両腕のない義弟との性事情

papporopueeee

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第六夜

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「……好きな人の助けになりたいなんて、別に不思議でも何でもないことでしょ。そんなありふれたこと、わざわざ言う必要あるの?」
「違うの……。私のはそんな綺麗な感情じゃないの。私は……私は何の取り柄もない、目立たない、地味な女の子だったから」

 あさひは訥々と語り出した。その心の内に秘めていた思いを。

「友達になりたい女の子がいても、話しかけられない。気になる男の子がいても、目で追うことしかできない。せっかくできた友達も、クラスが変わったら疎遠になっちゃって。私の側にずっといてくれたのはお姉ちゃんだけ。誰からも求められたことなんてない、ずっとお姉ちゃんに憧れてただけのだけの日陰者。それが私なの……」

 それは、俺があさひに抱いていた印象を肯定する言葉だった。オドオドとしていて、挙動不審。人とのコミュニケーションがあまり得意ではなさそうな少女。カオルを襲うとはとても思えない、大人しくて優しそうな女の子。

「引っ込み思案、人見知り、話すのが下手で、取り立てて特技があるわけでもない。自分のことがあんまり好きじゃなくて……むしろ嫌いで、こんな暗い性格なところがもっと嫌い」

 コミュニケーション能力は生きる上で重要ではあるが、必須ではない。どんな人間でも得意不得意があり、あさひがコミュニケーションを不得手としていてもそれだけでは人の価値は決まらない。
 でも、それを知っているのは社会をある程度知っている大人だけだ。あさひくらいの年齢の学生においては学校という狭い世界が全てであり、そこで上手く生きていくことこそが人生だ。

 学校で上手く立ち回れなければ自信も失くしてしまうだろう。カオルも特に学校には拒否反応を示していた。

「そんな私が、今日素敵な男の子と出会った。学校の大勢の中の一人じゃない。一対一のお友達になれる機会をもらえた。しかも……」
「……」
「……しかも、その男の子は……こんな私でも役に立てるかもって、そう思ってしまう男の子で……っ」

 少しだけ言葉を詰まらせた後に、あさひはそう口にした。

「……オレに両腕がないから?」
「……」

 あさひは何も言わず、その代わりに大粒の涙を零し始めた。

「ごめんなさい……っ。失礼なことだってわかってます。でも、思ってしまったんです。こんな、こんな私でもっ、役に立てるかもって……っ。カオル君みたいな素敵な子の役に立てたらって……それで、褒めてもらえたらって……わ、わたしっ……」

 あさひの抱いてしまった思いは確かにカオルに対して無礼だろう。明確に自身より劣っている存在を見つけて喜ぶなんて褒められたものではないだろう。

 けれど、非難されるべきだとは思わない。
 精一杯に感情を吐き出して謝罪をする姿は真摯だった。溢れる涙をボロボロと零して、顔をくしゃくしゃにして、それでも真っ直ぐにカオルを見つめるその姿は……。

 俺は当事者ではないから何も言えない。あさひを許すなんて俺が言うことはできない。
 だから、だからこそ、余計に感情を動かされてしまうのだろう。

「私は、カオル君に一目惚れをしました……。私は、カオル君の助けになりたいと思いました……っ。私はカオル君のことが好きです! ……でも、私はエゴな人間でした。自分勝手な感情で、身勝手なことをして、カオル君の気持ちなんて考えていなくて。ただ、私が役に立ちたいというだけで、カオル君に認めてもらいたいというだけで、カオル君のことを傷つけました。本当にごめんなさいっ……」

 床に水玉を彩りながら、あさひが頭を下げた。
 その拍子に綺麗に整えられていた髪が一房垂れて、緩く柔らかな曲線を描くクセっ毛が、あさひの顔を少しだけ隠した。

 誰かの助けになりたい。助けとなることで、自己を肯定したい。褒められることで存在を認められたかった。そのために自身が抱いた恋心までも利用してしまった。
 そんな思いを吐露したあさひの姿に、俺は既視感を覚えた。

 正確には既視感ではない。そういった思いを抱いていると本人に問い質したわけではない。ただ、いつの日かのカオルを見て、もしかしたらカオルがそういうことを考えているのかもしれないと思ったのだ。

 被介護者であるカオルが、介護者である俺の助けになりたがっているように見えたあの日。
 あの推測は間違っていなかったのかもしれないと、あさひの思いを聞き遂げたカオルの横顔を見て思った。
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