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第八章 迷宮行進曲
迷宮都市
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ギルドでベックからの依頼を引き受けた次の日、準備を整えた健太郎達は迷宮都市アーデンへ向けて急ぎ出発した。
アーデンはクルベストから北東、ラーグの中心である王都から見て東に位置する街だ。
VTOLモードの健太郎のスピードもあり、一行は午前中にはアーデンへと辿り着く事が出来た。
急いだ理由は言わずもがな、今回の依頼が救出任務だったからだ。
ロミナに留守を任せる事に不安はあったが、準備に一日掛けてしまった事もあり不安には目をつむる事にしたのだ。
アーデンの街はクルベスト同様、石の城壁で囲まれた城塞都市だった。
しかし、クルベストの様な明るさは感じられず、健太郎にはその石で囲まれた街が暗く沈んで見えた。
「こんな時にこの街に来るなんて、やっぱり冒険者ってのは酔狂だな」
街の入り口、ミラルダ達のギルド証を確認した門衛の兵士はそう言って呆れ混じりの笑みを浮かべた。
「人を探しにね」
「人探し……迷宮か?」
「ああ、ディランって剣士が迷宮で行方が分からなくなってねぇ」
「……こんな事は言いたくないが、もう死んでると思うぜ」
「……そんなにひどいのかい?」
ミラルダの問い掛けに兵士は嘆息しつつ頷いた。
「街はずれの迷宮の入り口からはずっと魔物達の声が響いてる。俺はもうニ十年以上この街で暮らしてるが、あんなのは初めてさ。入り口から溢れて出て来る魔物が小鬼やスライムなのが唯一の救いだぜ」
「そうかい……まぁ、でも依頼を受けたからには行くしかないんだけどねぇ」
「所で……あんたの仲間の事なんだが……」
兵士はそう言ってミラルダの後ろにいた健太郎達に視線を送る。
「なんだい、何か問題があるのかい?」
「……一応、忠告しとくが、この街でも余り獣人は好かれちゃいない。目立つ事はするなよ。連中、迷宮探索が上手くいかなくてイラついてるからな」
兵士はギャガンにチラリと視線を送りながら言う。
伯爵領では帽子を被っていなかったミラルダだったが、迷宮に潜る事を考え今はレベッカのトンガリ帽子を被っていた。その所為でミラルダの事は人族だと兵士は思ったようだ。
「ありがとね。あんたいい人だね」
「あんたらが問題を起こしたら、それに対処するのは俺達だからな。ただでさえ冒険者同士の刃傷沙汰が多くて困ってんだ。いいか、面倒は起こすなよ」
「分かってるよ……それで、もう街に入ってもいいかい?」
「おう……そうだ、泊まる宿は森の木漏れ日亭ってとこにしな。大通りから西に一本入った裏通りにある店だ。そこはあんたの仲間みたいな人族以外の御用達の店だから獣人って事で絡まれる事は無い筈だぜ」
「森の木漏れ日亭だね?」
「そうだ。看板に楠の絵が彫られてるからすぐ分かる筈だ。いいか、トラブルは無しだぞ」
兵士はしつこく念押しをして、街に入るミラルダ達を見送った。
よほど冒険者同士の喧嘩が多いのだろう。刃傷沙汰と言っていたから喧嘩というレベルを超えている気もするが……。
健太郎はそんな事を考えながら門をくぐった先、アーデンの街に目をやった。
街の作りはそれ程クルベストと変わりは無い、石と木を使った西洋風の建物が軒を連ねている。
ただ、クルベストに比べ武具や薬を扱う店、それに素材屋等が多い様に感じた。
そんな違いの中でも一番はやはり冒険者の数だろう。クルベストの冒険者は住民の一割にも遠く届かない。しかしここアーデンでは人通りを見る限り五割、半分近くが冒険者の様だった。
「ふむ、噂通り冒険者が多いな。それにこの国では珍しいドワーフやエルフ、それに獣人もいるようだ」
「この国じゃ他種族はお金かコネがないと中々、職にありつけないからねぇ」
「流れ者は冒険者になるしかねぇって事か?」
「まぁね。ここのダンジョンで名刀の一本でも見つけりゃ、それを元手に商売を始める事も出来る。きっと皆そんな夢を追いかけてるんじゃないかねぇ……」
「コホー……」
名刀か……。
健太郎がチラリとギャガンに目を向けると、危惧した通り彼はその金の瞳を爛々と輝かせていた。
「名刀かぁ……いい響きだぜぇ」
「あんたはもう竜の牙の剣を持ってるだろ?」
その様子を見たミラルダが呆れた様子で笑みを浮かべる。
「こいつは確かによく斬れるが、ミシマには通用しねぇからよぉ」
「コホー……」
もう諦めておくれよぉ……。
「ふむ……確か、このダンジョンの最下層には大悪魔も断ち切れる妖刀が眠っているそうだが……」
「コホッ!?」
グリゼルダ!? 余計な情報を言い出すんじゃないよッ!!
