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第五章 魔人の依頼と迷惑な姫
強くあろうとする意志
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魔人族、リビ・カーネルからの依頼を受けた健太郎達は、依頼者であるリビともう一人の生存者である魔人族の男性が滞在しているという宿へと向かっていた。
宿は酒場の立ち並ぶ繁華街の裏通りにひっそりと佇んでいた。
ラーグでは獣人程、魔人族に対して差別意識は無いが、それでも人は馴染みの無い物を排除したがるものだ。
依頼者達は恐らく目立つ事を危惧したのだろう。
入り口を押し開け宿に入ると、複数の視線がこちらを向いた。
「半獣に黒豹、それに魔人にゴーレム……人外共が何の用だぁ?」
宿の一階は酒場になっておりその酒場の客の一人、昼間から酒を飲みしたたかに酔っぱらっていた口髭の男が、健太郎達に歩み寄り絡み始めた。
「用があるのはあんたじゃ無くて、宿の客だよ」
「チッ、半獣人が生言ってんじゃねぇぞッ!」
「おい」
「ああ、何だ黒豹? やるってのかッ!?」
「もうやった」
そう言って男に示してみせたギャガンの右手の親指と人差し指の間には、男の髪の色と同じ金色の毛がつままれていた。
「なっ、何だそれッ!?」
「昼間っから酒飲んで、くだ巻いてる酔っぱらいにゃあ似合わねぇ立派な髯だったんでな。剃ってやったぜ」
ギャガンが指を擦り合わせると、男の髯がパラパラと床に落ちる。
酔っぱらいの男は自分の口元を右手で押さえ、髯が無くなっている事を確認すると顔を青くした。
「次は髯じゃ無くて面の皮を剥いでやろうかぁ?」
ギャガンはそう言うと持ち上げていた右手を開き、鈍く光る指先の爪を男に向ける。
「ヒッ……」
小さく悲鳴を上げ、男はつんのめりながら酒場から逃げ出していった。
その後、ギャガンが酒場に金の目を巡らせると、客達は怯えた様に目をテーブルに落した。
「フンッ、根性無し共が」
「ギャガン、客を威圧すんのはお止め」
「あ? 喧嘩売って来たのは向こうだろうが?」
「ふぅ……いいかい、あたしはこの国でのんびり平和に暮らしたいんだ。売られた喧嘩を買ってちゃあ、いつまで経ってものんびり出来ないだろ」
「そうだな、諍いは面倒事しか生まん。お前の所為で子供達が狙われでもしたら厄介だ」
「チッ……」
舌打ちしそっぽを向いたギャガンに健太郎はそっと耳打ちする。
「コホー」
グリゼルダの言う事ももっともだけど、俺はちょっとスカッとしたよ。
健太郎に視線を向けたギャガンに小さく左手の親指を立てると、彼もまんざらでも無さそうに小さく牙を見せた。
そんな男達の仕草には気付かず、ミラルダは仕切り直しとばかりに明るい声を上げる。
「さて、それじゃあ本題の依頼者に会いにいこうか?」
「ああ、依頼者が知人かも気になるしな」
「あんたの知り合いって事は軍人なのかい?」
「うむ、兵学校の同期だ。あいつは私と違って正規軍に配属された筈だが……」
「まぁ、それも会えばわかるさ」
そう言うと彼女はカウンターに歩み寄りリビ・カーネルを訪ねて来た旨をバーテンに告げた。
「冒険者か?」
「ああ、そうだよ」
ミラルダは首に掛けたギルド証をバーテンに手渡す。
「……奴らは二階、階段を上って左側、三つ目の部屋だ」
「ありがとよ」
「面倒は起こすなよ」
バーテンは不愛想に言ってミラルダにギルド証を差し出した。
「分かっているさ」
バーテンから差し出されたギルド証を受け取ると彼に微笑み、ミラルダはヒラヒラと手を振って階段へと足を向けた。
「愛想の悪い店員だぜ」
「獣人は嫌われてるからねぇ、対応してくれただけいい方さ」
「下らねぇぜ。大事なのはそいつが強いか弱いかだろ」
「強さで付き合う奴を決めるのかい?」
「まあな」
「じゃあ、トーマスに付き合ってるのもあの子が強いからかい?」
ミラルダの問い掛けにギャガンはほんの少し沈黙し、やがて口を開く。
「前言撤回だ。大事なのは強くあろうとする意志を持ってるかどうかだ」
「そうかい」
「コホー……」
強くあろうとする意志……どうなんだろ? 俺はミラルダを幸せにしたいとは思ってるけど……。
現在の健太郎の強さは夢が作り出した体による物だ。決して健太郎の努力によって得た強さでは無い。
