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おはようございます、先輩
あの日から私の日常に起こった変化で一番大きなこと。
それは左目だけになってしまった視界ではなく。
中二病チックで装着するのが気恥ずかしい眼帯でもなく。
「……おはようございます、時田先輩」
「おはよう、里中さん」
登下校に同伴者が増えたことだった。
「すみません、遅くなりました」
「いいのよ。遅刻をしなければ、家を出る時間はあなたの自由だわ」
「やっぱり、遅刻はダメなんですね」
怪我を言い訳にすれば二度寝の時間を稼げるかもと画策していたが、どうやら実行する機会はなさそうだ。
「……遅刻をしたいと里中さんが言うのなら、私は止めないけれども」
「えっ、いいんですか?」
「良くはないわ……だけど……」
それ以上言葉を紡ぐことはなく、先輩は俯いてしまった。
真面目な先輩は遅刻を許したくはないのだろう。
そして同時に、私を咎めることもできないのだろう。
「じょ、冗談ですよ。遅刻の話はただのたらればです。先輩に遅刻を見逃して欲しいなんて言う気はありませんから」
「……ごめんなさい」
それは、何に対しての謝罪なのだろうか。
「……里中さん、カバンを貸して頂戴。教室まで私が運ぶわ」
「いや、いいですよそんな。先輩にカバンを持たせるなんて悪いですし……」
「いいの、持たせて……お願いだから」
私の言葉を受けても先輩は譲らず、悲痛な表情で空の手を差し出してきた。
「いや、でも……」
「……」
どんな理由があろうとも、先輩にカバンを持たせて平気でいられる度胸は私にはない。
しかし、これでは私が先輩をイジメているようで気分が悪いのも事実であり。
結局、根負けしたのは私の方であった。
「じゃあ……お言葉に甘えて……ありがとうございます」
「……お礼なんていらないわ。それじゃあ、行きましょう」
二つのカバンを手に提げて先導を始めた先輩の後ろを、私は手持ち無沙汰についていく。
片目を失ったことは学校から支払われた慰謝料によって仕方ないと納得できた。
しかし心の納得は別として、日常生活にはどうしても不便が生じてしまう。
慣れるまではただ歩くだけでも危険な状態。
転ぶだけならまだいいが、車の往来が激しい道の近くでは片目だけじゃ済まない事故だってあり得る。
私が一人で登下校をすることを両親も職員も許さず、だからといって普段からぼっちの私にいっしょに登下校してくれる友達なんていなかった。
「……先輩、何時くらいにうちに着きました? もしかしてですけど、結構待たせちゃったりしてました?」
「いいえ、ちょうどあなたの家に着いたところだったわ。一つでも信号に捕まっていたら、私があなたを待たせてしまうところだったわね」
(……本当は30分前には居たくせに)
当初は、私の登下校は母親が車で送迎することで解決するはずだった。
私も口には出さなかったが、登下校が楽になる美味しい話だと内心思っていた。
しかし異を唱えた者が居た。
女子軟式野球部のエースであり、あの時の打者だった時田先輩が、どうか付き添いをさせてほしいと懇願したのだ。
安全性を考えても、時間効率を考えても、車での送迎が一番良い。
そんなことは誰だってわかっていた。
先輩自身もきっと理解していて、だからこそ、その思いを否定することも誰にもできなかった。
今回の事故で心に深い傷を受けたのは私ではなく先輩だ。
私のはお金であっけなく和らいでしまった。
事故とはいえ、先輩は自身の打球によって他者を傷つけてしまった。
誰も先輩を責めはしないけれど、罪悪感に苛まれるのも無理はない。
だから、私は先輩の申し入れを受けた。
先輩が少しでも楽になれるのならと、先輩と登下校を共にすることを決めた。
「……」
「……」
しかし、この息苦しい時間はなんとかならないだろうか
それは左目だけになってしまった視界ではなく。
中二病チックで装着するのが気恥ずかしい眼帯でもなく。
「……おはようございます、時田先輩」
「おはよう、里中さん」
登下校に同伴者が増えたことだった。
「すみません、遅くなりました」
「いいのよ。遅刻をしなければ、家を出る時間はあなたの自由だわ」
「やっぱり、遅刻はダメなんですね」
怪我を言い訳にすれば二度寝の時間を稼げるかもと画策していたが、どうやら実行する機会はなさそうだ。
「……遅刻をしたいと里中さんが言うのなら、私は止めないけれども」
「えっ、いいんですか?」
「良くはないわ……だけど……」
それ以上言葉を紡ぐことはなく、先輩は俯いてしまった。
真面目な先輩は遅刻を許したくはないのだろう。
そして同時に、私を咎めることもできないのだろう。
「じょ、冗談ですよ。遅刻の話はただのたらればです。先輩に遅刻を見逃して欲しいなんて言う気はありませんから」
「……ごめんなさい」
それは、何に対しての謝罪なのだろうか。
「……里中さん、カバンを貸して頂戴。教室まで私が運ぶわ」
「いや、いいですよそんな。先輩にカバンを持たせるなんて悪いですし……」
「いいの、持たせて……お願いだから」
私の言葉を受けても先輩は譲らず、悲痛な表情で空の手を差し出してきた。
「いや、でも……」
「……」
どんな理由があろうとも、先輩にカバンを持たせて平気でいられる度胸は私にはない。
しかし、これでは私が先輩をイジメているようで気分が悪いのも事実であり。
結局、根負けしたのは私の方であった。
「じゃあ……お言葉に甘えて……ありがとうございます」
「……お礼なんていらないわ。それじゃあ、行きましょう」
二つのカバンを手に提げて先導を始めた先輩の後ろを、私は手持ち無沙汰についていく。
片目を失ったことは学校から支払われた慰謝料によって仕方ないと納得できた。
しかし心の納得は別として、日常生活にはどうしても不便が生じてしまう。
慣れるまではただ歩くだけでも危険な状態。
転ぶだけならまだいいが、車の往来が激しい道の近くでは片目だけじゃ済まない事故だってあり得る。
私が一人で登下校をすることを両親も職員も許さず、だからといって普段からぼっちの私にいっしょに登下校してくれる友達なんていなかった。
「……先輩、何時くらいにうちに着きました? もしかしてですけど、結構待たせちゃったりしてました?」
「いいえ、ちょうどあなたの家に着いたところだったわ。一つでも信号に捕まっていたら、私があなたを待たせてしまうところだったわね」
(……本当は30分前には居たくせに)
当初は、私の登下校は母親が車で送迎することで解決するはずだった。
私も口には出さなかったが、登下校が楽になる美味しい話だと内心思っていた。
しかし異を唱えた者が居た。
女子軟式野球部のエースであり、あの時の打者だった時田先輩が、どうか付き添いをさせてほしいと懇願したのだ。
安全性を考えても、時間効率を考えても、車での送迎が一番良い。
そんなことは誰だってわかっていた。
先輩自身もきっと理解していて、だからこそ、その思いを否定することも誰にもできなかった。
今回の事故で心に深い傷を受けたのは私ではなく先輩だ。
私のはお金であっけなく和らいでしまった。
事故とはいえ、先輩は自身の打球によって他者を傷つけてしまった。
誰も先輩を責めはしないけれど、罪悪感に苛まれるのも無理はない。
だから、私は先輩の申し入れを受けた。
先輩が少しでも楽になれるのならと、先輩と登下校を共にすることを決めた。
「……」
「……」
しかし、この息苦しい時間はなんとかならないだろうか
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