ」
「そんな、私は大したことは……。お酒がこんなに人気なのはトレンシスの町の人達の力だし、王太子殿下が健康的な身体になりつつあるのは、殿下がしっかりと体力づくりをしているからだわ」
私がトレンシス産にできるようにかけあったとしても、お酒が人気でなければ意味はない。
王太子殿下にしてもそうだ。
いくら私が助言をしても、それを実行しなければ望みはなかった。
どちらも、頑張った人がいるからだ。
「もう、セシリアは……」
「そんな謙虚さが、君の魅力なんだろうね」
二匹が呆れたように笑ったその時──。
ゴンゴンゴンッ!!
玄関ホールから扉を叩く音が響き渡る。
「誰かしら?」
ドルト先生?
でもドルト先生だったらまずノックなんかしないし……町の誰かかしら?
「……この匂い……。……セシリアはここにいて。私が出るから」
神妙な面持ちでカンタロウが言うと、人型に変身してから玄関ホールへと歩いて行った。
一体どうしたのかしら?
カンタロウの鋭く尖った目が妙に気になる。
耳をすませてみると聞こえてきたのはよく知った声──。
“あれを出せ!! うちの子だぞ!!”
“だからあれなんて人、存じ上げません!!”
“あぁもうっ!! 公爵様は!? 公爵様を呼んで!! 侍女では話にならないわ!!”
”はぁ!? ちょ、ちょっと!?“
足音がどんどんこの広間へと近づいてくる。
そして──バンッ!!
「ここか!?」
乱暴に開け放たれたドア。
入ってきたのは──「お父様……。お母様……」
私の、父と母……。
ずかずかと入ってきた中年の男と女に、私は思わず後ずさる。
「あぁ……!! こんなところに……!! 会いたかったぞ!!」
「まぁまぁ!! あぁよかった……!! 探したのよ!?」
会いたかった?
探していた?
本当に?
「公爵様が保護してくださっていたのなら、早く連絡をくださればよかったのに!!」
「あぁそうだ。まさか娘の無事を噂で聞くことになるとは!! 若い公爵様だ。すぐに家へ帰すという判断ができなかったのか」
「おおかた、下働きとして都合よく働かせるために黙っていたのね」
「違う……」
「え?」
我が物顔で屋敷に入ってきたうえ好き勝手に言い始めた父母に、私は否定の言葉を紡ぐ。
「オズ様は、そんなこと考えてない!! オズ様は、私のことを助けてくれた人です。住む場所も、暖かいベッドも、服も、オズ様が与えてくれた……!! 何も持たなかった私に光をくれたのは、オズ様です──!!」
初めてかもしれない。
父母に自分の気持ちをぶつけるのは。
だって逆らったら、痛みが私を襲うんだもの。
痛みは怖い。苦しいのは嫌だ。
でも、どうしてもここは譲れない。
黙っていたくない。
「何を言って……。とにかく、帰るぞ。ローゼリアがお前がいなくなったことで気を病んで、部屋から出て来んのだ!!」
「そうよ。ローゼリアが聖女じゃないだなんて変な噂まででできて困っているの。何とかなさい!!」
あぁ、結局はお姉様のため。
いつも私は、両親の二番にすらなれない。
「さぁ行くぞ!!」
「っ、いや!!」
私の手をお父様が無理矢理つかみあげ、部屋から引きずり出そうとしたその時。
「うちのセシリアに触れるな」
「!!」
底冷えのする低い声。
「オズ様──!!」
いや、これは……鬼だ。
この顔は人一人殺してそうな鬼の顔だ。
「こ、これはこれは公爵様!! いえね、私どもは娘を返してもらいに」
「娘? 俺はその娘に今までおまえたちがしてきたことを知っているが……本当に娘だと?」
「ぐ……」
言葉に詰まるお父様とお母様。
きっとその私に今までしてきたことを、彼らはよく理解しているのだろう。
悔しげにゆがめられた顔がひどく醜く感じる。
「きょ、今日のところはこれで帰ることにしましょう。だが一週間後の聖女を称える会には、ローゼリアの妹も必ず出席するよう、殿下からのお達しだ。必ず出るように」
それだけを言い残すと、父と母はまた大きな足音を立てながら部屋を出ていった。
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