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第4話 生まれながらの不平等と定め
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「ザッハハハ!!」
スネーキは止めることなく、リューマを殴り続けた。リューマが超回復する度に容赦なく岩石の拳を食らわせていた。
痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬって!
「君も凍らせた地面や壁に潜ればいいじゃない。」
やるかよ、気持ち悪りぃ。
「馬鹿な男ね。」
リューマはフローズンを使うための隙を伺っているようだが、スネーキは一瞬の隙も見せない。それに加え、その拳の1つ1つは死ぬ方がマシだと思わさせるようなものであった。
「超回復は私の力。そう何度も永続で使える訳じゃないわ。そろそろ底をついちゃう。」
くっ、こいつ。一撃が重いってのに全く隙がない。てか灰龍とか言ってたからわかりにくかったけどスネーキの眼、両方同じ色じゃないか?
「確かに、言われてみればそうだね。って、馬鹿か! 戦闘中になんてこと考えてるのよ。」
きいてみるよ。
「おい…ス、スネーキ! なんで…お前…の眼…両方…同じなんだ!?」
殴られ続ける中、必死で問うリューマ。
「流石にききやしないでし…」
「ん? 確かに。貴様の眼は左だけ紫色だ。」
スネーキは一旦、殴るのを止め、眼鏡をとった。
「きいた!?」
「ほら、両方同じだ。」
スネーキは不思議そうな目でリューマを見つめた。戦闘中の敵同士がこうして言葉を交わすことは前代未聞だろう。
「アイラは何も知らないみたいだしなぁ。」
「アイラ? 誰だそいつ?」
「そっか、お前知らなかったな。俺の中のドラゴンだ。」
話はどんどん戦闘から遠ざかるがスネーキはリューマの発言を信じきれなかった。
「貴様の中にドラゴンだ? 確かに灰龍と契約を交わしたが、それ以来声もきいてないぞ。さては僕を騙してその隙に逃げるつもりだな?」
リューマの首を握りしめ、息の根を止めようとする。
「んっ…グッ、い…息がっ…」
アイラ、なんとかできないのか?
「この人、石だから冷たさが伝わってないし、もう打てる手はないわ。死ぬわね。」
くっそぉ。ここで死ぬのか、俺。死んだらどうなるんかな。生き返るのかな。
「君が死んでも私は魂として他の人に乗り移れるわ。」
言い方が怖ぇよ。
「おいおい、リューマ。お前の魔力が小さくなっているようだが、そんな奴に苦戦してるのか? なっさけねぇな。」
「「ん!?」」
スネーキはリューマの首を片手で掴み直し、謎のイケメンに耳を傾けた。
「ほぉ、さっきのアホ面こいてた駄目剣士か。刀も持ってないでどう僕に勝つんだ? ザッハハ。」
謎のイケメンは聞こえていないのか、そのとんがった八重歯を見せびらかすかのように微笑んで答えようともしない。
「貴様、僕を無視するとはいい度胸だな!」
「や、やめとけ。そいつは今…聞こえて…いないんだ。目も…み、見えていない。ニヒッ。」
「何!? そんなくたばり寸前の野郎が僕に喧嘩を!?」
「フッ。思ってた通りの雑魚だな。って、ガァ!? ヤギに刀喰われたままだった!」
「先に貴様から始末してあげようか。」
「まぁいい。剣士だからって剣しか使えない訳じゃねぇしな。」
謎のイケメンは二足歩行でゆっくりとスネーキに近づいていった。スネーキは掴んでいたリューマから手を離し、謎のイケメンにヘソを向け、飛びかかる瞬間を待っていた。
超回復力の持ち主、リューマも流石にやられすぎたせいか、なかなか回復できないまま、体も動かず、横目で謎のイケメンとスネーキを見ていた。
「この男、邪悪な気が増している!? やはり只者ではなさそうだわ。」
そうか…後で仲間に…しない…とな。ニッヒヒ。
「おりゃぁ! ん!?」
スネーキはその岩石の拳で謎のイケメンに飛びかかろうとしたが、身体は言うことをきかなかった。
「どうなってやがる!? う、動けねぇ!?」
謎のイケメンはただ、景色を見ることのできないその青い眼で鋭い眼差しをスネーキに向けていた。
