紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.1

田中

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第四章 獣人と魔人

ラッシュの辛さはよく分かる

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 砂竜さりゅうの巣だった島を慌てて逃げ出した健太郎けんたろう他、獣人達。
 その健太郎が変化したトラックの荷台では、拘束されギュウギュウに詰め込まれた魔人達が目覚め始めていた。

「グッ、キツイ……一体何で俺達は……?」
「ちょっと、変なトコ触らないでよッ!」
「はぁ? お前こそ俺の股間をまさぐるんじゃねぇよッ!」
「しょうがないでしょッ、両手が縛られてるんだから」
「グッ、臭い、誰かすかしっ屁しただろうッ!? 狭いんだから我慢しろよッ!!」
「いたたたッ、刺さってる! 角が刺さってるって、離れろってッ!!」
「すっ、すまん、だが動こうにもこうギチギチだと……」
「ググッ……」



 荷台から聞こえる声にミラルダが苦笑いを浮かべる。

「こりゃあ、中継した島で一旦下ろした方がいいねぇ」
「だな……慌ててたから相当無理矢理詰め込んだからなぁ……」
「どうすんだい? 食料とか島に置いて来た分じゃ節約しても持って数日だよ」

「元々、半分捕まえて、魔人共の食料で待ち伏せするつもりだったからなぁ……まぁ、その辺は生真面目なファンゴが考えてんだろ?」
「いい加減だねぇ」
「行き当たりばったりのお前に言われたくねぇよ」
「ブルルンッ」

 すまんな魔人達よ。俺もそのギュウギュウ詰めの辛さは分かるが、もうしばらく耐えてくれ。

 健太郎は自分の中で苦しむ魔人達に同情の声を送りながら中継した島への道を急ぎ駆け抜けた。
 そんな風に走っていると、ミラルダが言っていた様に所々に水が噴き出している場所が見受けられた。
 今はまだ小さな池程だが、水の勢いは激しく止まる様子は見受けられない。

 その噴き出す水を見た工作部隊の隊長ブラドバーンは、砂上船の上で皮肉げな笑みを浮かべていた。
 そんな彼の顔を見たグリゼルダは首を傾げ問い掛ける。

「隊長、何を笑っているのですか?」
「グリゼルダ……あの水は地下のブルーメタルの仕業だろう?」
「恐らくそうでしょうね。ミシマの放った光で地下に空気が流入したのでしょう」

「ミシマ、あのゴーレムか……調査じゃブルーメタルは地下五百メートル、岩盤の下にあるって話だったが……」
「私もそう聞いています……止めましょう。正体不明のゴーレムもどきの事を考えても意味がありません」
「そうか? お前、ミシマの事を話す時、何だが楽しそうだぞ?」

 ブラドバーンにそう言って微笑みかけられ、グリゼルダはムッと眉を寄せた。



「呆れているだけです。それよりさっき笑っていた事の答えを聞いていません」
「答えか……いや、この様子じゃブルーメタルは採掘不可能だろう? 上の連中はさぞ悔しがると思ってな」
「隊長……」

「そもそも世界なんて征服して何が楽しいんだ? 管理が大変だし絶対に反乱が起きるぞ」
「……まぁ、そうでしょうね」

「だろう? だったら今のまま、それぞれの民族、種族で国を作ってりゃいいじゃないか……俺はさ、安定を求めて軍に入ったんだよ……間違っても砂漠の真ん中で竜や虫と暮らす為じゃ無い」

 繋がれた両手を船の縁に乗せ、砂の海に点在する水の煌めきを見つめながらブラドバーンはそう呟いた。


■◇■◇■◇■


 砂竜の島から西に五キロ、健太郎達は作戦の拠点となった島に魔人達をひとまず下ろした。

 魔人は魔法のスペシャリストではあったが運動能力的には人間と変わらない。
 拠点も装備も失った今、逃げ出した所で砂漠を超えエルダガンドへと帰るのは難しいと殆どの者が思っていた。
 それにそれを試みた者が詠唱を始めた瞬間、獣人に取り押さえられたのを砂上船に乗った多くの者が見ていた。

 そういう経緯もあり、魔人達は反抗する事無く捕虜として扱われる事を受け入れていた。

「それで、俺達はどうなるんだい?」

 島に降ろされ、かつて商人達が作った滞在用の建物に収容された魔人達、彼らを代表して隊長のブラドバーンがファンゴに尋ねる。

「北に向かい砂漠を抜けた後はそのまま北上しペズンの都へと搬送する。この島へ向かう途中、鳥を放したから数日中には船が到着するだろう」
「獣人の都ねぇ……それなら少し待ってくれりゃ、こっちから出向いたのに……」

「何? どういう意味だ?」
「明後日には砂竜であんた達の都を襲う予定だったのさ。あのミシマって奴の所為で潰されたがな」

「そうか、間一髪だったという訳だな……ともかくお前達は都に運ばれ、エルダガンドとの交渉に使われる事となるだろう」
「交渉ねぇ……たぶん国は俺達の独断だったと関与を否定すると思うぜ」

 皮肉げな笑みを浮かべたブラドバーンを見て、ファンゴは顔を顰めた。

「お前達は切り捨てられるという事か?」
「まぁ、そうなるだろうな」
「……よくそんな国に忠誠を尽くせるな?」
「昔はそう悪い国でも無かったんだよ」

 ファンゴの言葉にブラドバーンはそう言って肩を竦め、宛がわれた部屋へと消えて行った。
 それを見送ったグリゼルダはファンゴに声を掛けた。

「なぁ、隊長たちは切り捨てられたらどうなるんだ?」
「さて……陛下は無駄な血を流す事は嫌われるお方だが……」
「……」

 グリゼルダはブラドバーンの部屋の扉を見つめ、ギュッと右手を握った。
 その様子を見たファンゴは少し考え口を開いた。

「……恐らくだが、交渉が失敗した場合、陛下は国の内外へ向けてエルダガンドの行いを公表するだろう。そうなれば他の国もエルダガンドへの追及を強める筈だ、その生き証人として彼らは扱われると思う」
「処刑されるという事は無いのだな?」

「……家族を奪われた民はそれを望むだろうが……なぁ、あの者達も命令に従っただけだけなんだろう?」
「ああ、私も含めて部隊の連中は任務として携わっていただけだ」

「俺も軍人だからな、その感覚は分かるよ……俺達も王命で他国の女を攫っていたんだ……だからエルダガンドが非を認め、賠償に応じてくれればと願っているよ……そうなればロガエストも他国に詫びる資金が得られるからな……」

 ファンゴはそう言うと、唇を噛んだグリゼルダの肩をポンッと叩いた。
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