小鳥遊医局長の恋

月胜 冬

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疑惑

束縛は愛なの?

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「月性ちゃん…悪いんだけど、個室の患者さんガーゼが汚れてるから回診車持って来てぇ♪」

今日の当直は小峠だった。

…珍らしいこともあるもんだ。

大抵は看護師が見つけてドクターに報告し、ドレーンなどが入っている場合は医者と汚れたカーゼの交換をするのだが、小峠は看護師が報告しても面倒臭がってなかなかやらなかった。

「判りました~行きます。」

…でも滲出液そんなに出て無かった気がする。

冬は回診車を持って消灯後の個室へと向かった。

…あれ?ドアが閉まってる。

夜はアラームの音が聞こえるように、重症患者の部屋のドアは開けていた。

ドアをそっと開けると、人工呼吸器の定期的に繰り返される、シューシューと言う音と、心電図モニターの音が聞こえていた。

「小峠先生?」

部屋の明りを付けると、小峠が椅子に座っていた。

「悪いね…ちょっとお願いがあるんだけど。」

…わ…なんかヤバいシチュエーション。


「これ…消毒してくれる?」

小峠が背中を見せると白衣に血が滲んでいた。

「どーしたんですか!」

冬は慌てて小峠の傍に近づき背中を捲ると、白衣の下のシャツが切れ、そこから血が滲んでいた。

「いててて…自分で消毒出来ないからお願い~。」

…いやお願い~じゃなくって。

「どーしたんですか?これ。」

冬はシャツを脱がせた。

「理由は聞かないでぇ。」

一部が少し深く、それ以外は浅く10センチ程の切られたような傷が出来ていた。

「先生…これ一部ナートが必要ですよ。それ以外は必要なさそうですけど、傷結構大きいですよ?」

冬はイソジン綿球で傷を消毒した。

「外科に見て貰った方が良いんじゃないですか?深いところは寄せてステリーでも貼っておきますけど、くっつかないかもしれないですよ。」

…珍しく禿 凹んでるのか?

「新しい白衣かオペ着ありますか?血液が付いて目立ちますし。」

「当直室だけど...今は行けないんだよぅ。」

…あ…察し。

「私が取りに行きましょうか?」

小峠が心配そうな顔をしただけで黙っていた。

「全部では無くても良いんで、服を安全に取りに行けるようにおおざっぱで良いんで、何が起こったのかだけ教えて頂けませんかね?」

「切られた…んだ。色々もつれちゃって。」

…やっぱり。女がらみか。

「まだ当直室にいますかね?」

「わからない。」

「切られるなんてよっぽどのことですよ?傷害事件じゃ無いですか!医局長に言わなくって良いんですか?」

「わわ…それだけは勘弁。」

「当直室にしか置いてないんですか?白衣」

「医局にもあるんだけど…小鳥遊先生がまだ居るんだよ。」

…なーるほど。

「大丈夫です。私取りに行ってきます。心配しないで下さい。小鳥遊先生には言いませんから。約束します。」

小峠は誰も居ない場所で待っていて貰うように言い、回診車を片付けた。

「そうだ…先生。置きっぱなしのレントゲンとか、医局に無い?」

「あー。退院した患者のが置きっぱなしだったかも。」

…やっぱりお前の仕業だったのか。読影の結果をサマリー書こうと思ったら無かったんだ。

「判りました。レントゲン探す振りして医局へ行ってきます。夜は、ここよりも面談室に居た方が良いかも知れません。人来ないから。」

冬はステーションに戻った。

「ゴメン…禿がMR見たいって言うから当直室に持って行くね。5分で戻るから。」

メンバーにそう伝えると、冬は適当な患者のMRを持って、ダッシュで当直室へ向かった。ドアをノックすると返事が無かった。

―――ガチャッ。

電気がついていて、人の気配がした。

「小峠先生…読影室から帰って来たMR見てください。」

ソファに座っていたのは、小峠の本命と噂されていた皮膚科の女医だった。

「わっ…びっくりしたぁ。お疲れ様ですー。」

明るく挨拶をした。

「小峠先生 ご存じないですか?」


「いいえ。私も待ってるんだけど。」

…マジ…怖い。

クリーニングから戻ってきた白衣と小峠の鞄がテーブルの上に置いてあった。

…やっぱり無理か?

「そうですか。それと医局長からの伝言で、夜食あとで当直室に持ってくるからって言ってました。」

…無論嘘です。

冬はそう言いながら出口へと向かった。それを聞くと女医は、慌ててソファから立ち上がった。

「そう。戻って来たら伝えておくけど…私もそろそろ帰ろうと思ってたとこなの。」

…でも、まだ居そうだな。

「そうでしたかー。じゃあ失礼します。もうぅ。先生ったらどこへ行ったの。」

冬は独り言をいいドアを閉めて、医局へと向かった。

医局のドアをノックすると、返事をする小鳥遊の声が聞こえた。

「失礼します。」

小鳥遊は冬を見て驚いていた。

「どーしたんですか?」

「ハ…を探して3千里…というのは嘘で、処置で汚した小峠先生の白衣と、患者の画像を探したいのでお邪魔しました。」

…危ない。禿って言いそうになった。

思っていたよりも綺麗な小峠のデスク周りを探した。

「どなたの画像ですか?」

…それを聞くなや。

「えーっと。昨日オペした人。」

少し落ち着かない様子の冬を小鳥遊はじっと見ていた。いつもの冬なら術後患者の名前ぐらい覚えている筈だと違和感を感じた。

「あぁ…でも小峠先生にしたら珍しいですね。あの人は、PCで画像チェックしていると思うんですけれど。」

「え…ええ。サマリー書くのに必要なんです。」

冬は画像を探す振りをしながら、白衣も探していた。

…白衣が見つからん。

「小峠先生の白衣ってどこですかね?」

「あぁ…あそこのロッカーの中ですよ。」

小鳥遊が指をさした先には小峠の名前が書いてあるロッカーがあった。

冬は背中で小鳥遊の視線を痛い程感じていた。ドアを開けるとクリーニングから帰って来た白衣とスクラブの上下が何枚かあった。白衣とスクラブの上下を迷わず掴んだ。

「あ…ありました。先生ありがと♪」

冬が部屋を出て行こうとしたところで、
小鳥遊が声を掛けた。

「月性さん…画像は見つかった?」

…ドキッ。

「あー無いみたいなんで、良いです。」

いつになく落ち着きの無い冬を訝し気に見ていたが、冬は気が付かない振りをして、医局のドアを開けようとした。

「月性さん。」

やましい事は無いのに、
小鳥遊がの声が、含みを持って聞こえてしまう。

…もう嫌だ。

「はい?」

冬が振り返った。

「キスぐらいして貰えませんかね?」

…キスしたらそれ以上のことしたいって言うでしょうが!

