Blue Rose 2度目の恋 最後の愛

月胜 冬

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綺麗なお人形

朽ちてゆく時間

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病院のベッドの上で目を覚ました。周りを見回すと、イヴァンが独り掛けのソファーで頭を抱えて座っていた。

理紗リサが目覚めた事に気が付くと、ベッドの傍に掛け寄り手を握ろうとした。

(…やめてっ!!触らないでっ。)

…親密な関係の女がいたことが許せない。

「リサ…悪かった…私がいけなかった。あの時一緒に帰って居たら…。」

心は、修復不可能な迄にズタズタに切り裂かれ、身体の節々の痛みよりも疼いた。

(…婚約は解消します。)

それは言葉にならず、口から息が洩れるだけだった。近くにあった汚れた化粧ポーチとバッグを掴むとイヴァンにぶつけ、理紗は暴れた。

「リサ…許してくれ!」

イヴァンの大きな声に、すぐにナースやドクターが駆けつけ、理紗は鎮静剤を打たれた。

(やめて!やめて!)

嗅ぎ慣れない薬品の香りが鼻の奥にふわりと現れ、そして数秒で消えた。

(触らないでーーーっ!!!)

「すぐに落ち着くと思いますよ。」

(触…らない…で)

ナースに抑えられている理紗を医師は静かに見守っている。

…ああ…視界が…歪んで…いく。

イヴァンは泣きながら口を押え、理紗の様子を凝視している。

看護師、医師、部屋にいるすべての人々の視線が理紗に向けられていた。

(私は…正気よ…注射なんて…いら…ない。)

理紗の大きな眼から涙が伝い始め、数分もすると、視界が滲み時間と共に溶け出した。

イヴァンは椅子に座ったまま、両手で頭を抱え、一回り小さく見える身体を前後に揺さぶりながら、人目も憚らず、唸り声とも雄叫びとも分から無い様な声で泣きながら、聖書の一節を何度も何度も繰り返し呟いていた。




🐈‍⬛

理紗リサが目を覚ますと、窓から青い空が見えた。

…朝?

理紗は注射を打たれてから随分と時が経ったような気がした。

ふとみるとイヴァンが疲れた顔でソファにぐったりと寄り掛かり寝ていた。

髭も剃らず、昨晩はずっと付き添っていたようで、ドレスシャツはコンサートで着ていたもののままだった。

(イヴァン…イヴァン。)

声を出そうとするが、出なかった。暫くすると精神科医師が診察をし、静かに言った。

「PTSDに伴う失声だと思われます。」

理紗は、ぼーっとした様子で窓から見える、青く澄み渡った空を眺めていた。

「暫くお仕事は止めてゆっくりされた方が良いでしょう。」

理紗は精神安定剤や睡眠薬などを処方され自宅療養が始まった。

「リサ…あんなことは忘れるんだ。いいかい?誰にも言わなければ判らない。心配は要らないよ。私にに任せなさい。いいね?」

安定剤で魂を抜かれたようになってしまった理紗は、イヴァンに従うしか術が無かった。

退院後は暫くの間、友人の家に身を寄せることにしたが、いつの間にかイヴァンが断ってしまい、再びイヴァンの邸宅で暮らすことになっていた。

理紗がそれを聞かされたのは、退院し、邸宅へ戻る車の中だった。

イヴァンの家に着くと、ピアノやベッドなど、既に必要な荷物が理紗のマンションから運び込まれていた。

薬のせいで足元がおぼつかないので、イヴァンに抱えられるようにして部屋に入り、寝室のベッドに寝かされた。

寝室はイヴァンが使っていなかった空き部屋で、新しく理紗の為に広いベッドが運び込まれていた。

(婚約は解消します。結婚式も中止です。)

理紗は小さなホワイトボードに筆談でイヴァンに告げた。

「リサ…。」

(顔も見たくない。)

理紗はボーっとする意識の中で一生懸命にペンを走らせた。

(別れるわ。婚約は解消よ。慰謝料も何も要らない。弁護士を立てて今後のことをちゃんとしましょう。)

「私は君を愛してる。あれは…ほんの出来心だよ。許してくれ。」

イヴァンはベットの傍で跪いて懇願したが理紗は、静かに首を振った。

(暫くひとりにして下さい。)




🐈‍⬛

一旦横になってしまうと、体が鉛のように重く起き上がることも出来そうに無かった。

少しでも気を抜けば、眠気が理紗リサをすっぽりと包み込んでしまう。

「結婚式の延期はしない。私が愛するのは、君だけだ。君の才能も愛もその身体も全て私のものだ。いいかい?君のアパートメントは引き払ってしまうんだ。」

イヴァンは理紗の手を握ろうとしたが、サッと避けた。

「私の傍に居れば、君を守ってやれる。」

大人しくて、自分に従順で微笑みをいつも絶やさず、とても気が利く優しかった理紗の昔の面影は消えた。冷ややかな眼は、イヴァンに取り付く島も与えなかった。

(嫌です。あなたとの関係は終わりです。)

