神様は私のダメっぷりを侮っています~終電で異世界転移したけど元の世界に帰りたいので、イケメン獣人達を使って絆そうとするのは止めて下さい~

ひさぎり

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 何故こんな事になったのか?

 …分かりません、私には。

 暮れなずむ荒野に佇み、彼方の地平線を目にしながら深呼吸………。

 だが、何も変わらないし、『何故』が止まらない。

 映画でしか見たこともない視界一杯な『The★荒野』!
 眼精疲労の賜物か遥か彼方でブレて見えるあれはもしかしなくても地平線?!
 ここ、どこですか?!

 私は終電の電車に乗ってたんですけど!

 まあ、今日もまた仕事でやらかしてしまって、残業になっちゃって…疲労からの寝過しの鉄板は免れなかった訳だけども。

 そこから何かがおかしかった。
 今更ながらに思い至った。

 例えば、寝入ってしまった私の肩を叩いて起こしてくれた駅員さんの第一声。

「よく眠っておいででしたね、三國凛子みくにりんこさん」

 と私の名前を口にして、微笑みを浮かべる駅員さんは、金色の留めボタンが映える濃紺色のスタンドカラーのロングコートと云う何処と無くクラシカルな雰囲気の制服で、私の利用する鉄道会社の駅員が着る制服ではなかった。

 しかもその駅員さんは外人で、夢の様な美形だった。

 青み掛かった長い髪は輝かんばかりの銀色で、彫りが深い西洋系の顔立ちは全ての配置が完璧で非の打ち所がない。

 瞳の周りに金粉を散らしたゴージャスな深い青の目が、親愛の情を浮かべて私を見ていた。

 こんな夢の様な色彩の美形なんて、実在しない。
 でも夢ならば、観賞しないなんて勿体ない。

「…凛子さん?おかしいな、言葉は通じる筈なんですけど」

 そう、私の夢だから当然言語は日本語。

「私の言葉が分かりますか?」
「…はあ」

 心配そうな美形駅員さんの美しいお顔に半ば夢心地で何とか反応を返すと、駅員さんは安心したように微笑んだ。

 …う、わっ!凄い!美形の微笑!
 薔薇の花が咲く幻影が見えた!

「…キレイ…」
「ふふ、ありがとう。呆けた貴女も可愛いらしいですよ」

 思わず呟いてしまった私の頭を駅員さんはにっこりと笑って優しく撫でた。

「ああ、可愛い凛子…」

 急に呼び捨てて距離詰めてくる美形に嫌悪感など沸く筈もない。
 ただ、その美貌から表情が抜け落ちて真顔になった途端、とんでもなく不安になった。

「これから先、貴女には少々辛い目に遭って貰うことになります」
「…は?」

 どうしてそんな宣言をされなければならないのか?
 っつーか、美形だからといって私の先行きをどうこうする権利ってないから。

 とは、思うけど、玲悧な表情をした駅員を目前にすると、何故か揺らいでしまう。

 固唾を飲んで動けない私の米神を、駅員の手が移動し、やがて頬に触れる。
 私がどう云う状態であるかを見透かす様に自棄にゆっくりと。

「これは冗談でも、まして夢でもない。
 貴女は、私の龍珠りゅうしゅとなります。
 脆く繊細で美しい私の龍珠よ、貴女がこの国の覇者を選ぶのです」

「…あはは、えっと、大丈夫ですか?駅員さん。そう言う空想染みた事は理解してくれる人を見極めて言った方がいいですよ」

 突然、ファンタジー語りを始めた駅員に残念さは隠せなかったけど、忠告してやる割りと大人な対応をしてあげた。

 なんだ、ビックリした。
 真剣な顔して何を言い出すかと思えば。
 もー、びびって損したわ。

 やれやれとため息を吐いて、いい加減頬を触る駅員の手を退けようとすると、ぐっと顎を掴まれた。

「ちょっ!」

 抵抗するよりも早く、駅員の美しすぎる顔が迫ってきて、額と額が合わさった。

 駅員の奇行に驚きながら、相手の瞼が目に入る。睫毛、青っ、んで、長っ

 なんて感心してる場合じゃなかった。

「なにする…!」

 それ以上、拒否の言葉が続かなかったのは、合わさった額が焼けるように熱くなったから。

 だけどそれも一瞬の出来事で、眼前のゴージャスな青い目がうっすらと開いて行くのを見て私は、我に返った。

「何なんですか、貴方!もう、退いて!」

 流石に頭にきたので、顎を掴む手を容赦なく払って立ち上がり、その場から逃げようと背を向けた途端、背後から拘束される。

「っ!」

 背中から抱き込まれている状況に、戦慄する。この人物の体温を身近にするのは最早、恐怖でしかない。

 そして、電車が唐突にとまる。
 全く揺れを感じなかった。

「ああ、何故、私の龍珠が選ばれたのか。何故、私の龍珠を下賜しなければならないのか...!あのような下浅なものどもの為に」
「ひぃっ!」

 駅員が耳元で訳の分からない恨み節を云うと更に強く抱き込んできて、私は震え上がりながら悲鳴をあげた。

 恐怖で硬直する私を抱き込む事、暫し。
 不意に腕が緩み、駅員と距離が出来る。
 肩に置かれた駅員の手が歩くよう促し、電車の乗降口まで来た。

「手放すからには無事に役目を果たしてくれることを望んでます。どうか御武運を」

 結局、駅員の言ってる意味は何一つ理解出来ないまま、背を押され、よろけながら電車を降りた。

 そして、景色は一変した。

 駅も電車も消えて、私は何故か荒野に立っていたのだった。
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