「何? ホントかよ、それ?」
「本で読んだだけだ。それにその本でも噂の域は出ないとなっていた。しかし妖刀ではないが、時折、名刀が見つかるのは確認出来ているそうだ」
案の定、ギャガンはそれに食いつき、グリゼルダは説明を始める。
「名刀に妖刀……クククッ、テンションが上がって来たぜぇ……」
「ギャガン、今回の目的はあくまでディランさんの救出だからね」
「分かってるよぉ」
「ディラン!? ねぇねぇ、あなた達、ディランの知り合いッ!?」
そう話掛けてきたのは、ケントやシェラ達と同年代に見える皮鎧を着た少女だった。
「なんだガキンチョ? ディランの事、知ってんのか?」
「わたしは子供じゃ無いッ!! これでも二十二なんだからッ!!」
そういってブンブンと両手を振った栗色の少女の耳は、エルフの様に長くは無いが先端が尖っていた。
「もしかしてハーフリングか?」
「その通りッ!! わたしはパム、ハーフリングの盗賊だよッ!! それでそれで、あなた達ディランの知り合いなのッ!?」
「お前の言っているディランは中年で黒髪の人族の剣士か? 右頬に傷のある?」
「そうその人ッ!! クルベストの冒険者で剣士のディランッ!!」
「コホーッ」
どうやら俺達の探しているディランみたいだけど……。
「パムだったね? あたし等はディランさんの知り合いに頼まれて彼の捜索と救出に来たんだよ」
「捜索と救出ッ!! ねぇねぇ、その救出、わたしも連れてってよっ!!」
「ああん? なんで見ず知らずのお前ぇを連れてかなきゃ何ねぇんだよ?」
「いいじゃんいいじゃん、見た所、あなた達の仲間に盗賊はいないみたいだし、罠の解除とか、わたしはお役に立ちますぞぉ!!」
そう言うとパムは胸を叩き、白い歯を見せニカッと笑った。
「ふぅ……ディランさんのパーティーは全員、迷宮で行方不明になったって聞いてたけど……あんたはパーティーメンバーだったのかい?」
「違うよッ! わたしはダンジョンで仲間に置き去りにされた所をディランに助けられたのッ! それでねそれでね、恩返しがしたいから仲間にして欲しいって頼んだんだけど、もう盗賊はいるからって断られて、それでも毎日ディランの所に通ってたんだけどある日帰って来なくて……」
話している内、元気一杯だったパムはションボリと沈んでしまった。
「さて、どうしたもんだろうねぇ?」
「パムの言う通り探索に盗賊の手があれば助かる事は確かだ」
「コホーッ」
ここのダンジョンにも潜った事があるみたいだし、取り敢えず話だけでも聞いてみよう。
「そうだね。話だけでも聞いてみようか?」
「んじゃ、立ち話もなんだしよぉ、門衛が言ってた森の木漏れ日亭で話すとしようぜ」
「あっ、森の木漏れ日亭を探してるのッ!? だったらこっち、こっちだよぉ!!」
「あ、ちょいと……」
ギャガンの言葉を聞いて顔を上げたパムは、ミラルダの手を取りグイグイと彼女を引っ張り始めた。
「はぁ……うるせぇガキだぜ」
「わたしは子供じゃないよッ!!」
振り返り声を上げたパムを見て、ギャガンは再度ため息を吐き、やれやれと苦笑を浮かべた。
アーデンはクルベストから北東、ラーグの中心である王都から見て東に位置する街だ。
VTOLモードの健太郎のスピードもあり、一行は午前中にはアーデンへと辿り着く事が出来た。
急いだ理由は言わずもがな、今回の依頼が救出任務だったからだ。
ロミナに留守を任せる事に不安はあったが、準備に一日掛けてしまった事もあり不安には目をつむる事にしたのだ。
アーデンの街はクルベスト同様、石の城壁で囲まれた城塞都市だった。
しかし、クルベストの様な明るさは感じられず、健太郎にはその石で囲まれた街が暗く沈んで見えた。
「こんな時にこの街に来るなんて、やっぱり冒険者ってのは酔狂だな」
街の入り口、ミラルダ達のギルド証を確認した門衛の兵士はそう言って呆れ混じりの笑みを浮かべた。
「人を探しにね」
「人探し……迷宮か?」
「ああ、ディランって剣士が迷宮で行方が分からなくなってねぇ」
「……こんな事は言いたくないが、もう死んでると思うぜ」
「……そんなにひどいのかい?」
ミラルダの問い掛けに兵士は嘆息しつつ頷いた。
「街はずれの迷宮の入り口からはずっと魔物達の声が響いてる。俺はもうニ十年以上この街で暮らしてるが、あんなのは初めてさ。入り口から溢れて出て来る魔物が小鬼やスライムなのが唯一の救いだぜ」
「そうかい……まぁ、でも依頼を受けたからには行くしかないんだけどねぇ」
「所で……あんたの仲間の事なんだが……」
兵士はそう言ってミラルダの後ろにいた健太郎達に視線を送る。
「なんだい、何か問題があるのかい?」
「……一応、忠告しとくが、この街でも余り獣人は好かれちゃいない。目立つ事はするなよ。連中、迷宮探索が上手くいかなくてイラついてるからな」
兵士はギャガンにチラリと視線を送りながら言う。
伯爵領では帽子を被っていなかったミラルダだったが、迷宮に潜る事を考え今はレベッカのトンガリ帽子を被っていた。その所為でミラルダの事は人族だと兵士は思ったようだ。
「ありがとね。あんたいい人だね」
「あんたらが問題を起こしたら、それに対処するのは俺達だからな。ただでさえ冒険者同士の刃傷沙汰が多くて困ってんだ。いいか、面倒は起こすなよ」
「分かってるよ……それで、もう街に入ってもいいかい?」
「おう……そうだ、泊まる宿は森の木漏れ日亭ってとこにしな。大通りから西に一本入った裏通りにある店だ。そこはあんたの仲間みたいな人族以外の御用達の店だから獣人って事で絡まれる事は無い筈だぜ」
「森の木漏れ日亭だね?」
「そうだ。看板に楠の絵が彫られてるからすぐ分かる筈だ。いいか、トラブルは無しだぞ」
兵士はしつこく念押しをして、街に入るミラルダ達を見送った。
よほど冒険者同士の喧嘩が多いのだろう。刃傷沙汰と言っていたから喧嘩というレベルを超えている気もするが……。
健太郎はそんな事を考えながら門をくぐった先、アーデンの街に目をやった。
街の作りはそれ程クルベストと変わりは無い、石と木を使った西洋風の建物が軒を連ねている。
ただ、クルベストに比べ武具や薬を扱う店、それに素材屋等が多い様に感じた。
そんな違いの中でも一番はやはり冒険者の数だろう。クルベストの冒険者は住民の一割にも遠く届かない。しかしここアーデンでは人通りを見る限り五割、半分近くが冒険者の様だった。
「ふむ、噂通り冒険者が多いな。それにこの国では珍しいドワーフやエルフ、それに獣人もいるようだ」
「この国じゃ他種族はお金かコネがないと中々、職にありつけないからねぇ」
「流れ者は冒険者になるしかねぇって事か?」
「まぁね。ここのダンジョンで名刀の一本でも見つけりゃ、それを元手に商売を始める事も出来る。きっと皆そんな夢を追いかけてるんじゃないかねぇ……」
「コホー……」
名刀か……。
健太郎がチラリとギャガンに目を向けると、危惧した通り彼はその金の瞳を爛々と輝かせていた。
「名刀かぁ……いい響きだぜぇ」
「あんたはもう竜の牙の剣を持ってるだろ?」
その様子を見たミラルダが呆れた様子で笑みを浮かべる。
「こいつは確かによく斬れるが、ミシマには通用しねぇからよぉ」
「コホー……」
もう諦めておくれよぉ……。
「ふむ……確か、このダンジョンの最下層には大悪魔も断ち切れる妖刀が眠っているそうだが……」
「コホッ!?」
グリゼルダ!? 余計な情報を言い出すんじゃないよッ!!
「何? ホントかよ、それ?」
「本で読んだだけだ。それにその本でも噂の域は出ないとなっていた。しかし妖刀ではないが、時折、名刀が見つかるのは確認出来ているそうだ」
案の定、ギャガンはそれに食いつき、グリゼルダは説明を始める。
「名刀に妖刀……クククッ、テンションが上がって来たぜぇ……」
「ギャガン、今回の目的はあくまでディランさんの救出だからね」
「分かってるよぉ」
「ディラン!? ねぇねぇ、あなた達、ディランの知り合いッ!?」
そう話掛けてきたのは、ケントやシェラ達と同年代に見える皮鎧を着た少女だった。
「なんだガキンチョ? ディランの事、知ってんのか?」
「わたしは子供じゃ無いッ!! これでも二十二なんだからッ!!」
そういってブンブンと両手を振った栗色の少女の耳は、エルフの様に長くは無いが先端が尖っていた。
「もしかしてハーフリングか?」
「その通りッ!! わたしはパム、ハーフリングの盗賊だよッ!! それでそれで、あなた達ディランの知り合いなのッ!?」
「お前の言っているディランは中年で黒髪の人族の剣士か? 右頬に傷のある?」
「そうその人ッ!! クルベストの冒険者で剣士のディランッ!!」
「コホーッ」
どうやら俺達の探しているディランみたいだけど……。
「パムだったね? あたし等はディランさんの知り合いに頼まれて彼の捜索と救出に来たんだよ」
「捜索と救出ッ!! ねぇねぇ、その救出、わたしも連れてってよっ!!」
「ああん? なんで見ず知らずのお前ぇを連れてかなきゃ何ねぇんだよ?」
「いいじゃんいいじゃん、見た所、あなた達の仲間に盗賊はいないみたいだし、罠の解除とか、わたしはお役に立ちますぞぉ!!」
そう言うとパムは胸を叩き、白い歯を見せニカッと笑った。
「ふぅ……ディランさんのパーティーは全員、迷宮で行方不明になったって聞いてたけど……あんたはパーティーメンバーだったのかい?」
「違うよッ! わたしはダンジョンで仲間に置き去りにされた所をディランに助けられたのッ! それでねそれでね、恩返しがしたいから仲間にして欲しいって頼んだんだけど、もう盗賊はいるからって断られて、それでも毎日ディランの所に通ってたんだけどある日帰って来なくて……」
話している内、元気一杯だったパムはションボリと沈んでしまった。
「さて、どうしたもんだろうねぇ?」
「パムの言う通り探索に盗賊の手があれば助かる事は確かだ」
「コホーッ」
ここのダンジョンにも潜った事があるみたいだし、取り敢えず話だけでも聞いてみよう。
「そうだね。話だけでも聞いてみようか?」
「んじゃ、立ち話もなんだしよぉ、門衛が言ってた森の木漏れ日亭で話すとしようぜ」
「あっ、森の木漏れ日亭を探してるのッ!? だったらこっち、こっちだよぉ!!」
「あ、ちょいと……」
ギャガンの言葉を聞いて顔を上げたパムは、ミラルダの手を取りグイグイと彼女を引っ張り始めた。
「はぁ……うるせぇガキだぜ」
「わたしは子供じゃないよッ!!」
振り返り声を上げたパムを見て、ギャガンは再度ため息を吐き、やれやれと苦笑を浮かべた。
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