2 / 5
第2話 良好な関係
しおりを挟む
エミリオ様との出会いは悲しいものではありましたが、驚いたことにハモンド公爵家の皆様は、わたくしに好意的でいらっしゃいました。
公爵夫妻があの方の発言に、直々に謝ってくださるほどだったのです。
「ずっと自慢の一人息子だったのに、こんな屑男に育っていたとは……。
君にはすまないことをした。
廃嫡も考えたがあやつの政務に関する才能は非常に高く、当家から出して敵対勢力に飲み込まれては面倒なことになるほどなのだ」
ベロニカ様のおっしゃる通り、エミリオ様は国家の重鎮であるハモンド公爵閣下からも認められるほどの存在でした。
現在は宰相補佐でいらっしゃいますが、宰相様はご高齢で実際の仕事をされているのはエミリオ様なのです。
「君は家柄こそ申し分ないが、お父上の失策は皆が知るところだ。
当然我らも受けいれがたいと思っていた。
だがあやつの女を見る目がないことを世間に晒すわけにはいかない。
それで君との結婚を許したのだ」
やはりそうでしたか。
ベロニカ様のお話のすぐ後に、ハモンド公爵家から正式な釣書が届いたときにはそうではないかと思っていました。
どうやらエミリオ様はベロニカ様と結婚できなければ、金で言うことの聞く女性としか結婚しないと言ったそうなのです。
ですがこのハモンド公爵家と釣り合う家柄に、わたくしの家ほどお金に困っているところはございません。
「ハモンド公爵閣下、ハモンド公爵夫人。
わたくしは命の危険も予想される結婚から救われた上に、実家まで支援いただけるのです。
感謝しかございません。
エミリオ様にご不都合がないよう、誠心誠意この家に仕えさせていただきとう存じます」
期限は3年ですしね。
お世話になるのですから、出来る限りのことはさせていただきたいのです。
「ありがとう、フィリシア。
これからはわたくしたちのことを義父と義母と呼びなさい」
「はい、お義父様、お義母様」
3年と言っても契約結婚のことは公爵夫妻には内緒です。
わたくしは次期公爵夫人になる予定なので、今はそれに見合った教育を受けることになりました。
父が財産を奪われるまでは、わたくしもしっかりした先生について学んでいたので基本は出来ておりました。
あとは公爵夫人として必要な威厳や経験を身につけるだけでした。
「あなたがこれほど美しいのはとても大きな武器になるわ、フィリシア。
今はその可憐さで社交界の女どもを油断させ、男どもの心をとろかすのです。
もちろん貞操は守ってね」
「お義母様の仰せの通りにいたしますわ」
それからはお義母様について、社交界で生き抜いていくすべを学びました。
贅沢な品に慣れることも学びました。
そうでないと招待された先で気後れして、侮られるのです。
貧乏になる前でも触れたことのないような高価な品々は、わたくしの審美眼を磨いたのでした。
家政の取り仕切りができるよう、財政を学ぶことにもなりました。
帳簿の見方やつけ方、ものの価値について多くを学びました。
これはわたくしのお父様にも教えたいぐらいの知識なのです。
やはり公爵家は格が違います。
3年後、婚姻解消してもこの知識はわたくしの武器になることでしょう。
お義父さまの命で、わたくしは領地の視察も行うことになりました。
エミリオ様は国政で忙しい中でもまめに行っているそうで、同行させていただいたのです。
意外にもエミリオ様はわたくしを嫌って、邪険にするようなことはありませんでした。
しっかりエスコートしつつ、領民にも妻として紹介してくださいました。
外面は良くしておくつもりなのでしょう。
同じように夜会でのエスコートもいつも丁寧にしてくださいました。
陛下へのご挨拶まで、一緒にさせていただきました。
正妻なのですから当然と言えば当然なのですが、将来破婚が決定しているのにです。
ちょっと驚きました。
エミリオ様は同じ馬車に乗っても一言もお話になりませんが、わたくしの行動をよく観察なさっているようです。
領地へ向かう長旅の途中、わたくしが揺れで気分が悪くなったら馬車を止めて休憩してくださいました。
申しわけないので謝りますと、こうおっしゃいました。
「体調が悪い人間を無理に急がせるほど、急用ではない」
お義父様は屑男とおっしゃいましたが、本当にそのような人ならこのようにおっしゃってくださるのでしょうか?
こんなこともございました。
お義母様と王宮に来てほんの一瞬、1人になった隙があったのです。
その時見知らぬ男性に絡まれて、休憩室に押し込まれそうになりました。
あまりに怖くて叫び声をあげることもできませんでした。
ですがエミリオ様が風のように現れて、助けてくださいました。
「君のように若く、抵抗できない女性を狙う輩はどこにでもいる。
私の妻の地位にあるのだから、ちゃんと気を付けなさい。
母には言っておくので、君はもう帰るがいい」
お仕事中のはずなのに震えるわたくしをなだめるように抱きしめてくださり、馬車まで送ってくださいました。
本当は悪い方ではないのかもしれません。
エミリオ様がベロニカ様と愛し合ってなかったら……。
そう頭によぎったけれど、ほぼ没落状態であったわたくしがまともな結婚と支援を受けられただけでも幸せです。
多く望んではいけません。
そんなこんなで忙しい1年があっという間に過ぎ、エミリオ様以外の家族と使用人たちとは良好な関係を築くことができたのです。
公爵夫妻があの方の発言に、直々に謝ってくださるほどだったのです。
「ずっと自慢の一人息子だったのに、こんな屑男に育っていたとは……。
君にはすまないことをした。
廃嫡も考えたがあやつの政務に関する才能は非常に高く、当家から出して敵対勢力に飲み込まれては面倒なことになるほどなのだ」
ベロニカ様のおっしゃる通り、エミリオ様は国家の重鎮であるハモンド公爵閣下からも認められるほどの存在でした。
現在は宰相補佐でいらっしゃいますが、宰相様はご高齢で実際の仕事をされているのはエミリオ様なのです。
「君は家柄こそ申し分ないが、お父上の失策は皆が知るところだ。
当然我らも受けいれがたいと思っていた。
だがあやつの女を見る目がないことを世間に晒すわけにはいかない。
それで君との結婚を許したのだ」
やはりそうでしたか。
ベロニカ様のお話のすぐ後に、ハモンド公爵家から正式な釣書が届いたときにはそうではないかと思っていました。
どうやらエミリオ様はベロニカ様と結婚できなければ、金で言うことの聞く女性としか結婚しないと言ったそうなのです。
ですがこのハモンド公爵家と釣り合う家柄に、わたくしの家ほどお金に困っているところはございません。
「ハモンド公爵閣下、ハモンド公爵夫人。
わたくしは命の危険も予想される結婚から救われた上に、実家まで支援いただけるのです。
感謝しかございません。
エミリオ様にご不都合がないよう、誠心誠意この家に仕えさせていただきとう存じます」
期限は3年ですしね。
お世話になるのですから、出来る限りのことはさせていただきたいのです。
「ありがとう、フィリシア。
これからはわたくしたちのことを義父と義母と呼びなさい」
「はい、お義父様、お義母様」
3年と言っても契約結婚のことは公爵夫妻には内緒です。
わたくしは次期公爵夫人になる予定なので、今はそれに見合った教育を受けることになりました。
父が財産を奪われるまでは、わたくしもしっかりした先生について学んでいたので基本は出来ておりました。
あとは公爵夫人として必要な威厳や経験を身につけるだけでした。
「あなたがこれほど美しいのはとても大きな武器になるわ、フィリシア。
今はその可憐さで社交界の女どもを油断させ、男どもの心をとろかすのです。
もちろん貞操は守ってね」
「お義母様の仰せの通りにいたしますわ」
それからはお義母様について、社交界で生き抜いていくすべを学びました。
贅沢な品に慣れることも学びました。
そうでないと招待された先で気後れして、侮られるのです。
貧乏になる前でも触れたことのないような高価な品々は、わたくしの審美眼を磨いたのでした。
家政の取り仕切りができるよう、財政を学ぶことにもなりました。
帳簿の見方やつけ方、ものの価値について多くを学びました。
これはわたくしのお父様にも教えたいぐらいの知識なのです。
やはり公爵家は格が違います。
3年後、婚姻解消してもこの知識はわたくしの武器になることでしょう。
お義父さまの命で、わたくしは領地の視察も行うことになりました。
エミリオ様は国政で忙しい中でもまめに行っているそうで、同行させていただいたのです。
意外にもエミリオ様はわたくしを嫌って、邪険にするようなことはありませんでした。
しっかりエスコートしつつ、領民にも妻として紹介してくださいました。
外面は良くしておくつもりなのでしょう。
同じように夜会でのエスコートもいつも丁寧にしてくださいました。
陛下へのご挨拶まで、一緒にさせていただきました。
正妻なのですから当然と言えば当然なのですが、将来破婚が決定しているのにです。
ちょっと驚きました。
エミリオ様は同じ馬車に乗っても一言もお話になりませんが、わたくしの行動をよく観察なさっているようです。
領地へ向かう長旅の途中、わたくしが揺れで気分が悪くなったら馬車を止めて休憩してくださいました。
申しわけないので謝りますと、こうおっしゃいました。
「体調が悪い人間を無理に急がせるほど、急用ではない」
お義父様は屑男とおっしゃいましたが、本当にそのような人ならこのようにおっしゃってくださるのでしょうか?
