紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.1

田中

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第五章 魔人の依頼と迷惑な姫

竜の群れを追って

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 北西に向かったグラハムはトゥインクルスター☆彡をラーグ国内の森に隠し、竜の目撃情報を追う形でキュベルの足取りを追った。

 ラーグ王国は魔法研究の盛んなエルダガンドと違い、街並みだけで言えばひと昔前のエルダガンドに近かった。
 それでもラーグ王国が他国から軽んじられないのは国土の大きさとダンジョンの多さ、そして何より冒険者の存在が大きかったからだ。

 エルダガンドでも有名な英雄トラスはこのラーグ王国の出身だった。
 多くの英雄譚を残したトラスの影響もありラーグにちょっかいを出す国は無く、それはキュベルが発案した竜騎士団の事が無ければエルダガンドも同様だった。
 そんな訳でラーグでは魔人は珍しくはあっても、獣人程嫌われてはいなかった。

 そういった背景もあり、グラハムも街での情報収集に困る事は無かった。
 そうして竜の足取りを追う内、彼は数日かけて王都の南、フィッシュバーン伯爵領の領都クルベストへと辿り着く。

 これまでの街同様、グラハムは冒険者達が集まる酒場に入り、酒場の主人に紹介してもらった情報通の冒険者に酒を奢り竜の事を尋ねた。

「竜の群れ?」
「ああ、百頭前後はいたと思うんだが、何か知らないか?」
「そうだなぁ、もう一杯ぐらい飲めば喉も潤って喋りやすくなると思うんだが……?」

 恐らく盗賊だろう痩せたギョロ目の男は、グラハムが頼んだ酒を旨そうに飲みながら笑みを浮かべる。

「勿論だ。一杯とは言わず好きな物を頼んでくれ」
「そうか、悪いな」

 男は手を上げて給仕を呼び、葡萄酒のボトルを頼んだ。
 やがて運ばれて来た冷えたボトルの中身を、男はグラスに注ぎ、一口、口に含むと満足そうに笑った。

「さて……竜の群れについてだが、俺が聞いた話じゃ奴ら一度、この街の北にある金竜王の迷宮に集まったそうだぜ」
「金竜王の迷宮……」
「ああ、だがもうそこに群れはいないぜ」
「いない? どういう事だ?」
「流石に大量の竜が一か所に集まったら俺達冒険者だけでなく、領主だって警戒する。だが集まったその日にゃ竜たちはバラバラに散っていったみてぇだからよぉ。警戒は必要だが脅威は去ったと見ていいって触れが出てたぜ」
「もう迷宮に竜はいないと?」

 グラハムの言葉に男は首を振る。

「迷宮の主の金竜ゴールドドラゴンは残ってるって話だ……そういやちょっと前に、魔人から金竜王の迷宮で倒れた仲間の遺体回収って依頼が出てたが、あんたもしかして奴らの関係者か?」

 男の話を聞いてグラハムは竜騎士団の件で派兵された兵士だろうと当たりを付けた。

「……まぁ、そんな所だ」
「そうか……んじゃ、気前のいいあんたに一つサービスだ。その依頼を受けたのはこの街じゃ嫌われ者の半獣人の女だ」
「半獣人……」
「ああ、あいつ、最近ゴーレムやら獣人やらを仲間にしていっちょ前に仕事を受けてるらしい」
「ゴーレムだと!? もしかしてそのゴーレムとは青い金属製の!?」
「そうだ。知ってるのか?」
「あ、ああ、知っているとも」

 グラハムの顔が怒りで歪んだのを見た男は、声を落し静かに言う。

「……一応、忠告しとくが、あの青いゴーレムには関わらない方がいい」
「何? どういう事だ?」

 グラハムが眉根を寄せると、男はチョイチョイと右手の人差し指で顔を寄せる様に示した。
 顔を寄せたグラハムの耳に男は口を寄せる。

「噂じゃこの街の領主の息子、まぁバカ息子なんだが、そいつが持ってたゴーレムと魔法の剣を壊したのに、咎めを受けたのは息子の方だったらしい。それ以外でもこの街のギルドで上位の冒険者だった転移者とその相棒の魔法使いを返り討ちにしたりしてな。街中に響き渡る大声出したり、車の付いた馬になったり金属の馬車になったり、とにかく得体が知れねぇんだ」

「……金属の馬車? 形を変えたという事か?」
「ああ、馬車の方は直接見てねぇが馬になったのは俺も見た。どうすりゃああなんのか分かんねぇが、何だか気味が悪かったぜ」
「…………金竜王の迷宮だな?」

 立ち上がり銀貨をテーブルに置いたグラハムを見上げ、男は肩を竦める。

「……忠告はしたぜ」
「それでも私は行かねばならんのだ……忠告痛み入る」

 そう言って酒場を立ち去るグラハムを見送ると、男は再度、肩を竦め首を振った。


■◇■◇■◇■


 金竜王の迷宮ではバッツ達、金竜シャーリアと戦い生き残った三人の魔人達が、枝分かれした渓谷の姿をしたダンジョンで食料の調達を行っていた。

「隊長、ミラルダさん、ホントにキュベルを説得出来るんスかねぇ?」
「さぁな、だが出来なきゃ帰国しても命令無視で処分されそうだし、何より俺はシャーリアから離れられんしなぁ」
「あの隊長、離れられないって、あの竜に何か魔法でも掛けられてるんですか?」
「いや、だが仮に逃げ出しても竜に追われる事になっちゃあ、普通の生活は送れんだろう?」
「シャーリア、隊長の事、凄く気に入ってるっスからねぇ……」
「……どうせ殺されると思ってたからなぁ……悔いが残らない様に完璧に仕上げたのが不味かったか」

 そんな話をしていたバッツ達の上を閃光が走り、それを追う様に巨大な影が渓谷から覗く空を駆け抜けた。
 その直後「グギャアアアッ!!」というシャーリアの物と思われる悲鳴が渓谷に木霊する。
 バッツ達は顔を見合わせ、頷き合うと飛翔フライトを唱えシャーリアのいる神殿へと向かった。


■◇■◇■◇■


「グギャアアア!!」

 突然響いた悲鳴を聞いて健太郎けんたろう達が簡易の家屋から駆け出すと、そこには神殿前の石畳の上で血を流し倒れたシャーリアの姿があった。
 右の肩を抉られたシャーリアは苦しそうに息を吐き、大地に突っ伏している。

「グリゼルダッ、癒しをッ!!」
「了解だッ!!」
『動くな賊共ッ!!』

 響いた声に視線を上げれば、そこには白銀の金属の巨人が右手を翳しこちらに赤い単眼を向けていた。

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