「あ…ごめんなさい。
まだ勤務中だから…また今度~。」

「また今度っていつですか?あなたは僕の部屋を出て行ってからだいぶ経ちますけど?」

小鳥遊は冬の顔をじっと見つめていた。

…お願いだ…あとにしてくれ。

「また今度は…また今度です。」

小鳥遊が椅子から立ち上がって冬に近づいて来た。

「トーコさん…あなた大丈夫ですか?」

冬は、思わず後退りをしてしまった。

「え?何でですか?」
ゆっくりと小鳥遊が冬に近づいてきた。

「とっても急いでいるみたいだから…。」

…今日の変態エロはしつこいな。

「ええ…病棟抜けて来てますから。」

小鳥遊は冬を抱きしめキスをし、大きな手で白衣のジッパーを下し始めた。

「先生…駄目です。」

冬は慌てて小鳥遊から離れようとしたが、しっかりと抱きしめられてしまった。

「したい…。」

今度は冬の白衣のスカートの中に手を入れた。

「駄目です…人が来るかも知れませんし。」

小鳥遊は冬の首筋に唇を這わせた。

「先生やめて。」

「…すぐに済みますから。」

小鳥遊はショーツの中に手を滑り込ませた。

「先生っ!やめてって言ってるでしょうっ!」

その声に驚き、小鳥遊は冬から離れた。

「お願いされても出来ない時だってあるんです。じゃあ。」

冬はイライラしながら医局を出て行った。


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暫くしたある日の準夜勤、小峠が珍しく病棟で遅くまで仕事をしていた。

「小峠先生。仕事終わりませんか?僕で手伝えることがあれば、手伝いますよ。」

小鳥遊が声を掛けると、小峠は、大丈夫ですと言いながらも何かを待っているようだった。

ERに呼ばれ、小鳥遊は外来へと向かった。再び病棟へ上がってくると、回診車を押しながら個室から出て来る冬を見かけ、声を掛けようとすると、後から白衣を直しながら、小峠が出ていた。

月性げっしょうちゃん。本当にありがとね。」

「先生。こんなことしてたら、バレると思いますよ?他の女性とのこともあるでしょうし、公に出来ないのは判りますけど。」

冬が小さな声で話すのが聞こえた。小声でも静かな廊下によく響いた。

…どういうことだ?

「月性ちゃんに相談して良かったよ。また明日もお願いねぇ。」

小鳥遊は個室を横切り、ナースステーションへと戻った。

「僕が居ない間に、何か処置がありましたか?」

処置室の流しで、
膿盆を片付けている冬に声を掛けた。

「あ…いいえ。大丈夫です。」

冬は小鳥遊に微笑むと、
ナースステーションに戻り記録を始めた。

いつもは出来るだけ小峠を避けていた冬と小峠が、最近は廊下などで時々話して居る姿を見かけた。

以前の冬は、仕事のこと以外で、世間話すらすることも無く、小峠を避けているのは明白だった。小鳥遊はモヤモヤとしたものを感じた。

「ねぇトーコ、明日の個室の予約入院って何の人だっけ?」

冬の同期が、点滴を詰めながら聞いた。

「明日…ああ下垂体腫瘍だ。」

ステーションの白板をチラリと冬が見て言った。

「ありがトン♪今から準備しとこうと思って。」

小鳥遊はそれを聞いてドキッとした。見回りに冬が出かけたのを確認してから聞いた。

…さっき二人が出て来た個室は、空室だったってことか?

「それって707号室の予約患者のこと?」

「そうですけど…どうしてですか?」

冬の同期が小鳥遊に聞いた。

「いえ…別に。」

小鳥遊はショックだった。

…ふたりはまだ続いていたのか?

もしかしたら、冬が部屋を出て行ったのも、小峠とよりを戻す為だったのかも知れないと思うようになった。

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久しぶりに冬が小鳥遊のマンションを訪れた。

小峠と冬との関係について悶々としたまま、直接聞く機会も無かった。

…疑心暗鬼

冬とは大人の関係なのだから、冬の恋愛に口出しをする必要は無いと思いつつも、モヤモヤする気持ちを払拭することが出来なかった。

冬は食事を食べる小鳥遊を嬉しそうに眺めていた。反対に、小鳥遊はいつもに比べて無口だった。

「疲れちゃいましたか?」

冬が聞いた。

「いいえ。何故ですか?」

小鳥遊はカレイの煮付けの身を剥がし食べた。

「久しぶりに会えたのに、元気が無いみたいですから。」

…今泉も小峠も、一体どうなってるんだ?

「あなたに聞きたいことがあるんです。」

冬は食後のお茶を用意しながら聞いた。

「何でしょう?」

冬は小鳥遊を見つめていた。

「小峠先生のことです。」

小鳥遊はじっと冬の反応を観察していた。

「ハ…小峠先生がどうかしました?」

冬は少し緊張した。

「僕見てしまったんです。あなたと小峠先生が、回診車を持って個室の空き部屋から出て来るところを。」

「えっ?」

…いつ見られたたんだ。

「あなた達付き合っているんですか?」

小鳥遊は真面目な顔で冬に聞いた。

「いいえ。なんで私が禿と付き合わなくっちゃいけないんですか?」

冬は険しい顔になった。

…勢い余って禿っていっちゃったよ。

「だって…あなたは以前、彼とそういう関係でしたし…。」

それが事実だとしても、小鳥遊の口から聞くのは辛かった。

「でも今は違います。」

「では、何故最近よくコソコソと話をしたりしているんでしょう?あなたは彼の事が嫌いなんですよね?」

「ええ…嫌いも嫌い、大嫌いです。」

冬は即答した。

「では何であの日、ふたりで出て来たんでしょうか?」

小鳥遊は箸を静かに置いた。冬は言葉を選ぼうと暫く考えていたが、小鳥遊はそれを見て不安になった。

「先生が心配するようなことは、一切ありません。」

「僕は理由を聞いているんです。」

…どうしよう。

「先生は私と小峠先生が、浮気をしていると?」

「はい そうです。」

小鳥遊はきっぱりと言った。

「浮気はしてません。それは確かです。けれど、理由は言えません。」

冬もきっぱりと言った。

「僕にもですか?」

小鳥遊は自分がこんなにもイライラしていることに戸惑いを感じていた。

「ええ。」

冬は即答した。

「どうしてですか?」

…なら何故隠すんだ?

