61 / 185
兄と弟と弟だった人
従者
しおりを挟む
玲の言葉に、心臓がヒヤリとした。
玲が言っていることは嘘ではない。
少なくとも、玲が従者であることは俺たちの間では真実だ。
何も間違っていない。
しかし、この関係性が異常であることなんて、小学生の頃にはもう気付いている。
学友たちの話を聞いていれば、俺と玲の関係が普通の兄弟とは異なっていることなんてすぐにわかった。
それが他人に気軽に話していいものでもないことも明白だった。
玲との関係は、玲の存在は、無闇に公言していいものではないのだ。
だから、俺は外では家のことはずっと隠して、偽って生きてきた。
玲は今それを口にした。
玲は外に出ていないし情報収集もできないから、
俺たちの関係の異常性を微塵も理解していないから。
だから、珠美の前で俺たちの異常な関係を明言してしまった
そして、玲の発言を受けて、珠美は――
「……玲君はお兄さん思いの優しい子だね」
珠美は、少しも動揺していなかった。
やはり、珠美は宗田の家における弟の立ち位置を理解していたようだ。
珠美は玲の存在は知っていたし、
珠美自身も弟なのだから当たり前だけれど、
それでも心臓が竦み上がった。
「兄ではありません。一宏様は私の主です」
「でも玲君、少しくらいは筋力があったほうがいいと思わないかい? 現に、この荷物を1人では運べなかったんじゃないかな?」
「……足りない筋力は道具で補えますので、問題ありません」
昨日の玲は台車を用意していたにも関わらず、そもそも台車に載せることができていなかった。
とても道具で補えていたとは言えないが、この場では触れないでおくことにした。
なんとなく、玲がそれだけは言わないで欲しいと懇願しているような気がしたので。
「そうかい? ……まあ、私も無理強いがしたいわけじゃない。気が変わったらいつでも勝手に使ってくれていいからね。ああ、でも怪我だけはしないように気をつけて。知っての通り重いから」
「はい」
それでダンベルについての話は終わった。
結局玲が考えているような危険物の持ち込みなんて無くて、むしろ珠美は玲に対して優しく接する良識のある大人だった。
これなら一緒に暮らしている内に玲の警戒も徐々に解けていくことだろう。
というか、解けてくれないと困るのだが。
「そうだ、ふたりとも甘いものは好きかな? これからお世話になるということで、手土産にケーキを買ってきていてね。ちょうどいい時間だし、おやつにしないかい?」
玲が言っていることは嘘ではない。
少なくとも、玲が従者であることは俺たちの間では真実だ。
何も間違っていない。
しかし、この関係性が異常であることなんて、小学生の頃にはもう気付いている。
学友たちの話を聞いていれば、俺と玲の関係が普通の兄弟とは異なっていることなんてすぐにわかった。
それが他人に気軽に話していいものでもないことも明白だった。
玲との関係は、玲の存在は、無闇に公言していいものではないのだ。
だから、俺は外では家のことはずっと隠して、偽って生きてきた。
玲は今それを口にした。
玲は外に出ていないし情報収集もできないから、
俺たちの関係の異常性を微塵も理解していないから。
だから、珠美の前で俺たちの異常な関係を明言してしまった
そして、玲の発言を受けて、珠美は――
「……玲君はお兄さん思いの優しい子だね」
珠美は、少しも動揺していなかった。
やはり、珠美は宗田の家における弟の立ち位置を理解していたようだ。
珠美は玲の存在は知っていたし、
珠美自身も弟なのだから当たり前だけれど、
それでも心臓が竦み上がった。
「兄ではありません。一宏様は私の主です」
「でも玲君、少しくらいは筋力があったほうがいいと思わないかい? 現に、この荷物を1人では運べなかったんじゃないかな?」
「……足りない筋力は道具で補えますので、問題ありません」
昨日の玲は台車を用意していたにも関わらず、そもそも台車に載せることができていなかった。
とても道具で補えていたとは言えないが、この場では触れないでおくことにした。
なんとなく、玲がそれだけは言わないで欲しいと懇願しているような気がしたので。
「そうかい? ……まあ、私も無理強いがしたいわけじゃない。気が変わったらいつでも勝手に使ってくれていいからね。ああ、でも怪我だけはしないように気をつけて。知っての通り重いから」
「はい」
それでダンベルについての話は終わった。
結局玲が考えているような危険物の持ち込みなんて無くて、むしろ珠美は玲に対して優しく接する良識のある大人だった。
これなら一緒に暮らしている内に玲の警戒も徐々に解けていくことだろう。
というか、解けてくれないと困るのだが。
「そうだ、ふたりとも甘いものは好きかな? これからお世話になるということで、手土産にケーキを買ってきていてね。ちょうどいい時間だし、おやつにしないかい?」
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる