目がついてる町

たるみがうら

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身体でしか物事を感じれないんだね

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「知ってる───あの建物十年前は病院だったらしいよ」と言いアユミは古びた木のツルが窓を覆っている廃墟を指差した。
「いや、全然知らなかったわ、今度、肝試しに行こうか。」いつも帰る道の途中にあるにもかかわらず、俺はその廃墟を全く意識してなかった。この町が意図的に廃墟を隠しているような不思議な感覚に襲われた。
 
「良いよけど───タツミ強がるのは得意だけどさ。ビビリじゃん」アユミは俺を煽るように言った。
「ビビリに見えて、案外強いんだよ、俺は」と言いながら、廃墟を見る。
 
 その廃墟からは、なぜか三年前渋谷で起きた無差別殺人の記憶が思い出させられる。複数の男がライフルを持ち無差別に人を射殺した現場だった。
 俺はその現場に遭遇していた。あの時、恐怖より先に音が来た。頭を叩くような音に回避本能が刺激された。そこから、銃が誰かにより撃たれていることに気づかされた。弾切れが存在しないかのような、乱射に周りに流されるように俺は逃げた。
 ある程度離れた所で一緒にいた友達がいないことに気づいたが───
    俺は戻ろうとしなかった。
 
 あの時の無力感が今唐突に俺に襲いかかる。

「じゃまた明日。タツミ気をつけて帰ってね」と冗談めかす口ぶりでアユミは言った。
「アユミの方こそ、気をつけてな」
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