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追及偏
再会しました
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声のした方へ振り向くと、控室の入口にツキが立っていた。
どうやら今出勤したようだ。
昨日とは違って、今日は白を基調としたドレスを着ている。
「どうも、ツキさん」
「今日も来てくださったんですね……とっても嬉しいです……♡」
小走りで近寄って来るツキ。
その表情は明るくて、嬉しそうで、照れていて――
とてもツキが表情を作っているようには見えなかった。
「あの、店長。アキラさんは、私がお相手してもいいですか?」
「……ええ、もちろん。ミドリくんが良ければ、好きなテーブル席を使ってくれていいわ」
「アキラさん……?」
ツキが顔を覗き込んでくる。
不安気に瞳を濡らして。
期待に頬を赤らめて。
本当は帰ろうと思っていたところだけれど、こんな顔を見せられては裏切れない。
出直した方が頭は冷静になるが、悶々とすることは目に見えている。
ヨシミの言葉を信じたわけではないが、ここはツキの本質を見極めてみることにしよう。
「ツキさん、お相手をお願いしてもいいですか?」
「はいっ! もちろんです!」
「っ!?」
返事をした途端に、ツキが腕に絡みついてきた。
右腕にしがみつくように、ツキが体を密着させてくる。
喉仏が無いのだから、ツキの小さな胸の膨らみも本物なのだろう。
勝手に意識が右腕に触れている柔らかな感触へと集中してしまう。
「ちょっと、ツキ。お客様を引っ張るんじゃないの」
「えへへっ、すみません……。アキラさん、こちらへどうぞ」
ツキは腕に絡みついたまま、テーブル席の方へと誘導し始めた。
昨日よりもツキが積極的なのは気のせいじゃないだろう。
鼓動を聴かれてしまっているのではと不安になるほどに、距離が近い。
耳の中で鳴り響いて脳を揺らすほどに、声のトーンが高い。
鈍感でも気付かないなんて許されないほどに、向けられている好意が強い。
昨日の時点では客とキャストと形容するのが相応しかった。
ツキの態度をここまで変えた切っ掛けは、やはりホテルで宿泊したことなのだろう。
ここまで来て、ただ同じベッドで寝ただけなんて戯言がまかり通るはずがない。
それどころか、知らない内に一夜では済まされない関係にまで発展している可能性がある。
「さあ、お席にどうぞ」
「それじゃあ、失礼します」
「…………」
「ツキさん?」
てっきり隣に座ると思っていたが、ツキは立ち尽くしていて座る気配がない。
「座らないんですか?」
「……えいっ♡」
「っ!?」
「えへへ……くっついちゃいました♡」
4人は余裕をもって座れるソファの上で、ツキは体をぴったり密着させて座った。
鼓動の音を聴くように頭を預けて。
膝に感じるツキの手の感触は、偶然では済まされないボディタッチだ。
「アキラさん……何をお飲みになりますか?」
まるで耳に直接語りかけるかのような距離。
誰に聞かれることもない状況で、内緒話でもするかのように。
「えっと……っ」
メニューの内容が全く頭に入ってこない。
酒の名前も。
おつまみも。
その値段たちも。
思考の全てがツキに奪われている。
五感の全てがツキに囚われている。
「かっ……カルーアミルクと、おつまみを……ツキさんのおまかせで」
「はい♡ 少しだけ待っていてくださいね?」
ツキが離れて、ようやく思考が戻って来る。
「やばいな……これ……」
積極的なツキはあまりにも暴力的だ。
破壊力がありすぎて、逆に色恋営業が現実味を帯びてしまうほどに。
今日の支払いは飯田持ちではない。
ツキにされるがままではその真意を探ることもできやしない。
恋は戦争だ。
ツキを好ましく思うのなら、それこそ倒すつもりで挑まなければならない。
そうでなければ、最悪の場合死ぬのはこちらなのだから。
どうやら今出勤したようだ。
昨日とは違って、今日は白を基調としたドレスを着ている。
「どうも、ツキさん」
「今日も来てくださったんですね……とっても嬉しいです……♡」
小走りで近寄って来るツキ。
その表情は明るくて、嬉しそうで、照れていて――
とてもツキが表情を作っているようには見えなかった。
「あの、店長。アキラさんは、私がお相手してもいいですか?」
「……ええ、もちろん。ミドリくんが良ければ、好きなテーブル席を使ってくれていいわ」
「アキラさん……?」
ツキが顔を覗き込んでくる。
不安気に瞳を濡らして。
期待に頬を赤らめて。
本当は帰ろうと思っていたところだけれど、こんな顔を見せられては裏切れない。
出直した方が頭は冷静になるが、悶々とすることは目に見えている。
ヨシミの言葉を信じたわけではないが、ここはツキの本質を見極めてみることにしよう。
「ツキさん、お相手をお願いしてもいいですか?」
「はいっ! もちろんです!」
「っ!?」
返事をした途端に、ツキが腕に絡みついてきた。
右腕にしがみつくように、ツキが体を密着させてくる。
喉仏が無いのだから、ツキの小さな胸の膨らみも本物なのだろう。
勝手に意識が右腕に触れている柔らかな感触へと集中してしまう。
「ちょっと、ツキ。お客様を引っ張るんじゃないの」
「えへへっ、すみません……。アキラさん、こちらへどうぞ」
ツキは腕に絡みついたまま、テーブル席の方へと誘導し始めた。
昨日よりもツキが積極的なのは気のせいじゃないだろう。
鼓動を聴かれてしまっているのではと不安になるほどに、距離が近い。
耳の中で鳴り響いて脳を揺らすほどに、声のトーンが高い。
鈍感でも気付かないなんて許されないほどに、向けられている好意が強い。
昨日の時点では客とキャストと形容するのが相応しかった。
ツキの態度をここまで変えた切っ掛けは、やはりホテルで宿泊したことなのだろう。
ここまで来て、ただ同じベッドで寝ただけなんて戯言がまかり通るはずがない。
それどころか、知らない内に一夜では済まされない関係にまで発展している可能性がある。
「さあ、お席にどうぞ」
「それじゃあ、失礼します」
「…………」
「ツキさん?」
てっきり隣に座ると思っていたが、ツキは立ち尽くしていて座る気配がない。
「座らないんですか?」
「……えいっ♡」
「っ!?」
「えへへ……くっついちゃいました♡」
4人は余裕をもって座れるソファの上で、ツキは体をぴったり密着させて座った。
鼓動の音を聴くように頭を預けて。
膝に感じるツキの手の感触は、偶然では済まされないボディタッチだ。
「アキラさん……何をお飲みになりますか?」
まるで耳に直接語りかけるかのような距離。
誰に聞かれることもない状況で、内緒話でもするかのように。
「えっと……っ」
メニューの内容が全く頭に入ってこない。
酒の名前も。
おつまみも。
その値段たちも。
思考の全てがツキに奪われている。
五感の全てがツキに囚われている。
「かっ……カルーアミルクと、おつまみを……ツキさんのおまかせで」
「はい♡ 少しだけ待っていてくださいね?」
ツキが離れて、ようやく思考が戻って来る。
「やばいな……これ……」
積極的なツキはあまりにも暴力的だ。
破壊力がありすぎて、逆に色恋営業が現実味を帯びてしまうほどに。
今日の支払いは飯田持ちではない。
ツキにされるがままではその真意を探ることもできやしない。
恋は戦争だ。
ツキを好ましく思うのなら、それこそ倒すつもりで挑まなければならない。
そうでなければ、最悪の場合死ぬのはこちらなのだから。
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