女として兄に尽くすよう育てられた弟は、当たり前のように兄に恋をする

papporopueeee

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兄と弟と弟だった人

夕食

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「一宏様、夕食の準備ができました」
「ん……」

 洗濯物を運んでいた玲と別れた後。
 自室へ戻って大学の課題に取り組んで。
 課題が終わった後は何度も読んだことのある小説に目を通して暇を潰して。

 うつらうつらと船を漕ぎだしたところで、障子の向こうから声をかけられた。

「もうそんな時間か……」

 時計を見ると、18時と表示されている。
 ケーキを食べてから3時間程度しか経過しておらず、腹の空き具合も十分とは言い難い。

「……珠美さんは? もう声をかけたのか?」
「いえ。まだです」
「じゃあ、先に珠美さんに声をかけてみてくれ。珠美さんが今食べるなら、俺も今食べる」
「……どうしてでしょうか」
「どうしてって……」

 腹の空き具合的には夕食の時間はもう少し遅らせたい。
 しかし家にやってきたばかりの珠美を一人で食事させるというのもどことなく気が引ける。

 珠美が今食べるならそれに倣うが、珠美もまだケーキが腹に残っているのなら遅らせたい。
 そのために先に珠美の具合を聞いておきたい。

 そう玲に説明した。

「……一宏様が珠美さんに合わせる必要はないかと思いますが」
「はぁ……俺に意見するのか、玲」
「失礼いたしました。では、珠美さんの元へと向かいます」
「やれやれ……」

 玲が立ち去った後の空間に溜め息を吐く。
 玲がいつまで経ってもこんな調子では、俺の胃に穴が開きかねない。

 人は慣れる生き物だ。
 時間がやがては解決してくれるのだろうが、少なくとも玲は今日明日には変わりそうもない。

「何かいい手はないもんか……」

 独り言ちたところで何が変わるわけでもないのだけれど、ぼやかずにはいられないのだった。



 結局珠美は夕食をすぐに食べるとのことだったので、俺もすぐに食べることとなった。

「やあ」
「ども……」

 リビングに入ると、珠美は先に食卓に着いていた。

 珠美が食卓で夕食を待つ姿は新鮮な光景であるはずなのに、どことなくしっくり感じてしまうのは親父の弟だからだろうか。
 親父と似た雰囲気を感じさせるその顔が、俺に懐かしさを感じさせているのかもしれない。

 俺は珠美の正面に座った。
 そこは少し気まずい位置ではあったけれど、普段座っている位置からわざわざずれることもなんとなく憚られた。

 俺が席に着くと、玲がテーブルに料理を並べ始める。

 にくじゃが。
 大根の味噌汁。
 ほうれん草のお浸し。
 きんぴらごぼう。
 今日は純和風のメニューだ。

 まずは俺の前に一通りが並べられた後に、珠美の前にも同じ物が並べられていく。

 どうやら玲はちゃんと俺と珠美で同じメニューを用意したようだ。
 玲なら露骨に差をつけかねないと危惧していたけれど、杞憂で終わってくれて本当に良かった。

「とても美味しそうだ。玲君は料理が上手なんだね」
「……」

 食事の準備が終わった玲は、珠美からの言葉も無視していつも通り端に立って控え始める。
 ケーキの一件があったからか、珠美は玲にいっしょに食べるように誘うこともなかった。

「それじゃあ……いただきます」
「いただきます」

 俺の挨拶に続いて、珠美も手を合わせる。
 そして、食事が始まった直後――

「うん、味も抜群だね。美味しいよ、玲君」

 きんぴらを一口食べた珠美は、玲の料理を褒め始めた。
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