「約束したからです。誰にも言わないと小峠先生と。」

冬はきっぱりと言ったが、心のどこかで悩んでいた。

「あなたは、大嫌いな小峠先生との約束を優先するというのですか?」

小鳥遊は怖い程に冷静だった。

「はい。吐き気がするほど大嫌いでも、約束は約束ですから。」

冬は全く譲らなかった。

「僕は…混乱しているんです。」

…信じたく無かった。だから、確証が欲しいんだ。

「信じて頂けないのなら、小峠先生に直接伺ったら如何ですか?」

「それが出来ないからあなたに聞いてるんです。」

小鳥遊は、冷たく言った。

「私に疚しいことはありません。」

小鳥遊は黙ったまま何かを考えていた。

「そうですか…判りました。」

…きっと先生は信じて無い。だけどそれが真実。

冬はキッチンの片づけを始めた。

「片付けたら今日は自分のアパートに帰ります。」

小鳥遊の食べた皿を運び洗った。

「今日は泊って行く筈では無かったんですか?」

お茶を出し、風呂を沸かした。

「ここに居て良いんですか?」

「…。」

「ね?…帰ります。では。」

冬は荷物を纏めてさっさと玄関で靴を履いた。

「もう…僕たちは終わりなんですか?」

小鳥遊が冬の背中に聞いた。

「先生がそうお思いになるのなら、そうじゃないでしょうか。」

―――バタン。

玄関の重いドアが閉まった。

「どうして…だ。」

小鳥遊は長い間、椅子に座ったままだった。

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「小峠先生 ちょっとお話があるので面談室に来てください。」

小鳥遊に呼び止められた小峠は、ギョッとしていた。

「何でしょうか?」

小峠は緊張した面持ちだった。

「少し前のことになりますが、あなたの当直の時に、月性げっしょうさんとあなたが、病室の空室から、二人で出てくることを目撃した人がいたみたいなのですが、説明して貰えますか?」

「誰から聞いたんですか?月性げっしょうさんですか。」

「聞いてみましたが、彼女は、何も答えてくれませんでした。」

小峠が一瞬ほっとした顔をしたのを
小鳥遊は見逃さなかった。

「しかし、見た人が居る以上、余計な詮索だとは思いますが、僕はあなたにも聞かなくてはいけません。場合によっては師長に報告しなければならないかも知れません。」

「えっ?彼女を移動させるんですか?!」

小峠は慌てていた。

「ええ。場合によっては、その可能性もあるでしょうね。あなたは、ここに必要ですから。」

小鳥遊は真面目な顔をして言った。

「彼女は悪くないんです。彼女は僕を庇ってくれているんです。」

小峠は慌てたが、きっぱりと言った。

…庇うのか。やはりこの男は、まだ好きなのかも知れない。

「ええ…そうでしょうね。」

長い沈黙が流れた。

「実は…。」

小峠は、背中を捲って見せた。

「あの日、テーブルに背中をぶつけ、酷く出血したので、月性さんに消毒して貰っていたんです。」

小峠の背中には引っ掻いたような傷と、部分的に絆創膏が貼られていた。

「背中だったので、自分じゃ届かないですし、当直中で外科受診するほどでも無かったので。」

小峠はシャツをしまいながらいった。

「判りました。では師長に報告することも無いんですね?」

「はい。」

小鳥遊は小峠を返して、冬を面談室に呼んだ。

「小峠先生から話を聞きました。」

「えっ?」

「あなたは怪我の治療をしてあげたそうですね?何故それをあの時、言わなかったんですか?」

…やっぱり先生は信じてくれてなかったんだ。

「以前も説明した通り、小峠先生に口止めされたからです。」

冬は不機嫌だった。

「私の浮気を疑って、小峠先生を呼びつけたんですか?…だとしたら、それこそ職権乱用です。最低ですね。」

冬はそのまま面談室を出てしまった。

…僕は一体何をしてるんだ?

冬は小鳥遊の事を怒っていた。
すぐに小峠の所に行った。

「月性ちゃん…ゴメンね。僕のせいで小鳥遊先生に叱られちゃったでしょう?」

…今日のハゲは素直じゃないか。

「全部話しちゃったんですか?」

「ううん。ただ机に背中をぶつけて怪我をしたって言った。」

「そうですか…私も、また何か聞かれたら話を合わせておきます。」

「誰が僕たちのことを見てた人が居るんだって。だから正直に言わないと、君が飛ばされるかもって言われたんだよね。」

「えーっ。酷い。マジで?私には、そんなこと一言もいってませんでしたよ?」

…脅すなんて、酷い。

冬は小鳥遊に怒りがふつふつと湧いて来た。

「まぁ…でも月性ちゃんには悪いことしちゃったから、今度ご馳走させて♪」

「それより女医さんとは大丈夫でした?」

…食事なんて行くか馬鹿。

「うん…なんとか…ね。」

…かなり、危ない人だよね。ま…知らんけど。

「そう…それは良かった。では…。」

…禿もムカつくが、変態エロ…最低だわ。

小鳥遊は何度も冬にメールをしたが、返信は帰って来なかった。

病棟では普通に話をしていたが、二人きりの時には、避けられているのが判った。

…これはもう終わりだということだ。

小鳥遊はそう思いつつも、諦めがつかなかった。悶々とした日々が続き、自分が何故これほどまでに拘るのかが判らなかったが、気が付くと2週間程経過していた。

そんなある日、食堂で師長と今泉と冬で食事をしている姿を見かけた。

どうやら師長が今泉に頼まれて仕組んだことらしい。たった一度だけだったが、とても気になった。小鳥遊は再びメールを送った。

(青年医師:そちらのお家に伺っても良いでしょうか?)

