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第一章 世界の果てに咲く花
生命の花 4
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特殊な魔術で声を広めているのだ。
この声はここだけではなく、すべての陣と収容所にまで届いている。
『陣から翼手竜が見えるか。その竜のいる陣を今から攻撃する。戦う意志の無い者、降伏の意志の有る者は十秒以内に陣から立ち去れ。それが出来なければ、陣にいる者は老若男女を問わず敵と見なし、皆殺しにする』
とてつもない暴論である。
降伏の意志の有無を問うにしても、十秒はあまりに短い。この氷雨の降りしきる中、防寒具を身につけて陣がら出るだけでも十秒では不可能である。十秒で降伏の意志を伝えるのは、防寒具などの装備を身に付けず、今すぐに陣を出て頭を垂れる他にない。
つまり彼女は、最初からこの陣にいる者を、言葉通り老若男女を皆殺しにするつもりだったという事だ。
彼女の意思を汲み取って翼手竜は飛び上がり、彼女が前に立つ陣地の上を飛び回っている。
それはこの陣地にいる者達だけでなく、この集団全てに彼女の意思を伝えるためであり、士気を削ぐ為のパフォーマンスでもある。
攻撃を宣言された陣でも、敵意より先に戸惑いが支配していた。
竜、と言っても翼手竜が一匹。攻撃を宣言してきたのは見る限りでは魔術師。声を聞く限りでは女である。
それが一方的に降伏勧告をしてきた事に対し、現実感が無いのだ。
翼手竜は鳥とは比べ物にならない危険度とはいえ、伝説の竜の様に炎を吐く訳ではないので、武装しているなどでなければいかに頭上を取られたとしても、直接攻撃しか手段が無い以上、対処としては猛禽と変わらない。
また相手が魔術師で攻撃を宣言されているのなら、対魔術用の備えをしておくだけで攻撃を無力化出来る。魔術師が不意打ちしてくるのなら、攻撃宣言などまったく不必要な行動なのだ。
結局彼女のカウントダウンはそのまま終了し、その間には何も動きはなかった。
『降伏の意思無し、と受け取る。それでは宣言通り、一人残らず殲滅する』
彼女は無慈悲な宣言をする。
「おい、何ふざけてやがる。死にたいのか、亜人の小娘」
陣地を見張っていた兵士の一人が、見かねて槍を片手に彼女に言う。
相手の目的が見えてこない以上、挑発に乗らない事。これは鉄則であるが、見張りの兵士は目の前で好き勝手な事を言っている、とんがり帽子の女に我慢ならなかったらしい。
が、それは彼が人生で最後に発した意味のある言葉となった。
『それじゃ、始めましょうか』
彼女が左手に持つ銀色の柄を振ると発輝色の鞭が伸び、その兵士に絡みつくと、次の瞬間には兵士を空高くに放り投げていた。
それを合図に、彼女の振る発輝色の鞭は、鞭というより巨大な大蛇や触手の様に伸び、陣地内を縦横無尽に這い回る。
常識の範囲で考えるなら、アレは武器としては機能しない。まず、長過ぎる鞭と言うのはまともに振る事は出来ず、そもそも振ったところで武器にならない。長すぎる縄をいかに振ったところで力を伝える事はできず、相手にダメージを与えられないのだ。その長すぎる形状だけでも充分武器として機能しないのだが、それが複数となると、目一杯腕を振り回したところで根元くらいしか動かせず、先端はまったく動きはしないだろう。
が、魔力を帯びた武器に、物理の常識は通用しない。
彼女が銀の柄を振ると、発輝色の長過ぎる鞭は陣に襲いかかる。簡易の建物を粉砕し、そこにいる兵を捉えては上空へ放り投げる。
瞬く間に陣は破壊音と怒声と悲鳴だけが響く、阿鼻叫喚の地獄を作り出していた。
陣の中には少なくとも数十人はいたはずだが、その人物達は発輝色の魔力の鞭に捉えられては、高々と上空に放り上げられる。
その姿は恐ろしく不吉な何かに見えた事だろう。
発輝色の魔力の鞭が捉えた者を上空へ放り投げる時、その光が空へと立ち上がる。それが複数立ち上がった時、まるで巨大な複数の頭を持つ大蛇と言うより、複数の尾を持つ魔獣がいる様に見えるのだ。
