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第三章

聖女様を称える会

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 きらびやかなシャンデリアが頭上にきらめき、優雅な音楽がホールいっぱいに広がる。
 会場の至る所にお姉様の名前であるローゼリアの美しい花が飾られ、豪華な会場が演出されている。

 あぁ、やっぱり緊張するわ。
 いくらオズ様とぴったりくっついていると言っても、私、デビュタント以来一度も登城したこともないし、デビュタント以来パーティにすら参加したことがないんだもの。

 しかもデビュタントでは踊る事すら許されず父に帰されてしまったから、ダンスを踊るのは初めて。
 緊張して吐きそう……。

「大丈夫か? セシリア」
「あ、はい。少し緊張しちゃって……」
 笑顔が震えて引きつっているのが自分でもよくわかる。

「ふむ……。セシリア、人間だと思うから緊張するんだ。なら、ここにいる人間を皆チョコレートタルトだと思えばいい」
「チョコレートタルト?」

 オズ様の大好物のチョコレートタルト。
 ここにいる人が皆──チョコレートタルト……。

「っ、ふふっ。何ですかそれ、ふふふっ」

 まずい、思ったよりツボに入ったみたいで笑いが止まらない。
 オズ様、本当にチョコレートタルトがお好きなのね。

「帰ったら、チョコレートタルト、たくさん作りますね」
「……あぁ。楽しみにしてる」

 ふわりと笑ったオズ様に、周りの淑女から悩まし気なため息と黄色い声が漏れるのが聞こえる。
 やっぱりオズ様は噂や瞳の色のことがあっても人気なのね。
 ……なんか、もやもやする。何で?

「陛下だ」
「!!」
 そうこうしている間に、奥の玉座に国王陛下と王妃様がお出ましになられて、集まった貴族たちが一斉に首を垂れ、私もそれに倣う。

「皆、今宵は聖女を称える会に集まってくれたこと、心から感謝する。現聖女は、今こちらにむかっておる。少し時間がかかるようだから、先に始めておいてくれと王太子から伝達があった。皆、存分に楽しんでいってくれ」

 陛下の言葉が終わり、再び音楽が再開される。
「まず陛下に挨拶に行くぞ」
「あ、はいっ」

 身分の高い者から陛下に挨拶に伺うのがマナー。
 私は硬くなる顔を両手でパンっとはたいてから、オズ様の腕に自分のそれを絡ませた。

「──陛下、この度はお招きいただきありがとうございます」
 無表情で形だけの言葉を並べるオズ様に、内心ひやひやとしてしまう。
 ありがとう、とか、絶対思ってないやつ……!!

「はっはっはっ!! よく来てくれた、オズ。それに──セシリア。先日はクリストフの病を治してくれて感謝する」

 セシリアとしてお声をかけていただいた私は緊張に顔を引きつらせながら「も、もったいない、お言葉です」と返した。

「クリストフが戻り次第、挨拶に向かわせよう」
 きっとお姉様の身支度をする私がいないから手間取っているんだろうということは想像に難くない。

 私があいまいに笑顔を返すと、オズ様は表情を変えることなく
「別に挨拶はいらないのですがね」
 とばっさりと切り捨てた。

「お、オズ様!!」
 その通りだけど!!
 陛下に対してなんて言い方を……!!

「はっはっは!! 相変わらずつれんな、オズ。まぁそう言うな。あの件はしっかりと私の方で処理しておいた。万が一の時も、安心していればいい」
「……ありがとうございます」

 あの件?
 一体何のことだろう?

「二人とも、ダンスを楽しんでおいで。君たちが踊り始めなければほかの連中が踊りづらいだろうからな」
「……わかりました」

 高位貴族が踊って初めて下位貴族が踊ることができる。
 今までオズ様はすぐに帰っていたようだけれど、殿下が来られるまでそうはいかない。
 となれば、最初に踊ってきっかけを作るのはオズ様だ。

「行こう、セシリア」
「は、はいっ。陛下、王妃様、失礼いたします」

 私はひとたび陛下たちへと膝を折ると、オズ様に手を惹かれるがまま、ダンスホールへと降りていった。










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