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第六夜
義兄弟は食す
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「お待たせ。ごめんね、急に席外しちゃって」
「すみませんでした……」
テーブルに人数分のプリンとスプーンを用意したところで、部屋に一条姉妹が戻ってきた。あさひは肩に力が入っている様子だが、落ち着いてはいるようだ。
「あの、カオル君……。さっきは本当にごめんなさい。私が考えなしに発言しちゃって」
「そんなに気にしないでください。食べるところを見られるのは恥ずかしいけど、美味しいプリンを食べるのが嫌ってわけじゃないので」
「そうそう、プリン。とっても美味しいから二人とも期待してくれていいよー? あさひのお墨付きのプリンだからね」
テーブルに並べた4つのプリン。真っ白な色をしているのと、瓶詰めされているのが特徴だろうか。容器の底にカラメルが見当たらず、一見ヨーグルトにも見える。
「なんか、瓶詰めされてるだけで美味そうだな。どんなプリンなんだ?」
「……」
「……あさひ?」
「えっ、わ、私っ……? え、えと、えとっ……」
あさひがたどたどしくプリンの特徴を説明していく。その様子は学校の授業で行われる発表を想起させる、聞いているこちらまで緊張してしまうような物だった。
しかしつっかえながらも特徴を話の中でしっかりと強調しており、要旨は分かりやすかった
「クリームプリンか。そんなの食べたことないかもな」
「ほらほら、スプーンで掬ってもすぐ垂れちゃうんだよ。もうトロトロなんだから」
一条の真似をしてみると、確かにプリンはギリギリで個体を保っているほど柔らかいようだ。直接瓶に口をつけて飲んでしまうことも容易だろう。
「じゃあ、カオル食べてみるか?」
「……さ、先にケン君から食べていいよ」
「ん、そうか? じゃあお先に」
溢れそうになるプリンをなんとかスプーンの中に留めながら、一口食べてみる。
「……あー、これは美味いな」
「ほ、ほんとですか?」
「うん。なんか、飲める生クリームって感じだ。ていうか飲みたくなるな、これ」
「あっ……鹿島くん、本当に飲んじゃった」
瓶に口をつけて呷ると、口内にひんやりとしたプリンがなだれこんでくる。
濃厚な生クリームの風味が口の中いっぱいに広がっていって、それを勢いのままに喉の奥へ流し込んでいく。プリンは途中でつっかえることもなく、あっという間に胃の中へ消えていった。
「んっく……500ミリのペットボトルに入れて売って欲しいな、これ」
「ケン君、ちょっと行儀悪いかも……」
「えっ、そうか?」
「あはは、少なくとも女の子には真似できないかな。それにちょっともったいなくない?」
「あー、それはちょっと思ったかな」
「それじゃあ、鹿島くんは私たちがプリンを食べているのを見ててね。私たちはゆっくりと楽しむから♪」
「……カオルも一気飲みしないか?」
「普通に食べる」
「そうか……それじゃあ、ほら」
鈍色のスプーンに真っ白なプリンを乗せて、カオルの口元へ運んでいく。手元がわずかに震えるだけでプリンには波が立っていて、気を抜くと溢しかねない危うさだ。
「……あむっ」
少しだけ躊躇した後に、カオルは小さく口を開けてスプーンを中へ迎え入れた。
「……んっ、美味しい」
一条姉妹が見ている手前のためか、カオルのリアクションは少し薄い。しかしカオルの両の目は確かにキラキラと輝いていて、おそらくエッグタルトと同等以上の評価なのだろうことが窺える。
「……よかった」
自身のプリンにも口を付けずに静観していたあさひが深く安堵の息を吐いた。
「すみませんでした……」
テーブルに人数分のプリンとスプーンを用意したところで、部屋に一条姉妹が戻ってきた。あさひは肩に力が入っている様子だが、落ち着いてはいるようだ。
「あの、カオル君……。さっきは本当にごめんなさい。私が考えなしに発言しちゃって」
「そんなに気にしないでください。食べるところを見られるのは恥ずかしいけど、美味しいプリンを食べるのが嫌ってわけじゃないので」
「そうそう、プリン。とっても美味しいから二人とも期待してくれていいよー? あさひのお墨付きのプリンだからね」
テーブルに並べた4つのプリン。真っ白な色をしているのと、瓶詰めされているのが特徴だろうか。容器の底にカラメルが見当たらず、一見ヨーグルトにも見える。
「なんか、瓶詰めされてるだけで美味そうだな。どんなプリンなんだ?」
「……」
「……あさひ?」
「えっ、わ、私っ……? え、えと、えとっ……」
あさひがたどたどしくプリンの特徴を説明していく。その様子は学校の授業で行われる発表を想起させる、聞いているこちらまで緊張してしまうような物だった。
しかしつっかえながらも特徴を話の中でしっかりと強調しており、要旨は分かりやすかった
「クリームプリンか。そんなの食べたことないかもな」
「ほらほら、スプーンで掬ってもすぐ垂れちゃうんだよ。もうトロトロなんだから」
一条の真似をしてみると、確かにプリンはギリギリで個体を保っているほど柔らかいようだ。直接瓶に口をつけて飲んでしまうことも容易だろう。
「じゃあ、カオル食べてみるか?」
「……さ、先にケン君から食べていいよ」
「ん、そうか? じゃあお先に」
溢れそうになるプリンをなんとかスプーンの中に留めながら、一口食べてみる。
「……あー、これは美味いな」
「ほ、ほんとですか?」
「うん。なんか、飲める生クリームって感じだ。ていうか飲みたくなるな、これ」
「あっ……鹿島くん、本当に飲んじゃった」
瓶に口をつけて呷ると、口内にひんやりとしたプリンがなだれこんでくる。
濃厚な生クリームの風味が口の中いっぱいに広がっていって、それを勢いのままに喉の奥へ流し込んでいく。プリンは途中でつっかえることもなく、あっという間に胃の中へ消えていった。
「んっく……500ミリのペットボトルに入れて売って欲しいな、これ」
「ケン君、ちょっと行儀悪いかも……」
「えっ、そうか?」
「あはは、少なくとも女の子には真似できないかな。それにちょっともったいなくない?」
「あー、それはちょっと思ったかな」
「それじゃあ、鹿島くんは私たちがプリンを食べているのを見ててね。私たちはゆっくりと楽しむから♪」
「……カオルも一気飲みしないか?」
「普通に食べる」
「そうか……それじゃあ、ほら」
鈍色のスプーンに真っ白なプリンを乗せて、カオルの口元へ運んでいく。手元がわずかに震えるだけでプリンには波が立っていて、気を抜くと溢しかねない危うさだ。
「……あむっ」
少しだけ躊躇した後に、カオルは小さく口を開けてスプーンを中へ迎え入れた。
「……んっ、美味しい」
一条姉妹が見ている手前のためか、カオルのリアクションは少し薄い。しかしカオルの両の目は確かにキラキラと輝いていて、おそらくエッグタルトと同等以上の評価なのだろうことが窺える。
「……よかった」
自身のプリンにも口を付けずに静観していたあさひが深く安堵の息を吐いた。
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