「この男、一体何者なの?」
アイラも驚いている様子。
「お前の気の器じゃ、俺の足にも及ばねぇよ。」
「説明しよう。魔力とはその生物の体力の事で、ゼロになれば死ぬ。勿論、時間が経てば自然に回復するんじゃがのぅ。一方、気とはその生物が宿している覇気の事で、気が大きければ大きい程、その生物の実力を示すのじゃよ。ここがややこしいから気をつけた方がええわい。」
またしてもどこから現れたのか、見た者はいないという、謎のおじさん。だが、その存在と声に気づく者も数少ない。この場の者も論外ではなかった。
「何をふざけたことを!? 俺を殴ってみろ、骨は砕けるぞ?」
すると謎のイケメンは、身動きの取れないスネーキの腰をしっかりと掴み、力の全てを神経に注いだかのような表情をしていた。
「貴様、まさかこの僕を持ち上げようとしてるのか? 岩石の俺は数百キロは愚か、数トンはあるんだぞ? な、何!?」
「うをぉおおおおおっ!!」
謎のイケメンの足がリューマの氷に埋まってしまう程の岩石のように重い。だがスネーキは、浮いた。
「一体どっからこんな力を!? 貴様、名前は!? ぼ、僕の部下にしてやってもいいぞ?」
「俺、のっ! 名は…アッ…アランだぁああ!」
「聞こえてるんじゃねぇかぁあ!? ギャフゥウン!!」
「ギャフンと言った!?」
どうやら、1日も経たないで治ったその聴覚が常人ではないことは証明した模様。そしてアランと名乗る謎のイケメンはスネーキを遥か彼方へと投げ飛ばした。
「ハァ、ハァ。重すぎ、だろ、あの野郎。」
アランは疲れ果てたのか、地面に胡座をかいた。
「おめぇ、強いんだな。ニッヒヒ。」
「うるせぇ、くたばり損ない野郎。」
「俺の仲間になれ!」
「ならねぇよ!」
「ニッハハハ!」
「アッハハ!」
2人はその穴からどう抜け出すのか考えもしないで、笑い合っていた。
「おい、リューマ。どうやってここから抜けるつもり?」
アイラはリューマたちがどんな状況に陥ってるのかを再確認させた。
「まぁ、策はあるさ。」
「ん? 独り言か?」
アランは不思議そうな顔でリューマを見ていた。
「アイラと話してたんだ。」
「ん? あぁ、お前の中のその化け物のことか。」
「ほんっとに失礼な男ね!」
「ニッハハハ。」
アランは星空を見上げていた。先程燃えていた空は暗闇に浮かぶ数々の輝かしい点の空となっていた。夜だ。
「どうした?」
「いつの間にか日が暮れている。」
「「あぁ!?」」
そして2人はやっと、最悪の状況に陥っていたことに気づく。塔で暴れていた犯人を止めるはずが、塔を爆破させ、さらにゴブリンらの侵入を許してしまっていた。
「早く登るぞ、リューマ。」
「俺に掴まれ、いい考えがある。」
アランはリューマを信じ、肩に捕まった。リューマも少し回復してきたみたいだ。
リューマは魔力を真下に流し込んだ。
「氷柱こおりばしら!」
すると、凄まじい勢いで氷の柱が作られ、どんどん高さが増していく。まるでエレベーターのようである。アランも動揺していた。
「その能力、便利だな。」
「ところでアランだっけ? ヤギはどうしたんだ?」
「あぁ、あのヤギね。お前が作った氷の下に埋めておいた。」
こいつ、ひでぇ。
やがて地上にまで上がった。真っ裸な村人を懲らしめるゴブリン、叫びながら逃げる村人をエロい顔で追うゴブリン、剣を持った防衛兵と戦うゴブリン、どこを見渡しても地獄のようなものである。
「んあぁ、空気おいすぃ!」
「お前とおるから美味しくいただけないや。」
「んだとてめぇ、ぶん殴るぞ?」
「んじゃ、ゴブリンぶった斬りに行く。」
アランは氷柱から飛び降り、腰にかけた鞘に手を当てたが、何かが足りない。
「ダァ!? 刀喰われたんだったぁ!」
「ニッヒヒ。アホだなぁ。」
すぐさまリューマも飛び降り、真下のゴブリンを踏み倒した。そのゴブリンは2度と立ち上がることがなかった。そして、次から次へと現れるゴブリンを殴ったり蹴ったりで、ゴブリンは一撃で倒されて行く。
「よ…弱い…弱すぎる。」
一方、アランは投げ飛ばしたり、鞘で突いたりでこれもまた一撃で倒して行く。
「よわ…弱すぎて…死にたい。」
「言い過ぎだろそれ!」