こんなこともございました。
お義母様と王宮に来てほんの一瞬、1人になった隙があったのです。
その時見知らぬ男性に絡まれて、休憩室に押し込まれそうになりました。
あまりに怖くて叫び声をあげることもできませんでした。
ですがエミリオ様が風のように現れて、助けてくださいました。
「君のように若く、抵抗できない女性を狙う輩はどこにでもいる。
私の妻の地位にあるのだから、ちゃんと気を付けなさい。
母には言っておくので、君はもう帰るがいい」
お仕事中のはずなのに震えるわたくしをなだめるように抱きしめてくださり、馬車まで送ってくださいました。
本当は悪い方ではないのかもしれません。
エミリオ様がベロニカ様と愛し合ってなかったら……。
そう頭によぎったけれど、ほぼ没落状態であったわたくしがまともな結婚と支援を受けられただけでも幸せです。
多く望んではいけません。
そんなこんなで忙しい1年があっという間に過ぎ、エミリオ様以外の家族と使用人たちとは良好な関係を築くことができたのです。
430
あなたにおすすめの小説
愛人契約は双方にメリットを
しがついつか
恋愛
親の勝手により愛する者と引き裂かれ、政略結婚を強いられる者達。
不本意なことに婚約者となった男には結婚を約束した恋人がいた。
そんな彼にロラは提案した。
「私を書類上の妻として迎え入れ、彼女を愛人になさるおつもりはございませんか?」
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!
氷の王妃は跪かない ―褥(しとね)を拒んだ私への、それは復讐ですか?―
柴田はつみ
恋愛
亡国との同盟の証として、大国ターナルの若き王――ギルベルトに嫁いだエルフレイデ。
しかし、結婚初夜に彼女を待っていたのは、氷の刃のように冷たい拒絶だった。
「お前を抱くことはない。この国に、お前の居場所はないと思え」
屈辱に震えながらも、エルフレイデは亡き母の教え――
「己の誇り(たましい)を決して売ってはならない」――を胸に刻み、静かに、しかし凛として言い返す。
「承知いたしました。ならば私も誓いましょう。生涯、あなたと褥を共にすることはございません」
愛なき結婚、冷遇される王妃。
それでも彼女は、逃げも嘆きもせず、王妃としての務めを完璧に果たすことで、己の価値を証明しようとする。
――孤独な戦いが、今、始まろうとしていた。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
『話さない王妃と冷たい王 ―すれ違いの宮廷愛
柴田はつみ
恋愛
王国随一の名門に生まれたリディア王妃と、若き国王アレクシス。
二人は幼なじみで、三年前の政略結婚から穏やかな日々を過ごしてきた。
だが王の帰還は途絶え、宮廷に「王が隣国の姫と夜を共にした」との噂が流れる。
信じたいのに、確信に変わる光景を見てしまった夜。
王妃の孤独が始まり、沈黙の愛がゆっくりと崩れていく――。
誤解と嫉妬の果てに、愛を取り戻せるのか。
王宮を舞台に描く、切なく美しい愛の再生物語。
記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された
夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。
それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。
ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。
設定ゆるゆる全3話のショートです。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる