紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.1

田中

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第三章 ヤクザな伯爵と冒険者

加速対変形

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 それから数日後、ギルドからの連絡を受けた健太郎けんたろうは以前、リゼルに連れて来られた闘技場の土の大地に再び立っていた。
 目の前には新しい鎧と剣を装備した将吾、そしてこの間とは違うこれまた煽情的な服を着たフィリスが健太郎達を見てニヤついた笑みを浮かべている。
 闘技場の客席ではミラルダの家の子供達と子竜のキューの他、噂を聞きつけた冒険者やギルド職員、街の人々も見物に訪れていた。
 彼ら全員が神判の目撃者であり証人となる。

「「「「「「ミラ姉ぇ!! ドラ○もんー!! がんばってー!!」」」」」」
「キュエーッ!!」
将吾しょうご、フィリス!! 俺はお前達に賭けてんだッ!! 負けたら承知しねぇからなッ!!」

 どうやら決闘神判という神に是非を問う戦いは賭けの対象にもなっているらしい。
 罰は当たらないのだろうか……。そんな感想を健太郎が抱いていると、健太郎達と将吾達の間に立った人物が口を開く。

「はぁ……、神聖な決闘を賭けの対象にするとは……」

 審判役を買って出たギルド会員管理室室長のベルサは眉根を寄せ首を振った。
 あっ、やっぱ駄目なんだ、この様子じゃ仕方なく黙認してるって感じだね。

「よろしいですか、この決闘神判は相手を打倒す事で自分達の正しさを示す事が目的です。殺害は必須ではありません。無益な殺生は控える様お願いします」

 審判役を買って出たベルサに将吾はニヤニヤと笑いながら答える。

「分かってるよ。ただ、真剣勝負に事故は付き物だろ?」
「将吾の言う通りだわ。神の前で手を抜くなんて、私には出来ない。命懸けになるのは当然よ」

 どうやら将吾たちは健太郎とミラルダを殺す気満々の様だ。

「はぁ……神の前であるからこそ、命の大切さというのを考えて欲しいのですが……ミラルダさん達もいいですね?」
「ああ、あたしらは端から殺す気なんてないよ」
「はぁ? 何、寝ぼけた事言ってのよ? あんた達が私達を殺せる訳ないでしょう?」

 フィリスは皮肉げで高圧的な笑みをミラルダに投げかけた。
 そんなフィリスにミラルダは気の毒そうに首を振った。

「なっ……何よッ!? その態度ッ!?」
「フィリスさん、そろそろ始めたいのですが……よろしいですか?」
「ええ、勿論、結構よッ! ミラルダ、その余裕顔を恐怖で引きつらせてあげるわ」

 そう言いながらも顔を引きつらせているのは、今の所フィリスの方だったが……。

「コホーッ!!」

 やるぞ、ミラルダッ!! 大丈夫、練習通りにやれば俺達はきっと勝てる筈だッ!!
 グッと右手の親指を立てた健太郎に、ミラルダは何とも言えない顔で答える。

「……ミシマ、ホントにやるのかい? あれはちょっと卑怯すぎる気がするんだけど……」
「コホーッ!?」

 何言ってんだよ!? ここで勝たないと色々駄目になるんだぞッ!! 大体、最初に手を出したのはあいつ等じゃないかッ!?

 健太郎は嘘がけない。というよりも彼は本質的に嘘を嫌っていた。無論、相手の為を思って吐かれる嘘もあるだろう。だが相手を陥れようと、相手を騙そうと、自分の利益や欲望の為、吐かれる嘘や卑怯な行為は虫唾が走るほど嫌いだった。

 そんな性格だから会社では融通の利かない奴として、辛い仕事を割り振られていた訳なのだが……。

 ともかくとして、そんな健太郎は嘘で自分達を陥れ、ミラルダやその家族を不幸にしようとしている将吾とフィリスが許せなかった。
 命を奪うつもりは無いが、現在持っているカードの中で使える物は全て使い徹底的に叩きのめす。固くそう誓っていたのだ。

