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第四章 獣人と魔人
虎の望んだ未来
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獣人の都、ペズン。その王宮である天幕の一室で、宰相のジャルガは犬人族が連れて来た魔人の女の事を考えていた。
恐らく今頃はギャガンが計画に支障をきたす魔人族の女と、律儀に報告に来た犬人族達を土の下に埋めている頃だろう。
ジャルガは密かに魔人族と結び、この草原と砂漠と荒野しか無いロガエストという国を売り渡していた。
彼はロガエストではヒエラルキーのほぼ頂点と言っていい虎人族のトップで有りながら、遊牧を続けるこの国を嫌っていた。
他国の様に豪奢な宮殿を築き、石造りの街の中での落ち着いた暮らしを望んでいたのだ。
だが王であるランザは民と同じ目線でいる為だと移動し続ける事を選んだ。
何もかもが忌々しかった。自分の上に獅子人族であるだけで君臨するランザも、遊牧という変化の無い暮らしを唯々諾々と受け入れている民草も。
何もかも消えて無くなってしまえばいい、そうすれば自分はこの窮屈で古臭い国から解放され豊かな暮らしを魔人族の国、エルダガンドで送る事が出来る。
エルダガンドの狙いはこの国の地下に眠る鉱物資源だ。どうもロガエストの大地にはゴーレムを作るのに適した金属の鉱脈があるらしく、魔人族はそれを手に入れ世界に覇を唱えたいらしい。
ジャルガとしてはそれと引き換えに得られる裕福で穏やかな暮らしさえ手に入れば、民も国もエルダガンドの野望もどうでもよかった。
この国が滅びた時、民を愛し導くと公言しているランザがどんな顔をするのか……。
そんな事を思いジャルガが暗い笑みを浮かべた時、激しくドアがノックされ兵士の一人が息を切らせ部屋に飛び込んで来た。
「報告致しますッ!! 青いゴーレムが兵の制止を振り切りこちらに向かっていますッ!! 退避をッ!!」
「退避? 何を言っている? ゴーレム等、兵で排除すれば良いではないか?」
「無理ですッ!! そのゴーレムには弓はおろか、剣も槍も牙も爪も、我々の攻撃はまるで通じませんッ!!」
「馬鹿な……獣人の膂力を以てして打倒せぬゴーレム等……」
「コホーッ?」
ちょっとどいて貰える?
ジャルガと兵士が話していると、その兵士をグイッと押しのけ青黒い装甲のゴーレムがジャルガの執務室に強引に押し入って来た。
「ヒッ!?」
肩を掴まれ押しのけられた兵士は床に尻もちを突き、悲鳴を上げて後退りしている。
「誇り高い獣人の戦士がなんて様だ……」
ジャルガは椅子から立ち上がると、壁に掛けられていた長剣に手を伸ばした。
「何の用かは知らんが……」
そう言い掛けたジャルガは、ゴーレムの後ろに立っている者を見て顔を引きつらせた。
「ギャガン……まさか貴様、裏切ったのか!?」
「悪いなジャルガ、あんたの話より面白そうな事を見つけたんでなぁ」
「コホーッ」
ギャガンからあらかた事情は聴いた。この国が嫌いなら一人で何処にでも行けばいいじゃないか。そんな事に他の人を巻き込むんじゃ無いよ。
ジェスチャーで思いを伝えたがジャルガがそれを理解出来る筈も無く、彼は苛立ったように顔を歪める。
「一体何なのだ貴様は? 何がしたい?」
「コホー……」
やっぱりミラルダじゃないとジェスチャーじゃ無理か……。
青いゴーレム、三嶋健太郎は首を振りつつドンッと自らの胸を開いた。
『宰相が国を売り渡すってどういう事だよッ!!!!? この国が嫌いなら国民を巻き込まずあんた一人で出て行きゃいいだろっ!!!!』
「グオッ!?」
「クッ……やっぱうるせぇなぁ、それ」
健太郎の声は王宮の天幕のみならず、都を構成する端の天幕、果ては草原で家畜を放牧していた都の民の耳にまで届いた。
「貴様ぁ……何故それを……?」
『ギャガンから聞いたッ!!!! なんでも魔人の国で結構な地位が用意されているそうじゃないかッ!!!!?』
「ググッ……その大声を今すぐ止めろッ!!」
ジャルガは手にした剣を抜き放ち、健太郎に斬りかかる。
虎人族は豹人族より素早さでは劣るが膂力は遥かに上だ。ジャルガ自身、若い頃は兵を率い魔獣の討伐や敵国からの侵略を防いだ将軍だった。
その剛剣で幾多の敵を討ち取って来たのだ。
そんな過去に絶対の自信を持っていたジャルガの剣を健太郎は防御する素振りさえ見せず、無防備に棒立ちのまま受けた。