リューマはツッコミを入れることをも忘れない程、敵は弱者すぎた。やがてゴブリンは全滅し、痩せた少年が現れた。
「あの、勇者さまですか?」
リューマもアランも胸を張って答えた。
「「あぁ、俺が勇者だ。」」
「んあ? お前は俺の部下だろ!」
「誰が部下だ、ぶった斬るぞ!?」
少年は困っている様子。
「こ、この国を助けにきたのですか?」
2人は喧嘩を止め、少年に耳を傾けた。
「「助ける?」」
「この島、アパリシタ島はアパリシタ王国の植民地なのです。この島を、僕たちを助けてください!」
泣き崩れる少年の目に嘘はない。それほど苦しい生活をしてきたのだということがじわじわと伝わってくる。
心配したのか、リューマは助ける気満々な面をしていた。
「助けるって、誰からなんだ?」
「ド、ドスティエ…ドスティエールからです…」
名前を口にするのもやっとという程の恐ろしい者であった。
「ドスティエール…」
「ん? そいつを知ってるのか、アラン?」
「これがただのアプリゲームだった時、既にゲームをやり尽くしていた奴らのほとんどが高い権力を握っていた。その中でもドスティエールは政府側に認められた犯罪者が持つ権力。十二星守護者トゥエルブガーディアンズの1人だとか。」
「はい、その通りです。十二星守護者トゥエルブガーディアンズは12人。この宇宙を安定させる為に政府側が全宇宙から犯罪者に権力を与え、好き放題させるという、恐ろしい組織です。ドスティエールはやぎ座の武星なのです。」
「ゲッ、ヤギ…」
アランは不味い珈琲を飲んだかのような表情をしていた。
「なるほどな、要は暇人って訳か。
リューマは腕を組み、眉を寄せて真剣な顔で考え事をしていた。考えがまとまったのか、手の平に拳をのせた。
「そのやぎ座の守護者を倒せばいいのか!」
「お前は今まで何を考えてたんだよ!?」
アランはリューマの頭に手刀打ちでツッコミを入れた。
「そのヤギの野郎に手を出せば、政府に喧嘩を売るということになるんだぞ?」
「それがどうした?」
「そこの少年、逃げろ! そいつらが塔を爆破したんだ! 無残に殺してやる!」
村人や防衛兵らが剣や松明を手に持って殺気を見せながら2人を追う。
「恩知らずの奴らだな、刀さえあれば。お、いいところに。」
「戦うな、俺たちが悪い。」
アランは落ちていた防衛兵の剣を手に持って立ち向かおうとしたが、リューマに肩を抑えられ、引かさせられた。
「んじゃどうすんだ?」
「海岸へ逃げろぉ! ニッヒヒ。」
2人は顔に笑顔を浮かべながら海岸の方へと走り出した。
「少年、名前は?」
「ノ、ノルオです!」
「ノルオ、ヤギの武星を倒すから待っとけ!」
「はい!」
「だからなんで曲がるんだよ、アラン! 海岸はそっちじゃねぇ!」
「うるせぇんだよお前! ほっとけ!」
海岸を目指して走っていた2人は、やがて森を超え、逃げ場のないところにたどり着いた。下からは激しく岩にぶつかる波の音。そう、ここは崖。
「ダァ!? 行き止まりだこれ!」
「お前がこっちだと言ったろ! ぶった斬るぞ?」
「なんで斬るんだよ!」
「なんとなくだ。」
「犯人を見つけたぞ! あそこだ!」
行き止まりの崖に追い詰められた2人。
「さぁ、行き止まりだ! 大人しく降参しやがれ!」
「「そうだ、そうだ!」」
怒りを隠しきれない村人や防衛兵はだんだんと2人に近づいてく。
「こうなったらやけくそだ。こいつらの間を突っ走るしかない! 行くぞ!」
「え!? ちょっ!」
リューマの服を掴み、闇雲に突っ走る。しかし、彼はこれまでにない程の方向音痴。この展開誰もが予想できたことだろう。
「ん? 足場がないぞ? まさ…かぁあ!?」
「「ヴァァアアア!!」」
アランはリューマを道連れにするかのように崖から飛び降りたのだった。
そして数十メートルにまで達する雨のような水しぶきを飛ばせた。
「馬鹿な奴らめ、自ら死を選ぶとは。」
しかし2人はこの後、バラバラに流されることになる。
スネーキは止めることなく、リューマを殴り続けた。リューマが超回復する度に容赦なく岩石の拳を食らわせていた。
痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬって!