「ミラルダさん、ミシマさん、それとクロサキさん。お三方も準備はよろしいですね?」
「ああ、俺はいつでもいいぜぇ」
「あたしも準備オッケーだよ」
「コホーッ!!」

 ベルサは健太郎、ミラルダ、将吾、フィリスに順番に視線を移動させると、静かに頷いた。

「では、私が審判席から合図を出したら初めて下さい。ミラルダさん、フィリスさん、事前にも申しましたが客席に被害の及ぶような大規模魔法は使用禁止ですから」
「分かってるわよ。くどいおばさんねぇ」
「……ミラルダさんもいいですね?」
「ああ、家族も見てるんだ。そんな魔法は使わないし、使えないよ」
「よろしい……では……」

 ベルサは双方に頷きを返し、闘技場の外壁から伸びたアームの先、そこから伸びた太いワイヤーに吊り下げられていたゴンドラに飛び乗った。
 ベルサが乗るとゴンドラは釣り上げられ場内を全て見渡せる中心まで持ち上げられる。
 ゴンドラの底はガラス張りになっており、そこから試合の様子を確認出来る様だ。

『では始めて下さいッ!!』

 魔法で声を闘技場内に拡散しているのか、場内のいたるところからベルサの声が響き、それによって観客たちは一斉に歓声を上げた。

「フフッ、ミラルダ。あんたのその顔も今日で見納めよ」
「フィリス、なんでそんなにあたしの事が気に入らないのか知らないけど……勝っても負けても恨みっこ無しで頼むよ」
「フンッ、貴女達が勝つ目は無いわよッ!! 将吾ッ!! 作戦通りに!!」
「おう、任せろッ!!」

 フィリスとミラルダは詠唱を始め、将吾は健太郎が予想した通りミラルダを狙って加速を使い一気に突っ込んで来た。

 させるかッ! 将吾を妨害しようと踏み出した健太郎の足が、突然土の大地にめり込む。
 体自体が酷く重く、立っていられない。

「フフッ、どうかしら重力魔法の味は? 潰れないのは流石だけど、動く事は出来ないでしょう?」

 クッ、やはり俺を足止めして来たかッ。だがなッ!

「えっ!? 何よそれっ!?」
「どうしたフィリス!? グガッ!?」

 ミラルダを狙った将吾はフィリスの声で思わず振り返った。その将吾に突然突っ込んで来た奇妙な物体は勢いのまま彼をはね飛ばす。
 その二つの車輪を前後に備えた青い何かは「ブイィーン」とエンジン音に似た音を発すると、その車輪の上に付いた二つの目らしき物を緑色に輝かせた。

 「バイクだと!?」



 将吾が驚きの声を上げるのも無理は無いだろう。
 健太郎自身、どの様に変形しているのか分からないが将吾に勝つ為、スピードを求めていた健太郎の心に反応してか、ギルドからの帰り道、体はバイクへと変わったのだ。

 健太郎は若干、求めるスピードの種類が違うと思ったが、要は将吾をミラルダに接近させなければよいのだから、コレはコレで有りかもとミラルダを乗せ、彼女の魔法で敵を倒す方法を決闘までの間、密かにダンジョンで練習していたのだ。

「ブイィィィン!!」

 乗れミラルダッ!!

「はぁ……本当にやるんだね……乗る時、ローブの裾をたくし上げないといけないから、あたしゃちょっと恥ずかしいんだけどねぇ……」

 そう言いつつも自身に防御魔法を掛け終わったミラルダはいそいそと紫のローブの裾をたくし上げ、ミニスカートの様にすると変形した健太郎に跨った。



「ブイィィィン!!! パラリラパラリラッ!!」

 エンジン音と暴走族の出すクラクションの様な音を響かせながら、ミラルダを乗せた健太郎は闘技場を縦横無尽に走り始めた。
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