ギイイインッという金属音が板で仕切られたジャルガの執務室に鳴り響く。
「……そんな馬鹿な……儂の剣を受けて無傷だと……?」
「へッ、そいつにゃあ俺の剣も歯が立たなかったんだ。現役を退いたあんたじゃやれねぇよ」
「ギャガン、貴様ぁ……」
ジャルガは薄ら笑いを浮かべるギャガンを忌々し気に睨み付ける。
『とにかく、あんたには罪を償ってもらうよ!!!』
「グ……モンスターに罪云々言われる覚えは無いッ!!」
「では私が貴方の罪を問うとしましょう」
「ランザ……様……こっ、このゴーレムの言った事は出鱈目ですッ!! 誰かが私を陥れようと!!」
「無駄だよ!! 王様にはグリゼルダの口から、あんたと魔人族の計画についてマルっと喋ってもらったからねぇ!!」
雌ライオンの顔を持つ獣人達の王、ランザの影からピョコッとミラルダが顔を出す。
見ればランザの後ろには報告に来た犬人族のステフ達の他、戒めを解かれた魔人族の女、グリゼルダの姿も見えた。
「貴様ぁ……エルダガンドを裏切るのか?」
「このままでは国に戻っても、恐らく処断されるだけなのでな……それに裏切り者のお前に言われたくは無い……」
「ググッ……」
「宰相ジャルガ、ロガエスト国王、ランザの名において貴方を宰相の地位から罷免し、今回の件について詳しく話を聞かせて頂きます。衛兵、彼を拘束しなさい」
「ハッ!」
ドタドタと足音が響き、執務室に鎧を着こんだ獣人達が詰めかける。
「クソッ……この儂がこんな所で終わって堪るかッ!!」
ジャルガはその巨体からは想像出来ない速さで跳躍、兵を飛び越え部屋の外にいたランザの目の前に着地した。
「貴様を殺せば儂が王だッ!!」
「ジャルガ……」
「ランザッ!!」
「陛下ッ!!」
咄嗟に王のそばにいたステフが彼女を庇おうと前に飛び出す。だが彼我の体格差は余りにも大きく防ぎきれない事はそこにいた全員が感じ取れた。
「コホーッ!!」
させるかッ!! 噴射拳ッ!!
「グワアアアアッ!!?」
バシュッ!! という音と共にジャルガの体が何かに弾かれ、ランザの横を素通りして王宮を構成する無数の壁を突き破りながら吹っ飛んだ。
「……ミシマさん、助かりました。……ですが……ふぅ……少々乱暴すぎます」
穴の開いた壁を見て首を振りながら、ライザは呆れた口調で言う。
「コッ、コホーッ」
あ、すいません。
ポリポリと頭を掻きつつ、飛ばした右手をシュルシュルと巻き取った健太郎を見て、獣人の王は嘆息交じりの苦笑を浮かべた。
恐らく今頃はギャガンが計画に支障をきたす魔人族の女と、律儀に報告に来た犬人族達を土の下に埋めている頃だろう。
ジャルガは密かに魔人族と結び、この草原と砂漠と荒野しか無いロガエストという国を売り渡していた。
彼はロガエストではヒエラルキーのほぼ頂点と言っていい虎人族のトップで有りながら、遊牧を続けるこの国を嫌っていた。
他国の様に豪奢な宮殿を築き、石造りの街の中での落ち着いた暮らしを望んでいたのだ。
だが王であるランザは民と同じ目線でいる為だと移動し続ける事を選んだ。
何もかもが忌々しかった。自分の上に獅子人族であるだけで君臨するランザも、遊牧という変化の無い暮らしを唯々諾々と受け入れている民草も。
何もかも消えて無くなってしまえばいい、そうすれば自分はこの窮屈で古臭い国から解放され豊かな暮らしを魔人族の国、エルダガンドで送る事が出来る。
エルダガンドの狙いはこの国の地下に眠る鉱物資源だ。どうもロガエストの大地にはゴーレムを作るのに適した金属の鉱脈があるらしく、魔人族はそれを手に入れ世界に覇を唱えたいらしい。
ジャルガとしてはそれと引き換えに得られる裕福で穏やかな暮らしさえ手に入れば、民も国もエルダガンドの野望もどうでもよかった。
この国が滅びた時、民を愛し導くと公言しているランザがどんな顔をするのか……。
そんな事を思いジャルガが暗い笑みを浮かべた時、激しくドアがノックされ兵士の一人が息を切らせ部屋に飛び込んで来た。
「報告致しますッ!! 青いゴーレムが兵の制止を振り切りこちらに向かっていますッ!! 退避をッ!!」
「退避? 何を言っている? ゴーレム等、兵で排除すれば良いではないか?」
「無理ですッ!! そのゴーレムには弓はおろか、剣も槍も牙も爪も、我々の攻撃はまるで通じませんッ!!」
「馬鹿な……獣人の膂力を以てして打倒せぬゴーレム等……」
「コホーッ?」
ちょっとどいて貰える?
