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第七章 大森林のそのまた奥の

全員採用

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 クルベストでは名を知られた冒険者の将吾しょうごとフィリス。
 そして何でも屋として竜人の国ベルドルグで活動していたファング、スケイル、カレン。
 冒険者ギルドの一室に呼ばれ顔を合わせた彼ら五人は、それぞれが相手を値踏みする様に互いを観察していた。

「えー、という訳で今回は二組とも採用という運びとなりました。つきましては協力して依頼に当たって頂きたく……」
「五人も必要無いわ。私と将吾がいれば十分よ」
「それはこっちのセリフだぜ。俺達三人いれば子守ぐらいキッチリこなせる」

 フィリスの言葉にスケイルが即座に反論し、二人は健太郎けんたろう達の前で睨み合う。

「フィリス、スケイル。悪いんだけど五人じゃないと依頼をお願いするつもりはないよ」
「どうしてよッ? この人達は最近街に来た奴らでしょう、そんなこの街、いえこの国に慣れていない人達より私達の方が適任じゃない。私も将吾も依頼で子供の護衛や救出をした事があるから、一通りの事は出来るし……」
「それはそうなんだけどねぇ……」

 口ごもったミラルダに変わりグリゼルダがフィリスに答える。

「お前達二人は我々には色々含む所があるだろう? 分かりやすく言えば信用出来んという事だ」
「じゃっ、じゃあこの三人は信用出来るっていうのッ!?」

 グリゼルダはフィリスの言葉に表情一つ変えず頷きを返した。

「少なくともお前達よりは信用出来る」
「あら、だったらスケイルの言う様に私達だけでいいんじゃない?」
「お前ぇらは単純に子守がちゃんと出来るか怪しいからよぉ」
「出来るわよ子守ぐらい」

 余裕の笑みを見せたカレンから視線を移し、ギャガンはスケイルに問い掛ける。

「スケイル、お前ぇ、トーマス達の好みに合わせて料理が作れんのか? 他の二人はどうだ、子供の相手をした事あんのか?」
「それはその……」
「スケイルは基本、酒に合う辛口料理しか作れんし、我々も子供の相手の経験は無いな」
「ファング!? 何でそう素直に答えちゃうのよッ!?」

 グリゼルダと同様にファングが表情を変えず答えると、隣にいたカレンが眉根を寄せて彼に抗議の声を上げた。

「ふぅ……グリゼルダ、ギャガン、あんた達は率直に物を言いすぎだよぉ、こういう時はさ、もっとこう言い方ってもんが……」
「回りくどく言葉を重ねるよりハッキリ言った方が早い」
「そうだぜ。俺たちゃ貴族や商人じゃねぇんだ。アレコレ気ぃ使ってやんのは時間の無駄だぜ」

 ギャガンもグリゼルダも一瞬が勝負を左右する戦いに身を置く軍人だった為か、考え方が合理性を優先する様になってしまっているようだ。
 人間関係の根回しや駆け引きが苦手な健太郎にとって二人の物言いはとても心地よかったのだが、まぁ一般的に考えて率直な言葉というのは余計な摩擦を生む原因になるという事だろう。

「コホーッ」

 もう少しオブラートに包んでも良いと思うけど、まぁ俺達の言いたい事は二人が言った事で間違いないよね。

「オブラートってのがよく分かんないけど、言いたい事としては確かにそうだねぇ」

 ミラルダとしてはみな迄言うつもりは無かったのだが、腹をくくり自分達の考えを全て伝える事にした。

「……ふぅ、纏めるとだねぇ。将吾、フィリス。私達は家に入り込んだあんた達が、何か悪さをするんじゃないかと不安を持ってる」
「もう何もしねぇよ。この前の事もあるし、俺たちだって少しは反省したんだぜ」

 苦笑を浮かべた将吾にミラルダはスッと左手を上げ彼を制した。

「まぁお聞きよ。そんでファング達にはギャガンが言った様に、子供達の世話を任せていいか不安を持ってる」
「失礼ね、さっきも言ったけど子供の世話ぐらい出来るわよ」

 そう言ったカレンにミラルダは今度は左手を上げて言葉をとどめる。

「だからさ。フィリス達は経験を活かしてファング達のサポートを、ファング達にはフィリス達が妙な事をしないか見張りをして欲しいのさ」
「……ふむ、それで全員採用という訳か」
「ああ、どうだい?」

