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第六夜
義兄弟は感じる
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「あっ、ねえねえお土産のプリン食べないの? せっかくだからみんなで食べようよ」
「あー……。俺とカオルは後で食べようと思ってるんだけど……」
「えっ⁉」
大きな声を上げたのはあさひだった。目を見開いている様子から、相当驚いているようだ。
「なっ、ななっ、どっ……どして……?」
「あ、あさひ、ちょっと、落ち着いて……ぷふっ……」
実の妹の狼狽がよっぽどおかしいのだろう。一条は笑みを抑えきれていない。
「まあ、その、なんだ……えーっと……」
ふたりが家に来る前から食事は避けたいとカオルにお願いされていたのだ。カオルが何かを食べるには、俺が口まで運んでやらないとならない。普段の食事では当たり前に行われている行為でも、人に、特に同年代には見られたくないというのは誰だって思うことだろう。
カオルが恥ずかしがっているからプリンはふたりきりの時に食べる。これを伝えれば一条たちも納得するだろうが、これを伝えること自体も恥の上塗りのように思える。
「あー、そっか……。ねえ、あさひ。私たちもプリンは持ち帰ってから食べよっか」
「えぇっ⁉」
恥ずかしそうに俯いているカオルと歯切れの悪い俺の様子から、一条はこちらの事情を察したらしい。
しかし、あさひはどれほどプリンを楽しみにしていたのか。その表情は今にも泣きそうに見える。
「お、お姉ちゃんがみんなでプリンを食べようって言ってたのに!」
「まあまあ、落ち着いてあさひ」
「だ、だって、だって――」
「あっ、じゃ、じゃあ、いいですよ……プリン、食べても……」
ぽつりと、カオルが声を上げた。
「……いいのか?」
「う、うん……」
「えっ、えっ? カオルくんがプリン食べたくなかったの? で、でも甘い物好きだって……!」
「食べたくないというより、その……食べてるところを見られるのが恥ずかしくて……」
「……っ! あ、わ、わたし……ご、ごめっ……なさっ、い……!」
あさひの顔がみるみるうちに青ざめていく。
今にも泣きそうなほどに瞳が揺れて。呼吸が激しく荒れて。
「きっ、気にしないでください。むしろ、オレが気を遣ってもらって悪いなって思ってるくらいだから」
「で、でもっ、でも……わたしっ……!」
「あさひー、ちょっとおいでー」
「えっ、えっ?」
「鹿島くん、ちょっと廊下借りるね?」
「お、おう」
一条はあさひの手を取ると半ば強引に廊下へと連れていってしまった。パニック気味になっていた妹を落ち着かせるためだろう。こういうところは実に姉らしい。
「……プリン、食べるってことでいいんだよな?」
「……うん」
「じゃ、今のうちに準備しとくか」
「……オレ、何か間違えたかな」
「そんなことないだろ。むしろ、カオルが人に気を遣ってる姿を見れて俺はちょっと安心したぞ」
「ど、どういうこと?」
「そのままの意味だよ。カオルが家族以外の人と話してる姿を見るなんて初めてだからな。なんかじーんと来た」
「そうだっけ……。まあ、そうかもだけど」
「ふたりが家に来る直前は緊張でガチガチになってたけど、大丈夫そうだな」
「だって、向こうの方が緊張してるんだもん……」
緊張している人の姿を見ると逆に冷静になる感覚は俺にも覚えがある。
「……なあ、どうして一条たちを家に呼んでもいいって言ったんだ?」
「……別に」
「そうか」
気にはなったが、カオルが言いたくないならそれでもいいと思った。
「……それより、ケン君は兄らしいことしてくれないの? オレ、がんばってるよ?」
それはその通りだ。緊張しているのは見ているだけでわかる。それでもカオルはちゃんとコミュニケーションを取り、気遣いまで見せている。
「そうだな……。でも、何かできることあるか?」
「……手、貸して」
「手? ……こうか?」
「もっと近く」
「お、おう」
「……ん」
目の前に手を持っていくと、カオルが顔を寄せてきた。
さらさらとした髪が肌の上を滑って、少しこそばゆい。
「っ……」
首と肩で挟まれる。カオルの血管と俺の血管が重なり合って、血流が交差する。
とくん、とくん、と。小さく細い首でも確かに脈打っていて、じんわりと温かい。
「……んっ」
「……落ち着いてきたか?」
「わかるの?」
「まあ、なんとなくな」
「もう少しだけ……」
「ん、わかった」
しばらくの間。静かな中で。ただ互いの体温と血流を感じ続けた。
「あー……。俺とカオルは後で食べようと思ってるんだけど……」
「えっ⁉」
大きな声を上げたのはあさひだった。目を見開いている様子から、相当驚いているようだ。
「なっ、ななっ、どっ……どして……?」
「あ、あさひ、ちょっと、落ち着いて……ぷふっ……」
実の妹の狼狽がよっぽどおかしいのだろう。一条は笑みを抑えきれていない。
「まあ、その、なんだ……えーっと……」
ふたりが家に来る前から食事は避けたいとカオルにお願いされていたのだ。カオルが何かを食べるには、俺が口まで運んでやらないとならない。普段の食事では当たり前に行われている行為でも、人に、特に同年代には見られたくないというのは誰だって思うことだろう。
カオルが恥ずかしがっているからプリンはふたりきりの時に食べる。これを伝えれば一条たちも納得するだろうが、これを伝えること自体も恥の上塗りのように思える。
「あー、そっか……。ねえ、あさひ。私たちもプリンは持ち帰ってから食べよっか」
「えぇっ⁉」
恥ずかしそうに俯いているカオルと歯切れの悪い俺の様子から、一条はこちらの事情を察したらしい。
しかし、あさひはどれほどプリンを楽しみにしていたのか。その表情は今にも泣きそうに見える。
「お、お姉ちゃんがみんなでプリンを食べようって言ってたのに!」
「まあまあ、落ち着いてあさひ」
「だ、だって、だって――」
「あっ、じゃ、じゃあ、いいですよ……プリン、食べても……」
ぽつりと、カオルが声を上げた。
「……いいのか?」
「う、うん……」
「えっ、えっ? カオルくんがプリン食べたくなかったの? で、でも甘い物好きだって……!」
「食べたくないというより、その……食べてるところを見られるのが恥ずかしくて……」
「……っ! あ、わ、わたし……ご、ごめっ……なさっ、い……!」
あさひの顔がみるみるうちに青ざめていく。
今にも泣きそうなほどに瞳が揺れて。呼吸が激しく荒れて。
「きっ、気にしないでください。むしろ、オレが気を遣ってもらって悪いなって思ってるくらいだから」
「で、でもっ、でも……わたしっ……!」
「あさひー、ちょっとおいでー」
「えっ、えっ?」
「鹿島くん、ちょっと廊下借りるね?」
「お、おう」
一条はあさひの手を取ると半ば強引に廊下へと連れていってしまった。パニック気味になっていた妹を落ち着かせるためだろう。こういうところは実に姉らしい。
「……プリン、食べるってことでいいんだよな?」
「……うん」
「じゃ、今のうちに準備しとくか」
「……オレ、何か間違えたかな」
「そんなことないだろ。むしろ、カオルが人に気を遣ってる姿を見れて俺はちょっと安心したぞ」
「ど、どういうこと?」
「そのままの意味だよ。カオルが家族以外の人と話してる姿を見るなんて初めてだからな。なんかじーんと来た」
「そうだっけ……。まあ、そうかもだけど」
「ふたりが家に来る直前は緊張でガチガチになってたけど、大丈夫そうだな」
「だって、向こうの方が緊張してるんだもん……」
緊張している人の姿を見ると逆に冷静になる感覚は俺にも覚えがある。
「……なあ、どうして一条たちを家に呼んでもいいって言ったんだ?」
「……別に」
「そうか」
気にはなったが、カオルが言いたくないならそれでもいいと思った。
「……それより、ケン君は兄らしいことしてくれないの? オレ、がんばってるよ?」
それはその通りだ。緊張しているのは見ているだけでわかる。それでもカオルはちゃんとコミュニケーションを取り、気遣いまで見せている。
「そうだな……。でも、何かできることあるか?」
「……手、貸して」
「手? ……こうか?」
「もっと近く」
「お、おう」
「……ん」
目の前に手を持っていくと、カオルが顔を寄せてきた。
さらさらとした髪が肌の上を滑って、少しこそばゆい。
「っ……」
首と肩で挟まれる。カオルの血管と俺の血管が重なり合って、血流が交差する。
とくん、とくん、と。小さく細い首でも確かに脈打っていて、じんわりと温かい。
「……んっ」
「……落ち着いてきたか?」
「わかるの?」
「まあ、なんとなくな」
「もう少しだけ……」
「ん、わかった」
しばらくの間。静かな中で。ただ互いの体温と血流を感じ続けた。
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