9 / 149
出会い偏
延長しました
しおりを挟む
「こちらはお化粧スペースなんですけれど……すみません、ちょっと散らかっちゃってて……」
大きな鏡が壁に何枚もかけられている一角。
テーブルの上には化粧道具やらヘアアイロンやらが散らかっている。
あのオカマたちも一応身だしなみは整えているらしい。
身だしなみが整っていても、彼らにはもっと根本的な問題があるのだが。
「化粧って、わざわざお店に来てからするんですか?」
「そうですね……例えばですけど、ちひろさんがあのお顔で外を歩いていたら目立っちゃうと思いませんか?」
「……めちゃくちゃに目立ちますね」
ここはキャストが男性であるオカマバーだ。
キャストからすれば、店内で化粧をする方が都合がいいのだろう
「それじゃあ、ツキさんもここで化粧をされてるんですか?」
「いえ。私は家でしてきてるんです。私はそこまで目立つメイクはしていないので、ここではお化粧を直すくらいです」
確かに、ツキの顔はメイクが濃いようには見えない。
薄化粧とナチュラルメイクという言葉を知っているだけで、その違いも知らないけれど。
ツキの顔はキャバ嬢のような目立って華のある感じではないことはわかる。
「あ、あの……」
大きくて丸みのある目。
薄い桃色の唇。
成長途中を思わせる小さな鼻。
ツキの顔は女というよりも、少女という印象を強く受ける。
これが化粧によるものなのか、それとも本当に若いのかはわからないけれど。
それでも、そもそもの素材が良いというのはわかる。
「おっ、お客様?」
「えっ?」
「その……そんなにまじまじと見られてしまうと……ちょっと、恥ずかしい……です……」
「っ! す、すみません! つい、どんな化粧なのか気になってしまって!」
無意識にツキの顔を見つめてしまっていた。
人の顔を観察するなんて無礼、普段であれば絶対にしないというのに。
「……」
ツキがこちらを見ている。
頬を赤らめて。
手を前で組んで。
俯きがちに。
そして、またツキに見惚れてしまっている。
キャバ嬢に入れ込むなんて、よっぽどお金のある人間でないと許されない。
ましてやここはオカマバーで、ツキは年齢も性別も不詳だ。
金銭的にも、精神的にも、これは良くない兆候だと理解している。
それでも、心はどうしようもなくツキに惹かれ始めている。
「……あの、どうですか?」
「ど、どうとは?」
「っ……わ、私のお化粧、どうですか?」
ツキの言葉は歯切れが悪かったものの、意図は明快だった。
その仕草が、ツキの求めている言葉を物語っていた。
「……とても素敵で、可愛いと思います」
「……ありがとうございます」
花のつぼみが開くような、そんなツキのはにかみ。
それがくることは事前にわかっていた。
だから、心の準備ができた。
しかし備えが出来ていたからと言って、耐えられるかどうかは別の話だ。
「えっと……お店の裏側の案内はこれで終了になります。すみません、お見せできるようなものが少なくて」
「いえ、とても興味深かったです……」
「……それでは、表へ戻りますか?」
ツキは否定して欲しくてその言葉を言ったんじゃないかって。
そんなの、おそらくは都合の良い妄想なのだろうけれども。
「あの……」
「はい……」
「もう少し、ツキさんとお話できませんか? その……ふたりだけで」
「……はい」
これは、ツキがイレギュラーだからだ。
あまりにも謎が多いから、好奇心が勝っているだけなのだ。
今は、そう心に強く言い聞かせることしかできなかった。
大きな鏡が壁に何枚もかけられている一角。
テーブルの上には化粧道具やらヘアアイロンやらが散らかっている。
あのオカマたちも一応身だしなみは整えているらしい。
身だしなみが整っていても、彼らにはもっと根本的な問題があるのだが。
「化粧って、わざわざお店に来てからするんですか?」
「そうですね……例えばですけど、ちひろさんがあのお顔で外を歩いていたら目立っちゃうと思いませんか?」
「……めちゃくちゃに目立ちますね」
ここはキャストが男性であるオカマバーだ。
キャストからすれば、店内で化粧をする方が都合がいいのだろう
「それじゃあ、ツキさんもここで化粧をされてるんですか?」
「いえ。私は家でしてきてるんです。私はそこまで目立つメイクはしていないので、ここではお化粧を直すくらいです」
確かに、ツキの顔はメイクが濃いようには見えない。
薄化粧とナチュラルメイクという言葉を知っているだけで、その違いも知らないけれど。
ツキの顔はキャバ嬢のような目立って華のある感じではないことはわかる。
「あ、あの……」
大きくて丸みのある目。
薄い桃色の唇。
成長途中を思わせる小さな鼻。
ツキの顔は女というよりも、少女という印象を強く受ける。
これが化粧によるものなのか、それとも本当に若いのかはわからないけれど。
それでも、そもそもの素材が良いというのはわかる。
「おっ、お客様?」
「えっ?」
「その……そんなにまじまじと見られてしまうと……ちょっと、恥ずかしい……です……」
「っ! す、すみません! つい、どんな化粧なのか気になってしまって!」
無意識にツキの顔を見つめてしまっていた。
人の顔を観察するなんて無礼、普段であれば絶対にしないというのに。
「……」
ツキがこちらを見ている。
頬を赤らめて。
手を前で組んで。
俯きがちに。
そして、またツキに見惚れてしまっている。
キャバ嬢に入れ込むなんて、よっぽどお金のある人間でないと許されない。
ましてやここはオカマバーで、ツキは年齢も性別も不詳だ。
金銭的にも、精神的にも、これは良くない兆候だと理解している。
それでも、心はどうしようもなくツキに惹かれ始めている。
「……あの、どうですか?」
「ど、どうとは?」
「っ……わ、私のお化粧、どうですか?」
ツキの言葉は歯切れが悪かったものの、意図は明快だった。
その仕草が、ツキの求めている言葉を物語っていた。
「……とても素敵で、可愛いと思います」
「……ありがとうございます」
花のつぼみが開くような、そんなツキのはにかみ。
それがくることは事前にわかっていた。
だから、心の準備ができた。
しかし備えが出来ていたからと言って、耐えられるかどうかは別の話だ。
「えっと……お店の裏側の案内はこれで終了になります。すみません、お見せできるようなものが少なくて」
「いえ、とても興味深かったです……」
「……それでは、表へ戻りますか?」
ツキは否定して欲しくてその言葉を言ったんじゃないかって。
そんなの、おそらくは都合の良い妄想なのだろうけれども。
「あの……」
「はい……」
「もう少し、ツキさんとお話できませんか? その……ふたりだけで」
「……はい」
これは、ツキがイレギュラーだからだ。
あまりにも謎が多いから、好奇心が勝っているだけなのだ。
今は、そう心に強く言い聞かせることしかできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる