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第七章 大森林のそのまた奥の

表彰式

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 真田によって加えられた攻撃で健太郎けんたろうの視界には延々とメッセージが流れていたが、数分でそれは治まり視界は通常の物に戻った。
 どうやら真田さなだの攻撃は健太郎の意識が入っているこの身体にも予想外だった様だ。

「コホー……」

 ああ、ビックリした……。

「ミシマはん、自分でやっといてなんやけど、大丈夫かいな?」

 うつ伏せに倒れていた健太郎が身を起こした事で真田が彼に歩み寄る。

「コホーッ……」

 もう大丈夫みたいっス……所で先生、さっきのは?

 真田は健太郎の問い掛けにニヤッと笑みを浮かべ手を差し出す。

「アレは気功、いわゆる気ちゅう奴やな。寸勁すんけいと同時に丹田たんでんで練った気をミシマはんに送り込んだ。ミシマはんロボットやさかい、内部に余計なエネルギー送り込んだら誤作動するやないか思うてな」

 差し出した手を握った健太郎を起こしながら真田は健太郎に説明する。



「コホーッ!!」

 気ッ!! あの伝説的な少年漫画でも出て来たあの気ですかッ!?

「あー、まぁそうなんやけど、流石にあの技は出来へんで」
「コホー……」

 そうスか……。

「やっぱり憧れるやんなぁ……わいもコッソリこの世界ならもしかしてって練習した事もあるんやけど、やっぱり出えへんかったわ」
「コホー……」

 はぁ……やっぱりああゆうのは竜人族とかじゃないと無理なのか……。

「竜人族? なにミシマはん、もしかしてあの技を使うお人に……」
「あー、フィー選手、お話の所申し訳無いのですが、表彰式並びに大家長様への願いの儀が御座いますので……」
「あっ、すんまへん」
「ミシマ選手も準優勝という事で、体に問題無ければ表彰台に上がっていただけますか?」
「コホーッ!!」

 了解ッ!!

「ではあちらにお願いします」

 親指を立てた健太郎に頷きを返し主審の男は貴賓席、ベルゲンの座る中央のテラス前に運営委員が運んだ表彰台を指し示した。
 そこには健太郎達の試合前に行われた三位決定戦で勝利した優勝候補のランベルの姿もあった。

「ふぅ……後は願いを言うだけやな」
「コホーッ?」

 えっと、国民の自由を奪う法の廃止でしたっけ?

「ロミナはんはそう言うてたな。まぁ、ベルゲン様と話した感じやと問題無く通るやろ」
「コホー」

 そうですね。

 そんな話をしつつ、試合場に作られた表彰台へ歩みを進める。

「ではフィー選手は中央、ミシマ選手は向かって左、ランベル選手は向かって右にお願いします」
「ふぅ……私と戦ったのは君だったそうだな、どおりでエルフとは思えぬ膂力だった筈だ」

 健太郎と戦ったランベルはそう言って苦笑を浮かべていた。
 ただ、その笑みに負の感情は感じられず、純粋に謎が解けた事を喜んでいる様だった。

「コホーッ……」

 影武者とかごめんなさい、どうしても大会に出なきゃだったもんで……。

 頭に手をやり、それを下げた健太郎にランベルは構わないと右手を上げた。

「気にしないでくれ、我々精魔騎士エレメンタルナイトの仕事は民を守る事だ。その中にはモンスターへの対処も含まれている……君に負けた私はまだまだだったという事さ」

 そう言うとランベルは笑みを浮かべ表彰台へと昇った。
 彼に続き健太郎も表彰台へと昇り、最後に真田が真ん中の一番高い場所に飛び乗る。



『えー、ではこれより優勝、準優勝、第三位の選手の表彰を行いたいと思いますッ!! では第三位、精魔騎士ランベル・バニア・トーラス選手ッ!! ランベル選手には大家長ベルゲン様より、メダルと賞金の金貨百枚が贈呈されます』

