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常念という男
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僕は常念と名乗る老人の話を一通り聞いたが、心のなかでは彼の忠告に半ば耳を傾けながらも、半ばこの男のことを疑っていた。いや、疑うよりも嫉妬していた。妖子がこの男ともねんごろになっていたのかと思うと黒い感情がめらめらと沸くのだ。しかもこの男は命を永らえているではないか。お守りが守ってくれたとか言っているが、それも怪しい。僕をこの月日荘から追い出したいだけなのでは?と思った。
「あんた、わしを疑っているな?」
常念の言葉にギクリとした。僕の心が読めるのか?僕は無言のまま彼を睨んだ。
「無理もなかろう。あの女の手管に堕ちたら仕方ない。この世で味わったことのない喜びじゃったな」
僕はなおも嫉妬の感情が喉元まで溢れそうになった。この老人の体も妖子は舐め尽くしたのか、と思うと我慢できなかった。
「放っておいてください!僕は真剣なんです!」
僕は叫んだ。常念の目がキラリと光った。
「命をかけるのか?あの妖女に?」
「彼女がなんであれ、今は僕と愛し合ってるんです!」
常念はクスッと笑った。
「愛だと?馬鹿な!」
そうだ、愛の言葉こそないがその感情が伝わっていると僕は思いたかった。彼女が交わりながらささやく言葉こそ愛だと信じたかった。そしてこの老人は僕を邪魔者にしているのだ、と。
「出ていってください!」
もう何も聞きたくなかった。
「何を言っても無駄なようじゃな。それではわしは退散しょうかな。じゃが、後で後悔しても遅いぞ!」
僕は常念を睨み付けた。老人は立ち上がり際にさっきのお守りを僕の首から掛けた。ふんわりと温かいものが僕を包んだ。だが常念が部屋から出ていくと、僕はそれを外してドアに向かって投げつけた。
その夜、夢を見た。まだ若くたくましい常念が妖子と抱き合っていた。彼には僕にない男の魅力があった。太い腕で妖子の白い裸体を抱く。妖子はいつにも増して美しかった。におい立つほどの美貌だった。僕は苦しかった。嫉妬の激情に胸が焦げ付きそうだった。ふたりは唇を吸いあい、激しくお互いを求めていた。僕に入り込むすきはなかった。
「妖子さん!」
我慢の限界で僕は叫んだ。その時、夢から覚めた。まだ辺りは暗かった。
夢か、僕はまだ動悸が止まらなかった。夢であれ常念と妖子はかつてあんな風に求めあい抱き合っていたのだ、と思うといたたまれなかった。僕は部屋を飛び出して管理人室へと向かった。階段を駆け下りようとしてふらついた。そうだもう何日も何も食べてなかった。ただひたすら妖子との情交にすべてを捧げ貪り果てていたのだ。力が入らない。目を閉じると、渇きが沸き上がってくる。ふっと現実を思い出した。こちらへ来て何日経つのだろう?会社は?仕事は?東京に残してきた妻を思い出した。連絡するといっておきながら放置したままだ。携帯の電源も切れたままだ。
ぼんやりとした頭でそれらを考えていたが、またしてもうつつの世界に堕ちてゆく。もう何もかも捨て去ったのだ、と僕は覚悟を決めた。もう戻れない。ここでこのまま死んでも良いとさえ思うのだ。妖子ともう一度抱き合いたい。交わりたい。妖子に精気を吸い尽くされたい。絶頂の狭間で彼女の生ぬるい身体を感じたい。彼女を常念には渡したくはない。奴よりもっともっと妖子を味わい尽くしたい。あの恐ろしいほどに美しい女の淫靡な花芯。濡れそぼった赤い唇。ふたつの白い乳房。柔らかな尻。何もかもが最高だった。