「君も凍らせた地面や壁に潜ればいいじゃない。」
やるかよ、気持ち悪りぃ。
「馬鹿な男ね。」
リューマはフローズンを使うための隙を伺っているようだが、スネーキは一瞬の隙も見せない。それに加え、その拳の1つ1つは死ぬ方がマシだと思わさせるようなものであった。
「超回復は私の力。そう何度も永続で使える訳じゃないわ。そろそろ底をついちゃう。」
くっ、こいつ。一撃が重いってのに全く隙がない。てか灰龍とか言ってたからわかりにくかったけどスネーキの眼、両方同じ色じゃないか?
「確かに、言われてみればそうだね。って、馬鹿か! 戦闘中になんてこと考えてるのよ。」
きいてみるよ。
「おい…ス、スネーキ! なんで…お前…の眼…両方…同じなんだ!?」
殴られ続ける中、必死で問うリューマ。
「流石にききやしないでし…」
「ん? 確かに。貴様の眼は左だけ紫色だ。」
スネーキは一旦、殴るのを止め、眼鏡をとった。
「きいた!?」
「ほら、両方同じだ。」
スネーキは不思議そうな目でリューマを見つめた。戦闘中の敵同士がこうして言葉を交わすことは前代未聞だろう。
「アイラは何も知らないみたいだしなぁ。」
「アイラ? 誰だそいつ?」
「そっか、お前知らなかったな。俺の中のドラゴンだ。」
話はどんどん戦闘から遠ざかるがスネーキはリューマの発言を信じきれなかった。
「貴様の中にドラゴンだ? 確かに灰龍と契約を交わしたが、それ以来声もきいてないぞ。さては僕を騙してその隙に逃げるつもりだな?」
リューマの首を握りしめ、息の根を止めようとする。
「んっ…グッ、い…息がっ…」
アイラ、なんとかできないのか?
「この人、石だから冷たさが伝わってないし、もう打てる手はないわ。死ぬわね。」
くっそぉ。ここで死ぬのか、俺。死んだらどうなるんかな。生き返るのかな。
「君が死んでも私は魂として他の人に乗り移れるわ。」
言い方が怖ぇよ。
「おいおい、リューマ。お前の魔力が小さくなっているようだが、そんな奴に苦戦してるのか? なっさけねぇな。」
「「ん!?」」
スネーキはリューマの首を片手で掴み直し、謎のイケメンに耳を傾けた。
「ほぉ、さっきのアホ面こいてた駄目剣士か。刀も持ってないでどう僕に勝つんだ? ザッハハ。」
謎のイケメンは聞こえていないのか、そのとんがった八重歯を見せびらかすかのように微笑んで答えようともしない。
「貴様、僕を無視するとはいい度胸だな!」
「や、やめとけ。そいつは今…聞こえて…いないんだ。目も…み、見えていない。ニヒッ。」
「何!? そんなくたばり寸前の野郎が僕に喧嘩を!?」
「フッ。思ってた通りの雑魚だな。って、ガァ!? ヤギに刀喰われたままだった!」
「先に貴様から始末してあげようか。」
「まぁいい。剣士だからって剣しか使えない訳じゃねぇしな。」
謎のイケメンは二足歩行でゆっくりとスネーキに近づいていった。スネーキは掴んでいたリューマから手を離し、謎のイケメンにヘソを向け、飛びかかる瞬間を待っていた。
超回復力の持ち主、リューマも流石にやられすぎたせいか、なかなか回復できないまま、体も動かず、横目で謎のイケメンとスネーキを見ていた。
「この男、邪悪な気が増している!? やはり只者ではなさそうだわ。」
そうか…後で仲間に…しない…とな。ニッヒヒ。
「おりゃぁ! ん!?」
スネーキはその岩石の拳で謎のイケメンに飛びかかろうとしたが、身体は言うことをきかなかった。
「どうなってやがる!? う、動けねぇ!?」
謎のイケメンはただ、景色を見ることのできないその青い眼で鋭い眼差しをスネーキに向けていた。
「この男、一体何者なの?」
アイラも驚いている様子。
「お前の気の器じゃ、俺の足にも及ばねぇよ。」
「説明しよう。魔力とはその生物の体力の事で、ゼロになれば死ぬ。勿論、時間が経てば自然に回復するんじゃがのぅ。一方、気とはその生物が宿している覇気の事で、気が大きければ大きい程、その生物の実力を示すのじゃよ。ここがややこしいから気をつけた方がええわい。」
またしてもどこから現れたのか、見た者はいないという、謎のおじさん。だが、その存在と声に気づく者も数少ない。この場の者も論外ではなかった。
「何をふざけたことを!? 俺を殴ってみろ、骨は砕けるぞ?」
すると謎のイケメンは、身動きの取れないスネーキの腰をしっかりと掴み、力の全てを神経に注いだかのような表情をしていた。
「貴様、まさかこの僕を持ち上げようとしてるのか? 岩石の俺は数百キロは愚か、数トンはあるんだぞ? な、何!?」
「うをぉおおおおおっ!!」
謎のイケメンの足がリューマの氷に埋まってしまう程の岩石のように重い。だがスネーキは、浮いた。
「一体どっからこんな力を!? 貴様、名前は!? ぼ、僕の部下にしてやってもいいぞ?」
「俺、のっ! 名は…アッ…アランだぁああ!」
「聞こえてるんじゃねぇかぁあ!? ギャフゥウン!!」
「ギャフンと言った!?」
どうやら、1日も経たないで治ったその聴覚が常人ではないことは証明した模様。そしてアランと名乗る謎のイケメンはスネーキを遥か彼方へと投げ飛ばした。
「ハァ、ハァ。重すぎ、だろ、あの野郎。」
アランは疲れ果てたのか、地面に胡座をかいた。
「おめぇ、強いんだな。ニッヒヒ。」
「うるせぇ、くたばり損ない野郎。」
「俺の仲間になれ!」
「ならねぇよ!」
「ニッハハハ!」
「アッハハ!」
2人はその穴からどう抜け出すのか考えもしないで、笑い合っていた。
「おい、リューマ。どうやってここから抜けるつもり?」
アイラはリューマたちがどんな状況に陥ってるのかを再確認させた。
「まぁ、策はあるさ。」
「ん? 独り言か?」
アランは不思議そうな顔でリューマを見ていた。
「アイラと話してたんだ。」
「ん? あぁ、お前の中のその化け物のことか。」
「ほんっとに失礼な男ね!」
「ニッハハハ。」
アランは星空を見上げていた。先程燃えていた空は暗闇に浮かぶ数々の輝かしい点の空となっていた。夜だ。
「どうした?」
「いつの間にか日が暮れている。」
「「あぁ!?」」
そして2人はやっと、最悪の状況に陥っていたことに気づく。塔で暴れていた犯人を止めるはずが、塔を爆破させ、さらにゴブリンらの侵入を許してしまっていた。
「早く登るぞ、リューマ。」
「俺に掴まれ、いい考えがある。」
アランはリューマを信じ、肩に捕まった。リューマも少し回復してきたみたいだ。
リューマは魔力を真下に流し込んだ。
「氷柱こおりばしら!」
すると、凄まじい勢いで氷の柱が作られ、どんどん高さが増していく。まるでエレベーターのようである。アランも動揺していた。
「その能力、便利だな。」
「ところでアランだっけ? ヤギはどうしたんだ?」
「あぁ、あのヤギね。お前が作った氷の下に埋めておいた。」
こいつ、ひでぇ。
やがて地上にまで上がった。真っ裸な村人を懲らしめるゴブリン、叫びながら逃げる村人をエロい顔で追うゴブリン、剣を持った防衛兵と戦うゴブリン、どこを見渡しても地獄のようなものである。
「んあぁ、空気おいすぃ!」
「お前とおるから美味しくいただけないや。」
「んだとてめぇ、ぶん殴るぞ?」
「んじゃ、ゴブリンぶった斬りに行く。」
アランは氷柱から飛び降り、腰にかけた鞘に手を当てたが、何かが足りない。
「ダァ!? 刀喰われたんだったぁ!」
「ニッヒヒ。アホだなぁ。」
すぐさまリューマも飛び降り、真下のゴブリンを踏み倒した。そのゴブリンは2度と立ち上がることがなかった。そして、次から次へと現れるゴブリンを殴ったり蹴ったりで、ゴブリンは一撃で倒されて行く。
「よ…弱い…弱すぎる。」
一方、アランは投げ飛ばしたり、鞘で突いたりでこれもまた一撃で倒して行く。
「よわ…弱すぎて…死にたい。」
「言い過ぎだろそれ!」
リューマはツッコミを入れることをも忘れない程、敵は弱者すぎた。やがてゴブリンは全滅し、痩せた少年が現れた。