理紗の迷いの無い態度にイヴァンは苛立ちを隠そうともしなかった。婚約を破棄するのに結婚式も何も無いと理沙は思った。

「駄目だ…それは許さない…絶対に駄目だっ!」

イヴァンは、吐き捨てるように言って、荒々しくドアを開けると理紗の寝室から出て行った。

窓が震える程の音を立ててドアが閉まると、暖炉の上に飾られていた古典柄の真っ赤な着物の大きな市松人形が、ごろりとカーペットの上に落ちた。

それはイヴァンが初めての日本公演で、理紗にとても似ていて可愛らしいから…と買い求めたものだ。

床に転がった市松人形は乱れた長い髪の隙間から、こちらをじっと見つめていた。






🐈‍⬛

レイプ事件から2か月後、理紗とイヴァンの結婚式は執り行われた。沢山の音楽関係者がやってきて二人を祝福した。

「しかし酷いもんだね…リサが車に跳ねられて,声が出なくなってしまうなんて。」

理紗はそのひそひそ話を聞くと俯いた。イヴァンは余計な事を理紗が話さぬように、スマホや普段使っている筆談の道具を取り上げていた。

自分が所有する玩具のような扱いだった。

(…酷い。酷いわ。)

それは美しく若いピアニストの妻という“肩書“と”見た目”だけをイヴァンは必要としている様に思えた。

(…わたしたちの間にもう愛は無いわ。)

何度も邸宅から逃れようとするたびに、薬の量が増やされた。友人達からは極端に隔離されてしまい、薬のせいで、一日中、気怠い昼寝の後のようなボーっとした気分だった。





🐈‍⬛

式ですっかり疲れ、理紗が寝室で寝ていると、イヴァンが酔って部屋へと入って来た。

睡眠薬を飲まされて寝かされている理紗は、頭がボーっとしながらも震える手で筆談ボードをとった。

(あなたを愛していないわ。お願いだから、私を自由にして頂戴。)

「たった…たった一度の間違いじゃないか!それなのに君は…私は君の全てを愛しているんだよ?」

イヴァンからは酷いアルコール臭がしていた。それが甘い香水の香りと混ざり合い、吐き気がするような異臭となり寝室に漂っていた。

(い…や…。)

書いている途中でイヴァンがペンを取り上げ、壁に力いっぱい投げつけると、徐に立ち上がり、ベットの端に座り、スラックスのベルトを乱暴に緩め外した。

「今日は初夜だ。今夜から私達の関係をやり直そう。」

暴れる理紗の両手をベルトで縛り上げ、ベッドフレームに括り付けた。叫んでも漏れるのは荒い息だけだった。

イヴァンはズボンを素早く脱ぎ下半身を露出させた。

「さぁ 愛し合おう…過去は忘れるんだ。私は一生かけて君に愛を誓う。」

理紗のショーツを引き摺り下ろすと太腿の間に割って入った。

(やめて!!やめて!!)

理紗の眼からは涙が溢れていたが、イヴァンは興奮し、まだ潤いの無い入り口を探した。

「大丈夫…すぐに気持ちよくなる…君はこれが好きだっただろう?」

ぐいぐいと太いそれを押し込まれ、引き攣れる痛みに理紗は顔を歪めた。

「子供を作ろうって言ってたじゃないか…そうすれば忙しさで過去の事も忘れられるよ。女の子ならきっと君に似て美しい子になるよ。」

(酷い!酷いわ!)

理紗が激しく首を振ったが、その首をしっかりと抑えると理紗にキスをした。ゆっくりと理紗の上で動き出すイヴァンの顔が恍惚で歪み始める。

「君のここは…最高だ…こんなに締め付けて…ああなんて気持ちが良いんだ。」

深く何度も突くとベッドがギシギシと音を立てた。

「リサ…君は…何も…変わらない…変わらないんだよ。心配しなくても大丈夫…きっとうまくいくよ。」

酷い嫌悪と羞恥、激しい怒りと共に、肌の上をねっとりと這いあがってくるような快感が理紗を押し流そうとしていた。

「わかる…君も…気持が良いんだね…愛してる…よ…私のリサ。」

激しく腰を波打たせるとイヴァンは、うめき声をあげて果てた。

理紗の虚な目は、イヴァンを通り越したい薄暗い天井をみている様だった。

足の間から、ドロリと流れ出る精液がシーツを濡らした。
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