小鳥遊医局長の恋

月胜 冬

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After Shock

心配性

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…よく眠れた。

昨日はいつの間にか寝てしまっていたらしい。朝起きると久しぶりに体が軽い気がした。

今朝は冬が気を利かせて、ギリギリまで寝かせておいてくれた。

「はいこれ…朝ご飯の梅干しおにぎりと野菜ジュース。医局で食べて下さいね。静さんにお弁当作る序に私に作って貰ったって言えば、大丈夫でしょ?」

「それなら…僕もお弁当作って欲しい。」

小鳥遊が歯を磨きながら言った。

「でも…食堂で小鳥遊先生と愉快な仲間たちでご飯食べるでしょう?部下との交流も大切ですよ?」

患者などの情報交換が出来る良い時間だ。

「それこそ、静さんの作った序にって…。静さんばっかりズルい。」

…ズルい 言うな。最初は自分が食堂で食べるから要らないって言ったの忘れたのか?

「わかりました。明日から静さんの分と一緒に作りますから。」

玄関のドアが開く音が聞こえた。

「ガクさん…時間ヤバいです。あと5分家を出るのが遅いと、遅刻確定です。」

今泉がしびれを切らせて、小鳥遊を呼びに来た。


「お待たせして済みません。」


小鳥遊は急いで冬とキスをすると靴を履き病院へと向かった。



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そして再び夜…。

冬は今泉の腕の中に居た。

「トウコさん…僕何か変です。」

冬を抱きしめ、襟足にキスをした。

「あなたとしたくて、したくてしょうがないです。もし疲れて無ければ…。」

冬は何も言わずに微笑んで今泉に優しくキスをしたが、今泉は激しく冬の唇を求め、息が出来ないほどだった。

「静さん…く…苦しい。」

今泉はハッとして唇を離した。

「ごめんなさい…。」

アグレッシブな今泉を見たことが無かったので驚いた。

「今夜の静さんはとっても積極的なのね。」

いつも激しいセックスは、小鳥遊の得意分野だったからだ。

「私を静さんの好きなように愛して…。」

今泉はTシャツを脱ぐと、冬のパジャマとショーツも荒っぽく脱がせた。

「今までこんな衝動は無かったんですけれど…。今なら小鳥遊先生の気持ちが少しわかるような気がします。」

冬の胸を鷲掴みにして顔を埋めた。

「いつもの静さんと違うのも…良いかも。」

今泉の火照った身体は、冬の体も温めた。女性特有の甘い柔らかな香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

「…トウコさんがここに居る。トウコさんがここに居るんだ。」

今泉は冬を失いかけた不安を埋める様に呟いた。まだ柔らかい胸の突起を強く音を立てて唇で吸い、その唇は胸元から真っすぐに下腹部へと降りた。

「トウコさん愛してる…愛してるよ。」

冬の産毛が一気に逆立った。舌は冬の蕾をすぐに捕え、慈しむ様に優しく口に含まれたかと思うと舌で左右に激しく弄んだ。

「ああ…。」

冬の腰がその鋭く甘い刺激に、ピクピクと動いた。

「…もう僕が欲しいの?ここもトウコさんの香りがするよ。」

今泉の温かい指が、冬の中に挿し込まれた。そこは十分すぎる程に潤っていた。

「だって…。」

指でかき混ぜるたびに、潤んだ瞳の冬の顔が快感で歪んだ。

「だって?」

冬の耳元で囁いた。

「静さんが…こんなに欲情してるのを初めて見たから。」


冬は指で執拗に弄られ、その快感を堪えようとすればするほどそれは増幅し大きく膨らんだ。

「トウコを…激しく愛したい。ひとつになりたいよ。」

今泉は、紅潮した顔で苦しそうに冬を見つめた。

「きみの中に…挿れたくて堪らないんだ。」

冬の額に自らの額をくっつけて、荒い呼吸をする今泉を冬はとても愛おしく思った。

自分を渇望するその姿を見て、冬もまたどうしようもない程に下腹部が疼きはじめた。

「うん。トーコを静さんで、満たして。」

激しい口づけをしながら、自分のそれを手に持ち、ゆっくりと潤った中へと入った。

…あぁ…

「トウコ…僕の…トウコ…愛しい人。」

全てをじわじわと押し込めると、ゆっくりと裂けて先端部から包まれ締め付けられる感覚が今泉の衝動を誘った。漕ぎ出したボートの様に今泉は冬の上で腰をゆっくりと大きくスライドさせた。

