死の間際、あなたは親友ですか?

papporopueeee

文字の大きさ
84 / 84
最終日:朝焼けの中、涙を拭って微笑んで

朝焼けの中で

しおりを挟む
「なあ、タク。体、支えといてくれよ。多分、殺されたら倒れるだろうからさ。コンクリートに打ち付けた体を返すわけにもいかないだろ?」
「ああ、わかった」

 ボクはしゃがんで、彼女を足の上に座らせた。

「……」

 腰を下ろした彼女は、無言でボクに体を密着させた。

 体を支える以上、その方が都合がいい。
 身を寄せ合った方が支えやすいのは当然だ。

 だから、ボクも彼女を強く引き寄せるように力を入れた。

「っ…………。死ね神、もういいぞ。悪かったな、待たせて」

 ずっとボクたちを見ていた死ね神。

 彼女とのやり取りを見られていたことに羞恥を掻き立てられる気持ちはある。
 しかしそれ以上に、死ね神が最も見届け役として相応しいと思えた。

 事の発端である死ね神。
 死ね神に感謝の気持ちなんてこれっぽっちもない。
 そもそも、死ね神が来なければ平穏な日常が送れていたのだから。

 しかし死ね神は現れてしまった。
 事は起こってしまったのだ。

 だったら、せめて事の元凶である死ね神は全てを見届け、そしていつまでも憶えていてほしい、なんて……。
 そんなことを口に出したら彼女に怒られそうだから、絶対に言ったりはしないけれども。

「……」

 死ね神がこちらへ近づいてきた。

 何も言わず。
 足音すらも無く。
 ゆっくりと近づいて。
 
 死ね神は跪いて、彼女の額に骨の手を乗せた。

「その生に労わりを。その死に敬意を。その道筋に安寧を。私がお前を殺してやる」

 それは定型文なのかもしれない。
 死ね神がターゲットを殺す時に必ず言っているだけで、気持ちなんてこれっぽっちも籠っていないのかもしれない。

 ただ、彼女を抱くボクの対面で跪くその姿が。
 死に行く者を看取り、祈りを捧げているかのように見えた。

「なあ、タク……」
「……どうした?」
「俺、死んだらどうなるのかな?」

 正規の肉体を持たず、抄の記憶のみに依存し人格を形成された彼女が死んだ時、はたしてどうなるのか。
 仮に魂という物が存在して、死後の世界が在ったとしても。
 それでも、彼女は……。

「やべぇ……今更ながらちょっと怖くなってきたかも……」

 彼女の瞳が段々と朧気になっていく。
 こうやって話している今も、彼女の記憶と人格は徐々に消されていて、少しずつ殺されているのだろう。

「……ボクに何かできることはあるか?」
「……そこのお面被った骨野郎を一発ぶん殴ってくれ」
「それはボクに一緒に死んでほしいってことか?」
「ははっ、冗談だよ……」
「……」
「……手、握ってくれないか?」
「こうか?」

 細い指を握ると、か細い力で握り返された。

「うん……それでいいよ。ありがとう……タク……」
「お礼を言われるほどのことじゃないよ」
「そうか? ……それじゃあ、もう一個お願いしようかな」
「なんだ?」
「……もう一回だけ、してくれよ」
「……ああ、わかった」
「んっ」

 さっきよりも長く。
 さっきよりも強く。
 ありったけの祈りを込めて。

 どうか少しでも不安が取り除けますように。
 どうか少しでも安らげますように。
 どうか、少しでも……。

「っ……さっきも思ったんだけどさ」
「どうした?」
「タクって……キス下手だよな」
「なっ、お前、自分から頼んでおい……て……」

 少女は微笑んでいた。
 楽しそうに口元を緩ませて。
 幸せそうに目を瞑って。

 もう、彼女は其処には居なかった。

「っ……そんな、急にっ……文句くらい、最後まで……!」

 死ね神の姿も消えていた。
 もう二度と会うこともないだろう。

 これがボクたちの物語の終わりだ。

 ボクは生き残って、抄は死んだ。
 ボクの腕の中で眠る少女の中には本来の人格が戻っていて。
 目を覚ましても、もうボクをタクと呼びはしない。

 少女の髪が風に揺れて、朝日を浴びてきらきらと光った。
 その髪の色はやっぱり抄の髪色にそっくりで、見ているだけで胸が苦しくなった。

「……っ、……うっ、く……!」

 心臓が絞られているように痛くて、喉から嗚咽が漏れだす。
 溢れる涙も止まらなくて、ポタポタと少女の顔に垂れていく。

 終わったからといって全てが解決したわけではない。
 少女に戸籍も記憶もないという問題は残っていて、まだボクは日常には戻れない。

 でも今は、今だけは泣いていたい。
 せめて少女が目を覚ますまでは。
 心のままに、親友への思いを吐き出していたい。

 抄はもういない。
 ボクの親友は死んでしまった。

 幼い頃から連れ添った親友も。
 命を救ってくれた親友も。
 もう隣にはいない。

 だから、悼むことには意味がない。
 ボクが何をしようとも、それは親友には届かない。

 それでも。
 例え弔いが残された生者の為の行為であったとしても。
 ボクは親友たちの為に祈りたい。

「ショウ……ショウっ……! あぁっ……っ、ああぁぁぁぁっ……!」

 空は晴れやかで。
 朝日は輝いていて。
 爽やかな風が吹いていて。

 まるで祝福されているかのような世界の中で。
 ボクは一人、弔いの涙を流し続けた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...