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エピローグ
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「あっ、おかえりなさーい♡」
「……またいるのか」
会社から帰宅すると、ツキが翠のベッドに寝転んでいた。
これで何度目だろうか。
結局勝手に作成された合鍵はツキが所持しており、帰ればツキが居るという光景も日常に紛れ込みつつある。
家に来る時は連絡をしろと言っているのだが、まるで聞きやしない。
「今日はお仕事どうでした?」
「別に、いつも通り……ああ、でも後輩が入ってきたな」
「アキラさんのですか?」
「そう。俺の会社に入社した新人が同じ場所に派遣されてきた。これからしばらくは面倒見ることになるだろうな」
「ふーん……」
「これも俺が派遣先での評価を上げてきた賜物だからな。給料も上がりそうだよ」
「それはそれはー……良かったですねー……」
「なんで怒ってるんだよ……」
ツキはぷくーっと頬を膨らまして、不機嫌だからご機嫌をとれ、とアピールしていた。
わかりやすくて言葉が通じる分、猫よりはマシだろうか。
「べつにー……ただアキラさんが嬉しそうだから、よっぽど可愛い後輩ちゃんが入ってきたんだろうなーって……」
「可愛いって……男だよ、男。新しく入ってきた後輩は男性だよ」
「男性でも可愛いかもしれないじゃないですか」
ツキの言う事も一理ある。
ツキのような人間が居るのだから、性別だけで可愛さを計ることはできないのかもしれない。
しかし――
「いや、うちの会社を何だと思ってるんだ……ただのサラリーマンの集まりだぞ? 女装してるのなんて一人もいないし、身だしなみも清潔感が第一だよ」
「それでも、一度同性の良さを知った人は可愛いって思えちゃうものなんですよ。私知ってるんですから。普通の男性らしい格好をした人でも、ついそういう目で見ちゃうようになるんだって……」
「それは……そうなのかもしれないけど……」
その手の経験豊富なツキに断言されてしまうと、翠には打つ手がない。
自分はそうではないと答えた所でツキの経験を否定することはできず、機嫌も直らないだろう。
「あーあー……いつか、アキラさんはその後輩の人とも寝ちゃうんだろうなー。ツキちゃんといっしょに育んだ技で後輩ちゃんのことも可愛く鳴かせちゃって、知らない所で浮気してるんだろうなー。後輩ちゃんに限らず、会社の人たちみーんなとやってるんだろうなー……」
この世に絶対はありえないけれども。
ツキの妄言が実現するような未来だけは絶対に無いだろう。
「何だよ、急にへそまげて……なんか嫌なことでもあったのか?」
「…………一つだけ、ありました」
「なんだ? もしかしてだけどそれ、俺に関係あるのか?」
「大アリです。私はアキラさんのせいでとても傷ついています」
「……まったく覚えがないんだが」
「じー……」
「……」
「じぃー……」
「……ああ、なるほど」
ツキのじとーっとした視線を受けながら考えて、ようやく思い至った。
ツキの機嫌が損なわれたのは、俺が後輩の話をしてからだ。
そして、ツキは後輩が可愛いかどうかを気にしていた。
つまり、俺が言うべきは後輩の性別とか見た目とか、自身が浮気をする可能性の低さではなく――
「……俺にとっては、ツキが一番可愛いよ」
――目の前に居る人物を褒めることなのだろう。
「~~っ♡ ま、まあ……アキラさんがそこまで言うなら……許してあげなくもないですけどね……?」
「それはどうも……」
そもそも、許されないようなことをしたとも思っていないが、そこには触れない方がいいのだろう。
甘やかしておかないと、また不機嫌になりかねない。
「……またいるのか」
会社から帰宅すると、ツキが翠のベッドに寝転んでいた。
これで何度目だろうか。
結局勝手に作成された合鍵はツキが所持しており、帰ればツキが居るという光景も日常に紛れ込みつつある。
家に来る時は連絡をしろと言っているのだが、まるで聞きやしない。
「今日はお仕事どうでした?」
「別に、いつも通り……ああ、でも後輩が入ってきたな」
「アキラさんのですか?」
「そう。俺の会社に入社した新人が同じ場所に派遣されてきた。これからしばらくは面倒見ることになるだろうな」
「ふーん……」
「これも俺が派遣先での評価を上げてきた賜物だからな。給料も上がりそうだよ」
「それはそれはー……良かったですねー……」
「なんで怒ってるんだよ……」
ツキはぷくーっと頬を膨らまして、不機嫌だからご機嫌をとれ、とアピールしていた。
わかりやすくて言葉が通じる分、猫よりはマシだろうか。
「べつにー……ただアキラさんが嬉しそうだから、よっぽど可愛い後輩ちゃんが入ってきたんだろうなーって……」
「可愛いって……男だよ、男。新しく入ってきた後輩は男性だよ」
「男性でも可愛いかもしれないじゃないですか」
ツキの言う事も一理ある。
ツキのような人間が居るのだから、性別だけで可愛さを計ることはできないのかもしれない。
しかし――
「いや、うちの会社を何だと思ってるんだ……ただのサラリーマンの集まりだぞ? 女装してるのなんて一人もいないし、身だしなみも清潔感が第一だよ」
「それでも、一度同性の良さを知った人は可愛いって思えちゃうものなんですよ。私知ってるんですから。普通の男性らしい格好をした人でも、ついそういう目で見ちゃうようになるんだって……」
「それは……そうなのかもしれないけど……」
その手の経験豊富なツキに断言されてしまうと、翠には打つ手がない。
自分はそうではないと答えた所でツキの経験を否定することはできず、機嫌も直らないだろう。
「あーあー……いつか、アキラさんはその後輩の人とも寝ちゃうんだろうなー。ツキちゃんといっしょに育んだ技で後輩ちゃんのことも可愛く鳴かせちゃって、知らない所で浮気してるんだろうなー。後輩ちゃんに限らず、会社の人たちみーんなとやってるんだろうなー……」
この世に絶対はありえないけれども。
ツキの妄言が実現するような未来だけは絶対に無いだろう。
「何だよ、急にへそまげて……なんか嫌なことでもあったのか?」
「…………一つだけ、ありました」
「なんだ? もしかしてだけどそれ、俺に関係あるのか?」
「大アリです。私はアキラさんのせいでとても傷ついています」
「……まったく覚えがないんだが」
「じー……」
「……」
「じぃー……」
「……ああ、なるほど」
ツキのじとーっとした視線を受けながら考えて、ようやく思い至った。
ツキの機嫌が損なわれたのは、俺が後輩の話をしてからだ。
そして、ツキは後輩が可愛いかどうかを気にしていた。
つまり、俺が言うべきは後輩の性別とか見た目とか、自身が浮気をする可能性の低さではなく――
「……俺にとっては、ツキが一番可愛いよ」
――目の前に居る人物を褒めることなのだろう。
「~~っ♡ ま、まあ……アキラさんがそこまで言うなら……許してあげなくもないですけどね……?」
「それはどうも……」
そもそも、許されないようなことをしたとも思っていないが、そこには触れない方がいいのだろう。
甘やかしておかないと、また不機嫌になりかねない。
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