(こちらに来られても困ります。)

すぐに返信が来た。

(青年医師:今日うちに来てください。)

(今日は、師長と今泉先生と3人で食事へ行くのでいけません。)

…師長が誘ったのだろうか?それとも。

(青年医師:いつなら会えますか?)

丸一日経ってメールが来た。

(何故ですか?)

…何故って。

(青年医師:あなたと話がしたいんです。会えますか?)

小鳥遊は何の色気も無いメールを寄こす冬を憎らしいと初めて思った。


小鳥遊が寝ようとした真夜中にメールの着信があった。

…女はもっと色々書きたがるものじゃないのか?

(話なら病院で伺います。)

…約半日も待って返事はこれだけ?

「あーっもう!まどろっこしい。」

小鳥遊は、大きすぎるベッドにスマホを放り投げた。


―――翌日。

冬も、小峠も変わらずだった。ただ唯一違うことは今泉が病棟に来て、師長と冬を含めた看護師達と楽しそうに話していたことだ。

…一体何が起こっているんだ。

「あ…小鳥遊先生。」

今泉はいつもと変わらず、爽やかに笑っていた。

「どうも…。」

とうこはナースコールが鳴り患者の所へと向かった。それを追いかけるようにして、冬が病室から出てくるのを小鳥遊たかなしは待っていた。

月性げっしょうさん。話があるんです。」

空の点滴を持ち部屋から出て来た冬に声を掛けた。

「小峠先生に嘘までついて、本当のことが判って幸せですか?」

一言目から辛辣だった。

「それは…。」

冬は小鳥遊がしたことにまだ怒っていた。

「私は…先生に…がっかりしました。」

「もう…おしまいですか?」

小鳥遊は、冬に静かに聞いた。

「先生が そう思われるのなら。」

冬は静かに言った。

「僕は…嫌です。」

今泉がナースステーションから顔を出した。

「月性さーん。突然だけど、今日みんなで飲みに行かないかって話してるんだけど?行ける?」

ちょっと待って下さい…と今泉に向かって答えた。まだステーションから覗いている今泉をみながら冬は小鳥遊に聞いた。

「先生も飲みに行きますか?」

突然聞かれて戸惑った。

「え…あ…はい。」

「今泉先生に伝えておきますね。じゃぁ また後で…。」

ナースステーションに冬は戻りながら、小鳥遊先生も行きますってと今泉に話すと、本当に?と嬉しそうな声が聞こえた。

小鳥遊は冬の背中を静かに見送っていた。


珍しく今泉が来ると言うことで、日勤者は師長を含めてほぼ全員が、飲み会に参加した。

「月性さんが来るなんて珍しい~♪もしかして今泉先生狙いだったりして。」

同僚が笑ったが、師長が口を挟んだ。

「逃げちゃうといけないから、先に彼女には言っておいたの。」

…師長さん。ナイス フォロー。

皆が笑った。

居酒屋に向かう途中、冬は小鳥遊と肩を並べて歩いていた。少し先を若い看護師達と今泉が歩き、楽しそうに笑っていた。時々、後ろを振り返り、目が合うと微笑んだ。

「なんか…爽やかですよねぇ。今泉先生って。」

「男の僕から見ても、僕の次にカッコイイぐらいですかね。」

…そりゃちょっと盛すぎだろ?

冬は笑ってそうですね…と返した。

「あの…小峠先生のことは本当に済みませんでした。」

小鳥遊は冬に謝った。

「本当ですよ!先生はあんなことしない人だと思ってました。」

冬ははっきりと言った。

「済みません…あなたのことになると、どうも僕は距離感が掴めなくなってしまうようなんです。」

隣を歩く、冬の微かな甘い香りがフワフワと小鳥遊を酔わせていた。

「今日…先生のマンションに泊っても良いですか?」

冬が小さな声で聞いた。

「ええ。勿論です。」

ふたりともお互いを見つめて微笑んだ。

「じゃあ今日は、保護者同伴だから、少し飲んじゃおっと♪」

歩いて帰れるぐらいのほどほどにして下さいねと小鳥遊は笑った。

今泉がチラチラとこちらを見ていたが、冬は小鳥遊の隣に迷わず座ったので、ほんの少し、優越感に浸っていた。

「折角、あなた達の為に今泉先生を誘ったのに、駄目ね。」

師長がため息をついた。

…やっぱり企画者は師長か。

小鳥遊は笑った。

「皆 酔ってくれば、そのうちに今泉先生も月性さんのところに来るんじゃないでしょうか?」

小鳥遊は、少し安堵し軽口を言う余裕ができた。

「今泉先生は、若い子と一緒の方が楽しくて良いんじゃないでしょうか。」

冬もすかさずそれに返しつつ、誰にも見えないのを確認して、小鳥遊の太腿に手を乗せた。

「あなたは…先生が好きだって言ってくれてるのに、つれないそぶりばかり…。はぁ~困ったものね。」

師長が大袈裟にため息をついた。

「僕は、お似合いの2人だと思いますけどね。」

冬は、微笑みながら余計な事を言った、小鳥遊を軽く抓った。

(いたい…。)

