紺碧のミシマ ~ホームレスだったけど異世界へ行ってロボットになったので俺は自由に生きる~ Vol.1

田中

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第五章 魔人の依頼と迷惑な姫

結果オーライ

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 結局、バッツはビビと恋人となる事で彼女にシャーリアの面倒をみるという条件を飲ませた。
 また、シャーリアが竜の力を捨ててまで捕縛隊の三人を復活させようとしたのにも、彼女のなりの考えがあった。

 それまでシャーリアは金竜王の迷宮で独り暮らして来た。
 そこにバッツが現れ、その後、健太郎やミラルダ達が加わった。
 誰かと会話し生活する事は彼女にとって新鮮で楽しい経験だったのだ。

「はぁ、俺は独り身が良かったんだが……」
「今更止めたは無しっスよ、隊長」

 バッツの左腕に抱き着いたビビが彼の顔を見上げながらニカッと笑う。

「そんな事はしねぇよ。はぁ……そんじゃシャーリア、三人を生き返らせてくれ」
「グルル(畏まりました……バッツ、ちゃんと養ってくださいね)」
「そっちも分かってるよぉ……」
「グルルル……(では……)」

 シャーリアは三人の墓の前に首を下ろし、おもむろに目を瞑った。
 金の鱗が輝きを放ち、その光がシャーリアの額の前に集まる、それと同時に彼女の体は収縮していきやがてそれは人の形を成した。



 その金色の輝きを放つ人型が大きく腕を広げると、額の前で眩く輝いていた光は三つに分かれ土の中に消えた。



「ふぅ……掘り出してあげて下さい」

 輝きを失った金髪金眼の裸の女は、バッツ達を振り返ると少し疲れた顔で微笑んだ。

「……美人だな」
「そうっスね、これは要注意ッス……隊長、見惚れてないで墓を掘るッスッ!! みんな窒息しちゃいますよ!!」
「あっ、ああ、そうだなッ! 万能なる魔力よ、我が意のままに大地を動かせ、土操アスコンッ!」

 バッツは人化したシャーリアに呆然と見惚れていたが、ムッとしたビビの言葉でハッと我に返り慌てて魔法で墓を掘り起こした。

「ブヘッ、ペッペッ……はぁ……アレ、俺、竜にブレスを食らって……」
「ふぅ……何で俺は土塗れなんだ?」
「あっ、隊長、ビビもオーグルも、みんな無事だったんですね」

 墓の中で目覚めた三人はそんな事を言いつつ、それぞれが身を起こす。

「……取り敢えず、シャーリアはこのマントを羽織るッス」
「あっ。ありがとうございます。人間の体は意外と冷えますねぇ」
「いいから早くこれを」

 ビビは自分のマントをシャーリアに渡すと、生き返った裸の仲間に目をやった。

「……オーグル、服を取りに行くっス」
「そうだな、たしか雑納に予備の服があった筈、ビビ、シャーリアの分はお前の予備を」
「そうっスね」

 ビビ達は服を取りに小屋に戻り、二人の会話を聞いていた隊員達は改めて自分達が裸である事に気が付いた。

「服? あっ、俺ら素っ裸じゃねぇかッ!?」
「お前らは一旦、竜のブレスを受けて死んだ。それで三人とも俺が埋葬したんだが、彼女が力を使って蘇生してくれたんだ」
「あの……どちら様で?」
「私はシャーリア、あなた方を焼いた元竜です」
「「「え? えぇッ!?」」」

 とまぁそんなやり取りの後、蘇った三人を加えた捕縛隊の面々とシャーリア、そしてキュベル、グラハムの計九人は健太郎けんたろう達と話し合い、キュベル達はエルダガンドへ、バッツ達はラーグ内に潜伏している他の捕縛隊に経緯の報告に回る事となった。

「ではバッツ。帰国後はキュベル達がちゃんと仕事をするか見張っておいてくれ」
「ああ、また変な計画で他国へ送られるのは御免だからな。せいぜい気合を入れて見張るとするさ」
「二人とも疑り深いなぁ、反省したんだからちゃんと計画は廃止するよッ!」

 監視を頼んだグリゼルダ、それを了承したバッツにキュベルはプクッと頬を膨らませる。

「まぁ、何かあったら連絡しておくれ、いつでも手を貸すからさ」
「ああ、そうさせてもらうさ。……世話になったなミラルダ、ミシマ、ギャガン、グリゼルダ。お前達も俺に出来る事があれば気軽に連絡してくれ」
「そっちで仕事がある時はよろしく頼まぁ」
「国の様子を定期的に知らせてくれればありがたい」
「分かった。手紙を書くとしよう」
「コホーッ」

