ジムノペティ

秋 睡蓮

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音と音が重なり合い、消えた
全ての音が重なり消えた後、人々は(音)の存在を徐々に忘れていった
唯一人を、除いては……


 
 「……あんた、(音)覚えてたりする?」
徐にそんな問いかけをされた
街の雑踏が耳に喧しい中、か細く聞こえてきたその声に明木 智は脚を止め
聞こえてきた方へと向き直ってみれば其処に女性が一人、立っていた
別段、其処に居て違和感のない筈の制服姿のその女性に
だが明木は僅かに眼を見開いた
その全身がどうしてか傷だらけだったからだ
「……何?私の顔、何か珍し?」
つい凝視してしまった明木に、女性が首を傾げる
明木は何でもないを短く返すと、相手に何を返す訳でもなく身を翻した
そのまま歩き出せば
「……何で付いてくんだよ?」
何故か女性も付いてくる
捨て置いてやろうと脚を速めてみるもやはり付いてきた
面倒くさい
深々溜め息をつき、明木は不意に脚を止めた
背後から驚いた様な声が聞こえ、女性は止まりきれなかったのか、明木の背中に顔をぶつけた
「……何か用があんならさっさと言え」
何も言わずに付いて来られても迷惑だ、と言ってやれば
だが女性は何を言うこともやはりせず、明木の傍らに立つ
一体、何をどうしたいのだろうか?
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