強さか……俺も体に頼り切りじゃなくて何か武術でも習おうかな……武術……そうだな、八極拳だな、なんかカッコ良いし。ただ問題はこの世界に八極拳を教えてくれる老師がいるかどうかだが……。
健太郎がそんな事を考えている間に、一行は階段を上り切り依頼人のリビがいるだろう部屋の前に辿り着いた。
ミラルダが代表してコンコンと白い木のドアをノックする。
「依頼を受けて冒険者ギルドから来たんだけど?」
「ギルドからッ!?」
扉の中からくぐもった声が聞こえ、バタバタと足音が響き、やがて勢いよく扉が開かれる。
「中々返事が来ないからもう駄目だと思ってたっスッ!! ……変わった組み合わせって、グリゼルダッ!?」
笑みを浮かべ健太郎達に順繰りに目を向けていたその魔人族の女の顔が、グリゼルダを見て驚きに変わる。
「やはり貴様か、ビビ・コラウネル」
「なんであんたがラーグにいるんスかッ!?」
「それはこっちのセリフだ。なぜ貴様がここにいる?」
目を真ん丸にしたビビとそれを冷静に見つめ返すグリゼルダ。
そんな二人の間にミラルダが割って入る。
「まぁまぁ、取り敢えず部屋に入れて貰えないかねぇ?」
「あっ、すみませんっス。どうぞ」
案内されて入った部屋はリビングが一つ、寝室はそれぞれ分かれている様だった。
そのリビングのソファーには魔人族にしては大柄な男がこちらに値踏みする様な視線を向けている。
「仲間のオーグルっス。オーグル、彼らは冒険者ギルドから来た冒険者さんっス」
「オーグルだ」
「ミラルダだよ、見ての通り半獣人で魔法使いさ。それとその青いゴーレムはミシマ。あたし達の仲間だ」
「コホーッ!!」
三嶋健太郎、二十四歳のホームレスで今はロボットやってるよッ!! よろしくねッ!!
健太郎は元気よく挨拶して親指を立てた右手をギュッと突き出した。
「俺はギャガン、豹人族の剣士だ」
「私はグリゼルダ。ビビとは兵学校の同期だ。それでお前ら何でラーグにいる?」
「……兵学校の才媛グリゼルダに会えたのは天の助けかもしれないっスね……とにかく説明するんで皆さん座って下さい」
ビビは健太郎達に椅子を勧め、自身もオーグルの隣に腰を落ち着けた。
「俺達がラーグにいたのは上からドラゴンの捕縛を命じられたからっス」
「ドラゴンの捕縛だと? 誰だそんな馬鹿な計画を思いついたのは?」
「隊長…………俺達を仕切ってた人です……あの人の予想じゃキュベルって女の思いつきだって」
ビビは隊長と口にした際、一瞬切なげに瞳を揺らした。
「キュベル……なんか覚えのある名前だねぇ」
「以前話したが、エルダガンドが策謀を好むようになった原因を作ったと思われる女だ……そうか、ビビ、貴様もあの女の所為で……」
そう言うとグリゼルダはビビに同情を含んだ、優しい視線を向けた。
宿は酒場の立ち並ぶ繁華街の裏通りにひっそりと佇んでいた。
ラーグでは獣人程、魔人族に対して差別意識は無いが、それでも人は馴染みの無い物を排除したがるものだ。
依頼者達は恐らく目立つ事を危惧したのだろう。
入り口を押し開け宿に入ると、複数の視線がこちらを向いた。
「半獣に黒豹、それに魔人にゴーレム……人外共が何の用だぁ?」
宿の一階は酒場になっておりその酒場の客の一人、昼間から酒を飲みしたたかに酔っぱらっていた口髭の男が、健太郎達に歩み寄り絡み始めた。
「用があるのはあんたじゃ無くて、宿の客だよ」
「チッ、半獣人が生言ってんじゃねぇぞッ!」
「おい」
「ああ、何だ黒豹? やるってのかッ!?」
「もうやった」
そう言って男に示してみせたギャガンの右手の親指と人差し指の間には、男の髪の色と同じ金色の毛がつままれていた。
「なっ、何だそれッ!?」
「昼間っから酒飲んで、くだ巻いてる酔っぱらいにゃあ似合わねぇ立派な髯だったんでな。剃ってやったぜ」
ギャガンが指を擦り合わせると、男の髯がパラパラと床に落ちる。
酔っぱらいの男は自分の口元を右手で押さえ、髯が無くなっている事を確認すると顔を青くした。
「次は髯じゃ無くて面の皮を剥いでやろうかぁ?」
ギャガンはそう言うと持ち上げていた右手を開き、鈍く光る指先の爪を男に向ける。
「ヒッ……」
小さく悲鳴を上げ、男はつんのめりながら酒場から逃げ出していった。
その後、ギャガンが酒場に金の目を巡らせると、客達は怯えた様に目をテーブルに落した。