アパートメントの階段の途中で力尽きて座り込んだ僕は彼女との愛の時を思い出して泣いていた。涙が止めどなくこぼれ落ちた。
「妖子!ようこ!」
僕は彼女の名を呼んだが声にならなかった。その時!脇を白い蛇がすり抜けてゆくのが見えた。いや、それは幻だった。涙で僕はなにも見えなかったのだった。
「あんた、わしを疑っているな?」
常念の言葉にギクリとした。僕の心が読めるのか?僕は無言のまま彼を睨んだ。
「無理もなかろう。あの女の手管に堕ちたら仕方ない。この世で味わったことのない喜びじゃったな」
僕はなおも嫉妬の感情が喉元まで溢れそうになった。この老人の体も妖子は舐め尽くしたのか、と思うと我慢できなかった。
「放っておいてください!僕は真剣なんです!」
僕は叫んだ。常念の目がキラリと光った。
「命をかけるのか?あの妖女に?」
「彼女がなんであれ、今は僕と愛し合ってるんです!」
常念はクスッと笑った。
「愛だと?馬鹿な!」
そうだ、愛の言葉こそないがその感情が伝わっていると僕は思いたかった。彼女が交わりながらささやく言葉こそ愛だと信じたかった。そしてこの老人は僕を邪魔者にしているのだ、と。
「出ていってください!」
もう何も聞きたくなかった。
「何を言っても無駄なようじゃな。それではわしは退散しょうかな。じゃが、後で後悔しても遅いぞ!」
僕は常念を睨み付けた。老人は立ち上がり際にさっきのお守りを僕の首から掛けた。ふんわりと温かいものが僕を包んだ。だが常念が部屋から出ていくと、僕はそれを外してドアに向かって投げつけた。
その夜、夢を見た。まだ若くたくましい常念が妖子と抱き合っていた。彼には僕にない男の魅力があった。太い腕で妖子の白い裸体を抱く。妖子はいつにも増して美しかった。におい立つほどの美貌だった。僕は苦しかった。嫉妬の激情に胸が焦げ付きそうだった。ふたりは唇を吸いあい、激しくお互いを求めていた。僕に入り込むすきはなかった。
「妖子さん!」
我慢の限界で僕は叫んだ。その時、夢から覚めた。まだ辺りは暗かった。
夢か、僕はまだ動悸が止まらなかった。夢であれ常念と妖子はかつてあんな風に求めあい抱き合っていたのだ、と思うといたたまれなかった。僕は部屋を飛び出して管理人室へと向かった。階段を駆け下りようとしてふらついた。そうだもう何日も何も食べてなかった。ただひたすら妖子との情交にすべてを捧げ貪り果てていたのだ。力が入らない。目を閉じると、渇きが沸き上がってくる。ふっと現実を思い出した。こちらへ来て何日経つのだろう?会社は?仕事は?東京に残してきた妻を思い出した。連絡するといっておきながら放置したままだ。携帯の電源も切れたままだ。
ぼんやりとした頭でそれらを考えていたが、またしてもうつつの世界に堕ちてゆく。もう何もかも捨て去ったのだ、と僕は覚悟を決めた。もう戻れない。ここでこのまま死んでも良いとさえ思うのだ。妖子ともう一度抱き合いたい。交わりたい。妖子に精気を吸い尽くされたい。絶頂の狭間で彼女の生ぬるい身体を感じたい。彼女を常念には渡したくはない。奴よりもっともっと妖子を味わい尽くしたい。あの恐ろしいほどに美しい女の淫靡な花芯。濡れそぼった赤い唇。ふたつの白い乳房。柔らかな尻。何もかもが最高だった。
アパートメントの階段の途中で力尽きて座り込んだ僕は彼女との愛の時を思い出して泣いていた。涙が止めどなくこぼれ落ちた。
「妖子!ようこ!」
僕は彼女の名を呼んだが声にならなかった。その時!脇を白い蛇がすり抜けてゆくのが見えた。いや、それは幻だった。涙で僕はなにも見えなかったのだった。
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