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第七章 大森林のそのまた奥の
武術大会予選
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真田の故郷であるカラミリの街を逃げ出した健太郎達は、ロミナの案内で武術大会が行われるという首都クバルカから南のラテールという街に辿り着いた。
そして現在、本戦に出場する為の予選会場に健太郎と真田は立っていた。
参加資格はエルフである事以外は特に無く、会場には老若男女問わず多くのエルフが存在している。
その中には軽装鎧を身に着けた戦士風の男や魔法使い風の女性の他、若干名ながら老人や子供の姿も見受けられた。
「コホーッ?」
本当に先生も出るの?
「ああ、ミシマはんに甘えようって一旦は思たけど、やっぱり自分の願いは自分で叶えたいしな……もし、わいが負けた時はミシマはん、あんさんに任せる……勝手やけど、お願い出来るやろか?」
「コホーッ!」
任せてよッ! ニーナさんの為にも絶対に負けられないもんねッ!
そう話す健太郎の顔はロミナの物になっていた。
ラテールの宿で真田がやはり大会に出たいと言い出したので、健太郎はロミナの姿と名前を借りる事にしたのだ。
流石に身体を見せろとは言えなかったので、肉体の方は曖昧な想像で作り出したのだが、借りた服を着ればそれも誤魔化せた。
「そうやな……二百年掛けて練り上げたわい最拳、精魔騎士相手に何処まで通用するかやってみるわッ!!」
「コホーッ!!」
頑張ろうッ!!
「おう、お互い気張ろなッ!!」
健太郎と真田は拳を軽くぶつけ合い、互いの健闘を祈った。
■◇■◇■◇■
「えー、それではこれより予選を開始いたします。番号を呼ばれた方は進み出て下さい」
予選の参加者は百名程、そこから本戦に出場出来るのは五名、残りの五名は昨年の大会で優秀な成績を残した者達の選抜で選ばれたシード選手だ。
予選会は屋内会場にカラテや柔道の様な形で数か所、戦いの場が作られていた。
「では次、十五番と三十二番」
「わいやな」
「コホーッ!!」
先生頑張ってッ!!
「おうッ!」
真田の予選の相手は中年の男だった。
ゆったりとした青い服を身に纏っており、武器等は手にしていない。
一方の真田も健太郎には見慣れた黒い長袍姿で丸腰だった。
「では始めっ!!」
審判役のエルフが右手を振り下ろすと同時に中年男は精霊に呼び掛ける。
『火蜥蜴よ、彼の、グェッ!?』
しかし男が精霊に何か命じる前に、箭疾歩で間合いを詰めた真田の放った裡門頂肘が男の胸を捉え吹き飛ばした。
「ふぅ……わい最拳は基本待ちの拳法やけど、魔法使い相手やと先手必勝やな」
「勝者、十五番ッ!」
真田の番号が呼ばれ審判の手が掲げられると、彼は右の拳を左手で握り、吹き飛ばした男に頭を下げた。
「コホーッ!!」
先生、やりましたねッ!!
「予選は玉石混合みたいやし、魔法主体の相手で運が良かったわ。それよりミシマはんの事やから心配無いとは思うけど、精霊魔法には強力なもんもあるから、極力使われる前に接近戦に持ち込んだ方がええな」
「コホーッ!!」
了解っス!!
真田は一瞬、師匠の顔になって健太郎にアドバイスを送った。
そんな二人の背後から低く地の底から響く様な声が掛けられる。
「ダァリン、その女はだあれぇ?」
「ッ!? グッ、グリモラッ!? なんでここにッ!?」
「そんなのダァリンを追いかけて来たに決まってるじゃない。宿で尋ねれば他種族が泊っていた事は直ぐに分かったわぁ。あとは管理局に問い合わせればぁ……」
どうやらグリモラは管理局で渡された精霊石から健太郎達の居場所を知ったようだ。
「コホー……」
うわぁ……完全にストーカーじゃんか……そういえばどうしてこの会場に……?
予選会場は基本、選手や審配とか大会関係者しか入れない筈。つまりここにいるという事は……。
「……グリモラも大会に出場するんか?」
「ええ、優勝してダァリンを私の物にするのぉ。おじ様には、いえお義父様には了承を頂いたわぁ」
健太郎の言葉を真田が代弁すると、グリモラはニタッと笑みを浮かべ答えた。
「私の物って……わいにはもう既に心に決めたお人がおる。悪いけど諦めてんか」
「……心に決めたぁ? もしかしてその女がぁ?」
「ミシマはんはわいの……」
「そうなのねぇ!? 私という者がありながらそんな無表情な女が良いって訳ぇッ!? いいわぁッ!! 本戦でその女も貴方も叩き潰してぇ、改めて貴方が誰の者か思い知らせてあげるぅッ!!」
真田の話を断ち切ったグリモラは激高したまま、肩を怒らせ身を翻すと選手たちの間に消えていった。
「コホー……」
やだぁ、超怖いんですけど……。
「わいも怖い……ミシマはん、どないしょ……グリモラの家は精霊魔法の大家や、きっと上位精霊バンバン召喚してくんで……」
「……コホーッ?」
……今更なんスけど、精霊って物理攻撃効くんですか?
「実体化しとれば効く筈やけど、上位精霊の火炎魔神とか氷の魔狼は名前の通り身体に炎や吹雪を纏ってるからなぁ……」
「コホーッ」
俺は多分効かないから良いとして、先生はロミナに精霊魔法を習ってみたら?
