紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.1

田中

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第四章 獣人と魔人

動物は癒し

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 ガサガサと茂みをかき分け出て来た者達にケビンは身構え、ミラルダは目を丸くし、健太郎けんたろうは興奮で背中の放熱板から蒸気を噴き出した。



「ブシューッ!!」

 モッ、モフモフ祭りじゃあッ!!

 その蒸気を見て茂みから現れた者達は、一様に鼻に皺を寄せ牙を剥きグルルルと威嚇の声を上げる。

「コホー……コホー?」

 メンゴメンゴ、ちょっとテンション上がっちゃって……ねぇ、そこの茶色の毛並みの君、ちょっとでいいから撫でさせてもらえないかな?

 威嚇の声を上げていた一人に健太郎が歩み寄ると、ケビンが警告の声を上げる。

「近寄るなッ!! 犬の獣人は小さくてもかなり狂暴だぞッ!!」

 そう叫んだケビンの言葉が示す通り、茂みから現れたのは五匹程の直立歩行の犬にしか見えない生き物だった。

「コホーッ」

 大丈夫、こう見えて動物には好かれる方なんだ。

「動くな!! 貴様らはラーグ王国の者だな!?」

 進み出た柴犬っぽい獣人が手にしたロングソードの切っ先を健太郎に向けながら叫ぶ。

「コホーッ」

 普通に喋るんだ……まぁ獣人って人って付いてるもんな……うぅ、触りたいなぁ……。
 そんな健太郎の感想はさておき、ミラルダが柴犬に答える。

「確かにその通りだけど……どうしてここが……」
「どうして? お前は馬鹿なのか? あんな大声を上げて気付かれない筈がないだろう?」
「……コホー」

 ……そりゃそうだ……興奮して潜入任務だってすっかり忘れてた。

「クッ、そうさ、あたしらはラーグ王国の冒険者さ。あんた等に攫われたこのケビンの婚約者を取り返しに来たのさ」
「婚約者……そういえばケビンという名には聞き覚えがあるな……確かリリンとかいう雌が……」
「本当かッ!? 頼む、返してくれッ!! あいつは、リリンは俺の全てなんだッ!!」

 柴犬は剣を下ろし鼻に皺を寄せると静かに首を振った。

「悪いがそれは出来ない」
「何でだよッ!?」

「すべては砂竜の所為だ。あの竜が集落を襲い始めてからこの国から女がドンドン減った。竜はまるで女や子供を選んで襲っている様だった……このままではロガエストは遠からず消えるだろう……」

「だからってラーグから女を奪っていい筈無いだろッ!!」
「お前には気の毒だがこれも王命でな……我らの様な弱小種族は王や貴族には逆らえん」

 そう言うと柴犬は悔しそうに目を伏せた。
 それを見た健太郎はスッと柴犬に近づき、その頭を優しく撫でる。

「クッ、貴様何をするッ!?」
「コホーッ」

 分かるよ。君も女の子たちを攫いたく無かったんだね。

「隊長に触るなッ!! 皆、隊長を助けろッ!!」

 健太郎達を取り囲んでいた犬の獣人達は、手にした剣で一斉に健太郎に襲いかかった。
 キーン、という甲高い金属音が複数鳴り響き、獣人達は「キャイーン」という犬に似た悲鳴を上げて武器を取り落とした。

「……どこかで見た光景だねぇ」
「おい、あいつ大丈夫なのかッ!?」
「ああ、大丈夫大丈夫、あの程度でミシマがどうにかなる事は無いよ」
「……メイスで殴られても平気っていう話は本当だったんだな……」

 唖然とした表情を浮かべケビンが健太郎に目をやると、彼は周囲で手首を押さえている獣人達を順繰りに撫でていた。

「コホーッ!!」

 よーしよしよし!! みんな可愛いねぇ!! フフフッ、ここか、ここが気持ちいいのかッ!?

「グッ、止めろッ!! 我々は犬では……クゥーン……」



 牙を剥く者もいたが、健太郎はお構いなしに欲望のまま獣人達を撫でまわした。
 彼は元々動物好きで、会社に勤めていた頃は疲れた心を癒す為、動画サイトで様々な動物の動画を閲覧していた。
 時間のかかるゲームは出来ないが、仕事中にコッソリ楽しむぐらいは何とか出来たのだ。
 ただ、映像はあくまで映像であり、やはり実際に触れるのとは癒しの度合いが違う。

 そういう訳で彼はそれまで溜まっていた触りたいという欲求を思い切り吐き出していたのだ。

 ケビンとミラルダが顔を引きつらせ見守る中、健太郎はまるでムツゴ○ウさんの様に一時間分近く獣人達を愛で撫で続けた。

「コホーッ!!」

 満足である!!
 そう言って彼が愛撫を止める頃には、五人の獣人達は疲れ果て地面に転がっていた。

「ミシマ、あんた……」
「コホーッ」

 言ったろ。動物には好かれるタイプだって。

「動物に好かれるじゃなくて、あんたが動物好きだってだけだろ……あっ、もしかしてあたしもそういう目で見てんじゃないだろうね?」
「…………コホー」

 …………見てないよ。

「一瞬、返事に躊躇したねッ!? やっぱりあんたッ!」
「はぁ……あんた等いつもそんな調子なのか……とにかくだ、こいつらどうすんだよ?」

 呆れた様子でケビンは地面に転がった獣人達を見廻す。

「コホー」

 この子達の村に行って話を聞こう。元凶の砂竜をどうにかすれば女の子を返してくれるかもだし。

「話しねぇ……ケビン、ミシマは村に行って話を聞こうって言ってるけど、どうする?」
「こいつ等、王命とか言ってたな……そうだな。このままだとこいつ等、リリンを返してくれそうにないしな」

 そう言うとケビンは隊長と呼ばれていた柴犬に歩み寄りしゃがみ込んだ。
 隊長は健太郎の愛撫によって疲れ切っていたのか、かなり辛そうに頭を上げケビンに視線を送る。

「あんた等を撫でまわしたゴーレムはドラゴンスレイヤーだそうだ。もしかしたら砂竜を何とか出来るかもしれねぇぜ」
「ドラゴン……スレイヤー……だと? クッ……」

 隊長は苦しそうに身を起こすと、健太郎を見上げる。

「コホーッ」

 そんな隊長に健太郎は満面の笑みを浮かべ、ギュッと親指を立てた手を突き出した。
 その笑みに反応し健太郎の口元がカシャンと音を立て金色の歯を覗かせる。
 それを見た隊長とケビンはビクッと体を震わせた。

「ああ、それ笑ってるだけだから……隊長さん、ミシマがドラゴンを倒したのはホントだよ。ほら、これが証拠さ」

 ミラルダが取り出した青い鱗を見た隊長は、丸い目をさらに丸くして鱗と健太郎を交互に見るのだった。
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