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第一章
第15話 本名
「あのさ、ノーキってなんで配信始めたの?」
生クリームがたっぷり入った、まろやかな飲み物を飲みながら、俺はノーキに質問する。
普通の人から見れば至って普通の質問だろうが、人とほとんど話さない俺は──この話題を考えるのに丸一日もの時間を要した。
これは陰キャな俺が話題に困らないよう、やっとのことで思いついた渾身の質問だ。
「ん~気まぐれかな。そういうオルは?」
「俺も気まぐれだよ」
あ、やっばい会話終わった……。
陰キャが頑張って会話振ったのに! くそ、話の伸ばし方わかんねえ……!
心の中で叫び散らす俺に対して、今度はノーキが口を開いた。
「あのさオレ、オルの顔どこかで見たことある気がする」
「……え?」
まてまて、これはまずい!!!
俺が同じ学校の生徒だと気付かれてしまったのだろうか。いやでも、こんな平凡で印象に残らない俺の顔なんて、覚えてるはずが……
「んー……どこだろう」
腕組みをして考え始めるノーキを他所に、俺はあわあわと口を閉じたり開いたりする。配信中は元気キャラなのに、学校では陰キャだなんてバレたらとんだ恥さらしだ。
しかもライバルであるノーキにこの事実を知られてしまえば、俺のイメージとかキャラ設定とか全部終わってしまう……。
「き、気のせいじゃないか? 俺はノーキのこと初めて見たぞ!」
「そっか」
俺の必死な声に納得してくれたのだろう。ノーキはそう言うと再び飲み物に口をつける。
よかった……どうやらバレずに済んだようだ。
「ねえオル、本名知りたい。身バレ防止にもなるし。オレのも教えるから」
「あー……本名ねえ」
俺は飲み物を混ぜる振りをしながら、頭の中でぐるぐると思考をめぐらせる。
まずい! 展開が早すぎてついていけない!
俺の名前を聞けば高校がバレ、それと同時に陰キャだという事実もバレるかもしれない……。でも、大勢の人がいる前で配信者名を呼び合うのもリスキーだし──教えないと不自然に思われるかもしれない。
まあ……どうせ陰キャで友達のいない俺の名前だ。聞いたところで分かる筈もないだろう。
そんなことを考えていると、ノーキが早々に先手を打ってきた。
「オレの本名は宇野 光輝(うの こうき)だよ。オルは言わなくてもいいから、覚えててほしい」
何故かぽっと頬を染めて言うノーキの姿に、心臓がぎゅっと苦しくなる。クールなだけでなく、意外と可愛い彼の一面を見てしまったからだろうか。ノーキに流され、俺もとうとう本名を名乗ってしまった。
「お……俺は尾崎 累(おざき るい)って言う! 宇野光輝な! 覚えたぞ!」
「……! 教えてくれて嬉しい。オレも絶対忘れないよ、累」
名前を呼ばれただけなのに、急に身体が熱くなる。言葉では言い表せない恥ずかしさがこみ上げてきて、顔から火が出るかと思った。
俺は一気に飲み物を飲み干すと、耐え切れなくなってその場から立ち上がる。
心臓がどきどきしっぱなしで恐ろしい。
「そ……そろそろ行くか、ノーキ!!」
落ち着きのない俺とは裏腹に。
ノーキはゆっくりと席から立ち上がると、お会計へ──ではなくテーブルを回って、なぜか俺の隣にやって来た。
そして俺の肩に手を乗せ、強制的にちょこんと隣に座らせられる。されるがままの俺は、戸惑いながらノーキを見つめた。
互いの瞳が交差する。一気に距離が近付いたからだろうか、余計イケメンに映るノーキに嫌な焦りが止まらない。
するとノーキは、俺の服の袖をグイッと掴み、まるでキスでも始めるような……とんでもない距離まで近付いて言ったのだった。
「二人の時は本名がいい。だめ? 累」
いや距離ちっっか! どうしよう、やばいめっちゃイケメンだ。鼻高い、まつげ長い!
やべぇクソかっこいい……!
ノーキの顔の圧力に負け、もう訳が分からなくなってしまった俺は、気が付くと高速で頷いていた。
「わ、分かった! 光輝! 光輝って呼ぶから……ち、近いよ」
もう元気キャラが保てず、顔を真っ赤にして目を逸らす。
ノーキは混乱する俺を見て、ふっと小さく笑みを零した。
「うん。ありがとう。うれしい」
くそっ、コイツ……おっとりとした天然イケメンだと思ってたけど。なんか、なんかちょっと楽しんでないか!? 実は腹黒なんじゃ……
ひとり思考を巡らせる俺を他所に、満足したノーキは店を出るべく立ち上がる。そんな彼に連れられて、俺は半ば放心状態で店を出ることになった。
「それじゃあ行こうか、オレの家」
「え……家?」
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