「そう言えば、●●さんの息子さんに。これあなたに渡してって言われてたんだけど。」

師長は、手紙を冬に渡した。

「ラブレターですか?」

小鳥遊は面白そうに言った。

「あなた患者さんから良くラブレター貰ってるみたいだけど、ちゃんとお返事書いてあげてるの?」

…また師長さんは余計なことを。

「しつこい人には専用のメアドを教えますけど、それ以外はスルーですね。」

冬はカシスソーダを飲んで笑った。

「そんなメアドもあるんですね。」

小鳥遊が驚いた。

「私だけじゃ無くて、他の看護師も良くやってますよ。」

小鳥遊が今度は、冬の太腿をさわさわと触れ始めた。

「電話番号を教えてってしつこくいう人には、“流石に患者さんとは、不味いので、退院の時に渡しますね。“って。」

「それで?退院の時に、ホントに渡すんですか?」

…興味津々すぎるだろ変態。

「ええ…それまでに諦めてくれなければ…退院の時に渡して、そのまま…ですかね。」

看護師だって面倒なことには巻き込まれたくない。

「なんか…悲しいですね。メアド教えて貰って、男性はウキウキしているでしょうに…。」


「いえいえ一度はちゃんとお断りします。“実は誰にも言ってないけど彼氏が居るんです”って。それで大抵の人は諦めますから。」

「それにしても、悲しいですよ。僕が若い頃にされてたら、ショックで寝込みますね。」

小鳥遊は男性患者に同情的だった。

「先生はモテたでしょうから、よりどりみどりだったでしょう?」

冬は笑いながら、静かにテーブルの下で、小鳥遊の太腿を撫でた。

「月性さん…なんで“モテた”って過去形なんですかね?」

「素敵な奥様がいらっしゃるんでしょう?もうモテる必要無いじゃないですか。」

それはそうですけれど…と言ったので師長が笑った。

「あなたと今泉先生…うまくいって欲しいわ。」

師長は今泉を見ながら言った。

「私が居るうちにあなたの結婚式に呼んでほしいわ。」

「嫌だ…師長さん…うちの母みたいなこと言わないで下さいよ。」

冬は貰った手紙をガサガサと開けて読みながら言った。小鳥遊が隣から覗き込んだ。

「駄目です!」

冬は隠しながら手紙を読んだ。

「あの人の息子さんってどんな人でしたっけ?」

小鳥遊は師長に聞いた。

「弁護士さんだって言ってたかしらね。ほとんど来なかったけど、月性さんと関わる事があったの?」

「あったかなぁ。」

冬は微笑みながら、手紙を読んでいた。

「なんて書いてありました?」

小鳥遊が気にしているのを見て冬は笑った。

「弁護士さんでも、こんな素敵なラブレターかけるんだなぁと思って。」

「えっ?」

…動揺…したか?変態。

「あ…でも文系だから、当たり前といっちゃあ当たり前か。今どき、メールじゃなくって手紙ってところが素敵♪」

名刺とチケットが2枚入っていた。

「うわ♪オペラのチケットだ。」

小鳥遊が覗き込んだ。

「お友達と行って下さいって…自分とじゃないところがポイント高い。しかも...これすぐ完売になっちゃったんですよ!」

小鳥遊が携帯で調べていた。

「…ほんとだ…プレミアついてる。」

師長がどれどれと言って覗き込んだ。

「えっ!こんなにするのっ。」

冬も覗き込んだ。

「やっぱり…2倍もしてる。まだ1ヶ月以上あるし、返さないと…こんなの貰えない。」

「月性さん オペラなんて行くの?」

師長が聞いた。

「小さい頃は母によく連れて行って貰ってたんですけれど、最近は無いですね。あぁ…息子さん来た時に、そう言えばオペラの話で盛り上がったんですよね。だからか…。」

…子供の頃にオペラなんて…どんな子供だったんだ?

「私は行った事無いわ。」

師長が冬からチケットを渡され眺めた。

「近現代の作曲家、Menottiの“L'Amour à trois”ってとっても短い30分ぐらいのコミック・オペラです。超要約すると、男性が待ってるのに、女性が長電話してるって話です。」

冬は面白そうに言った。

「30分でこの値段?!」

「それだけじゃ無いので、2時間ぐらいですかね。」

冬はウーロン茶を頼んでトイレに立った。

「へぇ~。月性さんってクラッシックもオペラにも造詣が深いのねぇ。」

師長が感心したように言った。

「いえいえ…父親の影響ですね。」

冬が笑った。

「月性さんって余り話さないし、良く分からない人ですね。」

小鳥遊はさりげなく聞いた。

「ええ…昔の事も、自分のことも余り話したがらないから。海外に留学したことがあったなんて、私もあのテレビの取材で知ったぐらいですから。」

師長と冬、そして小鳥遊は、病院の他愛もない、普段出来ないようなどうでも良い話まで、楽しそうに話していた。

冬は小鳥遊の隣で安心したのか、お酒も飲んで久々にとても楽しいそうな雰囲気で、そんな冬を小鳥遊は、何時迄も眺めて居たいと思った。

何と無く年代が違う3人でも不思議と話が続くところが面白い。師長を含めメンバーとも意見が言い合える、この病棟が好きだと冬が言った理由が分かるような気がした。


小鳥遊はそっと席を立ってトイレへ向かうと、冬が待っていた。

「せんせぇ…トーコしたくなっちゃった♪」

冬は潤んだ目で小鳥遊を見つめた。ふたりでそっと社員用裏口から抜け出し、木陰で何度もキスをして、くすくすと笑った。

「僕も…です。あなたが僕に触れたりして誘惑するから。」

―――バタン。

裏口のドアが閉まる音がして人の出入りが見えたので、小鳥遊は冬を庇うようにして、二人は慌てて木蔭に隠れた。

スタッフがゴミ出しをしたようだった。2人はそれを見届けるとクスクスと笑いあった。冬のスカートをめくり、ショーツの上から触れると、じわりと布が濡れていた。

「こんなに濡れて…いやらしいですね。」

ショーツの上から、くりくりと蕾を愛撫すると、冬は甘いため息を漏らした。

「うん。トーコとってもエッチな気分だから。」

冬は小鳥遊のズボンのベルトを外した。

「早く…トーコに 挿れて。」

激しく小鳥遊の唇を貪りながら、小鳥遊の腰に足を絡めた。

「久しぶりだから…すぐ…。」

誰かが来るかも知れない野外での淫らな行為は、ふたりをいつも以上に興奮させた。

「いっぱい…欲しい。」

潤った入り口はヒクヒクと蠢き、小鳥遊を待ちわびていた。小鳥遊は頭の芯が痺れるような快感に浸っていた。

「もうちょっと虐めましょうか?」

小鳥遊はいやらしく笑って、ショーツの上から、蜜壺を指でグッと押した。

「あん…せんせ…の意地悪。」

冬はショーツをずらし、直接濡れてひくひくとしている蜜壺に小鳥遊の手を誘導した。

「ここに…挿・れ・て♪」

自分の指と共に小鳥遊の指を蜜壺に挿入した。

「あ…トーコさん。」

冬のいやらしいその行為に、小鳥遊はそれ以上我慢出来そうになかった。

「ほら…こんなにくちゅくちゅ言って、先生を欲しがってるの。先生の素敵な指で、トーコを気持ちよくさせてぇ。」

ゆっくりと引き抜いた指をいやらしく舐めてみせた。小鳥遊はズボンを下すと、冬の体を木に押し付け、ショーツをずらして、秘部に当てがうと、一気にズブズブと太いそれを押し込めた。