「フンッ、根性無し共が」
「ギャガン、客を威圧すんのはお止め」
「あ? 喧嘩売って来たのは向こうだろうが?」
「ふぅ……いいかい、あたしはこの国でのんびり平和に暮らしたいんだ。売られた喧嘩を買ってちゃあ、いつまで経ってものんびり出来ないだろ」
「そうだな、諍いは面倒事しか生まん。お前の所為で子供達が狙われでもしたら厄介だ」
「チッ……」
舌打ちしそっぽを向いたギャガンに健太郎はそっと耳打ちする。
「コホー」
グリゼルダの言う事ももっともだけど、俺はちょっとスカッとしたよ。
健太郎に視線を向けたギャガンに小さく左手の親指を立てると、彼もまんざらでも無さそうに小さく牙を見せた。
そんな男達の仕草には気付かず、ミラルダは仕切り直しとばかりに明るい声を上げる。
「さて、それじゃあ本題の依頼者に会いにいこうか?」
「ああ、依頼者が知人かも気になるしな」
「あんたの知り合いって事は軍人なのかい?」
「うむ、兵学校の同期だ。あいつは私と違って正規軍に配属された筈だが……」
「まぁ、それも会えばわかるさ」
そう言うと彼女はカウンターに歩み寄りリビ・カーネルを訪ねて来た旨をバーテンに告げた。
「冒険者か?」
「ああ、そうだよ」
ミラルダは首に掛けたギルド証をバーテンに手渡す。
「……奴らは二階、階段を上って左側、三つ目の部屋だ」
「ありがとよ」
「面倒は起こすなよ」
バーテンは不愛想に言ってミラルダにギルド証を差し出した。
「分かっているさ」
バーテンから差し出されたギルド証を受け取ると彼に微笑み、ミラルダはヒラヒラと手を振って階段へと足を向けた。
「愛想の悪い店員だぜ」
「獣人は嫌われてるからねぇ、対応してくれただけいい方さ」
「下らねぇぜ。大事なのはそいつが強いか弱いかだろ」
「強さで付き合う奴を決めるのかい?」
「まあな」
「じゃあ、トーマスに付き合ってるのもあの子が強いからかい?」
ミラルダの問い掛けにギャガンはほんの少し沈黙し、やがて口を開く。
「前言撤回だ。大事なのは強くあろうとする意志を持ってるかどうかだ」
「そうかい」
「コホー……」
強くあろうとする意志……どうなんだろ? 俺はミラルダを幸せにしたいとは思ってるけど……。
現在の健太郎の強さは夢が作り出した体による物だ。決して健太郎の努力によって得た強さでは無い。
強さか……俺も体に頼り切りじゃなくて何か武術でも習おうかな……武術……そうだな、八極拳だな、なんかカッコ良いし。ただ問題はこの世界に八極拳を教えてくれる老師がいるかどうかだが……。
健太郎がそんな事を考えている間に、一行は階段を上り切り依頼人のリビがいるだろう部屋の前に辿り着いた。
ミラルダが代表してコンコンと白い木のドアをノックする。
「依頼を受けて冒険者ギルドから来たんだけど?」
「ギルドからッ!?」
扉の中からくぐもった声が聞こえ、バタバタと足音が響き、やがて勢いよく扉が開かれる。
「中々返事が来ないからもう駄目だと思ってたっスッ!! ……変わった組み合わせって、グリゼルダッ!?」
笑みを浮かべ健太郎達に順繰りに目を向けていたその魔人族の女の顔が、グリゼルダを見て驚きに変わる。
「やはり貴様か、ビビ・コラウネル」
「なんであんたがラーグにいるんスかッ!?」
「それはこっちのセリフだ。なぜ貴様がここにいる?」
目を真ん丸にしたビビとそれを冷静に見つめ返すグリゼルダ。
そんな二人の間にミラルダが割って入る。
「まぁまぁ、取り敢えず部屋に入れて貰えないかねぇ?」
「あっ、すみませんっス。どうぞ」
案内されて入った部屋はリビングが一つ、寝室はそれぞれ分かれている様だった。
そのリビングのソファーには魔人族にしては大柄な男がこちらに値踏みする様な視線を向けている。
「仲間のオーグルっス。オーグル、彼らは冒険者ギルドから来た冒険者さんっス」
「オーグルだ」
「ミラルダだよ、見ての通り半獣人で魔法使いさ。それとその青いゴーレムはミシマ。あたし達の仲間だ」
「コホーッ!!」
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ビビは隊長と口にした際、一瞬切なげに瞳を揺らした。
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