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五章
第64話 騎士団長
しおりを挟む失礼な、と吐き捨てて我が婚約者はその場を後にした。
アリサも慌てて後を追う。
「はぁ………」
自分でも驚くほど深いため息をつき、書類を手に取る。
今進めている仕事の約六割は王太子の仕事なのだが…。
「アメリア様、失礼します。ノエルです」
「どうぞ入って」
彼は、扉をゆっくりと開けた。
「ご報告です」
彼は、地方の穀物の収穫高を私に報告し、ついでに豊作、凶作それぞれの理由まで説明した。
「以上です」
「ありがとう」
最近はようやっと、穫れる量も増えてきた。
こんなことを言うのはいささか躊躇われるが、王太子がこの仕事を行っていた時は凶作続きで地方民はボロボロだった。
「ふぅ………ごめんなさい、ノエル様。まさか、よりによって騎士団長であるあなたに、こんな仕事を任せることになるなんて…」
「いえ、大丈夫です。時にはこういうのも必要でしょうし…」
「自分が情けないですわ。本当に、申し訳ございません」
謝らないでください、と頭を下げた私に言った彼は、それでも呆れたような顔を浮かべている。
そう、彼は、コーネリア王国の王室騎士団長なのだ。
その優秀な腕前から、みるみる上達していった彼は、あっという間にその地位まで上り詰めた。
王室騎士団は、仕事の一環として、地方の見回りに出される。
人手不足だった王室にとって、彼らはとても有利に動いた。そしてそれを、私も利用させてもらって、収穫高を調べてほしいとお願いしたのだ。
「…まさか、アメリア様…その仕事は」
「ええ、お察しの通り」
ノエル様は、頭を抱えて哀れみの表情を浮かべた。
「頑張ってください」
「ええ、ノエル様も」
ノエル様は、圧倒的顔がいい。
そして、騎士団長ということもあって、彼は女性たちから絶大な人気を集めている。そう、それは、浮気をした王太子なんかよりもーー。
彼がばた、と扉をしめて出て行ったあと、私はまた、一人でこの部屋にいる。
ーー寂しい。
ご飯を食べる時以外は、いつもこの部屋に入り浸っている。
使用人が来る数も、とても少ない。
私は、一人で、毎日を過ごしているといっていい。
「愛…って、なに…」
ぽつりとこぼしたその言葉で、はっと我に返る。
「いけないわ、仕事を終えなくちゃ」
ぱちん、と両頬を叩いて私はまた仕事に取り掛かった。
後日、私は王妃様に会いに行くため、廊下を歩いていた。
と、そこで、人だかりを見つける。
「どうし…ん、」
使用人の一人が口に指をあてて、「静かに」というジェスチャーをしたので、思わず口をつぐんだ。
人だかりに入って行って、私はその光景を、目の当たりにした。
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