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第六章 青い子竜と竜人の国

獣の剣士

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 ギャガンによって地面に叩き落されたローグに、それを為した黒豹は暇を与えず襲い掛かった。

「キュー、放せッ!」
「キュエーッ(黒豹、頑張ってなのッ!!)」

 五メートル程の高さから落下したギャガンはしなやかに足のバネで衝撃を受け流し、すぐさま大地を蹴りローグに肉薄する。

「テメェの言う通り、近接戦じゃあ魔人は竜人に敵わねぇ、そんで竜人じゃあ獣人にゃあ敵わねぇよなぁ?」
「クッ……」

 ローグは次々に叩き付けられる斬撃を手にした剣で何とか防いだ。
 しかし、ギャガンの放つ刃は時間を追うごとに鋭さを増していく。

「おら、どうしたッ!?」
「おのれッ!!」

 放たれた刃を弾き、ローグは大きく口を開く。

「ブレスだッ!!」

 上空で二人の戦いを見守っていたファングが思わず声を上げる。
 その叫びを聞きながらギャガンはニヤリと牙を剥いた。

「そいつはこの前見た」
「グガッ!?」

 ギャガンは弾かれた刃の勢いのまま身体を回転させ、柄頭でローグの顎を真下から打ち抜いた。
 顎を砕かれローグの頭が天を仰ぐ様に跳ね上がり、一拍置いて両ひざを地面に打ち付けうつ伏せに大地に突っ伏す。

「ギャガン、殺して無いだろうねッ!?」

 上空から駆け付けたミラルダが、倒れたローグに目をやりながらギャガンに問い掛ける。

「開口一番それかよ……顎は砕いたが死んじゃいねぇよ」

 苦笑を浮かべ答えたギャガンの横にグリゼルダがふわりと降り立つ。

「……ギャガン、その……さっきは助かった」



 グリゼルダはかなり言い辛らそうにギャガンにチラチラと視線を向けながらボソボソと話す。

「へへッ、帰ったら本格的に剣の特訓だな」
「……ああ、そうだなッ!!」

 両手をギュッと握ったグリゼルダにギャガンはニッと牙を見せ笑った。

「流石獣人だな、見事な技だった」
「ブレスはお前に一度やられてるからな」
「獣人の剣士は強いって聞いてたが、想像以上だったぜ」
「ほんと、速すぎて殆ど見えなかったわ」

 地上に降りたファング達が歩み寄りながらローグを倒したギャガンに声を掛けた。

「叩き斬るだけならもっと早く終わらせられたがな」

 そうギャガンがファング達に言葉を返していると、籠を抱えたキューが一向に駆け寄って来た。 

「キュエーッ(タニアを出して欲しいのッ)」
「キュー、頑張ったね、偉いよ。グリゼルダ、キューは何だって?」

 ミラルダはキューの頭を撫でながら、グリゼルダに顔を向けた。

「タニアを出して欲しいらしい。ふむ、鍵が掛かっているな、ギャガン、籠を」
「おう、任せろ。キュー、良くやったな。出してやるからそいつをそこに置きな」

 そう言うとギャガンは剣を鞘に収め腰を落とした。

「キュエーッ(分かったのッ)」

 それを見たキューとミラルダは籠をおいて少し離れる。

「タニア、動くなよ」

 籠の中のタニアはギャガンを見上げコクコクと頷く。
 頷いたタニアにほんの少し微笑むと、ギャガンは刃を抜き打った。
 振り切られた剣をギャガンが流れる様に鞘に納めても籠に何も変化は見られない。

「もう開いてるのかい?」
「おう、上の取っ手を持ち上げてみな」

 ミラルダが歩み寄り取っ手を持ち上げると、籠の上部が蓋の様にパカッと取れた。

「へぇ、大したもんだ。タニア、あんたも頑張ったね」

 ミラルダは籠からタニアを抱え上げ戒めを解いた。

「クルルルッ(ありがとう、お姉ちゃん)」

 ミラルダを見上げタニアが鳴くと、彼女は微笑みを浮かべてタニアの頭を撫でる。

「よしよし、何処にも怪我はないね?」
「クルルルルッ(縛られてた以外は酷い事はされなかったよ)」

 コクリと頷いたタニアを見たミラルダは頷きを返すと、視線をグリゼルダ達に向け口を開いた。

「さてと、それじゃあこの竜人を縛り上げて、作戦の第二段階に移るとしようか?」
「そうだな……ミシマは?」

 グリゼルダが寺院の方に目をやるとシートにカミヤを乗せたバイクモードの健太郎が、ヘッドライトを光らせながらこちらに向かってくるのが見えた。

「ふむ、どうやら無傷の様だな」
「まったく、頑丈な奴だぜ……」
「ブイイイイン!!」

 お待たせッ!! 皆無事?

 エンジン音とブレーキを掛けた事で土の地面を削る音を響かせながら止まった健太郎に、タニアを抱いたミラルダが駆け寄る。

「ああ、誰も傷一つないよ、タニアも無事さッ」
「クルルルッ(硬い人、助けてくれてありがとうッ)」
「ブイイイインッ」

 そうか、そりゃ良かった。

「それで、その子がこの爺さんが言ってたカミヤかい?」
「ブイイイインッ」

 自分でそう名乗ってたから間違いないと思う。電撃は効かなかったけど、凄い必殺技チックなのを使ったら気絶しちゃった。

「必殺技ねぇ……爺さんが言ってた竜咆撃って奴だね。でミシマ、あんた何ともないのかい?」
「ブイイイン」

 うん、凄く眩しかったけど、平気だった。

「そうかい……ふぅ、それじゃあ街に戻るとしようかねぇ」
「ブイイイインッ!!」

 了解だッ!!

 エンジン音と会話するミラルダを遠巻きに見つめていたスケイルがぼそりと呟く。

「あれってミシマなのか? また形が変わってるし、それにどうしてミラルダには言ってる事が分かるんだ?」
「ミシマの持つ機能の一つらしい、まぁそういう物だと割り切るしかない」

 スケイルの呟きに肩を竦めグリゼルダが答えると、またそれかよぉとスケイルはため息を吐いた。
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