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18話
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「だから話を聞けって!」
「聞かないとは言ってない。ただ、 下衆の役目は話す事じゃないってだけだ」
「下衆って…いや、それ聞かないのと同じじゃん!」
鎖骨を 粉砕されまいと必死に両手でセキロウの足を押し返そうとする短髪の青年は叫んだ。
豹族は群れずに行動することを好む上、忍ぶスキルが振り切れているので、いかにセキロウと言えども探し出して捕らえるのは不可能に近い。
しかし、豹族に忍ぶ気がなければ話は別で、彼らは接触の機会に恵まれる事になる。
それはリンと別れ、カノイと行動を共にして五日が過ぎた頃だった。
『は?…え?嘘だろ?セ、セキロウ様、あれ、あの金髪、豹族じゃないですか?
猫獣人達と揉めてるみたいですけど…』
カノイは様子を探る為、耳を済ませると聞こえてきたのは数人の若い女性の声だった。
『何よ、知った風な事言わないで!バールはアタシだけって言って凄く優しく抱いてくれたもん!』
『あら、残念でしたー。初めての女の子を相手にする時は誰にでも優しいのよ、バールは。
お嬢ちゃんは知らないでしょ?この人に強く求められた時の快感。翌日、足腰立たなくても本望よ、すっごくいいの』
『ねえ、もう、バールが誰の者でもいいじゃない?皆でやっちゃえば』
争奪戦真っ只中で 痴情に 縺れた場面に 遭遇し、女子の明け透けなマウントの取り合いに戦意を 削がれたカノイは眉を下げた。
一方、セキロウは、不純異性行為が当人達の知るところとなり、詰め寄られている修羅場にも 臆することなく乗り込み、豹族の首根っこを 捕え、今に至る。
「ゲス野郎、お前の役目は黒豹に助けを求めて 哀れに鳴く事だ。さっさと鳴き叫べ」
「思ったんだけど初対面なのにゲス野郎とか酷くない?!…あ、もしかして聞こえちゃってた?
俺、出会った女性には誠実に向き合ってるんだけど、ただ、それも毎回相手が変わるとああなっちゃうぐふっ!マジで止めて!お願いだから話し聞いてって!」
「ナタクを戦闘不能にしておいて、今更何の話があるって言うんだ?ナタクが撤退したお陰で第五師団の副長まで居なくなって俺がどんなに苦労してるか…お前に何が分かるんだ!」
セキロウの足下で喚く豹族のバールは、カノイにとって、ナタクの件もあるが、単なる追っ手ではなかった。
第四師団の副長はノリで生きているような男で、勢いで生きているナタクを上官とする第五師団副長とは、悩みが奇跡のリンクを誇る 心友だったのだ。
その友を撤退に追い込んだ元凶が目の前にいるとなれば、 愚痴るなどかわいいものだ。
そんなカノイの心労など知ったこっちゃない豹族は少し考える素振りをして、思い当たった表情をした。
「ああ、あいつも話を聞かない奴だったなあ。
何回か話す機会を持とうとしたけど、毎回襲ってきてさあ、俺も面倒臭くなっちゃってヤっちゃったんだよねぇぇぇあぁぁ!すみませんでしたっナタクさんにお大事にって伝えてくださいぃぃっ」
「おい、ダンテ!このままだと仲間が死ぬぞ!二秒だけ待ってやる!」
「短っ!二秒で一体ナニが出来るんだっつーの。
もう…だからさあ、何で当主のダンテがここにいると思ってんの?」
バールの意味深な笑みを見て、セキロウは 直ぐに気付いた。自分が検討違いをしていたことに。
単独で行動する豹族が猫獣人族と連携してナタクを襲うなど、普段ではあり得ない事をして見せた。
それは習性を曲げてまで豹族がこの争奪戦に 臨んでいると思わせるのに充分で、まんまとセキロウは前線であるこの場に誘われたのだ。
「気が変わった、お前の話を聞いてやる。存分に話せ」
カノイが向けた剣の切っ先がバールの喉元に食い込む。嘘は死に直結するとの警告だった。
「…やっと話、 訊く気になった?分かってると思うけど俺は 囮な訳。アンタを 龍珠から引き離す為のね。
俺たちが他種族と連携してこの争奪戦に参戦してると思わせれば、判断が鈍る筈だってダンテが言ってた通りになってさ。単純だなって思ったよ」
「ああ、まんまと惑わされたが、どんな状況でも、豹族のビビりで 姑息で陰険な性質は変わらないと分かった。流石は豹族、ブレないな」
「今、サラッと豹族全体を 貶したよね。でも、それもなんだか心地いいよ。だって負け惜しみだもんね。そうそう、ダンテだけど今頃は気兼ねなく龍珠を追ってるから。そろそろ追いつくんじゃない?もう俺の事踏んづけてる場合じゃなくない?まあ、アンタがダンテに追つけるか分からないけど、折角手に入れた龍珠だったのに残念だったね」
「そうだな、話しは終わりだ」
無情に告げるとセキロウは踏みつける足に 躊躇なく力を掛ける。
その容赦のない力に、セキロウの本気を察したバールは 飄々とした態度を 貫けない程に追い詰められた。
この危機を切り抜けるには『それ』しか手はないと思う程に。
バールは自分の中の 獣性に意識の手を伸ばした。
苦鳴から低い唸り声に変わるとバールの抵抗が強まった。
低く唸りながら歯を食い縛った口から覗く 犬歯が押し出されて伸びて行くのを見てセキロウは後退する。
足下で 踠いていたバールの身体の骨が形変し始めると共に豹の 斑紋が浮かび上がり、金色の体毛が一瞬にして身体を覆うと、人としての身体の 輪郭が揺らぐ。
それと同時に獣の骨格が形成されていく。
「 獣化までが早いですね、ふざけた 輩だから見くびってましたけど、我々の所で云う師団長級かもしれません」
カノイがセキロウに進言する内に、バールの身体の変化は終わり、そうしてセキロウ達の前に現れたのは体長四メートルはあろうかという巨体の豹だった。
瞬時に飛び起き、襲い掛かって来た豹の素早い一連の動作をセキロウは皮一枚で避けた。
攻撃を避けられた豹は怒りを 露にして唸ったが、戦闘にもつれ込めば二対一となり、しかも一人は必殺の一撃を避けて見せた当主だ。
バールは圧倒的不利を承知して、そのまま逃亡を 図った。
「聞かないとは言ってない。ただ、 下衆の役目は話す事じゃないってだけだ」
「下衆って…いや、それ聞かないのと同じじゃん!」
鎖骨を 粉砕されまいと必死に両手でセキロウの足を押し返そうとする短髪の青年は叫んだ。
豹族は群れずに行動することを好む上、忍ぶスキルが振り切れているので、いかにセキロウと言えども探し出して捕らえるのは不可能に近い。
しかし、豹族に忍ぶ気がなければ話は別で、彼らは接触の機会に恵まれる事になる。
それはリンと別れ、カノイと行動を共にして五日が過ぎた頃だった。
『は?…え?嘘だろ?セ、セキロウ様、あれ、あの金髪、豹族じゃないですか?
猫獣人達と揉めてるみたいですけど…』
カノイは様子を探る為、耳を済ませると聞こえてきたのは数人の若い女性の声だった。
『何よ、知った風な事言わないで!バールはアタシだけって言って凄く優しく抱いてくれたもん!』
『あら、残念でしたー。初めての女の子を相手にする時は誰にでも優しいのよ、バールは。
お嬢ちゃんは知らないでしょ?この人に強く求められた時の快感。翌日、足腰立たなくても本望よ、すっごくいいの』
『ねえ、もう、バールが誰の者でもいいじゃない?皆でやっちゃえば』
争奪戦真っ只中で 痴情に 縺れた場面に 遭遇し、女子の明け透けなマウントの取り合いに戦意を 削がれたカノイは眉を下げた。
一方、セキロウは、不純異性行為が当人達の知るところとなり、詰め寄られている修羅場にも 臆することなく乗り込み、豹族の首根っこを 捕え、今に至る。
「ゲス野郎、お前の役目は黒豹に助けを求めて 哀れに鳴く事だ。さっさと鳴き叫べ」
「思ったんだけど初対面なのにゲス野郎とか酷くない?!…あ、もしかして聞こえちゃってた?