 エルダガンドにもまた行ってみたいし、その時はよろしく頼むよ。

「そうだね。またいつか、今度はゆっくり行けたらいいね」
「……やはり、ミシマは何を言っているか分からんな」

 健太郎の言葉を聞いて微笑むミラルダを見て、バッツがぼそりと呟く。

「アレはきっと愛の為せる業っス。隊長、俺達もいつかあんなふうに気持ちの通じ合う夫婦になりましょうね」
「ビビ、約束では恋人という事だったと……」
「何言ってんスか! 恋人はいずれ夫婦になるもんじゃないっスか!」
「ビビ、バッツが困ってますよ」
「居候は黙ってるッス!」

 窘めたシャーリアにビビはバッツの左手に抱き着き牙を剥く。

「はぁ……そんなに威嚇しなくても……」
「ビビ、あんまり束縛すると隊長が愛想を尽かすぞ」

 そんなビビをオーグルが諫める。

「えっ……ホントっスか、隊長?」
「……まぁ、のんびりやろう」
「……はいっス」

 腕から手を放し俯いたビビの頭をバッツはポンポンと撫で、健太郎達に目を向ける。

「では我々はラーグ内の仲間の元に向かう」
「了解だよ。それじゃあまたね」
「コホーッ!!」

 気を付けてッ!!

「あばよ」
「バッツ、報告を忘れるな」

「分かっている」

「話を聞いても訳が分からなかったが、とにかく世話になったな」
「ビビ達を助けてくれてありがとね」
「よく分かんないけど、感謝してます」

 蘇生した三人も健太郎達に礼を口にして笑みを浮かべる。

「では行くか?」
「「「「「ハッ!」」」」」
 
 バッツ達は飛翔の魔法を使い、空に上がるとそれぞれ仲間の下へと散っていた。
 ちなみに力を失ったシャーリアはビビが威嚇した事で、バッツではなくオーグルが抱え東の空へと消えて行った。

「キュベル様、我々もそろそろ……」
「分かった……ねぇミラルダ。落ち着いたら遊びに行ってもいい?」
「ああ、いつでもおいで」
「えへへ、約束だよ」
「ああ、約束だ」

 笑い合うミラルダとキュベルを横目に健太郎に近づいたグラハムが口を開く。

「……誘拐犯に言う事ではないが、キュベル様を攫ってくれてありがとう……今回の事であの方は変わられた、それは良い変化だと私は思う」

 グラハムは魅了の力で操られたとはいえ、敬愛する主人が様々な男性と浮名を流し、無慈悲な計画を発案する事を彼は心の奥底では望んではいなかった。
 そんなキュベルが誘拐され命の危機にさらされた事で変わった事は、結果論とはいえグラハムにとっては歓迎すべき出来事だったのだ。

「コホーッ!!」

 まぁ、完全に偶然だけど、いい方に転んで良かったよッ!!

 健太郎はそう言うとグラハムにギュッと親指を立てた右手を突き出した。

「……ミシマ、そういうのは自信満々にいう事じゃないと思うよ」
「ミシマは何と?」
「完全に偶然だってさ」
「偶然か……それでも私はこの結果に感謝している。ありがとう……」

 グラハムは胸に手を当て健太郎に頭を下げると、キュベルに向き直った。

「ではキュベル様」
「うん……じゃあね、ミラルダ。みんなもバイバイ!!」

 そう言うとグラハムとキュベルは破損したトゥインクルスター☆彡に乗り込んだ。

「コホーッ!!」

 バイバイッ!!

「もう悪さするなよ」
「お前が言うな……キュベル、エルダガンドを頼んだぞ」
「うん、任せて☆彡」
「うっ……やはりいまいち信用が……」

 パチっとウインクを返したキュベルにグリゼルダは眉根を寄せた。

「ではさらばだ」

 グラハムはゴーグルを被りハッチを閉めると、トゥインクルスター☆彡を起動し南東の空へ飛び去った。
 それを見送ったミラルダがふぅとため息を吐いて口を開く。

「ビビから依頼完了のサインも貰ったし、一件落着だね」
「面倒クセェ依頼だったぜ。結局、エルダガンドくんだりまで行く事になったしよぉ」
「そうだな……ミラルダ、次はもっと簡単な依頼で頼む」
「今回のも依頼自体は遺体の回収だったんだけどねぇ……」
「コホーッ」

 まぁ、結果オーライさッ。

「結果オーライ……そうだね、これでエルダガンドも変な事しなくなるだろうし、確かにそうかもね」
「コホーッ!!」

 だよねだよねッ!!

「結果か……ロガエストの事もそうだが、転生者の持つスキル、ミシマのは運に関するものかもな」
「経緯は訳分かんねぇが上手く行くってか? 無茶苦茶すぎんだろ?」
「確かに無茶苦茶だけどまぁいいじゃないか。さて、それじゃああたし達も帰るとしようか?」
「コホーッ」

 帰ろうッ。そう言って両腕で丸を作った健太郎を見て、三人はホントいつも能天気だと苦笑を浮かべた。
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