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第一章 世界の果てに咲く花
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「どうだ、もう慣れたか?」
「あんた以外には慣れたと思うけどね」
空を見上げていた彼女は、『銀の風』に向かって答える。
「ソレをまた聞いていたのか?」
「安心するのよ。私のやった事は無駄じゃ無かったって思えるから」
そう答えながら、彼女は黒い結晶をコートのポケットに入れる。
冬の終わりも近付き、まもなく短期間の春が来る。
「三人共、仲が良かったようだな。日記にもそのような事が書かれていただろう?」
「ええ。私は結局異分子のままだったんじゃないかと、ずっと思ってた。あの城で私が拾われた事は、皆にとって不幸だったんじゃないかと思ってた」
彼女は空を見ながら言う。
どんよりとした重い色の空は、雪ではなく雨を運んできたものだろう。
「雨が来るみたいだな。まもなく冬も終わりという事か。どうだ、望む生き方は出来そうなのか?」
「ま、そうね」
彼女は見上げたままで、苦笑いする。
この数ヵ月、ここで力を得たのは分かっている。
厳密にこの場所が地図の何処に描かれている場所なのかは、彼女にも分からない。
だが、体感温度や気候などは住み慣れたものと大差無いので、収容所でいうところの呪われた大地だろうと思っていた。
そこで彼女は『銀の風』を相手に、凄まじい力を身につけた。
「亜人を助けに行くのか?」
「助けに、っていう訳じゃ無いわね。私は私のワガママを貫くだけよ」
「動くか」
「もう、後悔したくないからね。イリーズは後悔さえも貴重な宝に感じられる程の人だったみたいだけど、私はそこまで大きくなれないから、ただワガママを通したいだけ」
彼女はそう言うと、軽く右手を上げる。
それに合わせて、一体の翼手竜が降りてくる。
「ソレで良いのか? お前ならもっと上級の竜を使役出来るだろうに」
「意味が無いわ。私を運んでもらうだけなんだから、彼で十分よ」
彼女はすぐ側に降りてきた翼手竜を撫でる。
黒い翼手竜は、彼女の手に頭を寄せて甘える様な仕草を見せる。
「驚く程懐いているな。竜と言う生物は力を持つ者に頭を垂れると言われているが、私であってもそこまで懐く事は無いだろう」
「多分、そう言う事じゃないと思うわよ。彼は戦士なんだと思う。私が戦場へ向かう事を知っているのよ」
彼女の言葉に『銀の風』は頷く。
「なるほどな。監視者である私が戦場へ向かう事など無い。あったとしても最前線に立つ事は無いだろう。だから竜としては物足りないのか」
「私達はそう言う生き物なのよ」
その言葉の後、彼女は頭を垂れた翼手竜に乗る。
「私達は最前線で血を浴び、無念と恨みをその身に蓄積させる事で生きている実感を得る、魔物と同等の生き物なの。あんたとは違うわ」
「そこまで卑下する事も無いだろう」
「うん? 私はこの生き方に誇りを持ってるわよ? 私は生き延びたんじゃないくて、生かされたんだから。この際、この身に溜められるだけの呪いを集めてみようと思ってるの」
そう言うと彼女は、もう一度空を見上げる。
「そう言う生き方をしている男を一人知ってるわ。真実を隠して、その身に呪いと恨みを集め続けている生き方をしている男がいるの。私はもう一度、ゆっくり話したい。お互いに命を賭けた、対等の立場で、等価の言葉で話したい」
「ほう、面白い事を言うのだな」
「あんたの受け売りだけどね」
彼女がそう言うと、翼手竜が大きく翼を広げる。
「ありがとう。もう二度と会う事は無いでしょうけど」
「そうだな。私は本来監視者であり、黒い剣の所有者の行動を記す事が役目だ。その者が何をしようと私には関係の無い事なのだがな」
そう言いながら、『銀の風』は彼女に様々な事を教え、共に生活してきた。
ただ監視しているだけの立場であるはずの『銀の風』だが、イリーズの死に立ち会ったというだけで、彼女を拾い上げてきた。
暖かみに欠け、相手を思いやる心とは無縁ではあったが、それでもただその場に居合わせただけにしては、十分過ぎるほど面倒を見てもらったと彼女は感じていた。
収容所やイリーズ達と共にいた頃と比べると、彼女の戦闘技術は劇的に跳ね上がり、『銀の風』の評価では、彼女一人で天空の騎士の一団に匹敵すると言われている。
もっとも彼女は比較されている存在の事をよく知らない。
サラーマは自身をそう言っていたし、銀仮面のラナフリートや『銀の風』と共に暮らしていた時に同じ様なマントや装備の者を見かけたので、それが天空の騎士と言うモノだと予想は付けている。
しかし、そのメンツと戦闘行為を行った訳ではないので、一団と同等と言われてもピンとこない。
その上、彼女の戦闘能力の大半は使用している武器に支えられていると言う事も、自覚している。
それでも構わない。
彼女は何も戦士になりたいと思ったわけでも、強い敵と戦いたいと思ったわけでもない。
今の彼女が戦い、勝つべきはただ一人。
彼女の思いを感じたのか、翼手竜は羽ばたき宙に舞う。
「さあ、行ってこい。『生命の花』の名を広めるがいい」
飛び立つ彼女に、『銀の風』はそう呟いた。
「あんた以外には慣れたと思うけどね」
空を見上げていた彼女は、『銀の風』に向かって答える。
「ソレをまた聞いていたのか?」
「安心するのよ。私のやった事は無駄じゃ無かったって思えるから」
そう答えながら、彼女は黒い結晶をコートのポケットに入れる。
冬の終わりも近付き、まもなく短期間の春が来る。
「三人共、仲が良かったようだな。日記にもそのような事が書かれていただろう?」
「ええ。私は結局異分子のままだったんじゃないかと、ずっと思ってた。あの城で私が拾われた事は、皆にとって不幸だったんじゃないかと思ってた」
彼女は空を見ながら言う。
どんよりとした重い色の空は、雪ではなく雨を運んできたものだろう。
「雨が来るみたいだな。まもなく冬も終わりという事か。どうだ、望む生き方は出来そうなのか?」
「ま、そうね」
彼女は見上げたままで、苦笑いする。
この数ヵ月、ここで力を得たのは分かっている。
厳密にこの場所が地図の何処に描かれている場所なのかは、彼女にも分からない。
だが、体感温度や気候などは住み慣れたものと大差無いので、収容所でいうところの呪われた大地だろうと思っていた。
そこで彼女は『銀の風』を相手に、凄まじい力を身につけた。
「亜人を助けに行くのか?」
「助けに、っていう訳じゃ無いわね。私は私のワガママを貫くだけよ」
「動くか」
「もう、後悔したくないからね。イリーズは後悔さえも貴重な宝に感じられる程の人だったみたいだけど、私はそこまで大きくなれないから、ただワガママを通したいだけ」
彼女はそう言うと、軽く右手を上げる。
それに合わせて、一体の翼手竜が降りてくる。
「ソレで良いのか? お前ならもっと上級の竜を使役出来るだろうに」
「意味が無いわ。私を運んでもらうだけなんだから、彼で十分よ」
彼女はすぐ側に降りてきた翼手竜を撫でる。
黒い翼手竜は、彼女の手に頭を寄せて甘える様な仕草を見せる。
「驚く程懐いているな。竜と言う生物は力を持つ者に頭を垂れると言われているが、私であってもそこまで懐く事は無いだろう」
「多分、そう言う事じゃないと思うわよ。彼は戦士なんだと思う。私が戦場へ向かう事を知っているのよ」
彼女の言葉に『銀の風』は頷く。
「なるほどな。監視者である私が戦場へ向かう事など無い。あったとしても最前線に立つ事は無いだろう。だから竜としては物足りないのか」
「私達はそう言う生き物なのよ」
その言葉の後、彼女は頭を垂れた翼手竜に乗る。
「私達は最前線で血を浴び、無念と恨みをその身に蓄積させる事で生きている実感を得る、魔物と同等の生き物なの。あんたとは違うわ」
「そこまで卑下する事も無いだろう」
「うん? 私はこの生き方に誇りを持ってるわよ? 私は生き延びたんじゃないくて、生かされたんだから。この際、この身に溜められるだけの呪いを集めてみようと思ってるの」
そう言うと彼女は、もう一度空を見上げる。
「そう言う生き方をしている男を一人知ってるわ。真実を隠して、その身に呪いと恨みを集め続けている生き方をしている男がいるの。私はもう一度、ゆっくり話したい。お互いに命を賭けた、対等の立場で、等価の言葉で話したい」
「ほう、面白い事を言うのだな」
「あんたの受け売りだけどね」
彼女がそう言うと、翼手竜が大きく翼を広げる。
「ありがとう。もう二度と会う事は無いでしょうけど」
「そうだな。私は本来監視者であり、黒い剣の所有者の行動を記す事が役目だ。その者が何をしようと私には関係の無い事なのだがな」
そう言いながら、『銀の風』は彼女に様々な事を教え、共に生活してきた。
ただ監視しているだけの立場であるはずの『銀の風』だが、イリーズの死に立ち会ったというだけで、彼女を拾い上げてきた。
暖かみに欠け、相手を思いやる心とは無縁ではあったが、それでもただその場に居合わせただけにしては、十分過ぎるほど面倒を見てもらったと彼女は感じていた。
収容所やイリーズ達と共にいた頃と比べると、彼女の戦闘技術は劇的に跳ね上がり、『銀の風』の評価では、彼女一人で天空の騎士の一団に匹敵すると言われている。
もっとも彼女は比較されている存在の事をよく知らない。
サラーマは自身をそう言っていたし、銀仮面のラナフリートや『銀の風』と共に暮らしていた時に同じ様なマントや装備の者を見かけたので、それが天空の騎士と言うモノだと予想は付けている。
しかし、そのメンツと戦闘行為を行った訳ではないので、一団と同等と言われてもピンとこない。
その上、彼女の戦闘能力の大半は使用している武器に支えられていると言う事も、自覚している。
それでも構わない。
彼女は何も戦士になりたいと思ったわけでも、強い敵と戦いたいと思ったわけでもない。
今の彼女が戦い、勝つべきはただ一人。
彼女の思いを感じたのか、翼手竜は羽ばたき宙に舞う。
「さあ、行ってこい。『生命の花』の名を広めるがいい」
飛び立つ彼女に、『銀の風』はそう呟いた。
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