「もう 気持ちよく…ぁぁ…。きみがここに居る事を…確かめたい…ずっと触れていたい。」

今泉は燃える様な眼差して、冬を見つめ続けた。

「静さん…私はここに居るわ…心配させて本当にごめんなさい。」

規則的で甘美な響きがふたりの間でし始める頃には、今泉の口から微かに喘くような溜息が溢れ始めた。

「あぁ…トウコ…とっても気持ちが…良いよ。愛してる…愛してる…トウコさん…。」

熱に魘された子供のように繰り返した。

「私も…あぁ…もう我慢出来ないの。」

冬は今泉と手を繋いだ。

「あ…。」

小さな声をあげると、冬の体は波打つように蠢いた。膣は今泉をしっかりと締め付けた。

「僕も…そんなに締めたら…くっ…。」

何度か小刻みに動き、冬の腰をしっかりと自分に引き寄せ、果てた。

今泉はそっと冬から離れ、冬としっかり手を繋ぎ荒い息を整えた。

「トウコさん…何度でもしたい…いっぱいしたい。」

自分でも困ったように今泉は言った。

「はい…。いっぱいしよう。」

冬が優しく笑うと、今泉は冬の唇を激しく求めた。

…ごめん…トウコさん…僕…自分が…止められな…い。

「トウコさん…どこへも行かないで…。」

冬の豊かな胸の谷間に顔を埋め、冬を固く強く抱きしめた。今泉のセックスは、いつもとは違い濃厚で激しく長かった。

「どこにもいかないわ…。」

+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:

いつもは瓢々としている今泉の様子がおかしかった。

自分とは違い、常に冷静で自己完結しているような今泉であったが、最近は何処へ行くのも、例えば、スーパーやコンビニなどの買い物へでも冬にくっついて回っていた。

しずさんが心配です。」

小鳥遊とのピロートークは専ら今泉のことだ。

「私もそう思います。」

薄いブランケットに二人で潜り込んだ。

「あなたが、死んでしまったと思ったことが関係ある事は確かです。」

小鳥遊も気になっていたが、いつも一緒にいる冬も何も言わないし、気のせいかも知れないと思った。

「私が日本へ戻って来てもうすぐ1ヶ月でしょう?ずっと様子を見ていたんだけど。…実は…。」

冬は今泉の性癖の変化と強迫的な心配性について小鳥遊に打ち明けた。

今泉は以前からメールを一日に2-3度送って来た。その他にもラインをしていた。今は戻ってきた当初よりもだいぶ減ったが、些細な事でもメールを寄こした。

今も1日に10回前後メールを寄こし、ラインでメッセージを送り、冬がすぐに返信したり、既読にならないと電話を掛けてきた。

家に居る時でも、今泉に何も言わないでお風呂に入ったり、ちょっと買い物へ…などで傍を離れると、心配して冬を探した。

「ガクさんには余りこんな相談はしたくなかったの。」

冬は申し訳なさそうに言った。

「トーコさん…。僕に話してくれてありがとう。」

…今までの冬ならきっと独りで動いて解決していようとしていた筈。

冬に頼られて、嬉しくて思わず小鳥遊は冬を抱きしめた。冬の体温は小鳥遊よりも低く、抱き合って寝ても心地が良かった。

「ねぇガクさん…私考えたんだけど…。知り合いに精神科医は居ない?」

冬はアイディアを伝えると小鳥遊は、じっと考えていた。

「静さんはそれを呑むでしょうか?」

…医者が精神科にかかる…カウンセリングは受けたとしても、内服は難しいか。

小鳥遊はふとそんなことも思った。

「今を逃したらいけないような気がするの。」

「3人で相談しましょう。」

「ええ…渡米するの遅らせるわ…それにお母さんに様子を見て貰うように聞いてみる。」

「それはいけません…あなたは予定通り渡米して下さい。明日にでも静さんに話しましょう。」

…問題は切り出し方だ。

冬は小鳥遊の胸に顔を埋め、大きなため息をついた。

「ガクさんは…大丈夫ですか?」

「え?どうしてですか?」

「…余りエッチをしたいって言わなくなったから。」

一緒に居る時には以前は最低でも朝晩一日2回だった、それが今は2日一回程度になった。

…それでもガクさんの年齢からすると多い方だよね。

「まるで人をセックス依存症のように言わないで下さい。」

…いやいやいやいやいやいやいや…ズバリ…完全に…そうでしょう。自覚が無いエロ…怖いものなし。

冬は前から受診させた方が良いと思っていたぐらいだ。

「ガクさんにとって、エッチは何かの…代償行為なのかも。」

冬は独り言のように言い、小鳥遊は冬の言葉に何も言わずただじっと聞き考えているようだった。冬はベッドから体を少し起こして聞いた。

「ねぇ…ガクさん これから毎日マッサージしてみましょう。それよりもエッチの方が良い?」

「うーん。どっちも良いです。」

…どうした変態エロ?熱でもあるのか?

やはりこれも、あのテロ事件に関連しているのかも知れないと思った。冬は何気なく小鳥遊の額に触れてみた。

…当たり前だけど…熱無し…か。

冬の行動に小鳥遊は不思議そうな顔をした。

「ねぇ…ガクさんは何か心配なことは無い?私が死んでしまったと思ったんでしょう?どんな気分だった?」

冬は小鳥遊の表情をひとつも見逃さない様に注意してみていた。暫く静かに考えているようだった。一瞬戸惑いと悲しみが小鳥遊の顔に浮かんだ。

「僕はDNA鑑定が出るまでは信じないと自分に言い聞かせてました。」

冬を抱きしめている小鳥遊の腕に力が入った。

「それはそうなんだろうけれど…ガクさんはどう思った?その時の感情のことを聞いているの。」

なんか…カウンセリングをされているみたいですねと小鳥遊は笑った。

「悲しみ…ですかね…胸を撃ち抜かれたような苦しみ、自分に対する苛立ちと怒り。」

「自分に対する?」

冬は小鳥遊に向き直って聞いた。

「ええ…僕はあなたに対して素直になれなかったし、あなたに愛しているとまだ言い足りませんでしたから。」

…久しぶりにキュンキュンするぞ。

冬は嬉しさを堪えて、小鳥遊の話に集中した。

「一番辛かったのは、トーコさんの学生証とマネークリップが遺留品に残されていたと聞いた時でした。最悪の悪夢でした。悲しみに打ちひしがれる状態とは、まさにあのことです。今までの人生で一番辛かったでした。」

