上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

親睦偏

動き出しました

「ミドリ、ちょっと来い」
「はい」

　朝。
　始業時間から2時間程度経過した頃。
　フレックス出社してきた飯田から呼び出された。

「次の案件の話なんだが――」
「……」

　どうやら、ついに次の仕事の話が来てしまったらしい。
　納品後の穏やかな隙間時間はこれで終わりというわけだ。

　これからはまた客先からの要求と、仕様と、納期との戦いが始まってしまう。

「半年前にやってた案件憶えてるか？」
「車載の電子ミラーですね」
「そうだ。前回は試作だったが、向こうでの評判が良かったみたいでな」
「ということは、その続きですか」
「今度は製品化を見据えた要求が増えた、そうだな……アルファ版でところか。ベースは前回と同じだから、そこまで重くない作業の予定だ」
「了解しました。作業の開始予定はいつからですか？」
「まだ正式な契約は済んでないが、いつも通りだ。もう作業始めてていいぞ。大まかな要求も昨日の議事録に載ってるから、読んどいてくれ」

　正式な契約がされていないということは、作業を始めた後に客先からキャンセルされたとしてもこちらから文句は言えないと言うことだ。

　毎度のことだが、企業としてその振る舞いは許されるのだろうか。
　客先との信頼があるからこそなのだろうが、一作業者としては甚だ疑問ではある。

　尤も、仮にドタキャンが発生しても翠の評価は下がらないだろうし、損があるわけでもない。
　ただ作業が無駄になるだけだ。

　疑問ではあるものの、飯田のやり方に口を出そうとは思わない。

「それと、この案件では俺は作業には入らないからよろしく」
「わかりまし……え？」
「ケツに火が着いてる案件が別にあってな。俺はそっちをメインで面倒を見なきゃならん。だから、今回は俺は管理しかやらんつもりだ」
「……では、作業リーダーは誰が――」
「書類上は俺がマネージャーと兼任するかもしれないが、実質的にはミドリだな」
「…………恐縮です」
「そう硬くならなくても大丈夫だって。試作版とそう大きくは変わらんし、最低でも1人は人員を補充予定だ。ミドリ1人に作業させるわけじゃない」
「お気遣いありがとうございます……」
「他に何か質問はあるか？」
「いえ、今のところは……。まずは前回の案件時の作業の振り返りと、件の議事録から顧客要求を把握します」
「おう、よろしく。困ったことがあったらすぐに言えよ」