紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.1

田中

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第四章 獣人と魔人

胸を張って生きる

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 疲れ果てグデッとした黒い豹と角の生えた女を乗せ、青黒い金属の車が天幕の群れへ向けて草原を走っていた。



 その車の運転席では赤い髪の女が機嫌良さそうにハンドルを握っている。

「いやぁ、二人とも分かってくれて良かったよ。ラーグで暮らすんならギャガンやグリゼルダみたいな人間以外の子は、なるたけ行儀よくした方がいいからね」

 血流魔法を掛けたギャガンとグリゼルダの足をミラルダは暫くツンツンとつつき続けた。
 やがて二人が他人に迷惑をかける事はしないから、頼むから止めてくれと泣きつくまでミラルダはそれを止める事は無かった。
 あの様子を見るにギャガン達も、もう無茶な事はしないだろう。

「ブルルルルッ……」

 アレを分かって貰えたと言っていいのだろうか……なんだか拷問チックだったが……。

「何だいミシマ? 気に入らないのかい?」
「ブルルルッ!!」

 滅相も無いッ!! 羽目を外し過ぎた彼らにはよい判断だったと思いますッ!!

「フフッ、悪戯した時はあたしも師匠に似たような感じで、地味に嫌なお仕置きされたもんさ」
「ブルンッ、ブルルルルッ……」

 あっ、アレって婆さんからの伝統なんスね……体罰じゃ無い気はするけど……。

 そんな話をしつつ王都に戻ると、街の入り口では国王であるランザ自らが兵を引き連れ彼らを出迎えてくれた。



「ミラルダさん、ギャガンとグリゼルダさんは!?」

 トラックモードの健太郎けんたろうに駆け寄ったランザが運転席のミラルダに尋ねる。
 不安げなランザにミラルダは運転席を降りると微笑みかけた。

「大丈夫、二人とも後ろに乗ってるよ。たっぷり絞ってやったから、もう悪さはしない筈さ」
「そうですか……では私から叱責する事は止めておきましょう……何にしても怪我人が出なくて良かった」
「そうだね、それだけは不幸中の幸いだね」

 そう言って苦笑を浮かべたミラルダに同じく苦笑を返すと、ランザはトラックになった健太郎を見上げる。

「この大きさ、それに先程見た速さなら、グリゼルダさんが示したグリア砂漠の中心へも砂竜を振り切って辿り着けそうですね」
「あたしゃそのグリア砂漠を見た事が無いからよく分かんないんだけど、確かに速いし、多分凄く頑丈だから辿り着く事は出来ると思う……ただ、ミシマ一人じゃ運べる人数は……」
「それなら問題ありません。問題点は物資の搬送でした。それをミシマさんにやってもらえるなら、足の速い砂上船を使って軍を派遣出来ます……短期決戦、精鋭を招集すれば……」
「ぐうぅ……まだ足が痺れてやがるぜ……よぉ、ランザ、その作戦、俺の部隊も混ぜろや」

 足を若干引きずりながら健太郎から降りたギャガンが、ニヤッと牙を見せながら言う。

「……いいでしょう。砂竜の問題を解決出来たなら、貴方が王宮を破壊した事は不問にします……」

 ギャガンはチラリとミラルダに視線を送り、肩を竦めると鼻からため息を吐いた

「ふぅ……分かったよぉ」
「クッ……アジトは砂漠の中央部にある岩山、潜伏している仲間は百名前後だ。毎日その半数ほどが砂竜を使いロガエスト全土に襲撃を掛けている」

 ギャガンと同じく足の痺れに顔を顰めつつ、健太郎から降りたグリゼルダが情報を補足する。

「では、アジトに残るのは五十名……突貫するにしてもギャガンの隊だけでは……」
「あん? 俺の隊が信用出来ねぇってのか?」
「ええ、だって貴方の隊は総勢二十名程の愚連隊でしょう?」
「チッ……」

 舌打ちして唇を歪めたギャガンから視線を外し、ランザはミラルダの頭にチラリと目をやった。

「……そうですね……あとは炎狼族から兵を出してもらうとしましょう」
「炎狼族……」
「ええ……ミラルダさん、あなたのその耳と髪は炎狼族の血による物に違いありません……彼らと話せばきっと親御さんの事も……」

「……親ねぇ……正直、あたしを捨てた奴の事なんて特段知りたいとは……」
「……私が知る炎狼族は誇り高く子供を捨てる事等ありません。たとえそれが半獣人であろうと……獣人族の、ロガエストの王として民である炎狼達を悪く思って欲しくはないのです……無理にとは言いませんが、彼らと話してみて貰えませんか? きっと理由があった筈です」

「……でも」
「コホーッ」

 ミラルダ、自分のルーツを知る事は悪い事じゃ無いと思う。いい人だったなら胸を張れるだろうし、悪い奴だったら反面教師にすればいい。

 グリゼルダを下ろし、トラックから人型に変形した健太郎はミラルダにそうジェスチャーで伝えた。

 健太郎自身、親とは不仲で大学入学を期に殆ど話してはいなかった。
 不仲の理由は彼の両親は徹底したエリート主義で、良い大学に入り一流企業に就職する事が幸せだと考えていた事だ。
 だから大学受験に失敗し志望校に入れなかった健太郎を彼らは切り捨てた。

 健太郎自身もそんな親に見切りを付け奨学金とバイトをする事で大学に通い、援助を受ける事もしなかった。
 だが彼らと正面から向き合わなかったモヤモヤはずっと心の中に残っていた。
 その後、ホームレスになって様々な人々と出会い、彼らの話を聞くうち、袂を別つにしてもちゃんと自分の気持ちをぶつけて、その上で分かり合えないなら離れるべきではなかっただろうかと彼は思う様になっていた。

 ミラルダは赤ん坊の時に捨てられたという、その事は彼女の中で健太郎と同じくシコリとして残っているのでは……。
 そんな想いが健太郎を駆り立てていた。

「胸を張れるか……そうだね。正直いやあ、あたしも親の事は気になってはたんだ。捨てた事に納得できる理由がありゃあもっとスッキリ生きれるかもね」
「コホーッ!!」

 ミラルダの親なんだ、きっといい人だぜッ!!



 ギュッと右手の親指を立てた手を突き出した健太郎に、ミラルダは相変わらず能天気だねぇと微笑みを浮かべた。
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