「……せやな、付け焼刃やろうけど、何もせんと負ける訳にはいかへんしな……ロミナはんに頼んでみるかぁ……」
そう言うと真田はやれやれと肩を落としため息を吐いた。
そして現在、本戦に出場する為の予選会場に健太郎と真田は立っていた。
参加資格はエルフである事以外は特に無く、会場には老若男女問わず多くのエルフが存在している。
その中には軽装鎧を身に着けた戦士風の男や魔法使い風の女性の他、若干名ながら老人や子供の姿も見受けられた。
「コホーッ?」
本当に先生も出るの?
「ああ、ミシマはんに甘えようって一旦は思たけど、やっぱり自分の願いは自分で叶えたいしな……もし、わいが負けた時はミシマはん、あんさんに任せる……勝手やけど、お願い出来るやろか?」
「コホーッ!」
任せてよッ! ニーナさんの為にも絶対に負けられないもんねッ!
そう話す健太郎の顔はロミナの物になっていた。
ラテールの宿で真田がやはり大会に出たいと言い出したので、健太郎はロミナの姿と名前を借りる事にしたのだ。
流石に身体を見せろとは言えなかったので、肉体の方は曖昧な想像で作り出したのだが、借りた服を着ればそれも誤魔化せた。
「そうやな……二百年掛けて練り上げたわい最拳、精魔騎士相手に何処まで通用するかやってみるわッ!!」
「コホーッ!!」
頑張ろうッ!!
「おう、お互い気張ろなッ!!」
健太郎と真田は拳を軽くぶつけ合い、互いの健闘を祈った。
■◇■◇■◇■
「えー、それではこれより予選を開始いたします。番号を呼ばれた方は進み出て下さい」
予選の参加者は百名程、そこから本戦に出場出来るのは五名、残りの五名は昨年の大会で優秀な成績を残した者達の選抜で選ばれたシード選手だ。
予選会は屋内会場にカラテや柔道の様な形で数か所、戦いの場が作られていた。
「では次、十五番と三十二番」
「わいやな」
「コホーッ!!」
先生頑張ってッ!!
「おうッ!」
真田の予選の相手は中年の男だった。
ゆったりとした青い服を身に纏っており、武器等は手にしていない。
一方の真田も健太郎には見慣れた黒い長袍姿で丸腰だった。
「では始めっ!!」
審判役のエルフが右手を振り下ろすと同時に中年男は精霊に呼び掛ける。
『火蜥蜴よ、彼の、グェッ!?』
しかし男が精霊に何か命じる前に、箭疾歩で間合いを詰めた真田の放った裡門頂肘が男の胸を捉え吹き飛ばした。
「ふぅ……わい最拳は基本待ちの拳法やけど、魔法使い相手やと先手必勝やな」
「勝者、十五番ッ!」
真田の番号が呼ばれ審判の手が掲げられると、彼は右の拳を左手で握り、吹き飛ばした男に頭を下げた。
「コホーッ!!」
先生、やりましたねッ!!
「予選は玉石混合みたいやし、魔法主体の相手で運が良かったわ。それよりミシマはんの事やから心配無いとは思うけど、精霊魔法には強力なもんもあるから、極力使われる前に接近戦に持ち込んだ方がええな」
「コホーッ!!」
了解っス!!
真田は一瞬、師匠の顔になって健太郎にアドバイスを送った。
そんな二人の背後から低く地の底から響く様な声が掛けられる。
「ダァリン、その女はだあれぇ?」
「ッ!? グッ、グリモラッ!? なんでここにッ!?」
「そんなのダァリンを追いかけて来たに決まってるじゃない。宿で尋ねれば他種族が泊っていた事は直ぐに分かったわぁ。あとは管理局に問い合わせればぁ……」
どうやらグリモラは管理局で渡された精霊石から健太郎達の居場所を知ったようだ。
「コホー……」
うわぁ……完全にストーカーじゃんか……そういえばどうしてこの会場に……?
予選会場は基本、選手や審配とか大会関係者しか入れない筈。つまりここにいるという事は……。
「……グリモラも大会に出場するんか?」
「ええ、優勝してダァリンを私の物にするのぉ。おじ様には、いえお義父様には了承を頂いたわぁ」
健太郎の言葉を真田が代弁すると、グリモラはニタッと笑みを浮かべ答えた。
「私の物って……わいにはもう既に心に決めたお人がおる。悪いけど諦めてんか」
「……心に決めたぁ? もしかしてその女がぁ?」
「ミシマはんはわいの……」
「そうなのねぇ!? 私という者がありながらそんな無表情な女が良いって訳ぇッ!? いいわぁッ!! 本戦でその女も貴方も叩き潰してぇ、改めて貴方が誰の者か思い知らせてあげるぅッ!!」
真田の話を断ち切ったグリモラは激高したまま、肩を怒らせ身を翻すと選手たちの間に消えていった。
「コホー……」
やだぁ、超怖いんですけど……。
「わいも怖い……ミシマはん、どないしょ……グリモラの家は精霊魔法の大家や、きっと上位精霊バンバン召喚してくんで……」
「……コホーッ?」
……今更なんスけど、精霊って物理攻撃効くんですか?
「実体化しとれば効く筈やけど、上位精霊の火炎魔神とか氷の魔狼は名前の通り身体に炎や吹雪を纏ってるからなぁ……」
「コホーッ」
俺は多分効かないから良いとして、先生はロミナに精霊魔法を習ってみたら?
「……せやな、付け焼刃やろうけど、何もせんと負ける訳にはいかへんしな……ロミナはんに頼んでみるかぁ……」
そう言うと真田はやれやれと肩を落としため息を吐いた。
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