 ミラルダは順繰りに目の前のフィリス達に視線を送り、彼らの答えを待った。

「なぁ、ミラルダ、報酬は金貨六枚、つまり一人頭、俺達なら金貨二枚だったよな?」
「ああ」
「それって五人になっても変わんねぇ?」
「そうだね、人数が増えた分は追加して金貨十枚にするよ。クニエダさん、契約を変更しといてもらえるかい?」
「分かりました。報酬額を金貨十枚に増額ですね……」

 クニエダが書類にペンを走らせるとスケイルは途端に笑顔になった。

「へへっ、だったら俺は文句はねぇよ。そうだろファング?」
「そうだな。確かにそれなら……」
「私もその条件ならこの人達と一緒で構わないわ」

 竜人達はどうやら報酬が目減りする事を嫌がっていたようで、ミラルダの言葉に全員が頷きを返した。

「フィリス達はどうする?」
「……レベッカの文献が読めるなら……」
「別に読むのは良いけど、あんたが求めてる物が見つかる保証はないよ。それと蔵書を家から持ち出すと呪いが掛かるけど……」
「構わない、英雄の書いた物が読めるならそれだけでいいわ……将吾、付き合わせて悪いけど……」
「いいさ、俺達相棒だろ?」

 ありがと、照れながら小さくそう言ったフィリスを見てミラルダは両手を合わせた。

「決まりだね。それじゃフィリス、将吾、それにファング、スケイル、カレン。留守の間、家の事を頼むよ」



「ええ、任せて」
「よかったな、フィリス」
「へへッ、これで少しは楽になるぜ」
「……スケイル、もう少し志を高く持とう」
「何言っての、志じゃ食べていけないわよ」

 ミラルダの言葉に冒険者たちはそれぞれが頷きや言葉を返した。


■◇■◇■◇■


 翌日、やって欲しい事をフィリス達に指示し、健太郎達は事後処理を終えエクササイズ教室を一旦閉めたニーナと共に、東、大森林の奥にあるというエルフの国リーフェルドを目指し空へと飛び立った。

「あれって完全に飛行機じゃん……」
「飛行機?」
「ああ、俺達の世界で空を飛んで人や物を運ぶ機械の事さ」
「……やっぱりあのゴーレムはあなた達の世界から来たのかしら……地球から」
「さぁな。俺が知る限りあんな何にでも変形出来るロボットは無かったが……」

 レベッカの家の前、東に向かう健太郎達を見上げ将吾とフィリスがそんな話をしていると、その横に並んだファングが二人をチラリと見て口を開いた。

「アレはそういう物だと割り切った方がいい」
「またそれかよッ!」
「フフッ……さて、それじゃあ私達は子供達を送り出すとしましょうか。ファングとスケイルは教会にトーマス達を送り届けて貰える?」
「了解だ」
「へいへい。ほら、ガキ共、教会に行くぞ」
「「「「「はーいッ!!」」」」」

 カレンの言葉にファング達は頷き、見送りに出ていた子供達に声を掛け準備をさせる為、家へと戻った。

「私は洗濯を片付けるから、フィリスは洗い物をお願い出来る?」
「分かったわ」
「俺は?」
「将吾はキューのトレーニングに付き合ってちょうだい。ギャガンからお腹周りを重点的に引き締める様、プログラムを貰ってるからそれに従ってやればいいわ」
「あいつか……俺、あいつに嫌われてるからなぁ……」

 チラリと少し離れた場所にいたキューに将吾が視線を送ると、キューは「キュエーッ(悪い人ッ)」と彼を睨んだ。

「あの子竜とも色々あったから……」
「何があったか知らないけど、仲良くしてもらえると嬉しいわ……」
「はぁ……努力はするよ……」

 ため息を吐き肩を落とした将吾にカレンはまぁ頑張ってと苦笑を浮かべた。
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