紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.1

田中

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第三章 ヤクザな伯爵と冒険者

違反からの決闘

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 翌朝、竜の卵を抱え冒険者ギルドへと出向いた健太郎けんたろう達は、担当のクニエダに個室へと案内された。
 個室は応接室の様で木のテーブルと革張りのソファーが置かれていた。
 ただ、窓が無く風景画の飾られた室内は圧迫感を感じる物だった。

 そのソファーには既に一人、中年の少しキツイ目つきの三角眼鏡女性が座っている。
 女性は健太郎達に座る様、促し隣にクニエダが座るのを確認すると口を開いた。

「どうも、冒険者ギルドのギルド会員管理室、室長のベルサで御座います。早速ですが、今回お二人にご足労頂いたのはギルド規定違反の疑いがお二人に掛けられたからで御座います」



「規定違反? ちょっと待っとくれ、あたしら違反なんてした覚えが……」

「魔法使いのフィリスさん、剣士のクロサキ・ショウゴさんより、お二人に攻撃され殺されかけたと報告がありました」
「フィリスが……」
「コホーッ!!」

 将吾がミラルダを殺そうとしたから、突き飛ばしただけだッ!!

「……言いたい事はよく分かりませんが違うと?」
「ああ、あいつ等、この卵を横取りしようとしたのさ。その時、竜の幼生体が出て来てショウゴが攻撃しようとした所にミシマが割って入って……」

 ミラルダは健太郎が抱えた卵を指差し、ショウゴ達が手柄を横取りしようとした事、自分と健太郎を殺そうとした事等、あの時起こった詳細をベルサ達に語った。

「……なるほど……あの二人に問題行動が多い事は報告を受けています……ただ、貴女が今まで受けた嫌がらせの報復を行ったという可能性も、ギルド会員を管理する立場としては否定出来ません」

 ベルサは眼鏡を光らせながらミラルダに鋭い視線を送る。

「コホーッ!!」

 ミラルダは報復なんてしないぞッ!!

「ミシマさん、貴方は何を仰っているかわたくしには判別が付きかねますので、一旦、発言を控えていただけますか?」
「コッ、コホーッ」

 クッ、こうなったら胸を開いて……。
 健太郎が右手を胸元に持って行こうとすると、ミラルダがそっとその右手に両手を重ね、静かに首を振った。

「コホー」

 ミラルダ…………そうだな、あの大声だと恫喝と取られる可能性もあるもんな。
 健太郎は一旦矛先を収め、この場はミラルダに任せる事にした。

「……報復なんてするつもりは無いよ。証明しろと言われても、あたしを信じてもらうしか無いけどね」
「室長、よろしいですか?」
「何かしら、クニエダ君」

「双方の言い分がここまで食い違っているとなると、決闘により互いの主張の是非を問うべきでは無いでしょうか?」
「決闘神判をやれと……確かにダンジョン内、目撃者は当事者のみでは調べようがありませんね」
「コホーッ?」

 ねぇねぇ、決闘神判って何?

 クイクイとミラルダのマントを引っ張り、首を傾げた健太郎に彼女は右手で口元を隠し囁く。

「神様の前で互いの力を出し切り戦えば、正しい方が勝つって裁判のやり方だよ。あたしゃ強い奴に都合のいい方法で好きじゃないけどね」
「ミラルダさん、ミシマさん。私もクロサキさん、フィリスさんの両名が黒に近いグレーだとは思っています。ただ証明が出来ない以上、決闘により判決を出す方法しか我々はご提示出来ません……どうされますか?」

「あの、その決闘を受けないと一体……?」

 ベルサは一旦目を瞑り、ふぅと一つ深呼吸をするとおもむろに口を開いた。

「会員同士の私闘は規定により仕掛けた側が除名、追放される事となっております。これは駆け出し冒険者を守る為であり、ベテラン同士の素材等の取り合いを防ぐ意味合いもあります」
「つまり受けないと除名?」
「そうなります。決闘を受けないという事は相手方の言い分を全面的に認めるという事ですから」
「コホーッ!」

 やろう、ミラルダ! あんな奴らにいい様にやられて黙っていられないよッ!

「ふぅ……決闘……やるしかないかねぇ……先に言っとくけど、ミシマ、やるとしても殺すんじゃないよ。あたしらはあくまで冒険者であって、剣闘士じゃ無いんだからね」
「コホーッ!!」

 勿論だ!! いくら夢とはいえ人を殺すなんて後味の悪そうな事、俺には出来ないさッ!!

 グイッと右手の親指を立てた健太郎を見て、ミラルダはホントに分かってのかねぇと苦笑を浮かべた。

「では決闘神判を受けるという事でよろしいですね?」
「ああ、あたしには冒険者で稼ぐ以外、今の所、お金を得る方法はないからね」
「ミシマさんもよろしいですか?」
「コホーッ」



 腕で大きく丸を作った健太郎を見てベルサは目を丸くした後、クスクスと笑いを漏らした。

「失礼、伯爵様から面白いゴーレムだとは聞いていましたが……ふぅ……では相手側、クロサキ、フィリス両名にも神判の件を伝えておきます。決闘の日付が決まり次第連絡いたします。私からは以上です」

 そう言うとベルサはクニエダを含めた三人に退室を促した。
 部屋から出て受付に戻る途中、廊下を歩く健太郎にクニエダが話しかける。

「すいませんミシマさん、勝手な事して……でも今回のケースでは争ったとしても、まず勝てなかったと思います」
「コホーッ?」

 そりゃまたどうして? 首を捻った健太郎にクニエダは続ける。

「ミシマさんがやったと証明は出来ませんが……将吾さんの鎧には深い傷が、そして本人も、ろっ骨を折る怪我を負っていたからです」
「でもそれはあたしを守る為に……」
「そうだとしても、一方は傷を負い、もう一方は無傷では心証はあちら側に傾きます」

「無傷ねぇ……ミシマは何されても傷が付かないからねぇ……」
「……そうなんですか?」
「ああ、ダンジョンの天井や壁にめり込んだり、メイスとかで殴られたりしたけど、すり傷一つ無いんだよ……金属っぽいけど……
ホント、何で出来てんのかね?」

 苦笑を浮かべ健太郎の腕を指で弾いたミラルダに、健太郎はそれは俺も知りたいよと嘆息しつつ肩を竦めた。
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