それは、伝説として語られる、神のごとき力を持つと言われる最凶最悪の妖獣。
伝承の中にのみ見る事の出来る、その妖獣の名は『ナインテイル』と言われる。
伝承や伝説によってその姿は様々に語られ、特に有名なのは九つの尾を持つ狐の姿だが、その力は伝説級の竜であってすら比肩する事すら出来ず、不死王と並ぶ災厄として語り継がれている。
陣を破壊し尽くし、陣にいた者達を一人の例外もなく上空に打ち上げられるまで、驚く程短い時間で行われた。
『竜がいる陣に攻撃を仕掛ける。陣の上空に竜が見えたら、攻撃対象に選ばれていると思う事だ』
魔術師の声が聞こえた後、全ての陣の上空に雨を遮る程の数の翼手竜が飛んでいた。
一体一体は、見た目に物騒ではあるが、大きめの鳥と大して変わらない程度の戦闘能力しか無い。しかし、それが百匹単位となれば、戦力としても尋常ではない。
『徹底抗戦か、全面降伏か。よく考えて答えを出す事だ』
今度は十秒と言う無茶な条件はつけないが、陣の上空には小型とは言え翼手竜の群れが飛び交い、しかも一つの陣を見るも無残な何かに変えた直後である。これは交渉と言うより脅迫である。
『こうなりたくなければ、身の振り方をよく考えろ』
彼女の声に合わせるように、上空に放り投げられた者達が、それぞれの陣に降り注ぐ。単純に重力だけに影響されているとは思えない勢いで、放り投げられた者達は陣の中でも備品をまとめている簡易の建物を粉砕する。
『猶予は明日だ。降伏の意思を示すのなら立ち去れ。明日、敵対する意思を見せるのなら、自分達がどうなるか、今のでわかっただろう』
彼女はそれだけ言うと、翼手竜の群れを消し、指笛で一体だけ自分の元に呼ぶと何事も無かった様に竜に乗る。
これで、収容所に戻った時に歓迎は期待できなくなった。
もしかしたら、もっと上手い方法があったかもしれない。だが、彼女が選んだのは恐怖で彩られたメッセージを送る事だった。
ギリクにならきっと届くと言う確信があった。
正体を知る今となっては、それは間違いなく届く。
災厄の脅威を振りまく恐怖の存在は、ギリクだけではない、と。
この声はここだけではなく、すべての陣と収容所にまで届いている。
『陣から翼手竜が見えるか。その竜のいる陣を今から攻撃する。戦う意志の無い者、降伏の意志の有る者は十秒以内に陣から立ち去れ。それが出来なければ、陣にいる者は老若男女を問わず敵と見なし、皆殺しにする』
とてつもない暴論である。
降伏の意志の有無を問うにしても、十秒はあまりに短い。この氷雨の降りしきる中、防寒具を身につけて陣がら出るだけでも十秒では不可能である。十秒で降伏の意志を伝えるのは、防寒具などの装備を身に付けず、今すぐに陣を出て頭を垂れる他にない。
つまり彼女は、最初からこの陣にいる者を、言葉通り老若男女を皆殺しにするつもりだったという事だ。
彼女の意思を汲み取って翼手竜は飛び上がり、彼女が前に立つ陣地の上を飛び回っている。
それはこの陣地にいる者達だけでなく、この集団全てに彼女の意思を伝えるためであり、士気を削ぐ為のパフォーマンスでもある。
攻撃を宣言された陣でも、敵意より先に戸惑いが支配していた。
竜、と言っても翼手竜が一匹。攻撃を宣言してきたのは見る限りでは魔術師。声を聞く限りでは女である。
それが一方的に降伏勧告をしてきた事に対し、現実感が無いのだ。
翼手竜は鳥とは比べ物にならない危険度とはいえ、伝説の竜の様に炎を吐く訳ではないので、武装しているなどでなければいかに頭上を取られたとしても、直接攻撃しか手段が無い以上、対処としては猛禽と変わらない。
また相手が魔術師で攻撃を宣言されているのなら、対魔術用の備えをしておくだけで攻撃を無力化出来る。魔術師が不意打ちしてくるのなら、攻撃宣言などまったく不必要な行動なのだ。
結局彼女のカウントダウンはそのまま終了し、その間には何も動きはなかった。
『降伏の意思無し、と受け取る。それでは宣言通り、一人残らず殲滅する』
彼女は無慈悲な宣言をする。
「おい、何ふざけてやがる。死にたいのか、亜人の小娘」