俺、出会った女性には誠実に向き合ってるんだけど、ただ、それも毎回相手が変わるとああなっちゃうぐふっ!マジで止めて!お願いだから話し聞いてって!」
「ナタクを戦闘不能にしておいて、今更何の話があるって言うんだ?ナタクが撤退したお陰で第五師団の副長まで居なくなって俺がどんなに苦労してるか…お前に何が分かるんだ!」
セキロウの足下で喚く豹族のバールは、カノイにとって、ナタクの件もあるが、単なる追っ手ではなかった。
第四師団の副長はノリで生きているような男で、勢いで生きているナタクを上官とする第五師団副長とは、悩みが奇跡のリンクを誇る 心友だったのだ。
その友を撤退に追い込んだ元凶が目の前にいるとなれば、 愚痴るなどかわいいものだ。
そんなカノイの心労など知ったこっちゃない豹族は少し考える素振りをして、思い当たった表情をした。
「ああ、あいつも話を聞かない奴だったなあ。
何回か話す機会を持とうとしたけど、毎回襲ってきてさあ、俺も面倒臭くなっちゃってヤっちゃったんだよねぇぇぇあぁぁ!すみませんでしたっナタクさんにお大事にって伝えてくださいぃぃっ」
「おい、ダンテ!このままだと仲間が死ぬぞ!二秒だけ待ってやる!」
「短っ!二秒で一体ナニが出来るんだっつーの。
もう…だからさあ、何で当主のダンテがここにいると思ってんの?」
バールの意味深な笑みを見て、セキロウは 直ぐに気付いた。自分が検討違いをしていたことに。
単独で行動する豹族が猫獣人族と連携してナタクを襲うなど、普段ではあり得ない事をして見せた。
それは習性を曲げてまで豹族がこの争奪戦に 臨んでいると思わせるのに充分で、まんまとセキロウは前線であるこの場に誘われたのだ。
「気が変わった、お前の話を聞いてやる。存分に話せ」
カノイが向けた剣の切っ先がバールの喉元に食い込む。嘘は死に直結するとの警告だった。
「…やっと話、 訊く気になった?分かってると思うけど俺は 囮な訳。アンタを 龍珠から引き離す為のね。
俺たちが他種族と連携してこの争奪戦に参戦してると思わせれば、判断が鈍る筈だってダンテが言ってた通りになってさ。単純だなって思ったよ」
「ああ、まんまと惑わされたが、どんな状況でも、豹族のビビりで 姑息で陰険な性質は変わらないと分かった。流石は豹族、ブレないな」
「今、サラッと豹族全体を 貶したよね。でも、それもなんだか心地いいよ。だって負け惜しみだもんね。そうそう、ダンテだけど今頃は気兼ねなく龍珠を追ってるから。そろそろ追いつくんじゃない?もう俺の事踏んづけてる場合じゃなくない?まあ、アンタがダンテに追つけるか分からないけど、折角手に入れた龍珠だったのに残念だったね」
「そうだな、話しは終わりだ」
無情に告げるとセキロウは踏みつける足に 躊躇なく力を掛ける。
その容赦のない力に、セキロウの本気を察したバールは 飄々とした態度を 貫けない程に追い詰められた。
この危機を切り抜けるには『それ』しか手はないと思う程に。
バールは自分の中の 獣性に意識の手を伸ばした。
苦鳴から低い唸り声に変わるとバールの抵抗が強まった。
低く唸りながら歯を食い縛った口から覗く 犬歯が押し出されて伸びて行くのを見てセキロウは後退する。
足下で 踠いていたバールの身体の骨が形変し始めると共に豹の 斑紋が浮かび上がり、金色の体毛が一瞬にして身体を覆うと、人としての身体の 輪郭が揺らぐ。
それと同時に獣の骨格が形成されていく。
「 獣化までが早いですね、ふざけた 輩だから見くびってましたけど、我々の所で云う師団長級かもしれません」
カノイがセキロウに進言する内に、バールの身体の変化は終わり、そうしてセキロウ達の前に現れたのは体長四メートルはあろうかという巨体の豹だった。
瞬時に飛び起き、襲い掛かって来た豹の素早い一連の動作をセキロウは皮一枚で避けた。
攻撃を避けられた豹は怒りを 露にして唸ったが、戦闘にもつれ込めば二対一となり、しかも一人は必殺の一撃を避けて見せた当主だ。
バールは圧倒的不利を承知して、そのまま逃亡を 図った。
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