「あん…。」

小鳥遊は冬の口を唇で塞ぎ,両手で冬のお尻をしっかりと掴み、何度も激しく冬に打ちつけた。

「…もっと深く。もっと激しく突いて。」

「あぁ…くっ…イキそうだよ。トーコ。」

「トーコの中気持ちが良い?」

上気した冬の顔は、小鳥遊にうっとりと微笑みかけていた。

「あなたのココは、とっても気持ちが良いよ。」

いやらしい言葉を耳元で囁ぎながら激しく突くと欲情がいつもよりも2倍速で膨れ上がるような気がした。。

「あっ…いく。」「イク…イク…。」

冬も小鳥遊もあっという間に果てた。ふたりともうっすらと汗を掻いていた。

「あなたの顔…少し休まないと。」

冬の顔は耳まで赤かった。

「大丈夫…酔ったことにして、トーコを早く家に連れてって。いっぱい愛してぇ。」

小鳥遊は再び硬くなるのを感じた。

「そんなことを言うから…また…。」

そう言うと再び、冬を深く深く突き刺した。

「あぁ…体が融けちゃ…う。」

冬も小鳥遊の動きに合わせて滑らかに腰を動かし,その姿に小鳥遊も情動を抑えることが出来なかった。

何度も果てた冬は、まるで酒に酔っているようだった。

「支えますから、僕と一緒に帰りましょう。」

冬を抱えるようにして店に戻った。

「小鳥遊先生!どうりで遅いと思ったら、月性さんの介抱していらっしゃったの??」

師長が呆れた。

「僕が連れて帰ります。」

「そうね…その方が良いかも。先生なら安心だし。」

「僕が一緒に行きましょうか?」

今泉も心配してやってきた。

「小鳥遊せんせ…と帰る方向…一緒だから、大丈夫。」

冬は潤んだ瞳で今泉を見つめた。

「か…可愛い。」

今泉は思わず呟いた。

「やっぱり小鳥遊先生の方が良さそうね。」

今泉を見て、師長が笑った。

「じゃあこれで足りない分、皆さんでお願いします。」

数枚お札を師長に渡し、冬を抱えるようにして去った。外に出てタクシーを拾った。

「はぁ…上手くいきましたね。」

…先生が…激しすぎるから。

冬はくったりと小鳥遊にもたれ掛かった。

「いいえ…あなたが可愛いからです。」

小鳥遊は耳元で囁き笑った。


+:-:🐈‍⬛+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+

今泉は、約束の3カ月をとうに過ぎても、冬を相変わらずデートに誘い続けていた。

「今度こそはっきりと断ってきます。」

「本当に大丈夫ですか?流石に襲ったりはしないでしょうが、気を付けて。」

…襲うって…変態エロじゃあるまいし。

小鳥遊は冬を心配していた。このモヤモヤした気持ちをどのように表現していいのかも自分は判らなかった。

「食事をして帰って来るだけだから」

冬は小鳥遊の首に腕を回し、何度もキスをしてから玄関を出た。二人ともあまりお酒は飲めないので食事へと出かけた。

冬は会ってそうそうに深刻な顔で話をきり出そうとすると今泉が止めた。

「あーっ待って?月性さんの言いたいことは判る。だた、このデートが終わってからでも遅くないでしょう?」

そう言って今泉は微笑んだ。ふたりでイタリアンレストランへと入った。

相変わらずスマートに冬をリードしてくれた。今泉は自分のことを色々と話してくれた。華奢な草食系男子に見えるが、実はアウトドアスポーツが好きだと話した。

「へー。そうなんですね…。今泉先生って、静かで穏やかなイメージがあるから、インドアな感じを想像していました。」

冬は今泉の華奢な見た目から、勝手な想像を膨らませていた。

「月性さんのことをトウコさんと呼んでも良い?」

「今だけなら良いですけれど、仕事では困ります。今泉ファンに殺されますから。しかも先生のファンって本気度が高そうな人が多くて怖いから。」

冬は真面目な顔で言ったので今泉は笑った。

…笑い事じゃないんだ。マジで怖いから。

「別に、恋人で無くても、友人でも名前で呼ぶでしょう?」

…うーん。

「私の場合、友人も少ないので限られた人達だけですね。彼氏になったら名前で呼んでくれる人が多かったかも…。」

冬は最後の一口のあさりのパスタを食べた。

「それに、病棟で先生が私のことをトウコさんと突然呼ぶようになったら、怪しまれちゃいますし…。」

「なんで…なんで秘密にしなくっちゃいけないの?付き合っているなら付き合ってるって言えば良いじゃん。」

…ふーむ。

「付き合って居る時には良いですけれど、別れた後、気まずくなりませんか?」

別れたら気まずい。少なくとも冬は普通に接する自信があるが、相手がなかなかそれが出来ない気がした。

「それはどんな恋愛だって同じでしょ?別れた後は誰でも気まずい。だけど、それを表に出さない様にするのが大人じゃないのかなぁって思うけど?」

…確かにそうだけど、出来る大人が少ない。

冬は苦笑するしかなかった。

「いつまでも●●の元彼女と言われるのって、嫌なんですよね。」

「そうかなぁ。」

今泉は納得がいかないようだった。

「先生はどう?振られた後に、相手と気まずい雰囲気になったり、一緒に働いていて挙動不審になったりしませんでしたか?」

「うーん…振られたこと無いから分からないや。」

…流石ナルシス王子。なんか突き抜けてるとは思ってたけど、恋愛ゲーム全勝なんて。

「それに,先生みたいにいつも女の子からアプローチされるような人が彼氏だったら、嫉妬や心配ばかりしちゃいそう。」

…そうだよ。歴代の彼女はきっと心配だったに違いない。

「僕…好きになると一途だよ。」

突然 冬に顔を近づけるようにして囁いた。

…わわっ。近い!近い。

冬は慌てふためいた。

「トウコさんに好きな人はいるの?」

美男子の今泉に見つめられていると、冬は不思議と胸がドキドキした。

…またしても直球だな。

冬は今泉の顔を暫く眺めてから返事をした。

「はい…。」

…今は変態エロで手一杯。

