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第一章 世界の果てに咲く花
始まりの終わり 3
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「こんな夜中に何処に行くつもり?」
収容所の門の前に、メルディスと二三一が立っていた。
「皆をこれ以上怖がらせたくないのよ。十二……、シャオとか私を見て凄く怯えてるし、そのせいでシェルには睨まれるし。アレって結構キツいわよ」
「まあ、あの姉妹の事は許してやってくれよ。特別小心者なんだから」
「あんたやメルディスが怖いもの知らずなだけよ」
「そんな事は無いさ。俺は干物の小人にビビってたし」
二三一は笑う。
「いや、アレは私もビビったって」
エテュセはそう言うと、ふと思った事を尋ねる。
「ところで、何でまだ二三一なの? 本名とか名乗らないの?」
「これは俺のケジメだよ。俺はここでまだ何も成していない。そんな俺が名前を名乗ることは出来ない。何か成した時に、俺は胸を張って名前を名乗ることが出来ると思うんだ」
「つくづく戦士なのね」
エテュセはそう言ったあと、メルディスを見る。
「メルディス、貴女の戦場はまだここよ。四季が一周するくらいまでは、貴女を頼ってここを訪れる亜人も多いはず。西側との連携もしっかり取って、地盤固めをしてもらわないと。女王メルディスの真価が問われるわね」
「先手を取られたか。本当は私も貴女と一緒に行きたかったんだけど」
メルディスは苦笑いして言う。
「私は留守役って事ね。蜂起の時と同じで」
「留守役って、留守して無かったですよ、メルディス様」
二三一がさらっと言う。
「え? そうなの? メルディス、どう言う事?」
「え? わ、私、ちゃんと留守役してたでしょ?」
「いやいや、してなかったですよ? 留守役どころか最前線に出てたじゃ無いですか。大体奇襲があるかもってエテュセがいってたのに、ギリクとエテュセの戦いの場に行こうとしたり、蜂起の初日でも最前線に出てましたよね? そのお陰でスパードさんは助けられましたけど」
「ちょっと待って。スパードさん助けるって、門を閉めるとか閉めないとかの話の時よね? 何でそんな所にメルディスがいるのよ?」
エテュセに言われ、メルディスはわけもなく空を見上げる。
雨はやんでいるが、厚い雲に覆われた夜空は星どころか月も見えない。
「あ、あれ? そ、そうだった?」
「エテュセ、女王は俺が見張っていてやるから、お前はお前の思う事をやって来ればいい。ま、俺ごときが言うまでない事だとは思うけどな」
二三一はエテュセに右手を伸ばす。
「何かあったら呼んでくれ。エテュセで手に負えない事は俺にも手に負えないと思うが、それでも協力は惜しまない」
「その時には助けてって泣きつくわよ、ありがと。でもまずは私より、そこのわがままクイーンを監視しておいて。親衛隊長様はどうにも頼りないし」
「また怒らせる様な事を」
エテュセは二三一の右手をしっかり握る。
「まだ、絶対安全とは言えないわよ。油断しないでね」
「ああ、心配無い。そっちこそ不必要に敵を作って、恨みの山を築かない様にしてくれよ。我らが女王様でも、容量を超えては受け入れられないんだからな」
「ええ、気をつけるわ」
エテュセもそこは分かっている。
メルディスに呪いを背負わせる訳にはいかない。それら負の部分を背負うのはエテュセの役割であり、メルディスは人や亜人を問わず希望の光でなければならないのだから。
「いつでも帰ってきても良いんだからね。ケヴィンに乗って」
「ええ、そのつもり。もしかしたら、私の所に呼ぶかもね」
メルディスの言葉に、エテュセは笑顔で答える。
収容所の門を出ると、エテュセは翼手竜を呼んでその背に乗る。
一度振り返ると、メルディスも二三一もエテュセに頷いてみせる。
後に歴史に名を残す人物の中でも、謎の多い人物である『生命の花』の名を持つ少女。