 主審兼MCのエルフの言葉で表彰台の前に進み出たベルゲンよってランベルにメダルが掛けられ、何やら文字の書かれた大きな白い木の板が手渡される。

 あっ、バラエティとかでよく見る奴だ。健太郎がそんな感想を抱いている横でベルゲンはランベルに声を掛ける。

『精魔騎士らしい正々堂々とした戦いぶりだった、今後もリーフェルドの民の為、その技に磨きを掛けて欲しい』
『はい、ありがとうございますッ!!』

 表彰台に上った三人には精霊魔法が掛けられたらしく、ランベルの声は主審同様、会場中に響いた。
 涙ぐみ返事をしたランベルに観客達から惜しみない拍手が送られる。

『えー、では次は準優勝のミシマ・ケンタロウ選手ッ!! ミシマ選手にはメダルと賞金の金貨二百枚が贈呈されます』
『まさかこの大会でエルフ以外にメダルを掛ける日が来るとは思わなかったよ……精霊王に対処してくれた事、国民を代表して礼を言う。ありがとう』
『コホーッ』

 えへへ、あの場合、当然の事をしただけですよ。

 健太郎はそう言ってポリポリと頭を掻いた。

『フフッ、愉快なゴーレムだ……そうそう、森の修繕を忘れない様に』
『コホーッ!!』

 あっ、はいッ!! そっちは全力でやらせて頂きますッ!!

 ペコペコと健太郎がベルゲンに頭を下げると会場からは笑いが漏れた。

『では最後に1572回、精霊魔闘会優勝者、フィー・エルド・メイファーン選手ッ!! フィー選手にはメダルと賞金の金貨三百枚、更に大家長ベルゲン様への直接の願い、要望が許されます』
『優勝おめでとう。君の武術、わい最拳をぜひリーフェルドの騎士達にも伝えて欲しい』
『リーフェルドの……ホンマにええんですか? 騎士の皆さんは殴り合いなんて泥臭い事……』
『命懸けの仕事に泥臭いも何もあるものか、優秀な騎士の命が君の武術で救われるならこんなに有難い事は無い』

 ベルゲンにそう言って肩を叩かれた真田は感極まったのか口を歪め涙を浮かべていた。
 一際大きい歓声が響く中、真田はそれに応えるべく右手を上げた。

「店長……良かったです……」

 観客席でその様子を見ていたニーナも瞳に涙を溜めていた。

「良かったねぇ、ニーナさん」
「ピポピポッ!!」

 ミラルダはニーナの肩を抱き、コロは花吹雪を振りまいた。

「ミシマを倒したあの技、伝授してもらわねぇとなぁ」
「あれは斬るというお前の目的にはそぐわんのではないか?」
「……そういえば……いやッ、取り敢えず教わるだけ教わっておく」
「そうか……魔法の訓練も忘れるなよ」
「わかってるよぉ」

 顔顰めたギャガンにグリゼルダは楽しそうに微笑んだ。

「あなた、フィーが大家長様に……」
「……分かっている」

 貴賓席で見ていた真田の両親、リシュナとカルボ。
 リシュナは満面の笑みで夫に語り掛け、声を掛けられたカルボは言葉は少ないながらもその声は震えていた。

「……フィー君が勝ったか……ロミナ、これでお前の願いは通りそうだな」
「そうですね…………父上、私はエルフという種がこの世界から消えて欲しい訳ではありません。ただ外に目を向けて欲しかったんです」
「分かっている……昨日の話でお前がリーフェルドを大切に思っている事も理解出来た……お前はこの国が周囲に置いて行かれるのが嫌だったのだな……取り残され消える事が……」
「……はい」

 カルボ達と同じく貴賓席に並んで座っていたロミナとバリアラは、口を紡ぐと歓声を受ける真田を静かに見つめた。

『それではフィー選手、ベルゲン様に願いを』
『……実はわい、人族のお嬢さんと結婚しよう思うてます』

 真田の言葉で会場からは騒めきが起きた。

『人族の……願いはその結婚を国に認めて欲しい、そういう事かね?』
『いえ、願いはこの国の民を縛っている犯罪に関係しない法の撤廃です』
『縛っている法の撤廃……君は欲が無いな、それはまさにこれから私が取り組もうとしている事だよ』
『……では今ここで宣言して下さい、優秀種維持法と出入国制限法を撤廃すると』
『分かった……この国の長、大家長ベルゲン・ギュリ・リーフェルドの名において、フィー・エルド・メイファーンの願いを聞き……』

「そんな願いは聞き入れさせないッ!!!!」

 試合場にベルゲンの言葉をさえぎって若い男の絶叫が響いた。
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