「あの、勇者さまですか?」
リューマもアランも胸を張って答えた。
「「あぁ、俺が勇者だ。」」
「んあ? お前は俺の部下だろ!」
「誰が部下だ、ぶった斬るぞ!?」
少年は困っている様子。
「こ、この国を助けにきたのですか?」
2人は喧嘩を止め、少年に耳を傾けた。
「「助ける?」」
「この島、アパリシタ島はアパリシタ王国の植民地なのです。この島を、僕たちを助けてください!」
泣き崩れる少年の目に嘘はない。それほど苦しい生活をしてきたのだということがじわじわと伝わってくる。
心配したのか、リューマは助ける気満々な面をしていた。
「助けるって、誰からなんだ?」
「ド、ドスティエ…ドスティエールからです…」
名前を口にするのもやっとという程の恐ろしい者であった。
「ドスティエール…」
「ん? そいつを知ってるのか、アラン?」
「これがただのアプリゲームだった時、既にゲームをやり尽くしていた奴らのほとんどが高い権力を握っていた。その中でもドスティエールは政府側に認められた犯罪者が持つ権力。十二星守護者トゥエルブガーディアンズの1人だとか。」
「はい、その通りです。十二星守護者トゥエルブガーディアンズは12人。この宇宙を安定させる為に政府側が全宇宙から犯罪者に権力を与え、好き放題させるという、恐ろしい組織です。ドスティエールはやぎ座の武星なのです。」
「ゲッ、ヤギ…」
アランは不味い珈琲を飲んだかのような表情をしていた。
「なるほどな、要は暇人って訳か。
リューマは腕を組み、眉を寄せて真剣な顔で考え事をしていた。考えがまとまったのか、手の平に拳をのせた。
「そのやぎ座の守護者を倒せばいいのか!」
「お前は今まで何を考えてたんだよ!?」
アランはリューマの頭に手刀打ちでツッコミを入れた。
「そのヤギの野郎に手を出せば、政府に喧嘩を売るということになるんだぞ?」
「それがどうした?」
「そこの少年、逃げろ! そいつらが塔を爆破したんだ! 無残に殺してやる!」
村人や防衛兵らが剣や松明を手に持って殺気を見せながら2人を追う。
「恩知らずの奴らだな、刀さえあれば。お、いいところに。」
「戦うな、俺たちが悪い。」
アランは落ちていた防衛兵の剣を手に持って立ち向かおうとしたが、リューマに肩を抑えられ、引かさせられた。
「んじゃどうすんだ?」
「海岸へ逃げろぉ! ニッヒヒ。」
2人は顔に笑顔を浮かべながら海岸の方へと走り出した。
「少年、名前は?」
「ノ、ノルオです!」
「ノルオ、ヤギの武星を倒すから待っとけ!」
「はい!」
「だからなんで曲がるんだよ、アラン! 海岸はそっちじゃねぇ!」
「うるせぇんだよお前! ほっとけ!」
海岸を目指して走っていた2人は、やがて森を超え、逃げ場のないところにたどり着いた。下からは激しく岩にぶつかる波の音。そう、ここは崖。
「ダァ!? 行き止まりだこれ!」
「お前がこっちだと言ったろ! ぶった斬るぞ?」
「なんで斬るんだよ!」
「なんとなくだ。」
「犯人を見つけたぞ! あそこだ!」
行き止まりの崖に追い詰められた2人。
「さぁ、行き止まりだ! 大人しく降参しやがれ!」
「「そうだ、そうだ!」」
怒りを隠しきれない村人や防衛兵はだんだんと2人に近づいてく。
「こうなったらやけくそだ。こいつらの間を突っ走るしかない! 行くぞ!」
「え!? ちょっ!」
リューマの服を掴み、闇雲に突っ走る。しかし、彼はこれまでにない程の方向音痴。この展開誰もが予想できたことだろう。
「ん? 足場がないぞ? まさ…かぁあ!?」
「「ヴァァアアア!!」」
アランはリューマを道連れにするかのように崖から飛び降りたのだった。
そして数十メートルにまで達する雨のような水しぶきを飛ばせた。
「馬鹿な奴らめ、自ら死を選ぶとは。」
しかし2人はこの後、バラバラに流されることになる。
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