「僕じゃ無いんだよね。」

寂しそうに笑った。

「本当にごめんなさい。」

…そうか。これで連勝を止めてしまうのか。ごめん…ナルシス。

「その人とは付き合っているの?」

…それを言われると辛い。

「付き合っているというか…Steadyな関係ですかね。」

冬は小鳥遊との関係をうまく表現できないでいた。

「ふーん。それはセフレ?それともFriends with benefitsってこと?」

「ゴホッゴホッ。」

冬は飲んでいたコーヒーを咽た。

…その綺麗な顔してそんなことをさらっと言ってのけるんだ。

大丈夫?と顔を再び近づけて来て、冬は慌てた。

「いえ…上手く言えないんですが、最低限の秘密は守れて、私の尊敬できる人…です。相手が私をどう考えていようが…って感じです。」

…上手く言えない。

「トウコさんて…サバサバしていて、顔に似合わず男性的なのかも知れないね。なんだか益々気に入っちゃった。」

…褒められたのか?

「またキスしても良い?」

パーフェクトフェイスが急にテーブル越しから近づいて来た。

「だ…駄目ですよ。」

…今日何回目だ?

今泉のペースに乗せられっぱなしだったが、何故かそれも心地良くなってきた気がした。

ドキドキと癒され感が同時にある事で、今泉には強引さが無い事にも驚いた。

人懐っこいのにさらっとしていて忘年の時の印象とはかなり違って見えた。

「友人・恋人として付き合っていく中で、僕を知って貰えば良いや。お友達以上恋人未満ってとこ?」

今泉は、爽やかに笑った。

「異性間の友情なんて成り立たない…ですよ。」

どちらかが好きだと言った時点で、力のバランスは簡単に崩れて,選択権は好意を持たない方に委ねられてしまう。

「だから緩~くお付き合いすれば良いんじゃないのかなぁ。」

今泉のこの緩さこそが、心地の良さなのかも知れない。

「…だからキスしていい?」

…今日何度それを聞いたかな。

冬は呆れて笑うしかなかった。

「冗談です。じゃあ美味しいケーキ屋さん見つけたので、行きましょうか?」

ここから歩いて行ける距離なんで…と言って冬と今泉は会計を済ませたあと店を出た。

ここから10分程の所ですと言いながら冬の手を繋いで自分のジャケットのポケットの中に入れた。

「あ…あ…ちょっと。」

「キスが駄目ならこれくらい良いでしょ?それに僕は人に見られて恥ずかしいことなんてないもん。」

…あーあ…調子狂う。

そう言って冬の小さな手をしっかりと握り直した。

「グローブは6ぐらいかな…。」

滑々とした親指で冬の指をポケットの中で触った。

「5半か5ですね。」

冬は背は標準だが、手が小さかった。

「わーちっちゃ。でも可愛い♪」

と言って冬の赤い耳にキスをした。

「あっ。さっき駄目って言ったのに。」

冬は手を離そうとしたが、しっかりと掴まれていた。

「逃げようとしたって駄目だよ。」

そう言って笑った。

…非常にまずい…これは…どうみたって彼氏と彼女じゃん。

冬は焦りつつも、ドキドキしていた。

「今日はフルーツケーキのお店にしたんだ。」

今泉は話題を変えた。フルーツケーキと聞いて冬が嬉しそうに言った。

「パウンドケーキで中にドライフルーツがいっぱい入ってるのが大好きなんです♪」

店は、カントリースタイルのカフェになっていてケーキを持ち帰りも出来るし食べて帰ることもできた。

「この中にトウコさんの好きなものがあれば良いんだけど。」

陳列棚の1/3ほどが、パウンドケーキでラム酒漬けのドライフルーツや、くるみ、リンゴとシナモンなど様々なケーキが並んでいた。

「わー。こんな感じのが好きなんですけど、今泉先生色んなお店ご存じなんですね。」

興奮した冬を見て、今泉はそれは良かったと笑った。冬は沢山のラム酒付ドライフルーツが入ったものを選んだ。

「先生といると、なんか…楽…です。」

今泉に心の隙間が不思議と埋められていく気がするのだ。小鳥遊と一緒にいる時とは違い常に自然体で居られる気がした。

「そう? じゃぁ付き合っちゃう?」

今泉は嬉しそうに笑った。他の席の女性客もちらちらと今泉の事を見ているのが判った。

「あ…トウコさん…それお酒入ってますよ。あんまり食べると酔っぱらっちゃうかも。」

今泉は慌てて止めた。

「ちょっとだけなら大丈夫♪」

とても甘くて口当たりがよく、ジェスの作るフルーツケーキよりもコクがあって美味しかった。今泉が心配していた通り、冬はすっかり酔っぱらってしまった。

「あーあ…トウコさん…甘くて美味しいからって食べ過ぎですよ。」

抱えるように駐車場まで歩き、車に乗せた。

「トウコさん…トウコさん…お家まで送りますから…場所はどこですか?」

「眠くて…駄目…。」

そのまま助手席ですやすやと眠ってしまった。今泉は大きなため息をついた。

「これじゃあ襲ってくれと言ってるようなものじゃない。」

今泉は車を走らせ、こぎれいな自分のマンションに連れて来た。冬をおぶってエレベーターへ乗った。冬は完全に今泉に身体を預けて眠ってしまっていた。

「やれやれ明日も仕事だと言うのに…。」

そう言ってキッチンとリビングを通り自分の寝室へと運んだ。

「あれぇ?なんで家にいるの?あ…今泉先生?送って来てくれてありがとう。」

今泉は完全に酔っぱらってしまった冬に呆れた。

「トウコさん…ここは僕のマンションだよ。」

…この状況は…かなりまずい。

今泉は思った。

「あ…そうなんですか…じゃあパジャマ貸してください。」

冬はおもむろにブラウスのボタンを外し始めた。

「ちょ…ちょっと待って!…僕のパジャマかTシャツか…何か持ってきますからっ。」

慌てて寝室を飛び出すと、大きなTシャツを持ってきた。

「これなら大きくて大丈夫だと思いますよ。」

…なんで僕がこんなにドキドキしなくっちゃいけないんだ?

