女として兄に尽くすよう育てられた弟は、当たり前のように兄に恋をする

papporopueeee

文字の大きさ
26 / 185
兄と弟

間食

しおりを挟む
「硬くてしょっぱいですが、とても美味しいです。お茶とも良く合います。これは小麦粉で作っているのでしょうか……」
「……それは米粉じゃないか? 包装のどこかに原材料が書いてあるだろう」
「こめこ……なるほど、米粉。お米を粉状にしたものでしょうか……」

 玲は米粉を知らなかったらしい。
 昔から家の料理を任されているから、料理の知識は俺よりもあると思っていたがそうでもないようだ。

(でもまあ、玲の境遇を考えればそれも当然か……)

 玲はスマホも持っていなければ、料理本の類を与えられたこともない。
 玲の中の料理レパートリーは教育が終わった時点から変わっておらず、
 教育で教えられた料理で使わない材料のことはよく知らないのだろう。

「他にも色々と材料が書いてあるようですが……よくわかりません……」
「お菓子なんてそんなもんだ。原材料の全てを知ってるやつなんてそうはいない」

 見た目はなんてことのないお菓子でも、包装の裏にはずらっと原材料名が並んでいることも珍しくない。
 しかもそこに並んでいるのは俺でも見覚えの無い名前ばかりだったりするのだから、玲が理解できないのも無理はないだろう。

「お米を潰して焼けば、おせんべいになるでしょうか……」
「……多分、それはただのおこげだな。まあ、せんべいと言えばせんべいか」
「なるほど……」
「作るつもりか?」
「はい。一宏様にお作りする料理の幅を増やすことができるかもしれません」
「……いや、いらん。俺はせんべいが食いたかったら既製品を食う」
「それは、そうでした……。出過ぎたことを考えてしまい、申し訳ありません……」

 玲はしゅんと肩を落とした。
 どうやら本気で献立に加える気だったようだ。



「これも柔らかくて甘いですね。しかし、お饅頭よりも硬い……いえ、柔らかいのでしょうか……」

 饅頭と羊羹のどちらが柔らかいのか。
 それにはまず柔らかいの定義をはっきりさせることが必要であり、人によって意見が分かれるところだろう。

 正直言うと、どちらが硬いのかなんてどうでもいい。
 どうでもいいことについて話すのも雑談の醍醐味ではあるが、玲が相手では議論にはならないだろう。
 玲は俺の意見に従うに決まっている。

「色はお饅頭の中身と似ているようですが……もしかして、同じなのでしょうか?」
「ああ、同じあずきだよ」
「あずき……お赤飯に入れるあのあずきですか?」
「そうだな」
「まさか……では、お赤飯とはもしかして甘いのでしょうか?」

 冗談で言っているのかと思ったが、玲の表情は真面目に不思議そうだった。
 そもそも、玲に冗談を嗜む情緒なんてないだろう。

「……玲、赤飯を食ったことが無いのか?」
「はい」
「……そうか。ちなみに、赤飯は甘くない。菓子に使うあずきは砂糖で味付けしてあるんだ」
「お砂糖で……だからこんなにも甘いのですね……。やはり、料理とお菓子作りは別物と考えるべきですね……」

 確かに、お菓子と料理の明確な違いとして砂糖の使用量はあるかもしれない。
 以前ケーキを作る動画を見たことがあるが、山のように砂糖を入れていて驚いたことを憶えている。

「玲は菓子は作ったことなかったか?」
「はい。私の教えられた料理の中に、お菓子と呼べる物はありません」
「そうか……。そういや、うちはお汁粉も出たことなかったか」
「おしるこ……?」
「……まあ、どうでもいいことだ。それよりほら、もっと食いたかったら食っていいぞ」
「……では、一宏様のお言葉に甘えさせていただきます」

 必要な知識なのであれば、玲はお汁粉のレシピも教えられているはずだ。
 知らないということは、それは玲にとって不要ということであり、知らないことに意味があるのだろう。

 菓子の美味しさを知らなければ、その誘惑に耐える苦痛も存在しない。
 玲にお菓子を食べさせてしまったのは、
 もしかしたら残酷なことだったのかもしれない、と――

「あむっ……お饅頭、とても美味しいです……」

 ――菓子を食べる玲の姿を見ていると、そう思わずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

二本の男根は一つの淫具の中で休み無く絶頂を強いられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...