デリヘルで恋を終わらせたい。

セイヂ・カグラ

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本編

デリヘルで恋を終わらせたい。





「頼む、今日だけは帰ってくれ!」

 俺は今、心を鬼にして目の前の男を自分のマンションの一室から追い出そうとしている。

「い、や、だ!」

 だがこの男、水瀬かなでは、この場所から動く気がないらしい。昨日も再三、明日は来るなと言ったのだが、仕事を終えて帰宅すれば何食わぬ顔でスマホゲームをしていた。

「先約がいるんだ、もうすぐその人が来る。」
「だから、それ誰なの? 教えてよ! 別にオレ、その人が居ても良いよ。何なら隣の部屋行って、ベッドの上でゲームしてるしさ!」

 誰、と聞かれて答えられるような相手ではない。今夜、あと一時間もすればやってくるひとに俺は、お金を払って抱いてもらうのだから。それも、眼前の青年、かなでに対して芽生えてしまった恋を終わらせるために。

 奏との出会いは中学の時、同じクラス。俺は野球部で、奏はサッカー部だった。俺と奏は真逆のタイプだ。どっちらか言うと野球一筋人のコミュ症な俺。俺とは違い、皆に人気者のムードメーカーな奏。そんな正反対な俺たちだが不思議と親しくなっていき、高校の進路選択では仲良く同じ高校を受験した。運動系の強豪校だったが卒業後、俺は野球を辞めて就職、奏はデザインの専門学校に入学した。
 
「ダメだ!」
「オレの晩飯はどーすんの⁉」
「どっかで食べて帰るんだなっ!」
「わっ!! あっ! ちょっとつかさ!!」

 俺は持ち前の体格の良さを生かした力技で、玄関の外に奏でを放り投げると、バタンと音を立ててドアを締めた。ドアからはインターホンとドンドンと叩く音がうるさいくらいに響いていたがイヤホンをして聞こえないふりをした。そのうちに諦めたのか、音は静かになり、そっと玄関の小窓を覗くも奏は居なかった。

「はぁ……、帰ったか。」

 安堵と共に息が漏れる。
 扉に触れていた自分の手が名残惜しそうに見えるのは、きっと気の所為。
 芽生えた感情に気がついた頃には遅かった。
 深刻な恋の病は俺を蝕んで、心を殺していくばかり。
 早く、終われ。
 そう願っても消えない想いは、まるで呪いのようだった。

 奏には、常に恋人がいる。取っ替え引っ替え、複数人と付き合ったり、恋愛ごとに関しては男としてどうかと思う部分もあるが、俺が何か言えることじゃない。彼女を紹介されるたび、ギリギリと傷む胸を無視して「大事にしてやれよ。」なんて心にも無いことを言う。奏は、恋人ができるとすぐ俺に紹介したがった。時々、何故か彼女と3人で俺の部屋で飲んだりすることもあって、そういう日の夜は、最悪だ。俺がいるというのに、俺の部屋だというのに、奏は節操なくおっ始める。抱かれている女を羨ましく思って、女を抱く奏に興奮して…。虚しくなって、告げることもできない恋心に矢の毒が刺さってゆっくりと俺を疲弊させていく。
 
 そのうち、女といる奏を見ると、嘔吐するようになった。
 女が部屋にいると息が苦しくなって、笑っていられない。
 図体のでかい男が、たかが恋なんかで弱って女々しい。
 俺が一番、俺を情けないと思う。
 そのうち何かを察したのか、奏は女を連れてこなくなった。
 それでも、俺の虚しい恋心が変わることはない。



 数日前の早朝のことだ。朝食を作る俺を突然、奏が後ろから抱きしめ、挙げ句、朝立ちを尻に擦り付けられた。勝手に少し期待してしまい、ドキドキと高鳴る鼓動とジワジワと赤らむ頬。無言のまま、恐る恐る悦びと共に振り返ると、たった一言「ああ、間違った。」と言われた。

 もう、ダメだ。
 もう無理だ、耐えられない。
 俺の中で何かが音を立てて崩れていく。
 終わりにしよう。
 そう思ったら、早かった。
 思考がおかしな方に行っている自覚はある。
 それでも、そうするしか他の方法は思い浮かばなかった。

 誰かに優しく慰めて欲しい。
 誰に捧げるわけでも無い貞操、俺の処女。
 こんな男、きっと誰も抱きたがらない。
 だから、デリヘルを呼ぶことにしたんだ。
 とにかく、優しく甘やかして欲しい。
 傷付いた心を癒やして欲しい。
 何もかも、忘れさせて欲しい。

 そんな一心だった。





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