ボクとサナ ~淫魔はミステリーに恋し、ロジックを愛する~

papporopueeee

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「あぁ、こりゃ来るな……今日は謎がやってくるぜ? シオン」

 自身の身長を越える金色の長髪を宙になびかせながら、フヨフヨと漂う褐色の少女。
 少女は鋭い犬歯を覗かせながらニヤリと笑っていた。

「それ、昨日も言ってたよね。今更サナの戯言を本気になんてしないよ」
「いやぁ今日のは別格だぜ? 昨日よりも、一昨日よりも、お前と出会ってからのどの日よりも……今日の匂いが一番くせえ」

 開けられた窓から入って来る風の中から何かを嗅ぎ分けるようにスンスンと鼻を鳴らすサナ。
 犬のように四つん這いになって、ウットリと頬を紅潮させるサナは淫魔の肩書きに相応しい姿だ。

「つまり、今までの謎よりも難しいってこと? そんなの解けるわけないよ。依頼が来たとしても願い下げだね」
「あぁん?」

 風に流され、吊るされたように逆さまの姿勢になったサナの顔が眼前に迫ってきた。
 意地悪そうなニタニタとした笑みを浮かべながら。

「シオンに限って謎が解けねえなんてことはありえねえだろ? なんせ悪魔と契約した名探偵様なんだからよ」
「無理やり契約させられたの間違いでしょ。それに、探偵なんてやりたくてやってるわけじゃないし」
「それでも超常の力を手に入れたのは事実だ。その力を世のため人のため、悪魔のために使おうっていうのが力持つ者の責務だぜ?」
「その力のせいで! ボクはこんな髪型になってるんじゃないか!」

 後ろで結んでいる髪を両手に握りしめて、サナにその黒髪を見せつける。
 肩にかかって有り余るほどの長髪は、男子制服よりも女子制服の方が似合う有様だ。

「それは正確じゃねえなぁ、シオン。確かにアタシは以前の謎でお前に代償を課した。でもよう、それはお前に髪を伸ばすことを強制するような内容じゃなかったはずだぜぇ?」
「くっ……それは、そうだけど……!」
「そうだよなぁ。代償は『自身のヘアースタイルを一番可愛いと思うものにすること』だ。誰もお前に姫カットにしろなんて言ってねえよなぁ?」
「同じようなものでしょ! それ!」

 サナはお腹を抱えるとケラケラと笑い出した。

「いいじゃねえか、その可愛いお顔にお似合いだぜシオン。代償を負ってから長い間、健気にトリートメントした甲斐もあって髪はサラサラのツヤツヤだ。この学校にお前以上の美髪の持ち主はそうはいないぜ?」
「くっ! もう少し伸びればようやく理想の姫カットも完成するんだ……そしたらすぐに切ってやるから!」
「そんな悪態吐くなって。よく考えてみろよ。代償も悪いことばっかじゃねえはずだぜ?」
「代償なんて名前がついてるのに良い事なんかあるわけないし、現にこれまでも辛いことしかなかったよ!」
「あるじゃねえか。いまこの瞬間、お前の目の前にさ……? ほれほれ、よく見ろよ」

 サナは着ているぶかぶかのブラウスをフリフリと見せつけてきた。

 指先しか見えていない萌え袖。
 白い裾から伸びる褐色の太もも。
 パツパツに張りつめた胸部。
 
 ここで反応したらサナの掌の上で踊ることになる。
 そんなことはわかっているのに、シオンの視線は呆気なく捉われてしまった。

「これはいつの代償だったかねぇ……まあ憶えてねえけど。とにかく、こんな美女にスケベな格好させて侍らせられてんのも代償のおかげだろ?」
「性癖を無理やり暴露させられたの間違いでしょ……!」
「ククッ、裸彼シャツフェチなんて赤裸々な告白されたら、淫魔としては応えねえわけにはいかねえよなぁ。生憎とシオンの服じゃちんますぎて彼シャツは無理だったんだが……それでも毎日十分に精気をいただかせてもらってるぜ♪」
「その言い方は誤解を生むから止めてよ!」
「何も間違っちゃいねえさ。いまこの瞬間も、お前が性的に興奮する度にその欲望をご馳走させてもらってるんだからよ。やっぱ契約するんなら思春期の男だよなぁ?」

 そう言ってサナは赤い舌で自らの唇をペロリと舐め上げた。

 その姿に赤くなってしまったシオンを見て、サナはまた楽しそうに笑い声を上げるのだった。
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