その人物が表舞台に上がるための最初の一歩を踏み出したのは、正にこの瞬間だった。
収容所の門の前に、メルディスと二三一が立っていた。
「皆をこれ以上怖がらせたくないのよ。十二……、シャオとか私を見て凄く怯えてるし、そのせいでシェルには睨まれるし。アレって結構キツいわよ」
「まあ、あの姉妹の事は許してやってくれよ。特別小心者なんだから」
「あんたやメルディスが怖いもの知らずなだけよ」
「そんな事は無いさ。俺は干物の小人にビビってたし」
二三一は笑う。
「いや、アレは私もビビったって」
エテュセはそう言うと、ふと思った事を尋ねる。
「ところで、何でまだ二三一なの? 本名とか名乗らないの?」
「これは俺のケジメだよ。俺はここでまだ何も成していない。そんな俺が名前を名乗ることは出来ない。何か成した時に、俺は胸を張って名前を名乗ることが出来ると思うんだ」
「つくづく戦士なのね」
エテュセはそう言ったあと、メルディスを見る。
「メルディス、貴女の戦場はまだここよ。四季が一周するくらいまでは、貴女を頼ってここを訪れる亜人も多いはず。西側との連携もしっかり取って、地盤固めをしてもらわないと。女王メルディスの真価が問われるわね」
「先手を取られたか。本当は私も貴女と一緒に行きたかったんだけど」
メルディスは苦笑いして言う。
「私は留守役って事ね。蜂起の時と同じで」
「留守役って、留守して無かったですよ、メルディス様」
二三一がさらっと言う。
「え? そうなの? メルディス、どう言う事?」
「え? わ、私、ちゃんと留守役してたでしょ?」
「いやいや、してなかったですよ? 留守役どころか最前線に出てたじゃ無いですか。大体奇襲があるかもってエテュセがいってたのに、ギリクとエテュセの戦いの場に行こうとしたり、蜂起の初日でも最前線に出てましたよね? そのお陰でスパードさんは助けられましたけど」
「ちょっと待って。スパードさん助けるって、門を閉めるとか閉めないとかの話の時よね? 何でそんな所にメルディスがいるのよ?」
エテュセに言われ、メルディスはわけもなく空を見上げる。
雨はやんでいるが、厚い雲に覆われた夜空は星どころか月も見えない。
「あ、あれ? そ、そうだった?」
「エテュセ、女王は俺が見張っていてやるから、お前はお前の思う事をやって来ればいい。ま、俺ごときが言うまでない事だとは思うけどな」
二三一はエテュセに右手を伸ばす。
「何かあったら呼んでくれ。エテュセで手に負えない事は俺にも手に負えないと思うが、それでも協力は惜しまない」
「その時には助けてって泣きつくわよ、ありがと。でもまずは私より、そこのわがままクイーンを監視しておいて。親衛隊長様はどうにも頼りないし」
「また怒らせる様な事を」
エテュセは二三一の右手をしっかり握る。
「まだ、絶対安全とは言えないわよ。油断しないでね」
「ああ、心配無い。そっちこそ不必要に敵を作って、恨みの山を築かない様にしてくれよ。我らが女王様でも、容量を超えては受け入れられないんだからな」
「ええ、気をつけるわ」
エテュセもそこは分かっている。
メルディスに呪いを背負わせる訳にはいかない。それら負の部分を背負うのはエテュセの役割であり、メルディスは人や亜人を問わず希望の光でなければならないのだから。
「いつでも帰ってきても良いんだからね。ケヴィンに乗って」
「ええ、そのつもり。もしかしたら、私の所に呼ぶかもね」
メルディスの言葉に、エテュセは笑顔で答える。
収容所の門を出ると、エテュセは翼手竜を呼んでその背に乗る。
一度振り返ると、メルディスも二三一もエテュセに頷いてみせる。
後に歴史に名を残す人物の中でも、謎の多い人物である『生命の花』の名を持つ少女。
その人物が表舞台に上がるための最初の一歩を踏み出したのは、正にこの瞬間だった。
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