ジャルガと兵士が話していると、その兵士をグイッと押しのけ青黒い装甲のゴーレムがジャルガの執務室に強引に押し入って来た。
「ヒッ!?」
肩を掴まれ押しのけられた兵士は床に尻もちを突き、悲鳴を上げて後退りしている。
「誇り高い獣人の戦士がなんて様だ……」
ジャルガは椅子から立ち上がると、壁に掛けられていた長剣に手を伸ばした。
「何の用かは知らんが……」
そう言い掛けたジャルガは、ゴーレムの後ろに立っている者を見て顔を引きつらせた。
「ギャガン……まさか貴様、裏切ったのか!?」
「悪いなジャルガ、あんたの話より面白そうな事を見つけたんでなぁ」
「コホーッ」
ギャガンからあらかた事情は聴いた。この国が嫌いなら一人で何処にでも行けばいいじゃないか。そんな事に他の人を巻き込むんじゃ無いよ。
ジェスチャーで思いを伝えたがジャルガがそれを理解出来る筈も無く、彼は苛立ったように顔を歪める。
「一体何なのだ貴様は? 何がしたい?」
「コホー……」
やっぱりミラルダじゃないとジェスチャーじゃ無理か……。
青いゴーレム、三嶋健太郎は首を振りつつドンッと自らの胸を開いた。
『宰相が国を売り渡すってどういう事だよッ!!!!? この国が嫌いなら国民を巻き込まずあんた一人で出て行きゃいいだろっ!!!!』
「グオッ!?」
「クッ……やっぱうるせぇなぁ、それ」
健太郎の声は王宮の天幕のみならず、都を構成する端の天幕、果ては草原で家畜を放牧していた都の民の耳にまで届いた。
「貴様ぁ……何故それを……?」
『ギャガンから聞いたッ!!!! なんでも魔人の国で結構な地位が用意されているそうじゃないかッ!!!!?』
「ググッ……その大声を今すぐ止めろッ!!」
ジャルガは手にした剣を抜き放ち、健太郎に斬りかかる。
虎人族は豹人族より素早さでは劣るが膂力は遥かに上だ。ジャルガ自身、若い頃は兵を率い魔獣の討伐や敵国からの侵略を防いだ将軍だった。
その剛剣で幾多の敵を討ち取って来たのだ。
そんな過去に絶対の自信を持っていたジャルガの剣を健太郎は防御する素振りさえ見せず、無防備に棒立ちのまま受けた。
ギイイインッという金属音が板で仕切られたジャルガの執務室に鳴り響く。
「……そんな馬鹿な……儂の剣を受けて無傷だと……?」
「へッ、そいつにゃあ俺の剣も歯が立たなかったんだ。現役を退いたあんたじゃやれねぇよ」
「ギャガン、貴様ぁ……」
ジャルガは薄ら笑いを浮かべるギャガンを忌々し気に睨み付ける。
『とにかく、あんたには罪を償ってもらうよ!!!』
「グ……モンスターに罪云々言われる覚えは無いッ!!」
「では私が貴方の罪を問うとしましょう」
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「ハッ!」
ドタドタと足音が響き、執務室に鎧を着こんだ獣人達が詰めかける。
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