先ほどまでとは全く立場が逆転し、冬に振り回されて今泉は落ち着かない気分だった。

「はぁい。ありがとうございます。」

今泉は外で待ってますから部屋を出た。好きな人が突然テリトリー内に侵入してきたのだ。動揺,緊張,そして期待…複雑な感情が今泉の中に久し振りに湧き上がった。


「先生…もう良いですよぉ。」

恐る恐るドアを開けると、冬はベッドの中に潜り込んでいた。


「先生?」

冬の顔はお酒でピンク色に染まり艶めかしかった。

「はい。」

今泉は緊張した面持ちで冬を見ながら、コップに入った水を、ベッドサイドのテーブルに静かに置いた。

「ちょっと来て?」

冬の潤んだ大きな目で見つめられると押し倒して襲ってしまいそうだった。

…これはまずい…非常にまずい。

―――がしっ。

冬が今泉に抱きついた。甘い優しい冬の香りが今泉を包んだ。それだけで目眩がしそうな程、興奮してしまった。

「うぁ…トウコさん…ち…ちょっと。」

冬の細い腕が自分の胸の周りに纏わり付き、冬の大きくて柔らかな胸が当たった。

…わわっ。下着つけてない。

「先生…トウコをいつものように温めて下さい♪」

冬の白く柔らかで滑らかな肌は、吸い付く様でとても温かかった。

「い…いつものように?」

今泉はドギマギした。

「うん♪」

「な…なんか…勘違いをしているようですけれど。」

いつもの飄々とした余裕のある今泉はとっくの昔に消滅し、冬の艶めかしい魅力の前に理性でものを考えること自体が難しくなっていた。

…月性さんが付き合っているのって、もしかして医者なのか?

「トーコ…寒いから…早く♪」

今泉をブランケットの中に無理やり引き摺り込んだ。

「わわっ!本当に駄目ですって…僕だって…一応…男です。」

冬のぷっくりとした柔らかそうな唇が、すぐ傍にあった。襟元からのぞく綺麗な鎖骨のライン,真っ白で透き通る様に透明な肌は,まるで少女のように艶やかで、柔らかそうだった。今泉は 冬に触れたくなる衝動を抑えるのに必死だった。

「やっぱりせんせ温かくて気持ちが良い。」

冬は隣に無理やり寝かせた今泉の胸に顔を埋め、腰に長く白い足を絡ませた。今泉もしがみついてくる冬を拒否することは、難しくなってきた。

「はい…お休みのチュー。」

そう言ったかと思うと、今泉の顔を両手で挟み、グイッと自分の口元へと近づけた。

…ああ…駄目だ…トウコさん…ごめんなさい。

今泉は冬と熱い口づけを交わした。それはとても柔らかで優しいキスだった。

一度キスが終わると,今泉を見つめて微笑んだ。今度は今泉からのキス。

冬の唇を包み込むようにして、舌を絡ませた。ふたりの口の端からは、ため息が漏れた。

再びブラを付けていない、冬の柔らかな胸が今泉に押し付けられた。今泉はTシャツの裾から手を入れ冬の豊かな胸を揉んだ。

「僕は…君が好きだ。」

冬が甘いため息を漏らした。今泉が酒で赤くなった首元にキスをすると、冬の頸部の血管が白い透明な皮膚の下から透けて拍動するのが見て取れた。

「トーコに…触って欲しいの。」

冬は、今泉の耳元で囁くと,耳を優しく舐めながら,今泉の柔らかい髪を小さな手で撫でていた。今泉は身体の芯が熱くなってくるのを感じだ。

「トウコさん…そんなに僕を誘惑しないで。」

今泉は大きなため息をひとつつくと、再び唇を重ねた。濡れて柔らかな唇に触れると、下半身に血流が増えていくのを感じた。

「僕は、君が好きだ。酔っていることは判ってる…けど…僕はあなたを愛したい…今…とても…ずるいのは判ってる。」

シャツをそろそろとたくし上げ、大きくて形の良い胸についている突起を舌で愛撫した。

「トウコさん…あなたはとっても綺麗だ。」

今泉は、大きなため息をついた。それはすぐに反応して硬くなった。

…はぁ。

「せんせぇ…愛してる」

冬は今泉の形が良い唇を指でそっと触れながら、潤んだ瞳で微笑んだ。堪らず、冬の首元から舌を這わせると、冬の肌に鳥肌が立った。

「僕は…君が好きだ。」

…あぁ。

冬が小さな甘いため息をついた。

「トーコをいっぱい愛して…欲しいの。」

硬くなった乳首を指先で摘まみ音を立て乍ら吸うと、冬の腰に腕を回し自分に引き寄せた。

「トウコさんは、どうしてそんなに自然に僕を誘惑するの?」

大きなため息をついて、冬の唇を激しく貪り冬の上にゆっくりとのった。

「トウコさん?…」

「…。」

触れていた柔らかな胸から手を離し、冬の顔を見上げると、すーすーと寝息を立てて、寝ていた。

…この人の計画性の無い無邪気さに男は魅了されてしまうのかも知れない。

「トウコさん…こんな隙だらけだから、小峠先生に狙われちゃうんですよ。」

そう言って微笑みながらTシャツを直し、冬の腕の中からそうっと抜け出した。

…う…ううん。

冬が寝返りを打つと、裾からは長い足と形の良いお尻が見えた。今泉は微笑みながら、冬にそっとブランケットを掛けた。

「おやすみなさい。トウコさん。」

顔に掛かった髪をそっと指で整えて、寝息を立てる冬の唇に優しく長いキスをした。冬から離れるのを惜しむように暫く冬の額に自分の額をつけ、切なそうに眉を顰めていた。

「僕は君が大好きだよ…でも…愛してあげられないんだ。」

今泉は、深く大きなため息をついて、部屋の電気を消した。




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