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第二章 ~トレジャーハンター篇~
依頼
しおりを挟む不躾な視線が全身に浴びせかけられる。
「掲示板は?」
「あっち」
それらの視線を意に返すこともなく、俺達はクエストの貼りだされている掲示板へと進んでいく。ミルに先導され辿り着いたその場所には、この町の人々や、他の町から届いた数多の依頼が貼りだされていた。
雑多に紙の貼り付けられたコルクボードには無数のピンによる穴が開いていて、貼られた依頼書はそれぞれ筆跡の違う字で書かれている。
その依頼の山の中から、自分に達成が出来て、かつ報酬のいい物を探し出す。
無論依頼の品でなくとも一度ダンジョンに潜ったトレジャーハンターは、売れる素材なら何でも持ち帰る。
が、持てる物にも限界はある。
需要が少なく売値が付かない物や、逆に獲得難易度が低く、余り過ぎて二束三文でしか買われない物なんかは、それ以上のものを見つけると持ち帰らないことも多い。
クエストとして貼りだされる素材はそのような市場に出回らない物を通常より高値で依頼することで集めてもらおう……と、そんな目的で設置されたものだ。
「蜘蛛の爪、毒腺、牙、足……蜘蛛ばっかだな」
「蜘蛛しかいないからね、そりゃそうさ」
俺が左を、ミルが右を。
手分けして探すが結果は語った通りだ。ダンジョン内に蜘蛛しかいないので基本的に必要になる素材もそれらからとれるものに限定される。
ただ、面白いのはその蜘蛛も一匹ではないというところだ。ざっと見ただけでも5つ以上の蜘蛛の名前が依頼書に記載されている。
傾向を見るに、同じ毒蜘蛛でも求められている素材は種類によって微妙に違うらしい。出てくる魔物が全て違う種類だったルバンダートでは見ない光景だった。
「あ。これなんかいいんじゃないミ……じゃなかったジャスパー」
「どれだ?」
ミルが早速名前をバラしそうになったことには触れず、その手に取られた依頼書を覗き込む。
そこには『薬の材料を集めています』というタイトルで、少し幼さを感じさせる文字が綴られていた。
――因みに、非常に今更だがこの世界の文字は酒場の店主であるバレルに頼んで死ぬ気で覚えた。
何せ最初に入った宿屋で、文字が読めないことがバレてクソ程ボラれそうになったからだ。
その時にちょうど居合わせたバレルが宿屋の主人にそのことを叱責し助けてくれたのだ。あれが無かったら王様から貰った身銭を初日で使い果たすところだった。
そんな経緯もあって、必要最低限の文字なら俺は読むことが出来る。
貼り出されていたその依頼書にはこう書かれていた。
『どなたか、手伝っていただける方はおられませんか。
わたしはアマルディア修道院の修道女をしています、ソフィアと言います。
修道院の院長が病に倒れ、その病を治す薬の材料を集めています。
珍しい素材が多く、私たち修道女だけでは集めきることが出来ません。
金銭的な報酬は多くは用意できませんが、簡単な奇跡をお伝えすることなどは可能です。
もしご興味があるハンターさまがいらっしゃいましたら、どうか助けてください。
おねがいします』
「……修道院って一番俺達みたいなのが行っちゃダメな場所じゃないか?」
依頼書の内容を一通り閲覧して、そうミルに問いかける。
俺のいた世界じゃヴァンパイアにとってシスターは天敵のような扱いをされることも多いものだが。
「そう?まあ確かに彼らの持つ武器はボクらには相性のいい物じゃないけど」
「だろ?」
「でもシスターは戦う人たちじゃないし、正体がバレたとしてもボクらを襲ってくることはほとんどないし大丈夫だと思うよ」
「そうなのか?」
俺の返答に、何を驚いているのかわからない様子でミルが小首をかしげる。
「?、うん。教会の退魔師とかなら話は別だけど、基本的に修道院は人間以外の種族も受け入れるからね」
「王国の法があるから流石に追い返されはするだろうけど」
「それはまた心の広いことだな……」
基本的に、俺の世界と扱いの似ているヴァンパイアという種族だが、周囲の扱いなどは俺の知るソレとは大きく異なっていることも多い。
戦争以前のヴァンパイアたちがどういう扱いだったのか、一度誰かに聞いておいた方がいいかもしれないな。
「ともかく、その依頼がいいのは報酬の方だよ!奇跡は基本シスターを始めとした聖職にだけ伝えられる魔法に似た力なんだ。主に治癒の方向に長けた力で魔法よりもコスパがいい」
「聖職にだけ伝わる技を部外者に教えていいのか?」
「結局はただの技術だからね、トレジャーハンターで奇跡を使う人も結構いるらしいよ」
その辺の価値観というか、扱いも少し違うな。
魔物が存在する世界だから、教義とか教えとか、そういうものよりは技術体系に近いのかもしれない。
「……ただ、聖職者になるには現役の聖職者に見初められるか、それか多額の寄付金を払ってなるしかない……だれでも覚える機会のある技術じゃないんだ」
「なるほど。教会が財政難なのはどこも一緒なんだな」
大体わかった。実際に見ないとよくわからんのだろうなこれは。
「取り敢えず、この依頼を受けてみよう。正直、どれがいいのかさっぱりだからな、多少なりとも土地勘のあるミルにまかせる」
「りょーかい、じゃあクエストを受注しに行こう」
ミルが依頼書を持って受付のカウンターの方へと歩いていく。受付嬢とは顔見知りなのか2、3言話した後すぐにこちらへ戻ってきた。
「ん、これで問題ないよ」
「それじゃあいくか」
連れ立って、ギルドを後にする。
目的地は町の外れの修道院。小高い丘の上にある小さな灰色と白の建物だった。
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