両腕のない義弟との性事情

papporopueeee

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第五夜

義弟は悶々とする

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「今からこっち向かうってさ。多分、一時間後くらいに来ると思う」

 それが自分の部屋に入る前に聞いた最後の言葉。部屋に閉じこもってから、何度ケン君が言葉を翻してくれないかと思ったかわからない。あの扉をノックして、『やっぱり来れなくなったみたいだ』って、微笑みながら言いに来て欲しいと。

 床に広げた教科書の問題文も頭に入ってこない。さっきまで夢中で解いていたはずなのに、今はその途中式をなぞることも難しくて、鉛筆を足に持つ気も起らない。

「なんでこのタイミングなんだろう……」

 そう思わずにはいられない。どうして昨日の今日で邪魔が入るのだろう。それも、よりもよって女性がケン君を訪ねてくるんだろう。

 昨日の性行為を思い返す。あの時はケン君も乗り気だったはずだ。ケン君も求めてくれていたはずだ。だから、これは本当に外部からの干渉なんだと思う。ケン君がこの家に人を呼ぶ理由なんてないはずだから。

「……っ」

 早く勉強を終わらせないといけない。ケン君がリビングで用事を済ませている内に勉強を終わらせておけば、午後をふたりの時間に目いっぱい使える。ケン君の目が外に向けられてしまっていても、また振り向かせるための時間を過ごせる。

「はぁっ……」

 わかっているのに、やっぱり頭は働いてくれなかった。胸中を不安が渦巻いて、最悪の未来を想像しては否定して。無為に時間が過ぎていく。




 ベッドを背もたれにしながら座りこけていると、チャイムの音が鳴った。ケン君の友達が来たのだろう。扉の前をケン君の足音が通り過ぎ去って、扉が開かれた音が聴こえた。

「おじゃまします」

 微かに聞こえてきたのは女性の声。落ち着いた大人の女性といった雰囲気の声だった。

 自然と体が扉に近づいて行って、耳がひんやりとした扉にひっついた。扉越しにケン君と女性が会話している音が聴こえるが、何を話しているのかまではわからなかった。

 会話が止まっている様子がないことから、口を塞ぐようなことにはなっていないようだ。

 しばらく様子を窺っていると、扉の前を重い足音と丁寧な軽い足音が通った。一瞬この部屋に入ってくるかもしれないと身構えたが、足音は止まることなく通り過ぎてリビングに入っていく音が聴こえた。

 再び部屋の中は静かになって、聞こえるのは自分の呼吸音と、不安気な心臓の鼓動だけ。リビングでの物音も、二つの扉と廊下を挟んだこの部屋までは聞こえてこない。リビングで二人が何をしているのかはわからない。

「……オレが家にいるんだもん。変なことはしてないはずだよ……」

 少なくとも派手な物音を立てるような行為はできないはずだ。けれど肌と肌が触れ合うだけなら音は経たない。手を繋いでも別の部屋にいる人間にはわからない。

 キスをしていても、オレにはわからない。

「っ……っ……!」

 いてもたってもいられない。二人が何をしているのかが知りたくて仕方がない。けれど、ケン君以外の人の前に出たくない。リビングに入るなんて無理だ。

 でも、廊下からこっそり様子を窺うくらいならできるかもしれない。
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