小鳥遊はいつの間にか、少し水っぽい鼻声になっていた。

「ガクさん…もう泣かないで。もう大丈夫だから…私はここにいるから。」

冬は何も言わず、小鳥遊を力一杯抱きしめた。

「でも…あの出来事があったことで、僕には自分よりも大切なものがあったことに改めて気づかされました。」


二人は暫く黙ったままで抱き合っていた。

「さぁ じゃあガクさんマッサージしましょうか。」

冬は小鳥遊をうつ伏せに寝かせた。マッサージを始めるとすぐに寝息が聞こえて来た。冬は小鳥遊を起こさない様にそっとベッドを離れ、今泉の部屋に戻った。

今泉はソファーで横になっていた。

「あれ?トウコさん?今夜は、ガクさんの所って…。」

どうやら今泉は眠れないので冬が居ない夜はソファで寝ているようだった。

「ねぇ…静さん。一緒にベッドで寝ましょう?」

今泉は素直に冬についてきた。

「…ねぇ…またしたい。」

以前は1ヶ月に2回程だったが、今は冬が居れば必ず求めた。

「魔法が効いてくるまで、静さんちょっとお話しませんか?」

冬からラベンダーの香りがするのに気が付いて今泉は甘えるように言った。

「僕にも久しぶりにして欲しいな♪」

横になった今泉の背中に手で温めたオイルを塗りゆっくりと伸ばしていく。

「静さん…最近眠れないの?」

今泉の反応を見ながら冬は聞いた。

「うーん。そうかも知れない...トウコさんの手 温かくてとっても…気持ちが良い…。」

そう言いながら冬の足に触れた。

「私暫く、静さんと一緒に寝たいの。もし静さんさえ良ければ…。」

今泉は心配そうに冬を振り返った。

「トウコさん何かあったの?」

…自分の方が余裕が無いだろうに。痛々しい。

「あの事件から私もあんまり眠れないの…ガクさんのところじゃ余計…。」

…盛大な嘘だ。

今泉はゆっくりと体を起こした。僕は嬉しいですけれど…ガクさんは大丈夫ですかね?と言って、少し心配そうだった。

…普通に言っただけじゃ、静さんは絶対に大丈夫って言うに決まってる。

小鳥遊は3人で話し合うことを提案していたが、やはりそれだと今泉は診察へ行かないような気がした。


「ガクさんには言えないけど…時々、あの時の事を思い出して、もし自分があの時死んでしまって居たらとか考えると怖くなっちゃうの。寝れないし、不安だし、時々悪夢も見るの。」

…静さん騙してゴメンね。

「多分…ガクさんよりも静さんの方が、分かってくれるような気がして…。」

今泉はじっと冬の顔を見ていた。

「私…自分でもおかしいと思うの。でも…何だか最近はそれを隠すのにもしんどくなっちゃって…だから…」

「だから?」

「だから…一人じゃ怖いから…一緒に受診に付き添ってくれない?精神科…カップルセラピーでも良いから。」

冬は今泉の眼が見れなかった。

「ずっと悩んでいたの…。でもやっぱりどうすることも出来なくて…本当にごめんね。こんなことで静さんを煩わせたく無い…んだけど。」

「トウコさん…どうして早く言ってくれなかったの?」

冬の顎を指で上げ、自分の顔を見るように今泉は促した。

…ごめんね。静さん...騙してごめん。

「また二人に心配させちゃうと思って言えなかったの…もちろん務めている病院ではなく、他の病院を探すけれど…。」

「勿論です。僕はトウコさんと一緒に行くよ。」

「ありがとう。早い方が良いから…。」

冬が小鳥遊には言っていないのだから、自分が付いていくしかないと今泉は思った。

それこそが、冬の意図していることだった。小鳥遊が知り合いの精神科医に事前に連絡を入れたので、スムーズにことは運んだ。

診断は急性ストレス障害だったが、慢性化しないうちに治療を勧められた。

そこで初めて今泉は自分のことが心配で冬が連れていたことに気が付いた。勘の良い今泉ならすぐに気が付きそうなものだが、それほどに状態は酷いのかも知れないと冬は思った。

精神科医には療養か入院を勧められた。幸いなことに今泉の夏休みがやって来る。今泉は素直に従い、診断書を書いて貰い少し長めに休みを貰えるように手続きをした。

冬は毎日面会へ行き、着替えなどを持って行った。入院を聞きつけた春は、頼んでもいないのにタッパーに詰めた料理をほぼ毎日差し入れしていた。

「ねぇ…私は毎日、母もほぼ毎日ここに来るでしょう?休めないんじゃない?」

冬は今泉とよくラウンジで話をした。他の患者に聞かれる心配も無いし静かに話をすることが出来たからだ。

「ううん…トウコさんも春さんも来てくれてとっても嬉しい。大変だと思うけれど…。」

入院して数日してから今泉の母、ユウが揃って病院へやってきた。

「ごめんね静さん…伝えるなって言われたけれど…。」

冬とユウは、少し立ち話をしていた。

「じゃあ…また明日来るわね。」

そう言って冬は席を外した。


入院してからというもの、今泉は目に見えて良くなっていった。

「一緒にアメリカへ行けなくなっちゃったけど…。」

今泉は寂しそうに言ったが、学校が冬休みになったらまた必ず戻って来るからと約束した。

…あと半年の我慢…そうすれば日本に戻って来れる。

冬も卒業が待ち遠しかった。






















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