陣地を見張っていた兵士の一人が、見かねて槍を片手に彼女に言う。
相手の目的が見えてこない以上、挑発に乗らない事。これは鉄則であるが、見張りの兵士は目の前で好き勝手な事を言っている、とんがり帽子の女に我慢ならなかったらしい。
が、それは彼が人生で最後に発した意味のある言葉となった。
『それじゃ、始めましょうか』
彼女が左手に持つ銀色の柄を振ると発輝色の鞭が伸び、その兵士に絡みつくと、次の瞬間には兵士を空高くに放り投げていた。
それを合図に、彼女の振る発輝色の鞭は、鞭というより巨大な大蛇や触手の様に伸び、陣地内を縦横無尽に這い回る。
常識の範囲で考えるなら、アレは武器としては機能しない。まず、長過ぎる鞭と言うのはまともに振る事は出来ず、そもそも振ったところで武器にならない。長すぎる縄をいかに振ったところで力を伝える事はできず、相手にダメージを与えられないのだ。その長すぎる形状だけでも充分武器として機能しないのだが、それが複数となると、目一杯腕を振り回したところで根元くらいしか動かせず、先端はまったく動きはしないだろう。
が、魔力を帯びた武器に、物理の常識は通用しない。
彼女が銀の柄を振ると、発輝色の長過ぎる鞭は陣に襲いかかる。簡易の建物を粉砕し、そこにいる兵を捉えては上空へ放り投げる。
瞬く間に陣は破壊音と怒声と悲鳴だけが響く、阿鼻叫喚の地獄を作り出していた。
陣の中には少なくとも数十人はいたはずだが、その人物達は発輝色の魔力の鞭に捉えられては、高々と上空に放り上げられる。
その姿は恐ろしく不吉な何かに見えた事だろう。
発輝色の魔力の鞭が捉えた者を上空へ放り投げる時、その光が空へと立ち上がる。それが複数立ち上がった時、まるで巨大な複数の頭を持つ大蛇と言うより、複数の尾を持つ魔獣がいる様に見えるのだ。
それは、伝説として語られる、神のごとき力を持つと言われる最凶最悪の妖獣。
伝承の中にのみ見る事の出来る、その妖獣の名は『ナインテイル』と言われる。
伝承や伝説によってその姿は様々に語られ、特に有名なのは九つの尾を持つ狐の姿だが、その力は伝説級の竜であってすら比肩する事すら出来ず、不死王と並ぶ災厄として語り継がれている。
陣を破壊し尽くし、陣にいた者達を一人の例外もなく上空に打ち上げられるまで、驚く程短い時間で行われた。
『竜がいる陣に攻撃を仕掛ける。陣の上空に竜が見えたら、攻撃対象に選ばれていると思う事だ』
魔術師の声が聞こえた後、全ての陣の上空に雨を遮る程の数の翼手竜が飛んでいた。
一体一体は、見た目に物騒ではあるが、大きめの鳥と大して変わらない程度の戦闘能力しか無い。しかし、それが百匹単位となれば、戦力としても尋常ではない。
『徹底抗戦か、全面降伏か。よく考えて答えを出す事だ』
今度は十秒と言う無茶な条件はつけないが、陣の上空には小型とは言え翼手竜の群れが飛び交い、しかも一つの陣を見るも無残な何かに変えた直後である。これは交渉と言うより脅迫である。
『こうなりたくなければ、身の振り方をよく考えろ』
彼女の声に合わせるように、上空に放り投げられた者達が、それぞれの陣に降り注ぐ。単純に重力だけに影響されているとは思えない勢いで、放り投げられた者達は陣の中でも備品をまとめている簡易の建物を粉砕する。
『猶予は明日だ。降伏の意思を示すのなら立ち去れ。明日、敵対する意思を見せるのなら、自分達がどうなるか、今のでわかっただろう』
彼女はそれだけ言うと、翼手竜の群れを消し、指笛で一体だけ自分の元に呼ぶと何事も無かった様に竜に乗る。
これで、収容所に戻った時に歓迎は期待できなくなった。
もしかしたら、もっと上手い方法があったかもしれない。だが、彼女が選んだのは恐怖で彩られたメッセージを送る事だった。
ギリクにならきっと届くと言う確信があった。
正体を知る今となっては、それは間違いなく届く。
災厄の脅威を振りまく恐怖の存在は、ギリクだけではない、と。
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